身近な不思議 食と農 予備知識なしでOK 読了 約7分

渋柿は、干すとなぜ甘くなるの?
― 甘さが増えたのではなく、渋みが「動けなく」なっています

かじった瞬間、口の中いっぱいに広がるあの渋み。ところが同じ柿を軒下に吊るして数週間おくと、砂糖菓子のように濃い甘さになります。実は、干しているあいだに新しく甘みが作られているわけではありません。渋みのもとが、舌に届かない形に変わっているのです。

公開:2026.09.03 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

秋の庭先に、オレンジ色の柿がたくさんなっています。よく熟れて見えるので一口かじってみたら、舌がキュッと縮むような渋みが広がって、水を飲んでもなかなか消えません。

ところが同じ木の実が、皮をむかれて縄に吊るされ、軒下で1か月ほど風にさらされたあとには、表面に白い粉をふいた干し柿になっています。食べてみると、驚くほど甘い。

砂糖はひとつぶも足していません。それなのに、なぜ渋さが消えて甘さだけが残るのでしょうか。

理由は、大きく2つあります

1
渋みのもとが、水に溶けない大きさに変わる

渋みの正体は、タンニンという物質です。生の渋柿では小さくて水に溶けやすく、舌にすぐ届きます。干すあいだにこれがつながり合って大きなかたまりになり、溶け出せなくなります。

2
水分が抜けて、もともとの糖が濃くなる

渋柿にも、はじめから糖はたっぷり入っています。ただ、大量の水にうすめられていて目立ちません。乾いて重さが4分の1ほどになると、同じ量の糖がぎゅっと濃縮されます。

この2つは、順番も役割も違います。1は「渋みを引き算する」しくみ、2は「甘みを掛け算する」しくみです。順に見ていきましょう。

渋いのは、舌のたんぱく質が引っぱられているから

柿の渋みは、味というより感覚に近いものです。タンニンは、舌の表面やだ液にふくまれるたんぱく質にくっつく性質を持っています。くっつかれたたんぱく質は寄り集まってかたまり、舌の表面のなめらかさが失われます。あの「キュッと縮む」感じは、これが正体だとされています。

ここで大事なのは、タンニンが小さく、水にすんなり溶けているという点です。溶けているからこそ、だ液に乗って舌のすみずみまで運ばれます。逆にいえば、溶けさえしなければ渋みは感じません。

干し柿では、まさにそれが起きています。乾燥のあいだに柿の中でアセトアルデヒドという物質が少しずつ作られ、これがのりのように働いて、小さなタンニンどうしをつなぎ合わせます。つながって大きくなったタンニンは水に溶けられず、口の中に散らばることができません。図1を見てください。左が干す前、右が干したあとのようすです。

左:干す前(渋い) 右:干したあと(渋くない) 小さなタンニン(水に溶ける) 舌の表面(たんぱく質) くっついて、渋いと感じます 大きなかたまり(溶けない) 舌の表面(たんぱく質) 届かず、渋みを感じません 点線の矢印はバツ印で止まります 干す
図1:左は干す前。小さな丸で示したタンニンが水に溶け、下向きの矢印のように舌のたんぱく質へ届くので渋く感じます。右は干したあと。タンニンどうしがつながって大きなかたまりになり、点線の矢印はバツ印でさえぎられて舌に届きません。タンニンは減っていないのに、渋みだけが消えます。

甘みのほうは、あとから足されたのではありません

もう一方の主役は水です。生の柿は、重さのおよそ8割が水だとされています。干すと、その水が空気中へ出ていきます。糖は水と一緒には飛んでいきませんから、あとに残ります。

つまり、糖の総量はほとんど変わらないのに、それをふくむ全体の重さだけが減っていきます。同じ量の砂糖を、コップ1杯の水ではなく小さじ1杯の水に溶かしたようなものです。結果として、口に入れたときの甘さは何倍にもなります。表面にふく白い粉は、濃くなりすぎた糖が結晶になって出てきたものだとされています。

ここに、干し柿の面白さがあります。渋みは化学変化で消え、甘みは物理的な濃縮で強まる。まったく種類の違う2つの変化が、同じ1か月のあいだに並行して進んでいるのです。

💡 甘柿は、木の上で同じことをしています

甘柿も、実が小さいうちは渋いままです。育つ途中でタネのまわりから成分が出て、タンニンを溶けない形に変えていきます。干し柿づくりは、その働きを人の手で外から起こしているようなものです。品種によっては、タネの数が少ないと渋が残ることもあります。

💡 湯や酒を使う「渋抜き」も、しくみは同じ

ぬるま湯に漬ける、焼酎をふきかけて袋で密閉する、二酸化炭素の中に置く。渋抜きの方法はいくつもありますが、どれも柿自身にアセトアルデヒドを作らせる点で共通しています。干すという手間のかかる方法だけが特別なわけではありません。

まとめ

渋柿が干し柿になるとき、渋みの成分そのものが消えてなくなるわけではありません。溶けない大きさに変わって、舌に届かなくなるだけです。そして甘さは、水が抜けたぶんだけ濃くなったものです。足し算ではなく、引き算と割り算の結果として、あの味が生まれています。

渋みは、なくなったのではなく動けなくなった。
甘みは、生まれたのではなく濃くなった。

果物が食べごろに変わるしくみは、バナナの追熟の記事でも取り上げています。水を減らすことで食べ物が長もちする話ははちみつが腐らない理由に、舌が味以外の感覚をとらえる話はトウガラシの辛さの記事に続きます。

🧪 台所でたしかめる:重さと甘さのつながり
  1. 売られている干し柿を1つ用意し、台所ばかりで重さをはかって記録します。同じ売り場にある生の柿の重さもはかっておきます。
  2. 干し柿を半分に切り、切り口を観察します。外側は飴のように濃く、中心はやわらかいはずです。乾きは外から進むので、濃さに差が残ります。
  3. 干し柿を小さくちぎってコップの水に30分ほど浸し、その水をなめてみます。甘さは水に移りますが、渋みはほとんど戻ってきません。溶けない形に変わったタンニンは、水に出ていかないからです。

生の渋柿を口に入れる必要はありません。売られている干し柿と生の柿を見比べるだけで、水が抜けるという変化の大きさは十分に伝わります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎・化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(食品化学・植物生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:甘さは何倍に濃くなるのか

糖の量そのものは変わらないと考えて、干す前と干したあとで「100グラムあたりの糖の量」がどう変わるかを計算してみます。数字は目安です。

① もとになる数値
生の柿1個の重さ(グラム)200
生の柿100グラムにふくまれる糖(グラム)およそ14
干し上がったときの重さもとの4分の1ほどとされています
② 計算してみる
柿1個にふくまれる糖(グラム)14 × 2 = 28
干し上がったときの重さ(グラム)200 ÷ 4 = 50
干し柿1グラムあたりの糖(グラム)28 ÷ 50 = 0.56
100グラムあたりに直すと(グラム)0.56 × 100 = 56

同じ100グラムで比べると、糖はおよそ14グラムから56グラムへ増えます。糖そのものは1粒も増えていないのに、濃さは4倍になりました。単位はどれもグラムで、記号を使わずに数だけを追っています。

高校高校+「つながって大きくなる」とは、何が起きているのか

高校柿のタンニンは、水酸基をたくさん持つ分子です。水酸基は水の分子と引き合うため、分子が小さいうちはよく溶けます。同じ理由で、たんぱく質の表面とも水素結合で結びつきます。渋く感じるのは、この結びつきの結果です。

高校+柿の中で酸素が少ない状態が続くと、糖の分解の道すじが変わり、アセトアルデヒドが生じます。この物質はタンニン分子どうしを橋渡しするようにつなぎ、分子の大きさを一気に押し上げます。大きくなると水に囲みきれなくなり、果肉の中で粒として沈みます。渋抜きが「消す」のではなく「固める」処理だと言われるのは、このためです。

大学乾燥は、水の移動と濃縮の競争でもあります

干し柿づくりを工学の目で見ると、表面からの水の蒸発と、内部から表面への水の移動という2つの速さの競争になります。表面ばかり速く乾くと、糖の濃い層が膜のように固まり、内部の水が出られなくなります。昔から干し柿を途中で手でもむのは、この膜をこわして水の道を作り直す作業だと説明されています。乾燥食品の設計では、こうした水の動きやすさを水分活性という指標で扱います。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。台所の当たり前にも、まだ調べ切れていない部分は残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・水溶液/状態変化溶ける・溶けないの違いと、水が蒸発して濃くなる話
高校化学基礎・化学/分子間にはたらく力水酸基とたんぱく質が引き合って渋みが生じるしくみ
高校+化学/有機化合物とアルデヒドアセトアルデヒドがタンニンをつなぎ、大きくするところ
大学食品化学・食品工学/乾燥と水分活性表面が先に乾くことで起きる、水の通り道の問題
研究味覚生理学・食品機能学渋みの感じ方の個人差と、不溶化したタンニンの行方
生活とのつながり渋抜き、干し柿づくり、表面にふく白い粉の見分け方
参考・出典
  1. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」果実類の項(かき・生および干しがきの成分値)
  2. 伊藤三郎 編『果実の科学』(朝倉書店、食品の科学シリーズ)カキの成熟と脱渋の章
  3. 日本食品科学工学会誌などに報告されている、カキ果実のアセトアルデヒド生成と可溶性タンニンの不溶化に関する一連の研究
  4. 農林水産省ウェブサイトの、かきの品種(甘がき・渋がき)と出荷前の渋抜きについての解説

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。食品を家庭で乾燥・保存するときは、カビや傷みに注意し、自治体や公的機関が出している食品衛生の案内に従ってください。