日常のふしぎ 力学 予備知識なしでOK 読了 約6分

ブランコは、誰にも押されていないのに、
なぜこぐだけで高く上がるの?

地面をけっていないのに、ブランコはこぐたびに高くなります。エネルギーを足しているのは、あなた自身の「体の上げ下げ」です。いちばん下で立ち、端でしゃがむ。この順番が、揺れに少しずつ力を注ぎこんでいます。

公開:2026.09.15 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

公園のブランコに子どもが乗っています。最初は誰かに背中を押してもらっていました。

やがて「もういいよ」と言って、自分でこぎはじめます。足は地面にとどかず、空中でひざを曲げたりのばしたりしているだけです。

それなのに、揺れはどんどん大きくなります。「押す人がいないのに、どこから力が来ているの?」と聞かれたら、あなたは答えられるでしょうか。

理由は2つだけ

1
いちばん下では、体が重くなっている

揺れのいちばん下を通るとき、おしりは座面に強く押しつけられます。そこで立ち上がると、ふだんより大きな力が必要です。その「よけいな頑張り」が、揺れのエネルギーに変わります。

2
端では体が軽く、しゃがんでも損が少ない

揺れの端では、ブランコが一瞬止まり、体がふわっと軽くなります。そこでしゃがんでも、返ってくるエネルギーは少しだけです。重いときに上げ、軽いときに下ろす。この差が積み重なります。

つまり、ブランコをこぐのは「重い荷物を持ち上げて、軽くなってから下ろす」ことのくり返しです。持ち上げる仕事のほうが大きいので、その差のぶんだけ揺れが育ちます。

立ちこぎ:重心が「内側を通り、外側で折り返す」

体の重さの中心を重心といいます。立つと重心はつり手の支点に近づき、しゃがむと遠ざかります。図1は、立ちこぎをする人の重心の通り道です。

いちばん下では、ブランコは円を描いて曲がっています。曲がりながら進むものは、外側へ押しつけられるように感じます。ですから下では、体重に「押しつけ」が上乗せされています。

ここで立ち上がると、もう1つ良いことが起きます。フィギュアスケートの選手が腕を縮めると回転が速くなるのと同じで、支点に近づいた体は速くなります。速くなったぶん、次の端ではより高くまで上がります。

支点 いちばん下で立つ (重心が支点に近づく) 左の端でしゃがむ (重心が遠ざかる) 右の端でしゃがむ (重心が遠ざかる) いちばん下:おしりが強く押される(体が重い)→ 立つのに大きな力がいる 左右の端:一瞬止まって体が軽い → しゃがんでも返ってくる力は少ない
図1:立ちこぎの重心の通り道。太い点線が重心、細い点線が座面の通り道です。いちばん下で立ち(上向きの矢印)、左右の端でしゃがむ(下向きの矢印)ので、重心は下で内側を通り、端で外側へ出ます。

座りこぎは、別のしくみで揺れを作っている

座ったままのこぎ方は、しくみが少し違います。後ろの端で体をのけぞらせ、足を前へのばします。前の端では体を起こし、足を引きます。

体を後ろへ倒すとき、手はチェーンを引っぱります。その反動で、座面が前へ押し出されます。自分の体を使って、自分の背中を押しているのに近い動きです。

図2は、2つのこぎ方のタイミングを比べたものです。左の立ちこぎは1往復に2回立ちます。右の座りこぎは1往復に1回ずつ、のけぞりと起き上がりをします。

左:立ちこぎ 右:座りこぎ 上=前の端 上=前の端 立つ しゃがむ 立つ しゃがむ 立つ 体を起こし足を引く のけぞり足を前へ 1往復で2回(揺れの2倍の速さ) 1往復で1回(揺れと同じ速さ)
図2:こぎ方のタイミングの比較。どちらも曲線はブランコの位置で、上の山が前の端、下の谷が後ろの端です。左の立ちこぎは、線が真ん中を横切るたび(丸い印)に立ちます。右の座りこぎは、谷(丸い印)でのけぞり、山(四角い印)で体を起こします。
💡 止まったブランコは、立ちこぎだけでは動き出さない

揺れていないブランコの上で立ったりしゃがんだりしても、ほとんど揺れません。「下では重く、端では軽い」という差は、揺れているときにしか生まれないからです。立ちこぎの前に、座ってこぐか、地面をけって少し揺らしておくのはこのためです。

💡 立つタイミングを間違えると、揺れは小さくなる

わざと端で立ち、いちばん下でしゃがんでみてください。今度は「軽いときに上げ、重いときに下ろす」ことになり、揺れがだんだん弱まります。同じ動きでも、タイミングだけで足し算にも引き算にもなります。

まとめ

ブランコをこいで高く上がれるのは、揺れのいちばん下で体を持ち上げ、端で下ろしているからです。下では体が重く、端では軽いので、持ち上げる仕事のほうが大きくなります。その差が、1回ごとに揺れのエネルギーとして積み重なります。座りこぎは、体をのけぞらせる反動で座面を押す、別の方法です。

押してくれる人がいなくても、
重いときに上げ、軽いときに下ろせば、揺れは育つ。

誰かに背中を押してもらうときの「タイミングの合わせ方」は、橋やビルは、なぜ風で揺れても壊れないの?で解説しています。体の形を変えて動きを操るという点では、猫はなぜ、いつも足から着地できるの?も同じ仲間の話です。

🧪 公園や家で確かめてみよう
  1. ブランコを少し揺らしてから、いちばん下で立ち、端でしゃがむ動きを10往復ほど続けます。揺れが大きくなるのを確かめましょう。
  2. 次に、わざと端で立ち、いちばん下でしゃがんでみます。揺れが小さくなっていくはずです。
  3. 家でもできます。糸の先に5円玉を結んで振り子にし、上の端を指でつまみます。振り子が下を通るたびに糸を少し引き上げ、端で少しゆるめると、揺れが大きくなります。

ブランコでは、手はいつもチェーンをしっかり握ったまま行いましょう。まわりに人がいないことも確かめてください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・振動論)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:いちばん下で立つと、どれだけ高く上がるようになるか

支点から重心までの長さが、しゃがんだとき2.0メートル、立ったとき1.8メートルだとします。いちばん下を秒速3メートルで通る瞬間に、さっと立ち上がったと考えます。立つ瞬間には、支点のまわりの回転の勢い(角運動量)が保たれるので、速さは長さに反比例して増えるとされています。

① もとになる数値
しゃがんだときの支点から重心までの長さ r12.0 メートル
立ったときの支点から重心までの長さ r21.8 メートル
いちばん下での速さ v秒速 3 メートル
重力加速度 g の2倍19.6 メートル毎秒毎秒
② 計算してみる
しゃがんだまま上がれる高さ(速さの2乗)3 × 3 = 9
その高さ(メートル)9 ÷ 19.6 ≒ 0.46
立ったときの長さの比2.0 ÷ 1.8 ≒ 1.11
立った直後の速さ(秒速メートル)3 × 1.11 ≒ 3.33
速さの2乗3.33 × 3.33 ≒ 11.1
立ってから上がれる高さ(メートル)11.1 ÷ 19.6 ≒ 0.57
上がる高さは何倍になったか0.57 ÷ 0.46 ≒ 1.24

重心を20センチ上げただけで、上がる高さが約1.2倍になりました。これを1往復に2回くり返すので、数往復で揺れは目に見えて大きくなります。ただしこれは、一瞬で立てると仮定した理想の計算です。実際は立つのに時間がかかり、空気やチェーンのきしみでエネルギーも逃げるので、増え方はこれより小さくなります。記号の単位は、長さがメートル、速さが秒速メートルです。

高校高校+「重いとき上げ、軽いとき下ろす」を力で見る

高校いちばん下では、ブランコは円運動をしています。円の中心へ向かう力が必要なので、チェーンが引く力は体重より大きくなります。体重に「質量×速さの2乗÷半径」が上乗せされる、と習います。一方、端では速さがゼロになり、チェーンの引く力は体重より小さくなります。重心を動かす仕事は「力×距離」なので、同じ20センチでも、下で上げる仕事は端で下ろして返る仕事より大きくなります。

高校+揺れ幅が小さいとして、立った直後の揺れの角度を考えます。角度の2乗は、長さの比の3乗倍になるとされています。上の例では長さの比が約1.11なので、角度の2乗は計算上約1.4倍です。端でしゃがんでも角度は変わらないので、この増え方が半往復ごとに重なります。増え方が「いまの揺れ幅に比例する」ため、揺れがゼロなら何も増えません。コラムで触れた「止まったブランコは立ちこぎで動き出さない」のは、このためです。

大学立ちこぎは「パラメトリック共振」、座りこぎは「強制振動」に近い

振り子の長さを周期的に変える運動は、マシュー方程式という形の式で表されます。長さを揺れの2倍の振動数で変えたとき、揺れ幅が指数関数的に増える領域があることが知られています。これがパラメトリック共振で、図2の「1往復に2回立つ」に当たります。外から押す通常の共振とは違い、揺れがゼロの状態からは成長しません。一方、座りこぎは上体と脚を回転させて、座面とチェーンに周期的な力を加えます。こちらは揺れと同じ振動数で押す強制振動に近く、止まった状態からでも揺れを作れるとされています。実際の座りこぎには両方の性質が混ざっている、という解析もあります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。公園の遊具ひとつにも、まだ答えの出ていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・力学的エネルギー、振り子高さと速さの入れかわり、重心
高校物理基礎・仕事とエネルギー/物理・円運動下で体が重くなる理由、上がれる高さの計算
高校+物理・角運動量(発展)立つと速くなる理由、角度の増え方
大学力学・振動論パラメトリック共振と強制振動の違い
研究運動学習・非線形振動人のこぎ方のタイミング、大振幅での最適化
生活とのつながり公園のブランコ、振り子で遊ぶ実験
参考・出典
  1. Case, W. B., & Swanson, M. A. (1990). The pumping of a swing from the seated position. American Journal of Physics, 58(5), 463–467.
  2. Wirkus, S., Rand, R., & Ruina, A. (1998). How to pump a swing. The College Mathematics Journal, 29(4), 266–275.
  3. Post, A. A., de Groot, G., Daffertshofer, A., & Beek, P. J. (2007). Pumping a playground swing. Motor Control, 11(2), 136–150.
  4. 高等学校「物理基礎」「物理」教科書(仕事とエネルギー、円運動、単振り子の単元)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。遊具で遊ぶときは、施設の注意書きや管理者の指示に従ってください。