人1人が出す二酸化炭素は、木何本で吸いきれるの?
― 呼吸のぶんは約26本、暮らし全体では500本をこえます
息を吐くたびに、私たちは二酸化炭素を出しています。では、それを吸い取るには木が何本あればいいのでしょう。計算すると、呼吸のぶんは意外なほど少ない本数で足ります。本当に桁が変わるのは、息ではないところでした。
公園のベンチで、大きく深呼吸をします。まわりには背の高い木が何本も立っています。
「木は二酸化炭素を吸ってくれる」と、学校で習いました。ふと、こんな疑問がわきます。
自分1人が出すぶんを吸いきるには、この公園の木で足りるのでしょうか。それとも、森がまるごと必要なのでしょうか。
数字で見ると、ポイントは2つだけ
人が1日に吐く二酸化炭素は、約1キログラムとされています。1年で約365キログラム。よく育ったスギ1本が1年に吸う量の目安で割ると、約26本です。
電気・ガソリン・ガスまで含めると、1人あたりの量は呼吸の20倍をこえます。しかも呼吸で出る炭素は、もともと植物から借りたものです。
順番に、実際の数字を当てはめていきます。
呼吸のぶんは、小さな林ひとつで足りる
私たちの吐く息には、吸った空気より多くの二酸化炭素がふくまれています。体が食べ物を燃やして、エネルギーを取り出しているからです。宇宙船の生命維持の設計では、1人1日あたり約1キログラムという値が目安に使われています。
一方の木はどうでしょう。木は葉で二酸化炭素を取りこみ、炭素を幹や根の材料にします。手入れされた育ちざかりのスギなら、1本で1年に約14キログラムを吸うという目安が、行政の資料などでよく紹介されています。
1年分の呼吸を、この目安で割ると約26本です。図1の上の短い棒がそれにあたります。木の間隔をふつうの人工林なみにとれば、テニスコート1面ほどの林で、1人ぶんの息は受け止められる計算です。
木が吸った炭素は、消えたわけではありません。乾いた木材の重さの約半分は炭素です。スギ1本は、1年に数キログラムずつ、空気からできた「自分の体」を増やしていることになります。
桁が変わるのは、「地下の炭素」を燃やすとき
ところが、家の電気、車のガソリン、工場や発電所のぶんまで国全体で合わせて人数で割ると、話が変わります。日本では、エネルギーを使うことで出る二酸化炭素が、1人あたり年に約8トンとされています。これをスギの目安で割ると、約570本です。図1の下の長い棒です。
さらに大事なちがいがあります。図2を見てください。左の輪は、呼吸の炭素のめぐりです。お米やパンの炭素は、ここ1年ほどのあいだに植物が空気から取りこんだものです。私たちはそれを食べ、息として空気へ返しているだけです。借りたものを返しているので、空気の中の量は差し引きで増えません。
右の一方通行の矢印は、石炭・石油・天然ガスです。これらは数千万年から数億年前の生き物が、地下にしまいこんだ炭素だと考えられています。燃やすと、長く眠っていた炭素が空気に「新しく」加わります。そのぶんを木を植えて受け止めようとしても、とても追いつきません。
手入れされたスギの人工林1ヘクタールは、1年に約8.8トンの二酸化炭素を吸うと推定されています。1人あたり約8トンなら、ほぼ1ヘクタール、つまり100メートル四方の森が1人に1つ必要です。日本の全員ぶんを合わせると、日本の森をすべて足した広さの4倍をこえます。
木が二酸化炭素を多く吸うのは、体をどんどん大きくしている若いうちです。育ちきった森は、吸うぶんと落ち葉や枯れ木から戻るぶんが近づいていきます。また、切った木を燃やしたり腐らせたりすれば、炭素は空気へ戻ります。
まとめ
人が息で出す二酸化炭素は、スギ約26本で釣り合う程度です。しかもそれは、植物から借りた炭素を返しているだけです。一方、電気や燃料で出るぶんは1人あたり約570本ぶんにのぼり、地下に眠っていた炭素を空気へ新しく足しています。数字で比べると、気にするべき場所がはっきり見えてきます。
息は、借りた炭素を返しているだけ。
木が追いつけないのは、地下から出した炭素のほうです。
空気へ出た二酸化炭素のうち、海がどれだけ吸いこみ、その先で何が起きているのかは海は二酸化炭素を吸っている ― では、その先は?で、森の落ち葉がどうやって炭素を空へ返しているかは森の落ち葉は、なぜ積み上がって山にならないの?で解説しています。
- 電気料金の明細を見て、1か月に使った電気の量(キロワット時)を探します。
- 電気1キロワット時あたりの二酸化炭素は、電力会社が毎年公表しています。日本の平均では、およそ0.4〜0.5キログラムとされています。使った量にかけて、1か月ぶんを出します。
- それを12倍して1年ぶんにし、スギ1本の目安の14キログラムで割ります。電気だけで何本ぶんになるか、呼吸の26本と比べてみましょう。
家族の人数で割ると、1人あたりの数字になります。季節によって電気の量が変わるので、夏と冬の明細を比べるのもおすすめです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・地球化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 光合成:植物が光のエネルギーを使い、二酸化炭素と水から糖をつくるはたらき。
- 呼吸:生き物が糖などを酸素で分解してエネルギーを取り出し、二酸化炭素を出すはたらき。植物もしています。
- 炭素循環:炭素が空気・生き物・海・土・地下のあいだを移り変わっていく、地球規模のめぐり。
- 化石燃料:大昔の生き物の遺がいが地下で変化してできた、石炭・石油・天然ガス。
中学高校式で確かめる:必要な木の本数と森の広さ
記号は使わず、目安の値をそのまま当てはめます。単位はキログラム(kg)、本、ヘクタール(ha)です。いずれも条件で大きく変わる目安なので、桁をつかむための計算として見てください。
| 人が1日に吐く二酸化炭素 | 約1kg |
| 育ちざかりのスギ1本が1年に吸う量(目安) | 約14kg |
| 日本のエネルギー由来の排出量(1人あたり1年) | 約8000kg |
| スギ人工林1haが1年に吸う量(推定) | 約8.8トン |
| 日本の人口 | 約1.24億人 |
| 日本の森林面積 | 約0.25億ha |
| 1年に吐く二酸化炭素(kg) | 1 × 365 = 365 |
| 呼吸のぶんに必要なスギ(本) | 365 ÷ 14 ≒ 26 |
| 暮らし全体に必要なスギ(本) | 8000 ÷ 14 ≒ 571 |
| 暮らし全体は呼吸の何倍か | 8000 ÷ 365 ≒ 22 |
| 1人に必要な森の広さ(ha) | 8 ÷ 8.8 ≒ 0.91 |
| 全員ぶんの森の広さ(億ha) | 0.91 × 1.24 ≒ 1.13 |
| 日本の森林の何倍か | 1.13 ÷ 0.25 ≒ 4.5 |
呼吸のぶんは小さな林で足りますが、暮らし全体では、日本の森をすべて使っても4分の1ほどしか受け止められない計算になります。
高校高校+吸った二酸化炭素は、木の重さに換算できる
高校二酸化炭素の分子の重さは44、炭素原子は12です。二酸化炭素14キログラムにふくまれる炭素は、14に12/44をかけて約3.8キログラムです。
高校+乾いた木材は重さの約半分が炭素なので、炭素3.8キログラムは乾いた木材で約7.6キログラムにあたります。これは幹だけでなく、枝・葉・根まで合わせた増え方の目安です。実際には葉や根の一部は毎年入れかわるため、幹に残るぶんはこれより少なくなります。
大学「総生産」と「正味の吸収」は別の数字
生態学では、植物が光合成で取りこむ量を総一次生産、そこから植物自身の呼吸を引いた量を純一次生産と呼びます。森全体の正味の吸収は、さらに落ち葉や土の生き物の呼吸(従属栄養呼吸)を引いた純生態系生産で考えます。「木1本が吸う量」という目安は、ふつう幹の成長量などから逆算した値で、どの段階の数字かによって大きさが変わります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 森はいつまで吸い続けるのか。育ちきった古い森でも正味で吸い続けているという観測もあり、どこまで一般化できるかは議論が続いています。
- 二酸化炭素が増えると木はよく育つのか。濃度が上がると光合成が進む効果が知られていますが、土の栄養や水が足りなくなると頭打ちになるとされ、長期の大きさははっきりしていません。
- 土の中の炭素はどう動くのか。森の炭素は木よりも土に多くたまっているとされますが、温暖化で土の分解が速まると放出が増える可能性があり、見積もりの幅が大きい分野です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。木の本数はあくまで桁をつかむための目安で、森ができること・できないことを考える入り口として使ってください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2分野「植物のからだのはたらき」「自然界のつり合い」 | 光合成と呼吸、炭素のめぐり(図2) |
| 高校 | 化学基礎「物質量」/生物基礎「生態系と物質循環」 | 分子の重さによる炭素の換算 |
| 高校+ | 生物「生態系のエネルギーの流れ」 | 木材の重さへの換算 |
| 大学 | 生態学・地球化学 | 総一次生産と純生態系生産のちがい |
| 研究 | 森林の炭素収支の観測 | 古い森の吸収・土の炭素 |
| ― | 生活とのつながり | 電気料金の明細から、自分の排出量を木の本数に直す |
- 林野庁「森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?」(スギ人工林の吸収量の推定)
- 国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス(日本の温室効果ガス排出量データ)
- IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会(第5章 炭素循環)
- NASA, Life Support Baseline Values and Assumptions Document(1人あたりの二酸化炭素排出量の設計値)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、木の種類・年齢・手入れの状態や統計の取り方によって大きく変わります。