🍬 日常のふしぎ 🧱 物質・材料 予備知識なしでOK 読了 約6分

砂糖を水に溶かすと、どこへ消えるの?
― 見えなくなっただけで、粒は1つも減っていません

白い砂糖をお湯に入れてかき混ぜると、すぐに見えなくなります。でも、飲むとちゃんと甘い。砂糖は消えたのではなく、目では追えないほど小さな粒に分かれて、水の中に散らばっています。見えなくなるのは、粒が小さくなったせいだけではありません。光をはね返す「境目」が、なくなったからです。

公開:2026.10.26 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

朝、紅茶に砂糖をスプーン1杯入れます。白い粒はカップの底に沈み、スプーンで混ぜるうちに、少しずつ小さくなっていきます。

やがて粒はひとつも見えなくなります。紅茶の色も透け方も、入れる前と変わりません。

子どもに「砂糖はどこに行ったの?」と聞かれたら、なんと答えますか。「溶けたんだよ」だけでは、実は答えになっていません。溶けるとは、何がどうなることなのでしょうか。

見えなくなる理由は、2つあります

1
粒が、分子1個ずつにばらばらになる

砂糖の粒は、砂糖の分子が何兆個もきっちり並んだかたまりです。水の分子がその表面から、分子を1個ずつ引きはがしていきます。

2
光をはね返す「境目」がなくなる

白く見えていたのは、粒の表面が光をはね返していたからです。分子がばらばらになると、はね返す面がなくなり、光はまっすぐ通り抜けます。

つまり砂糖は、「小さくなりすぎて見えない」のと「光の通り道をじゃましなくなった」のが重なって、姿を消しています。順に見ていきましょう。

水の分子が、砂糖を1個ずつはがしていく

砂糖の分子には、水の分子と引き合いやすい部分がたくさんあります。そのため水に入れると、粒の表面にいる分子に、水の分子が次々とくっつきます。

水の分子に囲まれた砂糖の分子は、粒から離れて水の中へ出ていきます。表面の分子がはがれると、その下の分子がまた表面に出てきます。これを繰り返して、粒は外側から小さくなります。

かき混ぜると早く溶けるのは、粒のまわりの「もう甘くなった水」を押しのけて、まだ甘くない水を届けるからです。お湯で早く溶けるのは、分子の動きが激しくなり、はがれる勢いが増すためです。

図1を見てください。左が溶ける前、中央が溶けている途中、右が溶けきったあとの様子です。

① 溶ける前(粒) ② 溶けている途中 ③ 溶けきったあと 光 表面で光がはね返る → 白く見える 1個ずつ はがれる 水の分子(小さい丸)が 砂糖の分子を囲んで運ぶ 光 はね返す境目がない → 光が通り抜けて透明
図1:砂糖が溶けるまでの3つの場面。左の粒では、分子がきっちり並んだかたまりの表面で、矢印の光がはね返ります(点線がはね返った光)。中央では、小さい丸で描いた水の分子が粒の表面に集まり、大きい丸の砂糖の分子を1個ずつ運び出します。右では分子がまばらに散らばり、横向きの矢印の光はそのまま通り抜けます。分子の大きさと間隔は、見やすいように大きく描いています。

分子どうしの間は、光の波の150分の1しかない

砂糖の粒が白いのは、氷の粒の集まりである雪が白いのと同じしくみです。1粒1粒はもともと透明ですが、表面がたくさんあるので、光があちこちではね返ります。

溶けると、この表面がなくなります。残るのは、水の中に散らばった分子だけです。分子1個の大きさは、およそ1ナノメートル(1ミリの100万分の1)とされています。

小さじ1杯(約3グラム)の砂糖をコップの水に溶かすと、分子どうしの平均の間隔は約3ナノメートルになります。目に見える光の波の長さは400〜700ナノメートルです。光から見ると、砂糖の分子は細かすぎて「ひとつの面」としてまとまらず、ほとんど何もないのと同じです。

図2のつまみで、溶かす砂糖の量を変えてみてください。量を増やしても間隔はゆっくりしか縮まず、光の波よりはるかに小さいままです。だから濃い砂糖水も、透明に見えます。

同じ縮尺でくらべると 緑の光の波 1つ分(約500ナノメートル) 溶けた砂糖の分子の並び(点ひとつが分子1個) 分子どうしの平均の間隔 約3.4ナノメートル(光の波の約150分の1) 水200ミリリットルに溶けた分子の数 約5.3×10²¹個
つまみを動かすと、分子の数と、分子どうしの間隔が変わります
図2:上の波線が緑の光の波1つ分、下の帯の細かい点の並びが溶けた砂糖の分子で、同じ縮尺で描いています。初めの状態は、コップの水に小さじ1杯(3グラム)を溶かしたときです。つまみで砂糖を100グラムまで増やしても、点の間隔は波よりずっと細かいままで、光にとっては「むらのない水」と同じだと分かります。

消えていない証拠は、重さと甘さ

砂糖が本当に消えたのなら、重さも減るはずです。ところが、水と砂糖を一緒にはかりにのせたまま溶かしても、表示はまったく変わりません。粒の形がなくなっただけで、分子は1個も減っていないからです。

甘さが残るのも同じ理由です。舌は、ばらばらになった砂糖の分子を1個ずつ受け取って、甘いと感じています。むしろ溶けているほうが、舌に届きやすいくらいです。

水を蒸発させれば、砂糖はふたたび粒になって現れます。分子どうしが近づき、また並び直すからです。

💡 混ぜないと、甘さは上まで届かない

かき混ぜずに置いておくと、溶けた砂糖は重い砂糖水になって底にたまります。分子が自分の動きだけで広がるのはとても遅く、1センチ進むのに丸1日ほどかかると見積もられます。「最後のひと口だけ甘い」のは、このためです。

💡 水は、自分より重い砂糖を溶かせる

室温の水100グラムには、砂糖がおよそ200グラムも溶けるとされています。水の重さの2倍です。それでも透明なままなのは、分子がばらばらに散らばっているからです。

まとめ

砂糖が水に溶けると、粒は分子1個ずつにばらばらになります。白く見せていた表面がなくなり、分子どうしの間隔も光の波よりはるかに小さいので、光はまっすぐ通り抜けます。それでも重さと甘さは、そのまま残っています。

溶けるとは、消えることではない。
光に見つからないほど、細かく散らばることです。

透明な粒が集まると白く見えるしくみは「氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?」で、溶けたものが粒に戻るようすは「ミョウバンの結晶は、なぜあんなにきれいな形に育つの?」で詳しく紹介しています。

🧪 台所で確かめてみよう:砂糖は「消えた」のか
  1. コップに水を入れ、キッチンのはかりにのせます。横に砂糖を小さじ2杯ほど置き、両方一緒の重さを読みます。
  2. 砂糖をコップに入れ、かき混ぜて溶かします。溶けきったら、もう一度はかりの数字を見ます。重さは変わらないはずです。
  3. 別のコップに砂糖を入れ、混ぜずにそっと置きます。半日後、上のほうと底のほうを少しずつなめくらべてみましょう。

砂糖水を小皿に薄くのばし、何日か置くと、水が蒸発して砂糖の結晶がふたたび現れます。なめる実験は、きれいなスプーンを使ってください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学基礎」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・光学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:小さじ1杯の砂糖の分子は、どれくらい離れているか

コップの水200ミリリットルに、砂糖を小さじ1杯(3グラム)溶かしたときの、分子の数と、分子どうしの平均の間隔を求めます。

⓪ もとになる式
記号で書くとN = ( m ÷ M ) × NA  d = ( V ÷ N ) の立方根
言葉で書くと分子の数 = 質量 ÷ 分子1モルの質量 × アボガドロ定数。平均の間隔 = 分子1個あたりの体積の立方根
どこから来る式か1モル(6.02×10²³個)の重さが分子ごとに決まっていることから、重さを個数に換算します。散らばった分子が1個ずつ同じ大きさの小部屋を持つと考えると、小部屋の一辺が平均の間隔になります
N溶けた砂糖の分子の数(個)
m砂糖の質量(グラム)
M砂糖(ショ糖)1モルの質量(グラム)
V水溶液の体積(ナノメートルの3乗)
d分子どうしの平均の間隔(ナノメートル)
① もとになる数値
小さじ1杯の砂糖約3グラム
ショ糖1モルの質量342グラム
アボガドロ定数6.02×10²³個
水200ミリリットルの体積2×10²³ナノメートルの3乗(1ミリリットル = 10²¹ナノメートルの3乗)
緑の光の波の長さ約500ナノメートル
② 計算してみる
砂糖のモル数3 ÷ 342 ≒ 0.00877 モル
分子の数(10²¹個を単位にして)0.00877 × 602 ≒ 5.28(つまり約5.3×10²¹個)
分子1個あたりの体積(10²¹個を単位にした数で割る)200 ÷ 5.28 ≒ 37.9 ナノメートルの3乗
その立方根(平均の間隔)37.9の立方根は およそ 3.36 ナノメートル
光の波は間隔の何倍か500 ÷ 3.36 ≒ 149 倍

小さじ1杯でも分子は約5.3×10²¹個(53垓個)あり、それでも1個あたりの間隔は約3.4ナノメートルです。光の波から見ると、波1つ分の長さに分子が約150個並ぶほど細かく、光はむらを感じずに通り抜けます。

③ 実感に直す:水の分子は何個に1個が砂糖か
水1モルの質量18グラム(水200ミリリットルは200グラム)
水のモル数200 ÷ 18 ≒ 11.1 モル
砂糖1個あたりの水の分子11.1 ÷ 0.00877 ≒ 1266 個

甘いと感じる紅茶でも、砂糖の分子は水の分子およそ1300個に1個しかいません。

高校高校+なぜ水は砂糖をはがせるのか

高校ショ糖の分子には、酸素と水素がつながった部分(ヒドロキシ基)が8か所あります。水の分子とこの部分は水素結合で引き合います。結晶の中で分子どうしが引き合う力と、水が引きはがす力が張り合い、水の側が勝つので溶けていきます。

高校+溶解度は温度で大きく変わります。化学便覧などの値では、ショ糖は水100グラムに20℃で約200グラム、100℃で約480グラム溶けるとされています。熱いうちに濃く溶かしてから冷ますと、溶けきれなくなった分が結晶として出てきます。これが氷砂糖やミョウバンの結晶づくりの原理です。

大学広がる速さと、光の散らばり方

かき混ぜない砂糖水の中で、分子が濃いほうから薄いほうへ広がる速さはフィックの法則で表されます。ショ糖の水中での拡散係数は、25℃でおよそ0.5×10⁻⁹平方メートル毎秒とされます。広がる距離の2乗が「2 × 拡散係数 × 時間」に比例するので、1センチ広がるのに約10万秒、つまり丸1日ほどかかります。

光の波長よりずっと小さい粒による光の散らばりはレイリー散乱と呼ばれ、散らばる強さは粒の大きさの6乗に比例して急に弱くなります。さらに、まばらに散らばった分子からの散乱は打ち消し合い、残るのは濃さの「ゆらぎ」による弱い散乱だけです。そのため砂糖水は、ほぼ完全に透明に見えます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:フィックの法則(ウィキペディア) / レイリー散乱(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。溶けるという身近な現象にも、分子の目線ではまだ答えの出ていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学中学1年 理科「水溶液の性質」「溶解度と再結晶」溶けると透明になる理由、重さが変わらないこと
高校化学基礎「物質量」、化学「溶解と溶液」分子の数と間隔の計算、水素結合
高校+化学「溶解度曲線」温度で溶ける量が変わること、結晶づくり
大学物理化学(拡散)、光学(散乱)フィックの法則、レイリー散乱
研究溶液化学・分子シミュレーション分子のまわりの水の並び、結晶が溶ける最初の一歩
―生活とのつながり飲み物はよく混ぜてから飲む、砂糖水を煮詰めると結晶が戻る
参考・出典
  1. 日本化学会 編『化学便覧 基礎編』丸善出版(ショ糖の溶解度)
  2. 溶解度(ウィキペディア)
  3. アボガドロ定数(ウィキペディア)
  4. 水素結合(ウィキペディア)
  5. P. Atkins, J. de Paula『Atkins' Physical Chemistry』Oxford University Press(拡散とフィックの法則)
  6. 文部科学省『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』(水溶液の性質)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。分子の間隔は、溶けたことによる体積の変化を無視した見積もりです。