🐙 日常のふしぎ 🌊 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約7分

深海の生き物は、なぜあの水圧でつぶれないの?
― 「空気を持たない」からこそ耐えられるしくみ

深海のドキュメンタリー映像には、やわらかそうな体をした、奇妙な形の魚やタコが数多く登場します。深海は、頑丈な金属でできた潜水艦でさえ、うっかり壊れてしまうほどのとてつもない水圧がかかる場所だとされています。それなのに、なぜ見るからに弱そうな深海生物たちは、押しつぶされずに暮らしていられるのでしょうか。

公開:2026.08.19 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、思い出してみてください

プールや海で、少し深いところまで潜ったことはないでしょうか。水面からほんの数十センチ、1〜2m潜っただけでも、耳の奥がツンと痛くなるような、圧迫感を覚えることがあります。

これは、水の中では、深くなるほど周囲からかかる圧力(水圧)が大きくなるためだとされています。では、水深数千メートルという、私たちが潜れる深さとはケタ違いの深海では、いったいどれほどの水圧がかかっているのでしょうか。そして、そこで暮らす生き物たちは、なぜつぶれてしまわないのでしょうか。

実は、深海生物がつぶれない理由には、「頑丈さ」とは少し違う、意外な秘密があるとされています。

1
深く潜るほど、水圧はどんどん大きくなります

水深がおよそ10m深くなるごとに、水圧は大気圧1気圧分ずつ増えていくとされています。

2
多くの深海生物は、体の中に大きな空気の隙間を持ちません

体の中が空気ではなく、水とほとんど変わらない成分で満たされているため、外からの水圧と体内の圧力がつりあい、つぶれずにすむと考えられています。

この「空気を持たないからこそ平気」というしくみを、順番に見ていきます。

深く潜るほど水圧は増すが、耐え方には2通りある 水深 0m(水面) 水深 1000m(約101気圧) 水深 6000m(約601気圧) 中の空気と外の水圧の差が大きい→頑丈な殻が必要 体の中も外も水圧がつりあっている→つぶれない
図1:上から下へ、海面(水深0m)から深海(水深6000m)までの断面を表しています。左上の浅い場所にいる潜水艦は、内部が空気で満たされているため、外の水圧との差(赤い矢印)が大きく、頑丈な殻が必要です。右下の深海生物は、体の中に大きな空気の隙間がないため、外の水圧と体内の圧力がつりあい、つぶれずにすんでいます。

深く潜るほど、水圧が増えていくのはなぜか

水圧とは、その場所より上にある水の重さによって生まれる圧力のことだとされています。深く潜れば潜るほど、頭の上にのしかかっている水の量が増えるため、水圧もどんどん大きくなっていくというわけです。空気にも同じように重さがあり、地上で私たちが受けている「大気圧」も、頭上にある空気の重さによる圧力とされています。

海水の場合、だいたい水深10mごとに、大気圧1つ分(約1気圧)ずつ水圧が増えていくという目安が知られています。水深1000mでは、水面にいるときの約100倍もの圧力がかかっている計算になります。

深海生物は、水圧に「打ち勝っている」わけではありません。
体の中と外の圧力を等しくすることで、そもそも「つぶす力」を生じさせていないのです。

深海生物がつぶれない理由:「空気を持たない」体のつくり

物が水圧でつぶれるのは、多くの場合、その物の内側と外側とで、圧力に差があるときだとされています。空のペットボトルを深海に沈めると、中の空気は水圧にほとんど逆らえずに縮み、ボトルがぺしゃんこになってしまいます。これは、ボトルの中の空気の圧力と、外の水圧との差が非常に大きいために起こる現象です。

一方、多くの深海生物の体は、大きな空気の隙間をほとんど持たず、内部までほぼ水と同じような、ほとんど縮まない成分で満たされているとされています。水はそれ自体が、ほとんど圧縮されない性質を持っています。そのため外からどれだけ強い水圧がかかっても、体の中の圧力も同じように高くなり、内と外の圧力差がほとんど生まれないと考えられています。差がなければ、つぶす力そのものが働かない、というわけです。

潜水艦が頑丈な理由との対比

これに対して潜水艦は、乗組員が呼吸できるよう、内部を1気圧程度の空気で満たしています。深海に潜ると、外の水圧はどんどん高くなる一方、内部の空気の圧力はほぼ一定のままのため、内と外の圧力差がとても大きくなります。この差に耐えるために、潜水艦の船体には、分厚く頑丈な金属の殻が必要になるとされています。深海生物が持たない「空気の部屋」を、人間は呼吸のためにどうしても持ち込む必要があり、そのぶん頑丈な構造が求められる、という違いです。

🔎 深海にも、空気の袋を持つ生き物はいます

一部の魚は、体内に「うきぶくろ」という気体の袋を持っていますが、深海に暮らす魚の多くは、うきぶくろの中身を気体ではなく脂肪に置き換えているとされています。脂肪はほとんど圧縮されないため、水圧が変化してもつぶれにくいという利点があります。

自分で確かめられること

🧪 プールで、水深による圧力の変化を体感する
  1. プールの水面近くで、耳の状態を確認する(違和感がないことを確認)
  2. 安全に注意しながら、1〜2mほど潜り、耳の奥の感覚に注意を向ける
  3. ほんのわずかな深さの違いでも、耳の奥に圧迫感が生じることを確かめる
  4. 潜るのをやめて浮上すると、圧迫感がすぐに和らぐことも確認する

耳の中には空気で満たされた小さな空間(中耳)があるため、水圧と耳の中の空気の圧力に差が生まれ、圧迫感として感じられるとされています。体の中に空気の空間があるかどうかで、水圧の感じ方がこれほど変わることを体感できます。

まとめ

深海は、10mごとに水圧が約1気圧ずつ増えていく、とてつもない高圧の世界です。それでも深海生物がつぶれずにいられるのは、体の中に大きな空気の隙間を持たず、内と外の圧力差がほとんど生まれないためだと考えられています。逆に、空気の部屋を持ち込む潜水艦や、空気を含むペットボトルは、その圧力差に耐えるための頑丈さが必要になります。

深海生物がやわらかそうに見えるのは、弱いからではなく、そもそも押しつぶす力が働いていないから、というわけです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:深海の水圧をめぐる言葉

高校式で確かめる:深さから、水圧を求める

「水深10mごとに約1気圧ずつ増える」という目安を使って、いくつかの深さでの水圧を計算してみます。

① まず、式そのもの

水圧(気圧)= 大気圧(1) + 深さ(m)÷ 10

大気圧水面での圧力。約1気圧とされています
深さ ÷ 10水深10mごとに、圧力がおよそ1気圧ずつ増える目安による
② 実際に計算してみる(水深1000mの場合)
深さによる増加分(気圧)1000 ÷ 10 = 100
全体の水圧(気圧)100 + 1 = 101
結果約101気圧(水面のおよそ100倍)
③ さらに深く、水深6000mの場合(多くの深海生物が暮らす深さ)
深さによる増加分(気圧)6000 ÷ 10 = 600
全体の水圧(気圧)600 + 1 = 601
結果約601気圧(水面のおよそ600倍)

水面のおよそ600倍という水圧の中で、多くの深海生物が暮らしていることになります。体の中に大きな空気の隙間さえなければ、これほどの高圧でも、内と外の圧力差はほとんど生まれないと考えられています。

※ 「10mごとに1気圧」は、目安として広く使われている近似の関係です。

高校+「圧力差」がなければ、力はつり合う

物体がつぶれるかどうかを決めるのは、圧力そのものの大きさではなく、内と外の圧力差だとされています。深海生物の体は、水とほとんど変わらない、ごくわずかしか圧縮されない成分でできているため、外の水圧が高くなるのに合わせて、体内の圧力もほぼ同じだけ高くなり、圧力差がきわめて小さく保たれると考えられています。

大学高い圧力の中でも、タンパク質を安定させるしくみ

生化学の分野では、深海生物の体内に「TMAO(トリメチルアミン-N-オキシド)」と呼ばれる物質が、深いところに暮らす生物ほど多く蓄積されていることが報告されています。TMAOのような物質は、高い圧力によってタンパク質の立体構造がゆがめられるのを防ぎ、生命活動に必要な機能を保つ役割を果たしていると考えられています。

研究まだ、はっきりしていないこと

深海という極限環境には、物理学と生化学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが広がっています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・力と圧力水圧・気圧の基本用語
高校物理基礎・圧力深さから水圧を求める計算
高校+物理・圧力差と力のつり合い(発展)圧力差がなければつぶれない理由
大学生化学TMAOによるタンパク質の安定化
研究生化学・深海生態学(研究中)安定化の分子機構、未知の深海生態系
参考・出典
  1. 物理学関連の教科書における、水圧・気圧に関する解説。
  2. 海洋学関連の資料における、深海の水圧と生物の適応に関する解説。
  3. 生化学分野における、深海生物のTMAO蓄積とタンパク質安定化に関する研究レビュー。
  4. 魚類学関連の資料における、深海魚のうきぶくろ(脂肪への置き換え)に関する解説。
  5. 海洋工学分野における、潜水艦の耐圧構造に関する解説。

※ 水圧の値は目安の近似式によるものです。実際の値は、水温や塩分などの条件によってわずかに変わることがあるとされています。

※本記事は一般向けの科学解説です。水中に潜る際は、無理をせず、自分の体調や耳の状態に十分注意してください。