「秋の日はつるべ落とし」は本当?
― 秋分のころは、昼が1日に2分ずつ縮み、夕暮れもいちばん短くなります
秋になると、夕方が急に早くなった気がします。昔の人はこれを「秋の日はつるべ落とし」と言いました。井戸のつるべが真っすぐ落ちるように、日がすとんと沈むという意味です。これは気のせいではありません。秋分のころは、昼の長さが1年でいちばん速く縮みます。さらに、沈んでから暗くなるまでの夕暮れも、1年でいちばん短くなります。
8月の終わり、夕方6時の公園はまだ明るく、子どもたちが遊んでいました。
ひと月たった9月の終わり。同じ6時に同じ道を歩くと、空はもう群青色で、街灯がついています。
しかも「あ、日が沈むな」と思ってから暗くなるまでが、夏よりずっと早い気がします。たった1か月で、何が変わったのでしょうか。
理由は2つだけ
昼の長さは、夏至と冬至のあたりではほとんど変わりません。いちばん速く変わるのは、春分と秋分のころです。秋分のころの東京では、1日に約2分ずつ昼が短くなります。
秋分のころの太陽は、地平線に対していちばん急な角度で沈みます。そのぶん、沈んでから空が暗くなるまでの「夕暮れ」が、1年でいちばん短くなります。
1つめは「日ごとの変化」、2つめは「その日の夕方の変化」です。どちらも秋分のころに重なるので、秋の夕方は二重に早く暮れていくのです。
昼の長さは、秋分のころに「下り坂」がいちばん急になる
図1の左を見てください。東京の昼の長さを、1年分つないだ線です。夏至のころは14時間半ほどで、山のてっぺんのように平らです。冬至のころは10時間弱で、谷の底のようにやはり平らです。
ところが、そのあいだをつなぐ坂は、春分と秋分のところでいちばん急になります。秋分のころの東京では、1日に約2分ずつ昼が短くなります。1か月では1時間以上です。日の入りの時刻だけを見ても、9月の初めから10月の初めまでで40分ほど早まるとされています。夏至のころなら、1か月たっても日の入りは10分も変わりません。
坂の形になるのは、太陽の通り道が季節によって南北にゆれているからです。そのゆれは振り子に似ています。振り子は、端ではいったん止まり、真ん中をいちばん速く通り過ぎます。太陽の通り道も、夏至と冬至の「端」でほぼ止まり、春分と秋分の「真ん中」を、いちばん速く南へ動いていくのです。
秋分のころは、夕暮れそのものも短い
日が沈んでも、すぐに真っ暗にはなりません。空の高いところの空気が、地平線の下の太陽の光を受けて光るからです。この明るさの残る時間を「薄明」と呼びます。太陽が地平線の6度下に届くと、外で本の字を読むのが難しくなるとされています。
夕暮れの長さを決めるのは、太陽がその6度をどれだけ速く沈むかです。図1の右を見てください。赤道では、太陽は地平線に真っすぐ落ちます。夕暮れは20分ほどで終わります。東京では太陽が斜めに沈むので、同じ6度を下りるのに少し時間がかかります。
その斜めの角度は、季節で変わります。秋分と春分のころは、道すじがいちばん立っています。夏至のころは、太陽が北へ横すべりしながら沈むので、道すじが寝ています。東京で計算すると、日の入りから6度下までは、秋分のころで25分ほど、夏至のころで30分ほどです。空がほぼ真っ暗になるまでで比べると、差は10分以上に広がります。
秋分のころの日の入りは、東京で夕方5時半すぎです。ほんのひと月前まで、6時すぎまで明るい夕方に慣れていました。体が覚えている「いつもの夕方」と実際の空とのずれが、毎日2分ずつ広がっていきます。つるべ落としの感覚には、この慣れも手伝っていると考えられます。
暗くなるのが早まる秋から冬は、夕方の薄暗い時間帯に、歩行者が車から見えにくくなります。警察庁や各地の警察は、この時期の夕方に早めのライト点灯と、明るい服や反射材の使用を呼びかけています。つるべ落としの季節は、帰り道の見え方も変わる季節です。
まとめ
秋の夕方が急に早く暮れるのは、気のせいではありません。昼の長さが1年でいちばん速く縮むことと、太陽が急な角度で沈んで夕暮れが短くなること。この2つが、秋分のころにちょうど重なっています。
秋の日は、日ごとにも、その日の夕方にも、
いちばん速く暮れていく。
いちばん早く日が沈む日は秋分ではなく12月の上旬です。そのしくみは日の入りがいちばん早いのは、冬至の日じゃないって本当?で、秋分の日付が年によって変わる理由は秋分の日は、なぜ年によって9月23日だったり22日だったりするの?で読めます。
- 毎日同じ時刻(たとえば夕方5時半)に、同じ場所から西の空の写真を撮ります。1週間で、空の明るさがはっきり変わっていくのが分かります。
- 国立天文台の暦計算室のページで、住んでいる地域の日の入り時刻を調べ、1週間分を書き出します。1日ごとに何分早まっているかを計算してみましょう。
- 日の入りの時刻から、外で新聞の字が読めなくなるまでを時計で計ります。来年の夏至のころにも同じことをして比べてみましょう。
天気や建物の影、周りの明かりで結果は変わります。晴れた日どうしで比べるのがおすすめです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学」「数学(三角関数)」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(位置天文学・球面天文学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 昼の長さ(可照時間):日の出から日の入りまでの時間。暦の上での昼の長さで、雲の有無は考えません。
- 赤緯:太陽が天の赤道からどれだけ南北にずれているかを表す角度。夏至で北へ約23.4度、冬至で南へ約23.4度、春分と秋分で0度です。
- 薄明(常用薄明):日の入りのあと、太陽の中心が地平線の6度下に届くまでの、空の明るさが残る時間。12度下までを航海薄明、18度下までを天文薄明と呼びます。
中学高校式で確かめる:秋分のころ、昼は1日に何分縮む?
主題の量である「1日あたりの昼の長さの変化」を、日の出・日の入りの式から求めます。後半では、夕暮れ(常用薄明)の長さも見積もります。
| 記号で書くと | ΔL = 2 × tan φ × Δδ ÷ 15 |
| 言葉で書くと | 1日に縮む昼の長さ(時間)= 2 × 緯度のタンジェント × 太陽の赤緯が1日に動く角度(度)÷ 15 |
| どこから来る式か | 日の入りの時刻を決める式 cos H = −tan φ × tan δ を、秋分(赤緯0度)のまわりで小さな変化について書き直したもの。地球は1時間に15度自転し、昼は日の出側と日の入り側の2つぶん伸び縮みするので、2と15が出てきます。 |
| 夕暮れの式 | 薄明の長さ = 太陽が沈む角度 ÷(15 × cos φ)。秋分の日に太陽が地平線をまたぐとき、1時間に下がる角度が 15 × cos φ 度になることから来ます。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| ΔL | 1日あたりの昼の長さの変化(時間) |
| φ | 観測する場所の緯度(度) |
| Δδ | 太陽の赤緯が1日に変わる角度(度) |
| H | 日の入りのときの時角(太陽が真南から何度回ったか) |
| 東京の緯度 | 約35.7度 |
| 35.7度のタンジェント | 約0.72 |
| 秋分のころ、太陽の赤緯が1日に動く角度 | 約0.40度(1年でいちばん速い) |
| 35.7度のコサイン | 約0.81 |
| 日の入り(上のふちが消える瞬間)の太陽の中心 | 地平線の約0.8度下とされる。6度下まで残りは約5.2度 |
| 緯度の効き目 × 赤緯の動き | 0.72 × 0.40 = 0.288 |
| 日の出側と日の入り側の2つぶん | 0.288 × 2 = 0.576 |
| 角度を時間に直す(1時間に15度) | 0.576 ÷ 15 ≒ 0.0384 時間 |
| 分に直す | 0.0384 × 60 ≒ 2.3 分(1日あたり) |
| 1か月つづくと | 2.3 × 30 = 69 分 |
| 秋分の日、太陽が1時間に沈む角度 | 15 × 0.81 = 12.15 度 |
| 残り約5.2度を沈むのにかかる時間 | 5.2 ÷ 12.15 ≒ 0.43 時間 |
| 分に直す | 0.43 × 60 = 25.8 分 |
秋分のころの東京では、昼が1日に約2.3分、1か月で1時間以上縮みます。日の入りから暗くなるまでの夕暮れは約25分です。同じ方法で赤道なら約21分、東京の夏至なら約30分になるとされています(夏至は太陽の道すじが曲がるため、この簡単な式ではなく元の式で計算した値)。
高校高校+なぜ「振り子の真ん中」で変化が速いのか
高校太陽の赤緯は、1年を1周とする正弦波(サインの波)にほぼ沿って変わります。正弦波は、山と谷で傾きが0になり、0をよこぎるところで傾きが最大になります。最大の傾きは、振れ幅23.4度に、1年で1周する角の速さをかけたものです。これが1日あたり約0.40度にあたります。
高校+緯度が高いほどタンジェントが大きくなるので、昼の長さの変化も速くなります。札幌では東京より速く、赤道では昼の長さがほぼ一年中12時間のままです。北極圏の近くでは、秋分のころに1日に10分以上も昼が縮む場所があります。
大学球面三角法で見る日の入りと薄明
太陽の高度 h は、球面三角法の余弦定理から sin h = sin φ × sin δ + cos φ × cos δ × cos H と書けます。日の入りは h を約マイナス0.83度(大気差と太陽の視半径の分)、常用薄明の終わりはマイナス6度として時角 H を解くと、上の値が得られます。薄明が最短になるのは秋分ちょうどではなく、赤緯がわずかに南へずれた秋分の少しあと(春は春分の少し前)になることが知られています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:薄明(ウィキペディア) / 赤緯(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 「早く暮れる」と感じる心理の大きさ 日の長さの変化の速さそのものが、人の時間の感じ方や気分にどれだけ効くのかは、まだはっきりしていません。
- 季節による気分の落ちこみとの関係 秋から冬に気分が沈みやすい人がいることは知られていますが、日照の「量」と「減り方の速さ」のどちらが効くのかは研究が続いています。
- 空の明るさの変化 大気中の細かなちりや火山の噴煙によって、薄明の明るさや色は年ごとに変わります。その影響の大きさを正確に見積もる研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。昼の長さと薄明の計算は確かですが、それを人がどう感じるかは、まだ調べている途中です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「地球と宇宙」(季節の変化と太陽の南中高度) | 昼の長さが季節で変わること |
| 高校 | 地学「天球と太陽の動き」、数学「三角関数」 | 赤緯の変化が正弦波になること |
| 高校+ | 数学「微分」 | 秋分のころに変化がいちばん速いこと、緯度による違い |
| 大学 | 球面天文学・位置天文学 | 太陽の高度の式、薄明の計算 |
| 研究 | 時間知覚・季節性の気分の研究、大気光学 | 感じ方との関係、薄明の明るさの変化 |
| ― | 生活とのつながり | 秋の夕方の外遊び・帰宅時間、夕暮れどきの見えにくさ |
- 国立天文台 暦計算室(各地の日の出・日の入り・薄明の時刻)
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(暦部:日の出入り、薄明)
- ウィキペディア「薄明」
- 長沢工『日の出・日の入りの計算 ― 天体の出没時刻の求め方』地人書館
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。日の出・日の入りや薄明の時刻は場所や地形、天気によって変わります。正確な時刻は国立天文台の暦計算室などでご確認ください。