宇宙ステーションで体が浮くのは、
重力がないからって本当? ― 地上の9割の重力がかかったまま、落ち続けています
よく「無重力だから」と言われます。でも、国際宇宙ステーションが飛んでいる高さでも、重力は地上の9割ほど残っています。飛行士は重力から逃げたのではありません。ステーションごと、いつまでも落ち続けているのです。
宇宙ステーションからの中継映像。飛行士が水の玉を空中にそっと置き、その玉がゆっくり回りながら漂っています。ナレーションが言います。「無重力の世界です」。
ここで少し考えてみてください。ステーションが飛んでいる高さは、地上から約400キロメートル。東京から大阪までの直線距離とだいたい同じです。
その程度の高さで、地球の重力が消えてしまうものでしょうか。地球の半径は約6371キロメートルもあるのに。
答えは、2つに分かれます
重力は距離とともに弱まりますが、効くのは「地球の中心からの距離」です。400キロメートル上がっても中心からの距離は6%ほどしか増えず、重力は地上の約9割のまま残ります。
ステーションも、中の飛行士も、水の玉も、まったく同じ勢いで地球へ落ち続けています。同じように落ちるもの同士は、押し合うことも支え合うこともありません。だから体重を感じないのです。
つまり「重力がない」のではなく、「重力を感じ取る相手がいない」。まず1つめから、数字で確かめてみましょう。
高さ400キロメートルで、重力はどれだけ弱まるの?
重力の強さは、地球の中心からの距離の2乗に反比例して弱まります。距離が2倍になれば4分の1、3倍になれば9分の1です。
ここで大事なのは、その距離を地表からではなく、地球の中心から測ることです。地球の半径は約6371キロメートル。そこへ400キロメートルを足しても6771キロメートルで、増えたのは6%ほどにすぎません。2乗して効いても、重力は地上の約88%。ざっと9割です。
図1は、高さごとに重力がどれだけ残るかを横棒の長さで表したものです。上から2本目が宇宙ステーションの高さで、いちばん上の地表とほとんど変わらないことが分かります。本当に重力がほぼ消えるのは、放送衛星などが回る高さ3万6000キロメートルまで行ってからです。
それなら、なぜ落ちてこないの?
実は、落ちています。宇宙ステーションは1秒あたり4メートルほどの勢いで、いまこの瞬間も地球へ落ち続けています。
それでも地面に届かないのは、同時に横向きにとても速く進んでいるからです。その速さは毎秒約7.7キロメートル。1秒で7.7キロメートル横へ進むあいだに、地球の丸い表面もほぼ同じだけ下へ逃げていきます。落ちた分と、地面が下がった分が、ちょうど釣り合ってしまうのです。
図2の左は、ただ手をはなした物。まっすぐ落ちて、数秒で地面に届きます。右は、横向きにとても速く投げた物。同じように落ちているのに、地球の丸みが同じだけ下がるので、いつまでも届きません。これが「まわる」ということの正体です。
専門の場では、この状態を「無重量状態」あるいは「微小重力」と呼び分けています。重力そのものは、ちゃんとそこにあるからです。宇宙ステーションでは、地球の場所ごとのわずかな重力の差や、空気のかすかな抵抗のせいで、完全にゼロにはなりません。だから「微小」なのです。
飛行機を放物線の形に飛ばすと、機内は宇宙と同じ状態になります。作っているのは「重力のない場所」ではなく、「みんなが同じように落ちている20秒間」です。訓練や無重量実験に使われています。
まとめ
宇宙飛行士が浮いて見えるのは、重力が消えたからではありません。重力は地上の9割ほど、しっかりかかっています。ただ、その重力に引かれてステーションも人も水の玉も、まったく同じ勢いで落ち続けている。同じように落ちるもの同士のあいだには、押す力も支える力も生まれません。私たちが「重さ」として感じているのは、実は重力そのものではなく、床が体を押し返す力のほうだったのです。
浮いているのではなく、落ちている。
落ち方がそろうと、重さは消えて見えます。
体が感じているのは重力ではなく床の力だ、という話はエレベーターで、体が一瞬軽くなるのはなぜ?で、地球と月が引き合う力の大きさは潮の満ち引きは、なぜ1日に2回もあるの?で、そして落ちてきたものが燃える話は流れ星は、どれくらいの大きさなの?で、それぞれ扱っています。
- 紙コップの横腹に、つまようじで小さな穴をひとつ開けます。指で穴をふさぎ、水を半分ほど入れます。
- 流しの上で指をはなすと、穴から水が細く飛び出します。これは、下の水が上の水に押されているからです。
- 水が出ている状態のまま、コップを50センチほどの高さからそっと手放します。落ちているあいだ、水の噴き出しが止まるのが見えます(たらいの上で行ってください)。
上の水も下の水もコップも、まったく同じ勢いで落ちるため、押し合う力が消えます。宇宙ステーションの中で起きているのは、これがずっと続いている状態です。スマートフォンで撮ってゆっくり再生すると、はっきり分かります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(一般相対性理論・宇宙工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 無重量状態:重力がかかっているのに、体重として感じられない状態。「無重力」という言い方は広まっていますが、重力自体は消えていません。
- 自由落下:重力だけを受けて落ちていくこと。宇宙ステーションは、横に速く進みながらこれを続けています。
- 第一宇宙速度:地表すれすれを回り続けるのに必要な横向きの速さ。約毎秒7.9キロメートルとされています。
中学高校式で確かめる:高さ400キロメートルの重力は、地上の何割か
距離の2乗に反比例する、という一点だけで答えが出ます。最後に、落ちる距離と地球の丸みが釣り合うことも確かめます。
| 地球の半径 | 約6371キロメートル |
| 国際宇宙ステーションの高さ | 約400キロメートル |
| 地表での重力の強さ | 約9.8(メートル毎秒毎秒) |
| ステーションの横向きの速さ | 約毎秒7.7キロメートル |
| 地球の中心からの距離(キロメートル) | 6371 + 400 = 6771 |
| 地表を1としたときの距離の逆比 | 6371 ÷ 6771 ≒ 0.941 |
| 2乗する(2乗に反比例するため) | 0.941 × 0.941 ≒ 0.885 |
| その高さでの重力の強さ | 9.8 × 0.885 ≒ 8.7 |
地上の9.8に対して8.7。約88%、つまり9割近くが残っています。
| 1秒間に落ちる距離(メートル) | 8.7 ÷ 2 ≒ 4.4 |
| 1秒で横に進む距離を2乗する | 7.7 × 7.7 ≒ 59.3 |
| 地球の直径12742で割る(キロメートル) | 59.3 ÷ 12742 ≒ 0.00465 |
| メートルに直す | 0.00465 × 1000 ≒ 4.7 |
1秒で4.4メートル落ちるあいだに、地球の表面も4.7メートル下へ逃げています。ほぼ同じ。だから届きません。3行目は、丸い地球の表面が横に進むにつれてどれだけ下がるかを求める近似式によるものです。
高校高校+「重さ」とは何を測っているのか
高校万有引力の大きさは、2つの物体の質量の積に比例し、中心間の距離の2乗に反比例します。記号の意味は下の表のとおりです。円を描いて回る物体には、中心へ向かう加速度が必要で、その役目を万有引力が引き受けています。式の両辺から回る側の質量が消えるため、回るのに必要な速さは、重い衛星でも軽い飛行士でも同じになります。並んで回っていられるのは、このためです。
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| G | 万有引力定数。すべての物体に共通の定数 |
| M | 地球の質量(キログラム) |
| m | 回っている側の質量(キログラム) |
| r | 地球の中心から測った距離(メートル) |
高校+体重計が測っているのは、重力そのものではなく、体重計が体を押し返す力です。この押し返す力を「見かけの重さ」と呼びます。自由落下している人には押し返す床が無いので、見かけの重さはゼロになります。重力は、そこにあるのに測れないのです。
大学加速と重力は、内側から区別できない
アインシュタインは、密閉した箱の中にいる人は「自由落下している」のか「重力の無い宇宙に浮かんでいる」のかを、箱の中だけの実験では区別できない、と考えました。これを等価原理と呼び、一般相対性理論の出発点になりました。宇宙ステーションの中は、この原理がそのまま形になった場所だといえます。
ただし、区別できないのは箱が十分に小さいときだけです。箱を大きくすると、地球に近い側と遠い側で重力の強さがわずかに違い、中の2つの物体はゆっくり離れていきます。この差が、潮の満ち引きを起こしているのと同じ力です。宇宙ステーションの中の「微小重力」は、この差が主な正体だとされています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 骨と筋肉が減るしくみ 長く滞在すると骨の量が減ることは知られていますが、どの信号が減少を指示しているのか、運動や薬でどこまで止められるのかは、まだ調べられている最中です。
- 体液が上半身へ移る影響 押し下げる力が無くなると体液が頭側へ移り、視力の変化が報告されています。原因と、地上へ戻ったあとの回復の度合いは、まだ定まっていません。
- 微小重力でしか作れない構造 対流や沈降が起きない環境では、地上と違う結晶や合金が育つと期待されています。どこまで実用になるかは、これからの結果しだいです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。重力の弱まり方と軌道の計算は確立していますが、その中で人の体に何が起きるかは、まだ観測が積み重なっている途中です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・力と運動/重力 | 重力は距離とともに弱まる、という前半の話 |
| 高校 | 物理・万有引力と円運動 | 落ちる量と地球の丸みが釣り合う計算 |
| 高校+ | 物理・見かけの重さ/慣性力 | 体重計が測っているものは何か |
| 大学 | 一般相対性理論・宇宙工学 | 等価原理と、箱の大きさによる差 |
| 研究 | 宇宙医学・材料科学 | 骨量の減少、体液の移動、微小重力での結晶育成 |
| ― | 生活とのつながり | エレベーターや車の発進で感じる「体の軽さ・重さ」の正体 |
- 国立天文台編『理科年表』(地球の半径・重力の値)
- 宇宙航空研究開発機構「きぼう」日本実験棟の微小重力環境に関する解説
- アイザック・ニュートンが著作の中で示した、高い山から水平に物を投げる思考実験(「ニュートンの大砲」として知られています)
- 高等学校「物理」教科書 万有引力と円運動の単元
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。観察の実験は、水がかかっても困らない場所で行ってください。