日常のふしぎ 力学 予備知識なしでOK 読了 約6分

綱引きは、力の強いチームが勝つの?
― 綱を引く力は両チームいつも同じ。勝負を決めるのは足の裏です

秋の運動会の花形、綱引き。「力の強いほうが勝つ」と思いがちですが、じつは綱が両チームを引っぱる力は、試合中ずっと同じ大きさです。では何が勝ち負けを分けるのか。答えは綱ではなく、足もとの地面にあります。

公開:2026.09.25 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

校庭に白いラインが引かれ、太い綱の両側に子どもたちが並びます。ピストルの音と同時に、全員が顔を真っ赤にして引っぱります。

しばらくは綱の真ん中の赤い印が、行ったり来たりするだけ。ところが、ある瞬間に片方のチームが前へずるずると引きずられ、あっという間に勝負がつきます。

あのとき負けたチームは、急に力が抜けたのでしょうか。じつはそうではありません。くずれたのは腕の力ではなく、足もとのほうです。

勝ち負けを決めるのは、この2つ

1
足の裏が、地面をつかんでいられるか

綱の力はどちらのチームにも同じだけかかります。差が出るのは、地面が足を押し返してくれる力の上限です。先に足がすべったほうが負けます。

2
体が前へ倒されないか

綱に引かれると、体は前へ倒れようとします。体を後ろへ倒して重さで対抗し、綱を低く持つほど、倒されにくくなります。

まずは「綱の力は同じ」という、いちばん意外なところから見ていきましょう。

綱が引く力は、両チームでいつも同じ

綱の端を持つあなたが、綱を強く引いたとします。すると綱は、同じ強さであなたを引き返します。押したら押し返される、というのは力の基本的な性質です。

綱はとても軽いので、綱の中でも力はそのまま伝わります。つまり、左のチームが綱を引く力と、右のチームが綱を引く力は、どの瞬間でも同じ大きさです。片方だけが強く引く、ということは起こりません。

図1を見てください。上の2本の矢印が、綱が両チームを引く力です。長さは同じです。これに逆らって各チームをその場にとどめているのが、足もとの矢印、つまり地面が足を押し返す力(摩擦)です。この力には上限があります。上限が小さいほうのチームの足が先にすべり、綱ごと前へ引きずられます。

綱が両チームを引く力は、いつも同じ大きさ 中央の印 綱が左チームを引く 綱が右チームを引く 矢印の長さは同じ 地面が足を押し返す力(上限が大きい) 上限が小さい → 足がすべる 右チームの負け
図1:綱が両チームを引く力(上の2本の矢印)は、いつも同じ長さです。勝負を分けるのは足もとの矢印、地面が足を押し返す力の上限です。右チームは上限が小さい(点線の短い矢印)ため、先に足がすべって負けます。

地面が足を押し返せる力の上限は、おもに2つで決まります。ひとつは、足が地面を押しつける重さです。体重の重いチームほど、上限は大きくなります。もうひとつは、靴の底と地面のすべりにくさです。同じ体重でも、すべりやすい靴や、ぬれた芝生の上では上限が小さくなります。

だから綱引きは「腕力の勝負」というより、「足もとの勝負」です。公式の競技では、チームの合計体重で階級が分けられています。重さがそのまま強さに結びつくからです。

体を後ろへ倒すのは、倒されないため

足がすべらなくても、まだ負け方があります。綱に引かれて、体ごと前へつんのめることです。

綱は手の高さで体を前へ引きます。体は足の裏を支点にして、前へ回ろうとします。これに逆らえるのは、体の重さだけです。体の重心を足より後ろへずらすと、重さが体を後ろへ回そうとします。この2つの回す力がつり合えば、体は倒れません。

図2を見てください。綱を持つ高さが低いほど、前へ回す力は小さくなります。そのぶん体を倒す量も少なくて済みます。熟練したチームが、腰を落とし、綱をわきの下あたりで低く抱えて、ほとんど寝るような姿勢になるのはこのためです。

綱の力 重心 体重 後ろへのずれ 綱の高さ 倒れない条件 綱の力 × 綱の高さ = 体重 × 後ろへのずれ 綱を低く持つほど、 体を倒す量は少なくて済む
図2:綱を引く1人を横から見たところ。右向きの矢印(綱の力)は体を足もとを支点に前へ回そうとし、下向きの矢印(体重)は、重心が足より左(後ろ)にあるぶん体を後ろへ回そうとします。右の文字の式が成り立てば倒れません。

負けたチームが、一気にくずれるのはなぜ?

冒頭の場面を思い出してください。印が行ったり来たりしたあと、急に勝負がつきました。これも足の裏で説明できます。

止まっている足と地面のあいだでは、すべり出すまで大きな力に耐えられます。ところが、いったんすべり始めると、押し返す力はひとまわり小さくなります。重い家具を押すと、動き出した瞬間に急に軽くなるのと同じです。

つまり、一度すべった足は、すべる前より弱い状態になります。綱の力は変わらないので、すべりは止まらず、チームごと引きずられていきます。勝負が「じわじわ」ではなく「あっという間」につくのは、このためです。

💡 綱は、手や体に巻きつけない

チーム全員の力が1本の綱に集まると、数百キログラムの物をつるすのと同じくらいの力になります(下の折りたたみで計算しています)。綱を手首や腕に巻きつけていると、急に引かれたときや綱が切れたときに逃げられず、大けがにつながった例が報告されています。綱は手のひらで握るだけにしましょう。

💡 綱引きは、オリンピックの競技だった

綱引きは、1900年から1920年までの夏のオリンピックで正式な競技として行われていました。いまも国際大会があり、チームの合計体重ごとの階級で争われています。

まとめ

綱が両チームを引く力は、いつも同じ大きさです。勝敗を分けるのは、足の裏が地面から受けられる力の上限と、前へ倒されないための体の傾きです。重いチーム、すべりにくい足もと、低い綱の持ち方が有利になります。そして一度すべった足は弱くなるので、勝負は一気につきます。

綱引きは、腕で引き合う勝負ではない。
足の裏で、地面をつかみ合う勝負です。

支点のまわりで「力 × 距離」をつり合わせる考え方は、荷物を体から離して持つと腰がきつくなる理由でも同じ形で出てきます。

🧪 家でできる「すべりにくさ」の実験
  1. タオルの両端を2人で持ち、床の上で軽く引き合います。1人は靴下、もう1人は素足にします。
  2. 同じくらいの力で引いたとき、どちらの足が先にすべるかを見ます。次に、すべったほうが腰を落とし、タオルを低く持って同じことをします。
  3. 最後に、体重の軽い人が素足、重い人が靴下で試します。体重と足もとのどちらが効くかをくらべましょう。

強く引きすぎず、転んでもけがをしない広い場所で、ゆっくり行ってください。タオルは手に巻きつけないこと。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・トライボロジー)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:チームが耐えられる力の上限

10人のチームが、すべらずに耐えられる綱の力の上限を見積もります。次に、1人が前へ倒されないためには、重心をどれだけ後ろへずらす必要があるかを求めます。

⓪ もとになる式
記号で書くとF = μ × M × g (倒れない条件:T × h = m × g × d)
言葉で書くとすべらずに耐えられる力の上限 = すべりにくさ(静止摩擦係数)× チームの体重の合計 × 重力加速度。倒れない条件は、綱の力 × 綱の高さ = 1人の体重 × 重心の後ろへのずれ
どこから来る式か上の式は、最大の摩擦力は面を押しつける力に比例するという「静止摩擦の法則」から来ます。下の式は、足の裏を中心に体を回そうとする2つの力のはたらき(力のモーメント)のつり合いです。綱の力が両チームで同じなのは、作用・反作用の法則によります。
Fチームがすべらずに耐えられる力の上限(単位はニュートン)
μ靴底と地面の静止摩擦係数(単位なし)
Mチーム全員の体重の合計(単位はキログラム)
g重力加速度(約9.8、単位はメートル毎秒毎秒)
T、h1人が受ける綱の力(ニュートン)と、綱を持つ高さ(メートル)
m、d1人の体重(キログラム)と、重心が足より後ろにずれている距離(メートル)
① もとになる数値
チームの人数と体重の合計10人、合計500kg(1人50kg)
重力加速度9.8 メートル毎秒毎秒
運動靴と乾いた土の静止摩擦係数0.6 程度とされる(地面や靴で大きく変わる)
すべりやすい条件(ぬれた芝など)の静止摩擦係数0.4 程度と仮定
綱を持つ高さ腰のあたりで約1.0m
② 計算してみる
チームの重さ(ニュートン)500 × 9.8 = 4900
乾いた土での上限 F4900 × 0.6 = 2940
何キログラムの物をつるす力と同じか2940 ÷ 9.8 = 300
すべりやすい条件での上限 F4900 × 0.4 = 1960
1人あたりが受ける綱の力 T2940 ÷ 10 = 294
1人の重さ(ニュートン)50 × 9.8 = 490
綱が前へ回すはたらき(高さ1.0m)294 × 1.0 = 294
必要な重心の後ろへのずれ d(メートル)294 ÷ 490 = 0.6
綱を0.5mの高さで持つと294 × 0.5 = 147
そのときの d(メートル)147 ÷ 490 = 0.3

乾いた土なら、10人で約300kgの物をつるすのと同じ力まで耐えられます。足もとがすべりやすいと、同じ体重でも上限は3分の2ほどに下がります。また綱の高さを半分にすると、体を後ろへずらす量も半分の30cmで済みます。低く構えるのが有利な理由が、数字で確かめられます。

高校高校+すべり出すと弱くなる、の正体

高校物理基礎では、静止摩擦力の上限(最大摩擦力)が「静止摩擦係数 × 垂直抗力」、すべっているときの動摩擦力が「動摩擦係数 × 垂直抗力」で表されると習います。多くの組み合わせで、動摩擦係数は静止摩擦係数より小さくなります。負けたチームが一気にくずれるのは、この差のためです。

高校+綱を引く姿勢では、足が受ける地面からの力(垂直抗力と摩擦力を合わせたもの)が、体の重心の近くを通るように体を傾けると安定します。その傾きは静止摩擦係数と関係し、係数0.6なら鉛直から約31度とされます。すべりにくい地面ほど、深く体を倒せるわけです。

大学摩擦係数は「定数」ではない

高校で習う「摩擦力は押しつける力に比例し、接触面積によらない」という関係は、アモントン・クーロンの摩擦法則と呼ばれる経験則です。実際の靴底はゴムでできていて、ゴムの摩擦は粘弾性による変形のくり返し(ヒステリシス摩擦)と、表面どうしの凝着の両方から生まれます。そのため摩擦係数は、すべる速さや温度、地面の細かな凹凸によって変わります。摩擦を扱う学問はトライボロジーと呼ばれます。体の傾きの条件は、剛体の静力学で扱う力のモーメントのつり合いそのものです。

📖 式の導出や、さらに先の内容:摩擦(ウィキペディア) / 力のモーメント(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに摩擦係数の値は、地面と靴しだいで大きく変わる目安と考えてください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1分野「力のはたらき」「作用・反作用」綱の力が両チームで同じになる理由
高校物理基礎「摩擦力」「力のつり合い」足がすべらない上限、動摩擦で一気にくずれる理由
高校+物理「剛体のつり合い(力のモーメント)」体を後ろへ倒す量と、綱を持つ高さの関係
大学力学・トライボロジー(ゴムの摩擦)摩擦係数が一定ではない理由
研究集団の力の発揮、ゴム摩擦の理論人数と1人あたりの力、摩擦の予測
―生活とのつながり運動会の作戦、すべりやすい床で重い物を引くときの姿勢
参考・出典
  1. 高等学校 物理基礎 教科書(力のつり合い・摩擦力の単元)
  2. ウィキペディア「摩擦」(静止摩擦係数・動摩擦係数、アモントン・クーロンの法則)
  3. ウィキペディア「力のモーメント」
  4. Kravitz, D. A. & Martin, B. (1986) Ringelmann rediscovered: The original article. Journal of Personality and Social Psychology 50(5)
  5. Persson, B. N. J. 『Sliding Friction: Physical Principles and Applications』 Springer
  6. 国際綱引連盟(TWIF)・日本綱引連盟 競技規則(体重別の階級)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。摩擦係数は地面・靴・天候で大きく変わります。綱引きは指導者の指示に従い、綱を体に巻きつけずに行ってください。