森の落ち葉は、なぜ積み上がって山にならないの?
― 消えているのではなく、大半は気体になって空へもどっています
森は毎年、同じくらいの量の葉を落とします。何十年も、何百年も。それなのに落ち葉の層は、たいてい足首にも届きません。葉はどこへ行ったのでしょうか。答えは「土になった」だけでは足りません。落ち葉の重さのほとんどは、目に見えない気体になって空気へ帰っています。
秋の雑木林を歩くと、足もとでかさかさと音がします。見あげれば、葉はまだどんどん落ちてきます。この森は、去年もおととしも、同じことをくり返してきたはずです。
もし落ち葉がそのまま残るなら、100年ぶんの葉は人の背たけを超えるはずです。でも実際に足で探ってみると、かさかさした層はせいぜい数センチ。その下は、しっとりと黒い土になっています。
つまり森の床では、落ちてくる速さとほぼ同じ速さで、葉が「かたづけられて」いるのです。
理由は、大きく2つです
まずミミズやダンゴムシ、トビムシといった小さな動物が葉をかみ砕きます。細かくなった葉には、カビやきのこの仲間(菌類)が糸をのばして入りこみ、最後は細菌が残りをほどきます。バトンリレーのように役割が分かれています。
葉の乾いた重さのおよそ半分は炭素です。生き物が葉を分解するとき、その炭素は二酸化炭素として吐き出されます。水も蒸発します。重さが消えたように見えるのは、気体になって空気へ移ったからです。
この2つは別々の話ではありません。1が「ほどく生き物」の話で、2が「その結果、重さがどこへ行ったか」の話です。順番に見ていきましょう。
だれが葉をかたづけているのか
落ち葉をいきなり細菌が分解するのは、じつは苦手です。葉の表面はろうでおおわれ、内側はかたい繊維で編まれています。そこでまず、目に見える大きさの土の生き物が働きます。
ミミズは落ち葉を土の中へ引きこんで食べます。ダンゴムシやヤスデ、体長1ミリほどのトビムシは、葉をかじって細かい粒に変えます。かみ砕かれた葉は、表面の面積が何十倍にも増えます。これが次の担当者への「下ごしらえ」になります。
次に登場するのが菌類です。落ち葉をめくると、白い糸が網のように張っていることがあります。あれが菌糸です。菌類は、細菌には手に負えないかたい成分(リグニン)もゆっくりほどける、数少ない生き物とされています。図1に、この受けわたしの流れをまとめました。
「消えた重さ」はどこへ行ったのか
ここが、この話のいちばん意外なところです。葉は土になった、と言われると、私たちは葉がそのまま黒い土に変身したように想像します。しかし実際に土として残るのは、ほんの一部です。
葉を乾かした重さの、およそ半分は炭素だとされています。分解する生き物にとって、その炭素は食べ物であり、燃料でもあります。生き物は炭素を体の中で酸素と結びつけ、エネルギーを取り出して、二酸化炭素として吐き出します。私たちが呼吸するのと同じことです。
つまり森の床は、静かに「呼吸」しています。落ち葉の山ができない最大の理由は、片づけられているからではなく、重さそのものが気体に変わって、その場から立ち去っているからです。
残った一部は、こまかくほどけたまま土の粒とからみあい、黒っぽい腐植になります。森の土が黒いのは、この積み重ねです。ただし腐植ができる速さは、葉が消えていく速さよりずっとゆっくりです。
寒い土地や、水につかった湿地では、分解する生き物の働きがにぶくなります。すると落ちた植物が分解されずに積もり続け、泥炭と呼ばれる層になります。石炭のもとになったのも、こうして分解をまぬがれた植物だと考えられています。
やわらかいサクラやケヤキの葉は1年ほどで形をなくしますが、厚くてかたいマツの葉やカシの葉は、数年かかることもあります。針葉樹の林の床に落ち葉がぶあつくたまりがちなのは、このためだとされています。
まとめ
森の落ち葉が山にならないのは、土の生き物が順番に葉をほどき、その炭素を二酸化炭素として空気へ返しているからです。落ちる速さと分解される速さがつり合うところで、落ち葉の層の厚さは落ち着きます。土として残るのは、そのごく一部です。
森の床は、葉を片づけているのではありません。
葉を、空気にもどしているのです。
木がわざわざ葉を切り離して落とすしくみは木の葉は、なぜ秋になると落ちるの?で、放たれた二酸化炭素が地球ぜんたいでどう巡るのかは海は二酸化炭素を吸っている ― では、その先は?で扱っています。
- 公園や林で、落ち葉を10枚ひろいます。乾いたものを選び、洗濯ネットなど目のあらい袋に入れます。
- 袋ごと、落ち葉の下に浅く埋め、場所がわかるように印をつけます(他人の土地や管理された花壇は避けてください)。
- 3か月後と半年後に掘り出し、葉が何枚残っているか、穴だらけになっていないかを見ます。網目から出入りできる生き物が働いた証拠です。
落ち葉の層に手をつっこんで、上のかさかさした層と、下のしっとりした黒い層の境目を指で探すだけでも、分解が進んだ順番が分かります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(土壌学・生態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 分解者:生き物の死がいや落ち葉を無機物にもどす役目の生き物。菌類と細菌が中心で、ミミズなどの土の動物も助けます。
- 落葉層:地面に落ちた葉や枝が積もってできた層のこと。森の床の、いちばん上の部分です。
- 腐植:分解しきらずに残り、土の粒とからみあった黒っぽい有機物。土が水と養分をたくわえる力を支えています。
- リグニン:植物のかたさを作っている成分。分解されにくく、菌類の一部だけがほどけるとされています。
中学高校式で確かめる:落ち葉の層は、なぜ数センチで止まるのか
落ちる量と、分解に必要な年数が分かれば、地面に残る落ち葉の厚さはおよその見当がつきます。使う記号は言葉のまま書きます。単位は、重さがグラム、面積が平方メートル、長さがセンチメートルです。ここでは温帯の広葉樹林を想定した、しくみを見るための概算です。
| 1年に落ちる葉の量(温帯林の目安) | およそ 350 g(1平方メートルあたり) |
| 落ち葉1枚の乾いた重さ | およそ 0.5 g |
| 葉がほぼ分解されるまでの年数 | およそ 2年 |
| ふんわり積もった落ち葉のかさ密度 | およそ 0.02 g(1立方センチメートルあたり) |
| 1平方メートルに1年で落ちる葉の枚数 | 350 ÷ 0.5 = 700 |
| つねに地面にある落ち葉の重さ(2年ぶん) | 350 × 2 = 700 |
| その体積(立方センチメートル) | 700 ÷ 0.02 = 35000 |
| 厚さに直す(1平方メートルは1万平方センチメートル) | 35000 ÷ 10000 = 3.5 |
落ち葉の層は、およそ3.5センチに落ち着く計算になります。雑木林で足の裏に感じる厚みと、だいたい合っています。分解に5年かかる林なら層はもっと厚くなり、逆に分解が速い暖かい林では、地面がほとんど見えることもあります。
高校高校+なぜ窒素の量が、分解の速さを決めるのか
高校分解する生き物も、体を作るためには炭素だけでなく窒素が要ります。ところが落ち葉は炭素にくらべて窒素がとぼしく、その比が大きいほど分解は遅くなるとされています。
高校+木は葉を落とす前に、窒素やリンを枝へ回収します。つまり落ち葉は、あらかじめ栄養が抜かれた状態で地面に届きます。分解する生き物にとっては、栄養の少ない食事から始まることになります。
大学落ち葉は「消える」のではなく、二段階で減る
土壌生態学では、落ち葉の重さの減りかたを、はじめの速い段階と、あとの遅い段階に分けて考えます。前半は糖やたんぱく質など水に溶けやすい成分が短い期間で使われ、後半はリグニンを多く含む残りが、時間をかけてゆっくり減っていきます。同じ落ち葉でも、前半と後半では働いている生き物の顔ぶれが変わります。土の中で今どんな生き物が活動しているかは、遺伝子を直接読み取る手法で調べられるようになってきました。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 腐植はなぜ長く残るのか。 かつては「分解されにくい特別な分子ができる」と説明されてきましたが、近年は「土の粒に守られて分解者が近づけないだけ」という見方が強まっています。決着はついていません。
- 気温が上がると、土は炭素を出すのか、ためるのか。 温度が上がれば分解は速まりますが、植物の育ちかたも変わります。差し引きで土の炭素が増えるか減るかは、研究者のあいだで評価が分かれています。
- 木の根と共生する菌の役割。 その菌が落ち葉の分解を助けるのか、逆にほかの分解者と競い合って遅らせるのか。近年注目されていますが、まだ答えが出ていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。足もとの土は、地球でもっとも身近で、もっとも分かっていない場所のひとつです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・生物と環境(生産者、消費者、分解者) | 「だれが葉をかたづけているのか」 |
| 高校 | 生物基礎・生態系と物質の循環 | 「消えた重さはどこへ行ったのか」 |
| 高校+ | 生物・炭素と窒素の比が分解に与える影響 | 窒素の量の節 |
| 大学 | 土壌学・土壌生態学 | 二段階で減る話 |
| 研究 | 土の炭素がなぜ残るのか、温暖化の予測 | まだわかっていないこと |
| ― | 生活とのつながり | 庭の落ち葉を集めて作る腐葉土、畑の土づくり |
- 森林研究・整備機構 森林総合研究所(森林の炭素の巡りと土壌に関する研究情報)
- 日本土壌肥料学会 編『土壌サイエンス入門』(土壌有機物と分解過程の基礎)
- 武田博清『土壌動物の生態学』(落葉の分解における土壌動物の役割)
- Schmidt et al., Persistence of soil organic matter as an ecosystem property, Nature 478 (2011)(腐植が長く残る理由の見直しを論じた総説)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。落葉の量や分解の速さは、林の種類・気候・土地によって大きく変わります。観察は、他人の土地や管理された樹木・花壇を傷つけない範囲で行ってください。