橋やビルは、なぜ風で揺れても
壊れないの?
強い風の日、高層ビルの上階はゆっくり揺れています。設計上、揺れることは想定内です。ところが1940年、アメリカでひとつの橋が、たいして強くもない風で崩れ落ちました。そして、その原因として長年教科書に書かれてきた説明は、間違いでした。
子どもをブランコで押すとき、力まかせに押しても大きくは揺れません。タイミングが合ったときだけ、軽く押すだけでどんどん振れ幅が大きくなります。
ブランコには「揺れたい速さ」が決まっています。長いブランコはゆっくり、短いブランコは速く。その速さに合わせて押すと、小さな力が積み重なって大きな揺れになります。
橋もビルも、これとまったく同じ性質を持っています。それぞれに「揺れたい速さ」があります。高いビルほどゆっくり、低い建物ほど速く揺れます。
だから設計者がまず考えるのは、「その速さで押してくるものが、まわりに存在するか」です。
これが共振です。橋の上を大勢が同じ歩調で歩く、地震の波の周期が建物と合う。合ってしまうと、揺れが積み上がります。
一定の風は、周期的に押してきません。それでも橋は自分でねじれを大きくしていきました。押されたのではなく、自分で育てたのです。
この2つは似て見えて、別のしくみです。そして混同されたまま、長く教科書に載り続けました。順に見ていきましょう。
まず、共振とは何か
ものには、それぞれ「揺れやすい速さ」があります。ブランコを一度押して手を放すと、決まったテンポで揺れ続けます。長さで決まっていて、押し方では変えられません。
そのテンポに合わせて押すと、力が毎回同じ向きに足されていきます。小さな力でも、回数を重ねれば大きな揺れになります。これが共振です。
身のまわりにも例はたくさんあります。
- ワイングラスを指でこすると鳴る ― グラスの揺れやすい速さに合った振動だけが育ちます
- 洗濯機が、ある回転数のときだけ激しく揺れる ― その回転数が、洗濯機の揺れやすい速さと一致しています
- ラジオの選局 ― 受信回路の「揺れやすさ」を、聞きたい放送の周波数に合わせています
- 軍隊が橋を渡るとき、歩調をそろえない ― そろえると、その歩調が橋のテンポと合う危険があるためです。19世紀のイギリスで、隊列の行進中に橋が落ちた事故が知られています
橋やビルは、どう対処しているか
設計では、「その建物のテンポで押してくるものが、まわりにあるか」を調べます。そのうえで、次のような手を打ちます。
- テンポをずらす ― 硬さや重さを変えて、揺れやすい速さを危険な範囲から外します
- 揺れを吸い取る ― 建物の中にダンパー(振動を熱に変える装置)を入れます
- おもりで打ち消す ― 高層ビルの上部に大きなおもりを吊り、建物と逆向きに動かして揺れを相殺します。台北101の展望台にある巨大な球は、この装置が見えるようにしたものです。東京スカイツリーも、心柱を利用した同じ考え方の仕組みを持っています
「揺れないようにする」のではなく「揺れをうまく逃がす」のが現代の考え方です。硬くして揺れを封じ込めようとすると、力がそのまま構造に伝わってしまいます。
設計の失敗ではなく、設計どおりです。
では、タコマ橋で何が起きたのか
1940年、アメリカのワシントン州に完成した吊り橋が、開通からわずか4か月で崩れ落ちました。橋げたが大きくねじれ、うねりながら壊れていく映像は、いまも科学の教材として使われています。
このとき吹いていた風は、秒速20メートル前後。台風どころか、強い風という程度です。この橋は、もっと強い風に耐える想定で作られていました。
長いあいだ、この事故は「共振の典型例」として説明されてきました。「風で生じる渦の周期が、橋の揺れやすい速さと一致した」という説明です。しかし、これは誤りです。
1990年代に発表された検証によれば、渦ができる周期と、橋がねじれる速さは一致していませんでした。そもそも当日の風は一定方向に吹いており、ブランコを押すような周期的な力はなかったのです。
本当に起きていたこと ― 自分で育つ揺れ
実際に起きたのは、次のような循環でした(図1の下)。
- 橋げたが、何かのきっかけでわずかにねじれる
- ねじれて傾いた形が、風の当たり方を変える
- その結果、ねじれを増やす向きに力がはたらく
- ねじれがさらに大きくなり、2へ戻る
ポイントは、外から周期的に押されていないことです。橋自身が、一定の風からエネルギーを取り出して、自分の揺れを育てていました。これを自励振動といいます。
共振との違いは決定的です。共振は「合うタイミングで押されたとき」に起きるので、押すのをやめれば止まります。自励振動はある速さ以上の風が吹いているだけで、勝手に成長します。しかも振れ幅が増えるほど、取り込む力も増えます。
この橋の断面は、鉄板をI字型に組んだ平らな形でした。風を受けたときにねじれやすい形だったのです。現在の吊り橋の橋げたは、飛行機の翼のようななめらかな断面や、風を通す隙間を持った形が使われています。この事故から学んで変わった部分です。
この事故が「共振の例」として教科書に載り続けたのは、説明として分かりやすく、映像が印象的だったからだと指摘されています。共振は高校で習う内容ですが、自励振動は大学の専門課程の話です。教えやすいほうの説明が選ばれ、そのまま定着しました。
誤りを指摘する論文が出たあとも、訂正が行き渡るには時間がかかりました。「分かりやすい説明」が「正しい説明」を押しのけることがあるという例として、いまも引き合いに出されます。
2000年、ロンドンに新しい歩道橋が開通しました。ところが初日に大勢が渡りはじめると、橋が横に揺れはじめました。2日後に閉鎖され、対策を施して再開するまで1年以上かかっています。
原因は、これも単純な共振ではありませんでした。橋がわずかに横に揺れると、人は無意識にバランスを取ろうとして、揺れに合わせて歩いてしまいます。すると足で加える力が揃い、揺れがさらに増える。人と橋のあいだで、ねらっていない同調が起きたのです。
これも「外から周期的に押された」のではなく、系そのものが揺れを育てた点で、タコマ橋と同じ仲間です。
家で確かめられること
- 横に張ったひも(または物干し竿)に、長さの違う3本のひもを垂らし、先に消しゴムなどのおもりを結ぶ
- 横棒の端を持ち、ゆっくりした一定のテンポで左右に動かす
- いちばん長いおもりだけが大きく揺れます。ほかはほとんど動きません
- テンポを速くしていくと、大きく揺れるおもりが順に入れ替わります
同じ力で揺すっているのに、反応するものが変わります。「揺れやすい速さ」がそれぞれ違うことが、目で見てわかります。地震のとき、同じ揺れでも建物によって被害の出方が違うのは、これと同じ理由です。
まとめ
橋やビルが風で壊れないのは、「揺れやすい速さ」を把握して、そこで押されないよう設計されているからです。そしてタコマ橋の崩落は共振ではなく、橋自身が一定の風から力を取り込んで、揺れを育ててしまったものでした。
押されて揺れたのではありません。
自分で、揺れを大きくしていったのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(振動工学・耐風工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:揺れをめぐる言葉
- 固有振動数(固有周期):本文の「揺れやすい速さ」。1秒あたり何回揺れるかが固有振動数、1回に何秒かかるかが固有周期です。
- 共振:外から加わる力の周期が固有周期と一致し、振れ幅が大きくなること。
- 減衰:揺れが自然に小さくなっていくこと。摩擦や材料の内部抵抗で、揺れのエネルギーが熱に変わります。
- 自励振動:外から周期的に押されなくても、系自身がエネルギーを取り込んで揺れを大きくする現象。タコマ橋で起きたのはこれです。
- フラッター:自励振動のうち、流れの中の構造物で起きるもの。航空機の翼でも重大な問題になります。
高校式で確かめる:ブランコは何秒に1回押せばいいのか
共振は「タイミングが合うと大きく揺れる」現象です。では、合わせるべきタイミングは何秒なのか。これは計算で出せます。
T = 2π √(L ÷ g)
| T 1往復にかかる時間 | 単位は 秒 |
| L ひもの長さ | 単位は m |
| g 重力の強さ | 9.8 m/s² |
| √ 平方根 | 2乗するとその数になる値 |
ここでおかしなことに気づいてほしいのです。式の中におもりの重さが入っていません。つまり誰が乗っても、ブランコの周期は変わらないことになります。大人が乗っても子どもが乗っても同じ。実際そのとおりです。
式は、こういうことを教えてくれます。「何が効くか」だけでなく「何が効かないか」も言っているのです。
| ブランコのひもの長さ | L = 2.5 m とする |
| まず、かっこの中を計算する | 2.5 ÷ 9.8 ≒ 0.255 |
| その平方根を探す | 0.505 × 0.505 ≒ 0.255 なので、答えは 約0.505 |
| 2π(=約6.28)を掛ける | 2 × 3.14 × 0.505 ≒ 3.2 |
| 答え | T ≒ 3.2 秒 |
3.2秒に1回のリズムで押すと、いちばんよく揺れます。それより速くても遅くても、押す力は打ち消し合ってしまいます。ブランコを押した経験のある人なら、体で知っているはずのリズムです。それが数字で出てきました。
建物も、押されると決まった速さで揺れ戻ります。正確な計算は複雑ですが、鉄骨の建物では「階数 × 約0.1秒」が、おおまかな目安として使われることがあります。
| 10階建てのビル | 10 × 0.1 = 1.0 秒 |
| 50階建てのビル | 50 × 0.1 = 5.0 秒 |
| 木造の住宅 | およそ 0.2〜0.5 秒 |
ここから、被害の出方が読めます。直下型の地震は短い周期の揺れが強いので、0.2〜0.5秒の木造住宅と合いやすい。一方、遠くの大きな地震はゆっくりした揺れを運んでくるので、5秒前後の超高層ビルと合います。震源から数百キロ離れたビルが大きく揺れるのは、この一致によるとされています。
※ 目安の値です。構造・形状・地盤で変わります。設計では個別に計算されます。
式をよく見ると、T は L そのものではなくその平方根に比例しています。ということは、長さを4分の1にして、はじめて周期が半分になるはずです。確かめます。
| 長さを4分の1にする | 2.5 ÷ 4 = 0.625 m |
| かっこの中 | 0.625 ÷ 9.8 ≒ 0.0638 |
| その平方根 | 0.253 × 0.253 ≒ 0.0640 なので、約0.253 |
| 周期 | 2 × 3.14 × 0.253 ≒ 1.6 秒(3.2秒のちょうど半分) |
予想どおりになりました。「平方根に比例する」が具体的に何を意味するかは、数を入れてみるとはっきりします。短いひもの振り子が、思ったよりずっとせわしなく動くのは、このためです。
高校+共振の鋭さと、減衰の役割
共振でどこまで振れ幅が大きくなるかは、減衰の大きさで決まります。減衰がゼロなら、理論上は無限に大きくなります。現実の構造物には必ず減衰があるので、有限の値で止まります。
この「どれだけ鋭く共振するか」を表す量が Q値 です。Q が大きいほど、狭い範囲の周期に強く反応します。ワイングラスがよく鳴るのは Q が高いからで、逆に建物では Q を下げる(減衰を増やす)ことが設計の目標になります。
制振ダンパーの役割は、まさにこの減衰を人工的に増やすことです。同調質量ダンパーは、建物の固有周期に合わせた「もうひとつの振り子」を取り付け、本体と逆位相で揺らすことで、揺れのエネルギーを吸い取ります。
大学なぜ自励振動は共振と根本的に違うのか
強制振動の式は m ẍ + c ẋ + k x = F₀ cos(ωt) のように、右辺に外部からの周期的な力を置きます。共振は ω が固有振動数に近いときに応答が大きくなる現象です。
ところが自励振動では、右辺に周期的な力がありません。力は、系自身の運動 x や ẋ に依存する形で現れます。流れの中の構造物では、この力が実質的に減衰を打ち消す向きにはたらくことがあります。全体の減衰係数が負になると、振幅は指数関数的に増大します。
タコマ橋で起きたのは、ねじれ1自由度のフラッターだと理解されています。ある風速(フラッター発生風速)を超えると、系の実効的な減衰が負に転じ、揺れが自ら成長する状態に入ります。「この風速を超えないこと」が設計条件であり、単に「強い風に耐える強度」を持たせるだけでは足りません。
現在の長大橋では、風洞試験と数値解析でフラッター発生風速を評価し、断面形状の工夫(中央にスリットを設ける、フェアリングを付けるなど)で対処しています。
研究いまも難しいこと
- 減衰の値は、いまも理論的には予測できません。設計にとって決定的に重要な量なのに、材料の内部摩擦、接合部のすべり、地盤との相互作用など多くの要因が絡み、実際の建物を揺らして測るしかないのが現状です。設計では経験に基づく値を使っており、ここが最も不確かな入力のひとつとされています。
- 群集と構造物の同調も、完全には解けていません。ロンドンの歩道橋の件をきっかけに、人の歩行と橋の揺れが同調するモデルの研究が進みました。しかし「何人集まると始まるのか」を事前に精度よく予測することは難しく、設計基準は実測データに頼る部分が残っています。人間の無意識のふるまいを含む問題であることが、難しさの一因です。
- フラッターの予測も、風洞試験なしでは済みません。数値流体力学は進歩しましたが、実物大の複雑な断面まわりの流れを十分な精度で計算することは容易ではなく、長大橋の設計では今も模型実験が欠かせません。
- 長周期地震動の予測は発展途上です。震源から離れた場所へどのようにゆっくりした揺れが伝わるかは、地下の構造に強く左右されます。堆積盆地では揺れが増幅されることが知られていますが、地下構造の把握には限りがあり、予測の不確かさが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・振り子/音の性質/地震 | 揺れやすい速さ、ひもとおもりの観察 |
| 高校 | 物理・単振動と共振 | 固有周期の式、建物の周期の目安 |
| 高校+ | 物理・減衰振動と強制振動(多くの教科書で発展扱い) | Q値、ダンパーの考え方 |
| 大学 | 振動工学・耐風工学・地震工学 | 自励振動、負の減衰、フラッター発生風速 |
| 研究 | 構造工学(未解決) | 減衰の予測、群集同調、長周期地震動 |
- Billah, K. Y. & Scanlan, R. H., Resonance, Tacoma Narrows Bridge Failure, and Undergraduate Physics Textbooks, American Journal of Physics 59(2), 118–124, 1991(共振説の誤りを指摘した論文)。
- Dallard, P. et al., The London Millennium Footbridge, The Structural Engineer 79(22), 17–33, 2001(歩行者による横揺れ)。
- Simiu, E. & Scanlan, R. H., Wind Effects on Structures(耐風工学の標準的な教科書)。
- 気象庁および建築研究所による、長周期地震動に関する解説。
- 日本建築学会による、建築物の減衰および制振構造に関する指針。
※ 固有周期や風速などの数値は、構造や条件によって大きく変わります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安であり、実際の設計基準ではありません。建物の耐震性や安全性については、専門家および自治体の情報をご確認ください。