自然のふしぎ 天文・宇宙 予備知識なしでOK 読了 約6分

金星は水星より太陽から遠いのに、
なぜ水星より熱いの?

太陽系でいちばん熱い惑星は、太陽にいちばん近い水星ではありません。その外側をまわる金星です。金星の地表は、昼でも夜でも約460℃とされています。決め手は太陽との距離ではなく、星をくるむ「空気の毛布」の厚さでした。

公開:2026.09.14 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夕方の西の空に、ひときわ明るく光る星があります。「宵の明星」と呼ばれる金星です。月を除けば、夜空でいちばん明るい天体です。

やさしく光るその星の地面は、鉛がどろどろに溶けるほど熱いとされています。しかも、太陽にもっと近い水星よりも熱いのです。

ストーブに近いほど暖かい、というのが私たちの感覚です。宇宙では、なぜその順番が逆転するのでしょうか。

理由は2つだけ

1
分厚い二酸化炭素が、熱を外へ逃がさない

金星の空気はほとんどが二酸化炭素で、量は地球の空気の約90倍とされています。地面から出ていく熱を途中で受け止め、地面へ返してしまいます。

2
濃い空気が、夜の側にも熱を配る

水星には空気がほとんどなく、夜になると熱が宇宙へ逃げて約−180℃まで冷えます。金星では濃い空気が熱を運び、夜の側も冷えません。

じつは、金星が受け取っている太陽の熱は、地球より少ないくらいです。それでも熱いのは、入ってきた熱が「出ていけない」からです。順番に見ていきましょう。

太陽の光は、水星のほうが3倍以上強い

光の強さは、太陽からの距離が半分になると4倍になります。図1を見てください。地球に届く光を1とすると、金星には約1.9倍、水星には約6.6倍の光が届きます。

ところが、金星は全体が真っ白な厚い雲におおわれています。この雲が、届いた光の約4分の3をはね返すとされています。地面まで届いて熱になるぶんは、ずっと少なくなります。宵の明星がまぶしく光るのは、この雲が光をよく返しているからです。

太陽 太陽から遠い → 水星 届く光 約6.6倍 昼 約430℃ 夜 約−180℃ 空気がほぼない 金星 届く光 約1.9倍 昼も夜も 約460℃ 厚い雲と 二酸化炭素の大気 地球 届く光 1倍 平均 約15℃ ※ 天体の大きさと距離は正しい比率ではありません
図1:左端の太陽から近い順に、水星・金星・地球を並べた図。水星がいちばん強い光を受けているのに、いちばん熱いのは真ん中の金星です。水星は昼と夜で600℃以上の差がありますが、金星は昼夜の差がほとんどありません。

熱の出口を、二酸化炭素がふさいでいる

温まった地面は、目に見えない赤外線という形で熱を外へ出しています。地球でも毎晩、この赤外線が宇宙へ抜けていくので、夜は気温が下がります。

二酸化炭素には、この赤外線を受け止めて、あらゆる向きへ出し直す性質があります。一部は地面へ戻ってきます。金星の空気は、この性質をもつ気体が地球の数十万倍もあるような状態です。熱は何度も地面へ押し返され、宇宙へ出ていくまでに、地面はどんどん温度を上げていきます。図2の右側がそのようすです。

地面の温度が上がるほど、出ていく赤外線は強くなります。やがて「出ていく熱」と「入ってくる熱」が釣り合ったところで温度が落ち着きます。金星では、その釣り合いの温度が約460℃だった、というわけです。

水星:出口が開いている 金星:出口がふさがれている 地面 太陽の光 熱(赤外線)は宇宙へ 夜は約−180℃まで冷える 厚い雲(光の約4分の3をはね返す) 一部は地面まで届く 二酸化炭素の厚い層 地面 約460℃ 上向きの熱が、点線の矢印で地面へ戻される
図2:左の水星では、地面から出る熱(波線の矢印)がそのまま宇宙へ抜けます。右の金星では、上の厚い雲が太陽の光の多くをはね返しますが、地面から出る熱は二酸化炭素の層に受け止められ、点線の矢印のように地面へ押し返されます。

夜になっても、なぜ冷えないの?

金星はとてもゆっくり自転していて、1回転するのに地球の243日かかります。昼と夜がそれぞれ何十日も続くので、本来なら夜の側はひどく冷えるはずです。

ところが、金星の地面の空気の重さは、地球の約90倍とされています。これは地球の海で、水深900メートルほどに潜ったときに受ける圧力に近い値です。これほど濃い空気は、たくさんの熱をたくわえて運べます。上空では、自転よりはるかに速い風が星をぐるりと回っています。こうして熱が昼の側から夜の側、赤道から極へと配られ、どこでもほぼ同じ温度になります。

水星の昼の側は約430℃と、金星に近い温度まで上がります。しかし熱をためておく空気がないので、夜の側は約−180℃です。星の「平均」で比べると、金星は水星よりずっと熱いのです。

💡 金星に降りた探査機は、2時間ほどしかもたなかった

旧ソ連は1970年代から80年代にかけて、ベネラという探査機を何機も金星の地表に着陸させました。どの機体も熱と圧力に耐えられず、長くても2時間ほどで通信が途絶えたとされています。それでも、送られてきた写真で、金星の地面が岩におおわれていることがわかりました。

💡 地球の二酸化炭素は、どこへ行ったの?

地球にも、金星の大気に負けないくらいの量の炭素があるとされています。ただし、その多くは海に溶けて、石灰岩などの岩の中に閉じこめられています。液体の海があったかどうかが、2つの星の運命を分けたと考えられています。

まとめ

金星がいちばん熱いのは、太陽に近いからではありません。受け取る熱はむしろ少ないのに、分厚い二酸化炭素が熱の出口をふさぎ、濃い空気が夜の側にまで熱を配っているからです。星の温度は、入ってくる熱と出ていく熱の釣り合いで決まります。

熱い星をつくるのは、熱の「入口」よりも「出口」。
金星は、出口をふさがれた星です。

二酸化炭素が、ほんのわずかな量でも赤外線を受け止めて地球の気温を左右するしくみは空気の0.04%しかない二酸化炭素で、なぜ気温が変わるの?で扱っています。温度と圧力がそろってけた外れになる場所の話は地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、なぜ溶けていないの?にあります。

🧪 自分で確かめてみよう
  1. 夕方の西の空か、明け方の東の空で、金星を探してみましょう。見える時期は数か月ごとに変わるので、国立天文台の「ほしぞら情報」などで確かめてから探すと見つけやすくなります。星の中でとびぬけて明るく、またたきが少ないのが目じるしです。
  2. よく晴れた夜と、雲におおわれた夜で、翌朝の最低気温を天気予報の記録で比べてみましょう。雲が地面の熱を受け止めて返すので、曇りの夜のほうが冷えにくい傾向があります。金星で起きていることの、ごく小さな版です。
  3. 明け方に、屋根のある駐車場の車と、屋根のない場所の車の窓を見比べてみましょう。空に向かって熱を逃がしやすい、屋根のない場所の車のほうが、霜や結露がつきやすいはずです。

金星は、太陽のすぐ近くに見えることがあります。望遠鏡や双眼鏡で太陽を絶対に見ないでください。目を痛めます。日が沈んでから探しましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(惑星科学・大気放射学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:金星が受け取る熱は、本当に地球より少ない?

光の強さは距離の2乗に反比例します。距離は地球と太陽の距離を1とした値で、光の強さは地球に届く光を1とした値です。まず届く光を比べ、次に雲がはね返すぶんを差し引きます。

① もとになる数値
金星の太陽からの距離(地球を1とする)約0.72
水星の太陽からの距離(地球を1とする)約0.39
金星が吸収する光の割合(はね返す約0.75の残り)約0.25
地球が吸収する光の割合(はね返す約0.3の残り)約0.7
金星の地表の気圧(地球を1とする)約92
水深10メートルごとに増える圧力(地球の気圧を1とする)約1
② 計算してみる
金星の距離の2乗0.72 × 0.72 = 0.5184
金星に届く光(地球の何倍か)1 ÷ 0.5184 ≒ 1.93
水星の距離の2乗0.39 × 0.39 = 0.1521
水星に届く光(地球の何倍か)1 ÷ 0.1521 ≒ 6.57
金星が実際に吸収する光1.93 × 0.25 ≒ 0.48
地球が実際に吸収する光1 × 0.7 = 0.7
金星の気圧を水深に直す(メートル)92 × 10 = 920

金星に届く光は地球の約2倍ですが、雲がはね返すため、実際に吸収しているのは地球の約7割です。受け取る熱が地球より少ない星が約460℃になるのは、出ていく側がふさがれているからだ、と計算からも確かめられます。気圧は水深約900メートルに相当します。

高校高校+「入口」と「出口」の釣り合いで温度が決まる

高校天体の温度は、吸収する太陽の光のエネルギーと、宇宙へ放出する赤外線のエネルギーが等しくなるところで落ち着きます。温度の高い物体ほど強い赤外線を出すので、放出を妨げるものがあると、釣り合うまで温度が上がります。

高校+大気がなかったと仮定して金星の釣り合いの温度を見積もると、雲の反射が大きいため、およそ−40℃前後になるとされています。実際の地表は約460℃なので、大気の働きで500℃ほども押し上げられている計算です。地球では同じ見積もりが約−18℃、実際が約15℃で、差は30℃ほどです。

大学宇宙へ熱が出ていく「高さ」が上がる

厚い大気では、地面から出た赤外線は何度も吸収と再放出をくり返し、最終的に宇宙へ抜けるのは大気の上のほうからになります。この「放射の出口の高さ」の温度が、吸収量と釣り合う温度に固定されます。そこから地面までは高さとともに温度が上がる(気温減率)ので、出口が高いほど地表は熱くなります。金星では、二酸化炭素に加えて硫酸の雲や微量の水蒸気が、赤外線の抜け道となる波長の「すき間」までふさいでいるとされています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。金星をめざす新しい探査計画がいくつも進んでおり、今後くわしいことがわかってくると考えられています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・太陽系と惑星水星・金星・地球の並びと、金星の見え方
高校地学・地球のエネルギー収支入ってくる熱と出ていく熱の釣り合い、温室効果
高校+地学・惑星の大気大気がない場合の釣り合いの温度との比較
大学惑星科学・大気放射学放射の出口の高さと気温減率
研究惑星探査過去の海、スーパーローテーション、火山活動
生活とのつながり曇りの夜が冷えにくい理由、地球の気候を考える手がかり
参考・出典
  1. NASA Science「Venus」
  2. NASA Science「Mercury」
  3. 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所「金星探査機あかつき」関連資料
  4. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(惑星の軌道・物理量)
  5. 松田佳久『惑星気象学入門 ― 金星に吹く風の謎』岩波書店

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。惑星の温度や気圧は観測や資料によって多少異なります。天体観察の際は、太陽を直接見ないようにし、夜間の外出では足もとや周囲の安全に気をつけてください。