自然のふしぎ 地球科学 予備知識なしでOK 読了 約6分

海の水がいちばん温かいのは、
なぜ8月ではなく9月なの?

日ざしが最も強いのは6月の夏至のころです。気温の山は、それより遅れて8月の初めに来ます。そして海の水温の山は、さらに遅れて8月の終わりから9月にずれ込みます。海は、夏の熱を少しずつ、深いところまでためこんでいるからです。

公開:2026.09.13 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

お盆を過ぎた9月の海辺。海水浴場はもう閉まり、風には少し秋の気配があります。

ところが足を海に入れてみると、7月に来たときより、むしろ水がぬるく感じます。

反対に、よく晴れた5月の連休に海へ入ると、空気は暖かいのに水は驚くほど冷たい。海の季節は、陸よりずっと遅れて進んでいるように見えます。

海の季節が遅れる理由は、2つだけ

1
海は、とにかく温まりにくい

水は、同じ重さの空気や土よりずっと多くの熱を吸わないと温度が上がりません。しかも海では、風と波が表面の水を深くまでかき混ぜます。温めるべき水の量が、けた違いに多いのです。

2
「入る熱」が「出る熱」より多いあいだは、温まり続ける

6月を過ぎて日ざしが弱まり始めても、海が受け取る熱は、まだ逃げていく熱より多いままです。差し引きがゼロになる日まで、水温は上がり続けます。その日が、8月の終わりから9月ごろに来ます。

2つは別々の話ではありません。温まりにくい海ほど、「入る」と「出る」の差し引きがゼロになる日が遅くなります。順に見ていきましょう。

日ざし・気温・海の水温は、山の位置がずれている

図1を見てください。日本付近の1年を、横に1月から12月まで並べた模式図です。

いちばん上の実線の山が日ざしの強さで、6月の夏至のころに頂点があります。まん中の破線が気温で、山は8月の初めです。いちばん下の点線が海面の水温で、山はさらに右へずれて、8月の終わりから9月の初めに来ます。

日本の沿岸では、海面の水温が最も高くなるのは8月下旬から9月ごろとされています。暦の上では秋でも、海の中はまだ夏のまっ盛りなのです。

1月2月3月 4月5月6月 7月8月9月 10月11月12月 高さは「形」だけを示す模式図(3本の目盛りは共通ではありません) 日ざしの山(夏至) 気温の山(8月初め) 海面水温の山(8月末〜9月) 実線:日ざし 破線:気温 点線:海面水温 5月:空気は暖かいのに海は冷たい
図1:1年間の変化を重ねた模式図。上の実線(日ざし)の山は6月、まん中の破線(気温)の山は8月初め、下の点線(海面水温)の山は8月末〜9月と、右へ行くほど頂点が遅れます。丸印がそれぞれの頂点です。

理由1:海は、深いところまでまとめて温めなければならない

水は、温まりにくい物質の代表です。同じ重さの水と空気を1℃上げるには、水のほうが約4倍の熱を必要とします。

さらに大きいのは、温める「量」の違いです。陸の地面では、夏の日ざしで温まるのは表面の浅い層だけです。熱は土の中をゆっくりとしか伝わりません。

海では、風が水面をこすり、波が水をかき回します。そのため夏でも、表面から数十メートルほどの水がひとまとまりに混ざり合います。図2の右側のように、日ざしの熱はこの厚い層全体に配られます。

左:陸の地面 右:海 温まるのは表面のうすい層だけ 土の中へは熱がゆっくりしか伝わらない 下はほとんど季節の影響を受けない 波と風でかき混ぜられ 数十mがまとめて温まる その下の冷たい水
図2:陸と海の温まり方の比較。左の陸では、上からの矢印(日ざし)の熱が地面の表面にとどまります。右の海では、渦の矢印のように風と波が水をかき混ぜ、明るい上の層(数十m)全体に熱が配られます。

計算してみると、厚さ20メートルの海水を温めるのに要る熱は、その上に乗っている空気全部を温める熱の約8倍になります。これだけの量を日ざしで温めるので、海の温度はゆっくりとしか上がりません。

理由2:お風呂にお湯を足しているあいだは、水位は上がり続ける

蛇口からお湯を入れながら、栓を少しゆるめたお風呂を考えてください。蛇口をしぼり始めても、入る量が抜ける量より多いうちは、水位は上がり続けます。水位が最も高くなるのは、入る量と抜ける量がつり合った瞬間です。

海の熱も同じです。「蛇口」は日ざしで、「栓」は海面から空気へ逃げる熱や、水が蒸発するときに奪われる熱です。日ざしは6月を過ぎると弱まりますが、7月、8月もまだ逃げる熱を上回っています。

海は温まりにくいぶん、水温がなかなか上がりません。水温が低いうちは逃げる熱も少ないので、つり合う日がさらに後ろへずれます。こうして、海の水温の山は9月ごろまで遅れるのです。

💡 春の海が冷たいのも、同じしくみです

冬のあいだに冷えきった厚い水の層は、春の日ざしではなかなか温まりません。そのため、海面の水温が最も低くなるのは2月から3月ごろとされています。5月の海が冷たく、9月の海がぬるいのは、1つの現象の表と裏です。

💡 秋の台風が勢力を保ちやすいのは

台風は、温かい海から立ちのぼる水蒸気をエネルギー源にしています。9月の日本近海は1年でいちばん温かい時期にあたるため、近づいてきた台風が弱まりにくいと考えられています。

まとめ

海は水そのものが温まりにくいうえ、風と波で深くまで混ぜられるため、温めるべき量がとても多くなります。そして、受け取る熱が逃げる熱を上回っているあいだは、日ざしが弱まっても温まり続けます。その2つが重なって、海の水温の山は8月の終わりから9月にずれ込みます。

海は、夏の日ざしを
ひと月以上かけてためこんでいる。

海と陸の温まり方の違いは、海辺の風が昼と夜で向きを変える理由にもつながっています。そもそもなぜ夏と冬があるのかは、季節が生まれるしくみで解説しています。秋に水が深くまで混ざる別の例として、湖の水が秋に入れかわる話もあわせてどうぞ。

🧪 自分で確かめてみよう
  1. 気象庁の「海面水温」の情報や、近くの海水浴場・漁協が出している水温の記録を探し、月ごとの値を書き出します。
  2. 同じ場所の近くの月平均気温も並べて書き、どちらの山が何月に来ているかを比べます。
  3. 家では、同じ大きさのコップに水と砂を入れて日なたに30分置き、指で温まり方を比べてみましょう。水は表面をかき混ぜると、さらに温まり方がゆっくりになります。

海に入って確かめる場合は、遊泳できる場所と時間を守り、ひとりで入らないようにしてください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「地学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(海洋物理学・気候学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:海を5℃温めるのに何日かかる?

海面1平方メートルの下にある、厚さ20メートルの水の柱を考えます。単位は、熱がジュール(J)、時間が秒です。表面から受け取る正味の熱は、夏の目安として仮に置いた値です。

① もとになる数値
かき混ぜられる層の厚さ(夏の目安)20 m
水1立方メートルの重さ(目安)1000 kg
水1kgを1℃上げる熱約4200 J
海が1秒に受け取る正味の熱(仮定)150 J
空気の柱全体を1℃上げる熱(1平方メートルあたり)約10000000 J とされる
② 計算してみる
水の柱の重さ20 × 1000 = 20000 kg
1℃上げる熱20000 × 4200 = 84000000 J
空気の柱全体との比84000000 ÷ 10000000 = 8.4 倍
5℃上げる熱84000000 × 5 = 420000000 J
かかる秒数420000000 ÷ 150 = 2800000 秒
日数に直す2800000 ÷ 86400 ≒ 32 日

水温を5℃上げるだけで、およそ1か月かかる計算です。実際には夜や曇りの日に熱が逃げるので、さらに時間がかかります。海の季節が陸より1か月以上遅れても不思議ではないことが分かります。

高校高校+熱の出入りのつり合いで考える

高校温度の変化の速さは、「入る熱と出る熱の差」を「熱の容量(重さ×比熱)」で割ったものになります。差がプラスなら温度は上がり、ゼロで頂点、マイナスで下がります。頂点は日ざしの頂点ではなく、差がゼロになる時点に来ます。

高校+出る熱は水温が高いほど増えます。熱の容量が大きいと水温の変化がゆっくりなので、出る熱が追いつく時期も遅れます。日ざしを1年周期の波と見なすと、水温の波は同じ周期のまま、容量が大きいほど後ろへずれ、振れ幅は小さくなります。

大学混合層の深さは季節で変わる

海洋物理学では、表面の混合層の深さが季節の遅れを大きく左右すると考えます。夏は表面が温まって軽くなり、下の冷たい水と混ざりにくくなるため、混合層は浅くなります。秋から冬は表面が冷えて重くなり、沈み込みで深くまで混ざります。こうして冬に深くたまった冷たさが、春の海の冷たさとして残ります。場所によっては、黒潮のような海流が運ぶ熱の影響も加わります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。図1の曲線はしくみを示す模式図で、実際の水温の変化は場所と年によって異なります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・天気とその変化/季節の変化日ざしの強さと季節、水と陸の温まり方の違い
高校物理基礎・熱/地学基礎・海洋比熱と熱量の計算、海の表層の構造
高校+物理・熱の出入りのつり合い頂点が差し引きゼロの時点に来る理由
大学海洋物理学・気候学混合層の季節変化と熱の蓄え
研究海洋観測・気候変動研究混合層の予測、水温の山の時期の変化
生活とのつながり海水浴・釣りの時期、秋の台風、春の海の冷たさ
参考・出典
  1. 気象庁「海洋の健康診断表」海面水温に関する解説
  2. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(水の比熱、大気の質量など)
  3. 近藤純正『身近な気象の科学 ― 熱エネルギーの流れ』東京大学出版会
  4. L. D. Talley ほか『Descriptive Physical Oceanography: An Introduction』Elsevier(混合層の季節変化)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。水温は場所・年・天候によって大きく異なります。海に入る際は、現地の案内や自治体等の指示に従ってください。