ダイヤモンドと鉛筆の芯は、同じ炭素なのになぜ硬さがまるで違うの?
― 地下150kmの圧力が、原子を詰めこみ直しました
鉛筆の芯は、紙にこするだけで黒く削れていきます。ダイヤモンドは、ほかのどんな天然の石にも傷をつけられないほど硬い宝石です。ところがこの2つは、どちらも炭素という同じ原子だけでできています。違うのは、原子どうしのつながり方です。そして、そのつながり方を決めたのは、人が決して行けない地下深くのとてつもない圧力でした。
ノートに文字を書いていたら、手の側面が真っ黒になっていました。鉛筆の芯が、少しずつ紙や手にうつっていたのです。
同じ日、宝石店のショーケースで、指輪のダイヤモンドがきらりと光っていました。こちらは何十年身につけても、すり減ることはまずありません。
すぐ手が汚れる黒い芯と、永遠の輝きとうたわれる透明な石。これが同じ材料だと聞いたら、にわかには信じられないのではないでしょうか。
違いを生んだ理由は、2つだけ
鉛筆の芯(黒鉛)は、炭素が平らな板のようにつながり、その板が重なっているだけです。ダイヤモンドは、どの原子も四方へ手をのばし、立体の網のようにがっちり組まれています。
同じ重さの炭素なら、ダイヤモンドのほうが体積が4割近く小さくなります。すき間なく詰まった形は、とても強い圧力がかかる地下深くでしか安定しません。
1つめは「なぜ硬さが違うのか」、2つめは「なぜダイヤモンドは珍しいのか」に答えています。順に見ていきましょう。
板を重ねただけの芯と、四方に手をのばした宝石
図1の左を見てください。黒鉛では、1つの炭素原子が、同じ平面にある3つの原子と強く結びついています。これが、蜂の巣のような六角形の模様の板になります。板の中の結びつきはとても強いのですが、板と板の間は、弱い力でゆるく重なっているだけです。
だから、紙にこすると板がずるりとすべり、はがれた板が紙にくっつきます。これが鉛筆の線の正体です。黒鉛がやわらかく感じるのは、原子の結びつきが弱いからではありません。はがれやすい向きがあるからです。
図1の右がダイヤモンドです。こちらは1つの原子が、4つの原子と結びついています。4本の手は、上下左右のどの向きにも広がっていて、網は立体的に途切れなくつながっています。どこから押しても、どこかをはがそうとしても、必ず強い結びつきを切らなければなりません。これが、天然の物質でいちばん硬い理由です。
詰まった形は、地下の深くでしか生まれない
図1の下の数字をくらべると、同じ大きさでもダイヤモンドは黒鉛の1.6倍ほど重くなります。つまり、原子がよりぎゅっと詰まった形です。強い圧力をかけると、物質は体積の小さい形のほうへ移ろうとします。だから、押しつぶすような圧力のもとでは、炭素にとってダイヤモンドの形が「落ち着く形」になります。
ただし、その圧力はけた外れです。天然のダイヤモンドの多くは、大陸の下、深さおよそ150キロメートルより深い場所で生まれたと考えられています(図2)。温度は1000℃を超え、圧力は大気のおよそ5万倍とされています。指先ほどの1平方センチメートルに、ゾウおよそ10頭ぶんの重さがのしかかる計算です。
地表のような弱い圧力では、炭素にとって落ち着くのは黒鉛のほうです。ですから黒鉛は、地表の岩石の中でも普通に見つかります。一方、ダイヤモンドを手に入れるには、地下深くで生まれた結晶を、誰かが地表まで運び上げてくれなければなりません。
地表に来たダイヤモンドは、なぜ黒鉛に戻らないの?
ここで疑問がわきます。地表では黒鉛のほうが落ち着く形なら、ダイヤモンドはやがて黒鉛に戻ってしまうのでしょうか。
答えは「戻りたがってはいるけれど、戻れない」です。立体の網を組み替えるには、いったん強い結びつきをたくさん切る必要があります。常温では、そのきっかけになるエネルギーがまったく足りません。そのため、変わる速さは人の一生どころか、地球の歴史の長さでも気づけないほど遅いと考えられています。
ゆっくり上がってくると、途中の高温の場所で黒鉛に変わってしまうおそれがあります。天然のダイヤモンドが残ったのは、ガスを多く含んだ特別なマグマが、図2の矢印のように数時間から数日ほどで一気に地表近くまで吹き上げたからだと考えられています。この通り道が冷えて固まった岩が、世界の鉱山で掘られている「キンバーライト」です。
ダイヤモンドは炭素のかたまりなので、空気中で700℃を大きく超えるほど熱すると、炭と同じように燃えて二酸化炭素になるとされています。18世紀末、イギリスの化学者テナントは、ダイヤモンドを燃やして出た気体の量を調べ、中身が炭と同じ炭素だと示しました。硬さでは無敵でも、熱と酸素には弱いのです。
中に閉じこめられた小さな鉱物の年代を調べると、天然のダイヤモンドの多くは10億年から30億年以上前に生まれたとされています。地表に運ばれた噴火のほうがずっと新しく、生まれてから長いあいだ、地下深くで眠っていたことになります。
まとめ
鉛筆の芯とダイヤモンドは、どちらも炭素だけでできています。黒鉛は平らな板が重なっただけなのではがれやすく、ダイヤモンドは四方に手をのばした立体の網なのでとても硬くなります。そして、ぎゅっと詰まったダイヤモンドの形は、大気の約5万倍という極端な圧力のもとでしか生まれません。
材料が同じでも、並べ方が変われば別の物質になる。
ダイヤモンドは、地球の深さが炭素に刻んだ「圧力の記録」です。
圧力が物の形や性質を変える話は、ほかにもあります。とてつもない水圧の中で生き物がつぶれない理由は深海の生き物は、なぜあの水圧でつぶれないの?で、地球の中心の鉄が高い温度でも固体のままでいる理由は地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、なぜ溶けていないの?で紹介しています。原子の並び方で「浮く・沈む」が決まる話はなぜ氷は水に浮くの?もどうぞ。
- いちばん濃い鉛筆(6Bなど)で、紙に5センチ四方ほどをすき間なく、強めに塗りつぶします。
- 塗った面を電灯の光に斜めにかざしてみます。黒いはずなのに、金属のように銀色に光って見えるはずです。平らな板が同じ向きにそろって寝ているため、鏡のように光を返しています。
- 塗った面にセロハンテープを貼り、指でこすってから、ゆっくりはがします。テープに薄い灰色の膜がうつり、紙のほうも少し薄くなります。はがれやすい層が、テープにくっついて移ったのです。
4Bや2B、HBでもくらべてみましょう。濃い鉛筆ほど芯に含まれる黒鉛の割合が多く、光り方やうつり方がはっきりします。手が汚れるので、終わったら石けんで洗ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(化学熱力学・岩石学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 同素体(どうそたい):同じ種類の原子だけでできているのに、原子のつながり方が違うために性質の異なる物質どうし。黒鉛とダイヤモンドは炭素の同素体です。酸素とオゾンも同素体の例です。
- 共有結合の結晶:原子どうしが電子を出し合って結びつき、それが結晶全体に途切れずに広がったもの。ダイヤモンドが代表例で、硬く、融けにくい性質があります。
- キンバーライト:地下深くから急上昇したマグマが冷えて固まった岩石。ダイヤモンドを運び上げる「エレベーター」として知られます。
中学高校式で確かめる:深さ150kmの圧力は、どれくらい?
上に積み重なった岩の重さが、下の岩を押す圧力になります。圧力は「岩の密度 × 重力の強さ × 深さ」で見積もれます。地下の岩の密度は深さで変わりますが、ここでは平均の目安を使います。
| 記号 | 意味と単位 |
| P | 圧力(パスカル。1平方メートルあたりにかかる力) |
| ρ | 岩の密度(キログラム毎立方メートル) |
| g | 重力加速度(メートル毎秒毎秒) |
| h | 深さ(メートル) |
| 式の形 | P = ρ × g × h |
| 地下の岩の平均的な密度(目安) | 約3300 kg/m³ |
| 重力加速度 | 9.8 m/s² |
| 深さ | 150 km(150000 m) |
| 大気圧 | 約101300 Pa |
| アフリカゾウ1頭の重さ(目安) | 約5000 kg |
| 密度と重力をかける | 3300 × 9.8 = 32340 |
| 深さをかけて圧力(Pa) | 32340 × 150000 = 4851000000 |
| 大気圧の何倍か | 4851000000 ÷ 101300 ≒ 47887 |
| 1平方センチあたりの力(N) | 4851000000 ÷ 10000 = 485100 |
| 重さ(kg)に直す | 485100 ÷ 9.8 = 49500 |
| ゾウ何頭ぶんか | 49500 ÷ 5000 ≒ 9.9 |
深さ150キロメートルの圧力は、大気のおよそ5万倍です。指先ほどの面積に、ゾウ約10頭が乗っているのと同じ重さがかかります。
| 黒鉛の密度(目安) | 約2.2 g/cm³ |
| ダイヤモンドの密度 | 約3.5 g/cm³ |
| 同じ重さでの体積の比 | 2.2 ÷ 3.5 ≒ 0.63 |
| 縮む割合 | 1 − 0.63 = 0.37 |
同じ重さの炭素が、ダイヤモンドになると体積が約4割小さくなります。強い圧力は、この「小さくなれる形」を後押しします。
高校高校+なぜ圧力で「落ち着く形」が入れかわるのか
高校化学では、条件を変えると、その変化をやわらげる向きに状態が移ると習います(ルシャトリエの原理)。圧力を上げると、体積の小さいダイヤモンドの側へ移ることで、圧力の影響をやわらげようとします。
高校+黒鉛の炭素は、平面の3方向に結びつき、残りの電子は板全体を自由に動けます。そのため黒鉛は電気を通し、金属のような光沢を持ちます。ダイヤモンドの炭素は4つの電子すべてを結びつきに使うため、電気をほとんど通さず、透明になります。
大学相図と「準安定」
温度と圧力ごとに、どちらの形のエネルギーが低いかを示した図を相図と呼びます。炭素の相図では、常温でも約1万数千気圧を超えるとダイヤモンドのほうが安定になり、温度が高いほど境目の圧力も高くなるとされています。地表のダイヤモンドは、エネルギーは高いのに、変化の壁(活性化エネルギー)が高すぎて変われない「準安定」の状態にあります。酸素のない所で1500℃ほどに熱すると、黒鉛に変わり始めるとされています。人工ダイヤモンドは1950年代に、この相図をたよりに高温高圧の装置で初めて作られました。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 炭素はどうやって地下深くで結晶になるのか 地下の流体に溶けた炭素が、酸化・還元の反応で結晶になると考えられていますが、その流体の正体や反応の場所は研究が続いています。
- もっと深い所から来たダイヤモンド 深さ300〜700キロメートルほどで生まれたとされる「超深部ダイヤモンド」が見つかっています。中に閉じこめられた鉱物から、地球深部に水が含まれている手がかりが得られ、注目されています。
- マグマはなぜそれほど速く上がれるのか 二酸化炭素などのガスが泡になって上昇を加速させると考えられていますが、実際の速さの見積もりには大きな幅があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ダイヤモンドは、人が掘って届かない地球の奥から届いた、数少ない「現物の手紙」でもあります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「物質のすがた」「圧力」「大地の成り立ち」 | 密度の違い・岩の重さによる圧力・マグマ |
| 高校 | 化学「化学結合・結晶」、地学「地球の内部」 | 同素体、共有結合の結晶、地下の温度と圧力 |
| 高校+ | 化学の発展「ルシャトリエの原理」「黒鉛の電気伝導」 | 圧力で落ち着く形が変わる、黒鉛の光沢 |
| 大学 | 化学熱力学・岩石学 | 炭素の相図、準安定、キンバーライト |
| 研究 | 地球化学・高圧鉱物学 | 結晶ができる反応、超深部ダイヤモンド、マグマの上昇速度 |
| ― | 生活とのつながり | 鉛筆で字を書くとき、宝石や工具の刃のダイヤモンドを見るとき |
- Shirey, S. B. ほか (2013) "Diamonds and the Geology of Mantle Carbon", Reviews in Mineralogy and Geochemistry 75
- Pearson, D. G. ほか (2014) "Hydrous mantle transition zone indicated by ringwoodite included within diamond", Nature 507
- Bundy, F. P. ほか (1955) "Man-made Diamonds", Nature 176
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地下の温度や圧力、ダイヤモンドの年代には研究によって幅があります。