都市はなぜ暑いの?
― 昼より、夜の差が大きい
同じ日、同じ天気なのに、都心と郊外では気温が数度違います。そして差がいちばん開くのは、昼ではなく夜です。都市が暑いのは「日射が強いから」ではありません。ためこんだ熱を、夜のあいだに手放せないからです。
夏の夜、街を歩いていると、日が沈んで何時間も経つのに足元から熱が上がってきます。アスファルトに手を近づけると、まだ温かい。
ところが同じ夜、郊外の公園や田んぼのそばへ行くと、ひんやりしています。同じ市内でも、場所によって体感がまるで違います。
気温の記録を見ても、この差ははっきり出ています。日中の最高気温の差より、明け方の最低気温の差のほうが大きいのです。
昼に暑いのはどこも同じです。都市の問題は、冷めないことにあります。
土や植物は、水を蒸発させて熱を逃がしています。アスファルトやコンクリートには、蒸発させる水がありません。逃げ道のない熱は、そのまま蓄えられます。
晴れた夜、地面は熱を宇宙へ捨てています。ところが建物に囲まれていると、空の見える範囲が狭く、捨てた熱が壁に当たって戻ってきます。
ここに、エアコンや車が出す熱が加わります。入る熱が多く、出る熱が少ない。その差が、都市の暑さです。順に見ていきましょう。
いちばん効いているのは「水がないこと」
晴れた日、地面に届いた太陽のエネルギーには行き先が2つあります。地面と空気を温めるか、水を蒸発させるかです。
水が蒸発するとき、まわりから大量の熱を奪います。汗が乾くと涼しいのと、まったく同じことです。土や草地では、届いたエネルギーのかなりの部分がこの蒸発に回ります。だから気温がそれほど上がりません。
ところがアスファルトやコンクリートには、蒸発させる水がありません。雨が降っても、下水へ流れて消えます。行き先を失ったエネルギーは、すべて温度を上げることに使われます。
夏の晴れた日、アスファルトの表面は60℃を超えることがあるとされています。触れないほど熱くなるのは、単に色が黒いからだけではありません。冷やしてくれる仕組みがないからです。
都市の地面は、汗をかけません。
夜、熱が抜けられない理由
晴れた夜、地面は宇宙へ向かって熱を放り出しています。これが放射冷却で、冬の朝に霜が降りるのも同じ働きです。
ただし条件があります。空が見えていないといけません。放り出した熱が雲に当たれば戻ってきます(曇りの夜が冷えにくいのはこのため)。そして建物に当たっても、同じことが起きます。
ビルに囲まれた道路から空を見上げると、見えるのは細長い帯だけです。捨てたい熱の大半が、まわりの壁に吸われて返ってきます。しかも壁も昼のあいだに温まっているので、こちらへ熱を送り返してきます。
さらに、都市の建物は風をさえぎります。熱を運び去ってくれる風が入ってこないのです。
結果として、都市は夜になっても冷めません。ヒートアイランドの差が夜に大きくなるのは、このためです。
エアコンは熱を消しているのではなく、部屋の中の熱を外へ運び出しています。しかも運ぶために電気を使うので、その電気の分も熱として外へ出ます。室外機から出る熱は、部屋から取った熱より必ず多くなります。
1台なら影響はわずかですが、街じゅうのエアコンが同時に動くと無視できません。暑いからエアコンを使い、その排熱で街がさらに暑くなるという関係があります。
ただし誤解のないように。だからエアコンを我慢しよう、という話ではありません。熱中症は命に関わります。室内では適切に使うことが第一で、街全体の対策は別のところ(緑を増やす、舗装を変える、排熱を工夫する)で考えるべき問題です。
どれくらい暑くなっているのか
気温の長期記録を見ると、都市の上がり方は際立っています。
東京の年平均気温は、100年あたりおよそ3℃上がっているとされています。一方、都市化の影響が小さい地点を選んで平均すると、およそ1.5℃です。
この差が、都市化そのものによる分だと考えられています。つまり都市に住む人は、地球全体の温暖化に加えて、もう一段の暑さを受けていることになります。
とくに変化が大きいのは、夜間の最低気温です。夜間に25℃を下回らない日(熱帯夜)は、大都市で明らかに増えているとされています。眠っているあいだに体を冷やせないことは、熱中症の危険を高めます。
効く対策は、しくみから決まります
- 緑を増やす ― 木や芝生は水を蒸発させ、日陰も作ります。「日陰になる」だけでなく「汗をかく」ぶん、屋根や日よけより涼しくなります
- 屋根や壁を白っぽくする ― 太陽の光を反射すれば、そもそも熱が入りません。高い反射率の塗料は、屋根の温度を大きく下げるとされています
- 水を保つ舗装にする ― 雨水を含み、じわじわ蒸発する舗装が実用化されています。地面に汗をかかせる工夫です
- 打ち水をする ― 気化熱を使う、いちばん直接的な方法です。日なたの昼にまくとすぐ乾いて効果が短いので、朝夕の日陰にまくのが良いとされています
- 風の道を残す ― 川沿いや広い道路を、涼しい空気が流れ込む通路として活かす考え方です。建物の配置が関わります
逆に、建物を増やして日陰を作れば涼しくなる、とは限りません。日陰はできますが、夜に熱が抜けにくくなります。昼と夜で、望ましい形が違うところが、この問題の難しさです。
外で確かめられること
- よく晴れた日の午後、外へ出る(帽子と水分を忘れずに)
- 日なたのアスファルトに、手のひらを近づける(触れると熱いので注意)
- すぐそばの日なたの土や芝生で、同じことをする
- 木陰のアスファルト、木陰の土でも試して、4つを比べる
- 可能なら、日没から2時間後に同じ場所をもう一度
日なたでは、アスファルトと草地で驚くほど違います。そして夜の観察がいちばん印象的です。草地はすっかり冷えているのに、アスファルトはまだ温かい。昼にためこんだ熱を、夜に手放している最中だからです。暑い日の屋外での観察は短時間にとどめ、体調に注意してください。熱中症が疑われるときは、涼しい場所へ移り、水分と塩分をとり、症状が重ければためらわず119番してください。
まとめ
都市が暑いのは、①地面が水を蒸発させられず、入った熱がそのまま温度になること、②夜、建物に囲まれて熱が空へ抜けられないこと、③エアコンや車の排熱が加わることが重なるからです。とくに②のせいで、差は夜に大きくなります。
都市は、日中に暑いのではありません。
冷める時間を失っているのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」「地学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(都市気候学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:都市の暑さを表す言葉
- ヒートアイランド:都市部の気温が周辺より高くなる現象。地図に等温線を描くと、都市が島のように浮かび上がることからこの名がつきました。
- 気化熱(蒸発熱):水が蒸発するときに周囲から奪う熱。打ち水や汗が涼しい理由です。
- 放射冷却:地面が赤外線として熱を宇宙へ捨て、冷えること。晴れた夜に強く働きます。
- 熱帯夜:夜間の最低気温が25℃を下回らない夜。都市で明らかに増えているとされています。
- アルベド:太陽光をどれだけ反射するかの割合。白いほど大きく、黒いほど小さくなります。
高校式で確かめる:打ち水1リットルは、日射の何分ぶんを打ち消すか
打ち水は効くのか、気休めなのか。「どれくらい効くか」を数字にすれば、答えが出ます。使うのは、水が蒸発するときに熱を奪う量だけです。
奪う熱 = 蒸発熱 × 水の量
| 奪う熱 | 単位は J(ジュール) |
| 蒸発熱 | 水 1 g あたり 約 2260 J |
| 水の量 | 単位は g |
水が蒸発するとき、まわりから熱を持ち去ります。これは「冷たい水で冷やす」のとは別のはたらきです。汗をかいて涼しくなるのと同じで、温度を下げるのではなく、蒸発そのものが熱を運び出します。
2260 J という数字は、水の性質の中でもとくに大きい部類です。同じ量の水を1℃上げるのに要る熱の、500倍以上にあたります。
| 1 m² にまく水 | 1 L = 1000 g |
| 奪う熱 | 2260 × 1000 = 2260000 J |
| 真夏の日射 | 約 1000 W/m²(1秒あたり 1000 J) |
| 何秒ぶんか | 2260000 ÷ 1000 = 2260 秒 |
| 分に直すと | 2260 ÷ 60 ≒ 38 分 |
1 m² に1リットルまくと、真夏の日射およそ38分ぶんを打ち消します。気休めではありません。ただし38分です。一日中は続きません。
だから打ち水は「夕方、日が傾いてからまく」のが理にかなっています。日射が弱い時間なら、38分ぶんの効き目がもっと長く持ちます。真昼にまけば、すぐ蒸発して終わりです。言い伝えの作法が、計算と合っています。
もうひとつ効くのが地面がどれだけ日射をはね返すかです。黒い面は吸収し、白い面ははね返します。
| ふつうのアスファルトがはね返す割合 | 約 0.1 |
| 吸収する割合 | 1 − 0.1 = 0.9 |
| 吸収する熱 | 1000 × 0.9 = 900 W/m² |
| 明るい色の舗装がはね返す割合 | 約 0.4 |
| 吸収する熱 | 1000 × 0.6 = 600 W/m² |
| 差 | 900 − 600 = 300 W/m² |
色を変えるだけで、1 m²あたり300 W の差が出ます。これは日射の3割にあたります。しかもこちらは、まき続ける必要がありません。
打ち水と比べてみます。300 W/m² を打ち水で埋め合わせるなら、2260000 ÷ 300 ≒ 7533 秒、つまり2時間ごとに1リットルまき続ける計算になります。
個人でできること(打ち水)と、街としてできること(舗装や緑)の大きさの違いが、ここに出ています。打ち水は効きますが、効く時間が短い。都市全体の暑さを変えるには、地面そのものを変えるほうがはるかに大きい、ということになります。
※ 日射量・反射率は天候や材質で大きく変わり、実際には風や建物の影も効きます。桁をつかむための計算です。
高校数字で見る、都市と郊外の違い
| アスファルトの反射率 | 約 0.05〜0.1(届いた光の9割以上を吸収) |
| コンクリートの反射率 | 約 0.2〜0.3 |
| 草地の反射率 | 約 0.2〜0.25(ただし蒸発による冷却がある) |
| 白い塗装の屋根 | 約 0.6 以上 |
| 夏の晴天時のアスファルト表面温度 | 60℃を超えることがある |
打ち水の効果も計算できます。水が蒸発するときに奪う熱は、1グラムあたりおよそ 2,400 ジュールです。
| 奪われる熱 | 2,400 × 1,000 = 240万 J(2.4 MJ) |
| 真夏の日射(1平方メートルあたり) | おおよそ 1,000 W = 毎秒 1,000 J |
| 打ち消せる時間 | 2,400,000 ÷ 1,000 = 約 2,400 秒(40分ほど) |
※ 実際には風や湿度に左右されます。効果の大きさをつかむための概算です。
この計算から、打ち水の性質が見えます。効くけれど、長くは続かない。だから真昼の日なたより、日陰や朝夕にまくほうが効率がよいとされています。ゆっくり蒸発させるほうが、冷やす時間が延びるからです。
高校+入る熱と出る熱の帳尻
地表面のエネルギーの出入りは、次のように整理できます。
(入る日射) − (反射) − (赤外線として出す分) = (空気を温める分) + (水を蒸発させる分) + (地面に蓄える分)
郊外では右辺の「蒸発させる分」が大きいので、「空気を温める分」が小さく済みます。都市では蒸発がほぼゼロなので、同じエネルギーが「空気を温める分」と「蓄える分」に振り分けられます。
この「空気を温める分」と「蒸発させる分」の比をボーエン比といいます。都市ではこの比が大きく、郊外では小さくなります。数字ひとつで、都市の暑さの本質を表せます。
そして「蓄える分」は、夜に放出されます。アスファルトやコンクリートは熱を蓄える能力が高く、熱を伝えやすいので、深いところまで温まり、夜通し放熱し続けます。
大学空がどれだけ見えるか ― 天空率
都市気候学では、ある地点から空が見える立体角の割合を天空率(sky view factor)と呼び、ヒートアイランドの強さを説明する重要な指標としています。
広い草原では天空率がほぼ1で、放射冷却が十分に働きます。ビルに挟まれた道路(ストリートキャニオン)では0.3を下回ることもあり、捨てた赤外線の多くが壁に吸われ、また戻ってきます。夜間のヒートアイランド強度と天空率のあいだには、明確な関係が観測されています。
都市の大気は、地表から数百メートルの層(都市境界層)で独特のふるまいをします。日中は激しくかき混ぜられ、夜は郊外のように安定した層ができにくい。郊外では夜に冷たい空気が地表に溜まりますが、都市ではそれが起きにくいのです。
また、都市と郊外の気温差そのものが局地的な風を生みます。暖かい都市で上昇気流が起き、郊外から空気が吸い込まれる。この循環は、汚染物質の広がり方にも関わります。
研究まだ難しいこと
- 都市化の分と地球温暖化の分を、きれいに分けるのは簡単ではありません。本文で「東京は約3℃、都市化の影響が小さい地点は約1.5℃」と書きましたが、この「影響が小さい地点」の選び方自体に判断が入ります。観測所の周囲も何十年かのあいだに変化しており、完全に都市化の影響を免れた長期記録はほとんどありません。分離の方法をめぐる議論は続いています。
- 都市が雨に与える影響も、決着していません。都市の上昇気流や排熱、微粒子が、局地的な強い雨を増やしているのではないかという指摘があります。都市の風下で降水が増えるという報告もありますが、都市ごとに条件が違い、自然の変動と区別するのが難しいままです。
- 緑化の効果を定量的に予測することも、まだ発展途上です。木を植えれば涼しくなるのは確かですが、どこに、どれだけ、どんな配置で植えれば、どれだけ気温が下がるのかは、周囲の建物や風の流れに強く左右されます。限られた予算で最大の効果を出す配置を求める研究が進んでいますが、標準的な答えはありません。
- 暑さの健康影響も、気温だけでは決まりません。湿度、風、日射、そして人の行動や住環境が絡みます。「何度になったら誰が危ないのか」を予測する精度は、まだ十分ではありません。夜間の気温が下がらないことが体に与える影響については、とくに研究が求められています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と熱/気象/太陽のエネルギー | 気化熱、放射冷却、地面の温度の観察 |
| 高校 | 物理基礎・熱量と比熱/地学基礎・大気とエネルギー収支 | 反射率、打ち水の計算、蓄熱 |
| 高校+ | 物理・熱放射/地学・放射収支 | エネルギー収支の式、ボーエン比 |
| 大学 | 都市気候学・建築環境工学 | 天空率、都市境界層、局地循環 |
| 研究 | 気候学・都市計画(未解決) | 寄与の分離、都市と降水、緑化の最適配置 |
| ― | 公衆衛生 | 熱帯夜と熱中症、夜間に冷えないことの影響 |
- 気象庁「ヒートアイランド監視報告」および都市化の影響に関する解析。
- Oke, T. R., Boundary Layer Climates および Urban Climates(都市気候学の標準的な教科書。天空率と夜間ヒートアイランド)。
- 環境省によるヒートアイランド対策ガイドライン(緑化、高反射塗料、保水性舗装)。
- Oke, T. R., City size and the urban heat island, Atmospheric Environment 7, 769–779, 1973。
- 厚生労働省および環境省による熱中症予防に関する情報。
※ 気温の上昇量や反射率などの数値は、地点や条件によって幅があります。本記事では一般に引用される目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。暑さへの対処については、環境省・厚生労働省および自治体の情報に従ってください。屋外での観察は短時間にとどめ、体調に異変を感じたら涼しい場所へ移り、必要に応じて医療機関または119番にご連絡ください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。