バナナは、皮に黒い斑点が増えると、なぜ甘くなるの?
― 追熟という「時限装置」のしくみ
買ってきたばかりの、皮が黄色一色のバナナ。数日たつと、皮に黒い小さな斑点(シュガースポット)が増えてきます。見た目は傷んできたようにも思えますが、実はこのころのバナナがもっとも甘く、香りも強いとされています。バナナの中で、いったい何が起きているのでしょうか。
お店に並んでいる青みがかった、あるいは黄色一色のバナナを買って、キッチンに置いておいたことはないでしょうか。何日か経つと、皮の色が濃くなり、やがて黒い小さな点々が広がっていきます。
この状態のバナナを食べてみると、買ったばかりのときよりも、実がやわらかくなり、はっきりと甘みが増していることに気づきます。青いバナナには、どこか粉っぽい、でんぷんのような味わいが残っていることもあります。
同じ1本のバナナのはずなのに、時間がたつだけで、味がこれほど変わるのはなぜでしょうか。
収穫したばかりのバナナの実には、甘みの少ないでんぷんが多く含まれているとされています。時間がたつにつれて、これが甘い糖に変わっていくと考えられています。
バナナ自身が出す、エチレンという植物ホルモンの気体が、この一連の変化のスイッチ役を果たしている
この「追熟」と呼ばれる変化のしくみを、順番に見ていきます。
でんぷんが糖に変わる、「追熟」というしくみ
収穫直後のバナナの実には、甘みをほとんど感じさせない、でんぷんという成分が多く含まれているとされています。時間がたつと、実の中の酵素のはたらきによって、このでんぷんが、ブドウ糖や果糖といった甘い糖に、少しずつ分解されていくと考えられています。この一連の変化は「追熟(ついじゅく)」と呼ばれています。
でんぷんは大きな分子がいくつもつながった構造をしており、そのままでは舌が甘みとして感じ取りにくいとされています。酵素によって小さな糖の分子に切り分けられることで、はじめて強い甘みとして感じられるようになるというわけです。
「エチレン」という、追熟の合図となる気体
この追熟の引き金を引いているのが、バナナ自身が実から放出する、エチレンという気体の植物ホルモンだとされています。エチレンが実の中で増えていくと、でんぷんを糖に変える酵素のはたらきが活発になると考えられています。
バナナのように、収穫後もエチレンの作用で追熟が進む果物は「クライマクテリック型」の果物と呼ばれています。りんごやアボカド、メロンなども、同じようにエチレンによって追熟が進むタイプとされています。「傷んだりんごが1つあると、まわりの果物も早く熟す」と言われるのも、りんごが出すエチレンが周囲に広がるためだと考えられています。
自分自身が出すガスの合図で、内側から変化のスイッチを入れているのです。
黒い斑点の正体は、もうひとつの化学反応
では、皮に現れる黒い斑点は何でしょうか。これは、追熟が進むにつれて皮の細胞が少しずつ壊れやすくなり、細胞の中の成分どうしが触れ合うようになることで起きる、糖への変化とは別の化学反応の跡だと考えられています。
皮の細胞が壊れると、普段は別々の場所にある酵素と、ポリフェノールという成分が触れ合い、空気中の酸素と反応して、黒っぽい色素をつくるとされています。これは、りんごやバナナを切ったまま置いておくと、切り口が茶色く変色する現象と、基本的に同じ種類の反応だと考えられています。斑点は皮の表面だけで起きている変化であり、実の甘さそのものとは別の現象ですが、追熟の進み具合を示す目印として使われているというわけです。
バナナは、輸送中に傷まないよう青いうちに収穫され、店に届く直前に、専用の設備でエチレンガスを当てて追熟を進めることが多いとされています。逆に、エチレンを取り除く工夫をした保存方法や容器を使うことで、果物や野菜の追熟・劣化を遅らせる技術も開発されています。
自分で確かめられること
- 青みの残ったバナナを2本用意する
- 1本は紙袋に入れ、りんごと一緒に常温に置く。もう1本は何もせず、そのまま常温に置く
- 数日間、皮の色や斑点の増え方を毎日観察して比べる
- 紙袋・りんごと一緒にしたほうが、エチレンが逃げにくく、また濃度も上がるため、追熟が早く進むことを確かめる
追熟を早めたいときはこの方法、逆に長持ちさせたいときはほかの果物から離し、風通しのよい場所に置くとよいとされています。
まとめ
バナナの甘さは、実の中ででんぷんが糖に分解される「追熟」という反応によって生まれています。この反応は、バナナ自身が出すエチレンという気体を合図に進むと考えられています。皮の黒い斑点は、細胞が壊れて起きる、糖への変化とは別の化学反応の跡であり、追熟が進んだ目印として使われています。
黒い斑点が増えたバナナは、傷んだのではなく、いちばんおいしい瞬間を迎えているとされています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「生物」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:バナナの追熟をめぐる言葉
- でんぷん:植物が実の中にたくわえる、甘みの少ない炭水化物。
- 酵素:体や実の中で、特定の化学反応の進みを速くするはたらきを持つ物質。
- エチレン:植物が出す気体で、実を熟させる合図として働く植物ホルモンの一種。
- 追熟:収穫後の果物が、時間をかけて甘く・やわらかく変化していくこと。
高校式で確かめる:温度が変わると、追熟の速さはどう変わるか
酵素が関わる反応の多くは、温度が10℃上がるごとに、反応の速さがおよそ2倍になるという目安の関係が知られています(Q10則と呼ばれています)。この関係を使って、冷蔵庫と常温での追熟速度の違いを試算してみます。
速さの倍率 = 2 の(温度差 ÷ 10)乗
| 温度差 | 比べる2つの温度の差(℃) |
| 速さの倍率 | 温度が高いほうが、低いほうの何倍の速さで反応が進むかの目安 |
| 温度差(℃) | 25 − 5 = 20 |
| 10℃の何個分か | 20 ÷ 10 = 2 |
| 2倍を2回かける | 2 × 2 = 4 |
| 結果 | 常温は冷蔵庫のおよそ4倍の速さ |
あくまで目安の計算ですが、冷蔵庫に入れたバナナの追熟が、常温よりずっとゆっくり進む理由を、大まかにイメージできます。バナナは低温に弱く、皮が黒く傷みやすいなど別の影響も受けるため、この倍率どおりに単純に進むわけではないとされています。
※ Q10則は多くの生物反応にあてはまるとされる目安の関係で、すべての反応に正確に当てはまるわけではありません。
高校+クライマクテリック型果実と、呼吸の急上昇
バナナのように追熟が進む果物では、追熟の途中で、実の呼吸量(酸素を取りこみ、二酸化炭素を出す量)が一時的に急上昇することが知られています。この現象は「クライマクテリック・ライズ」と呼ばれ、エチレンの急激な増加と連動して起きると考えられています。一方、かんきつ類やぶどうなど、収穫後にエチレンによる追熟がほとんど進まない「非クライマクテリック型」の果物もあるとされています。
大学エチレンは、細胞の中でどう伝わるのか
植物生理学の分野では、エチレンが細胞の膜にある専用の受容体(センサーのような分子)に結合することで、遺伝子のはたらき方が変化し、でんぷん分解酵素などが次々とつくられていくという、シグナル伝達の経路が研究されています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- エチレンの受容体から遺伝子のはたらきが変化するまでの、詳しい経路のすべては、植物生理学の分野で、いまも研究が続けられているテーマです。
- 輸送中に傷みにくく、なおかつ食べごろのタイミングを調整しやすい品種の開発を目指し、追熟の速さそのものを遺伝的に制御する研究も進められています。
- 皮の斑点が現れるタイミングや広がり方が、個体や栽培条件によってどれだけばらつくのかについても、詳しい調査が続いています。
身近なバナナ1本にも、植物ホルモンと酵素反応が織りなす、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・生物と物質 | でんぷん・酵素・エチレンの基本用語 |
| 高校 | 生物基礎・酵素反応 | Q10則を使った温度と反応速度の計算 |
| 高校+ | 生物・植物の発生と成長(発展) | クライマクテリック型果実と呼吸の急上昇 |
| 大学 | 植物生理学 | エチレン受容体によるシグナル伝達 |
| 研究 | 植物生理学・農学(研究中) | 追熟速度の遺伝的制御、斑点の発現ばらつき |
- 生物学関連の教科書・資料における、酵素反応と反応速度(Q10則)に関する解説。
- 食品科学関連の資料における、バナナの追熟・でんぷんの糖化に関する解説。
- 植物生理学分野における、エチレンによる果実成熟のシグナル伝達に関する研究レビュー。
- 農学分野における、クライマクテリック型果実の呼吸急上昇に関する解説。
- 食品保存技術に関する資料における、エチレン管理による鮮度保持技術の解説。
※ 反応速度の倍率や日数の目安は、品種・温度・熟度などの条件によって変わることがあるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。食品の保存状態の見極めは、見た目だけでなく、においや食感なども確認し、無理に食べないようにしてください。