日常のふしぎ 化学 予備知識なしでOK 読了 約7分

お菓子の袋の乾燥剤は、どうやって湿気を吸っているの?
― 1グラムの粒の中に、テニスコート2面分の壁が折りたたまれています

のりやせんべいの袋に入っている、透明な小さな粒。あれは水を「しみこませて」いるのではありません。粒の内側にある、目に見えないほど細い穴の壁に、水の分子を1つずつ貼りつけているのです。その壁を全部広げると、1グラムでテニスコート2面半ほどになるとされています。

公開:2026.10.25 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

のりの袋を開けると、「食べられません」と書かれた小袋が出てきます。中には、ガラスのかけらのような透明な粒が入っています。

触っても、乾いたままです。スポンジのように水を含んでふくらむわけでもありません。なのに袋の中ののりは、何週間たってもパリパリのままです。

この小さな粒は、いったいどこに水をしまっているのでしょうか。

湿気を吸える理由は、2つだけです

1
内側の壁が、とてつもなく広い

粒の中は、ごく小さな粒がくっつき合ったスポンジのような作りです。すき間の壁を合わせると、1グラムでおよそ700平方メートルとされます。その壁が、水の分子を引きつけて貼りつけます。

2
細い穴の中では、水蒸気が早めに水に戻る

穴の直径は、髪の毛の数万分の1ほどです。これほど細い穴の中では、空気が湿りきっていなくても、水蒸気が水に戻って穴を満たします。だから、ふつうの部屋の湿気でもぐんぐん吸えます。

どちらも、粒の「材料」ではなく「形」が生んでいる力です。シリカゲルの成分は、ガラスや水晶とほぼ同じです。ガラスのコップが湿気を吸わないのに、シリカゲルが吸えるのは、中身の作りがまったく違うからです。

粒の中は、どうなっているの?

図1を見てください。左が、袋の中の粒です。直径は2〜5ミリほどで、見た目はただのガラス玉です。

まん中は、その粒の中を拡大した様子です。直径数ナノメートルほどの、もっと小さな粒がぶどうの房のようにくっつき合っています。あいだのすき間が、迷路のような穴になっています。

右は、さらに穴の壁を拡大したところです。壁の表面には、水の分子と相性のよい「手」がびっしり並んでいます。水の分子が近づくと、この手に引きつけられて、壁に貼りつきます。

袋の中の粒 直径2〜5ミリ 見た目はガラス玉 粒の中(拡大) 小さな粒がくっついたスポンジ すき間の穴は直径2〜3ナノメートル 穴の壁(さらに拡大) 壁(ガラスと同じ成分) 壁の「手」に水が貼りつく 上の丸=水の分子、下の小丸=手
図1:シリカゲルの粒を3段階で拡大した図。左の粒の中の四角を広げたのがまん中で、小さな粒のあいだに細い穴が通っています。まん中の四角をさらに広げたのが右で、壁の下に並んだ小さな丸(水と相性のよい手)に、上の大きな丸(水の分子)が貼りついていきます。点線の矢印は、近づいてくる水の分子です。

大事なのは、壁の広さです。ガラス玉1グラムの表面は、指先ほどの面積しかありません。ところが同じ重さを細かい粒の集まりにすると、表面は何万倍にも増えます。紙を細かくちぎるほど、切り口の合計が長くなるのと同じ理屈です。

なぜ、湿りきっていない空気からも水を取れるの?

壁に1層ずつ貼りつけるだけなら、吸える量には限りがあります。シリカゲルがもっと多く吸えるのは、2つめのしくみのおかげです。

水は、ふつうは湿度100パーセントにならないと、水蒸気から水に戻りません。ところが、とても細い穴の中は事情が違います。穴の壁に貼りついた水どうしが、向かい合ってつながろうとします。そのため、湿度が100パーセントより低くても、穴の中だけ先に水がたまるのです。

図2で、穴の太さを変えてみてください。穴が細いほど、低い湿度で水が穴を満たします。シリカゲルの穴はちょうど、ふつうの部屋の湿度で埋まり始める太さになっています。

穴の断面(拡大図) 穴の直径 へこんだ水面が、水蒸気を呼びこむ まわりの空気の湿度 ふだんの部屋 0% 50% 100% 穴が水で埋まり始める湿度:42% これより湿った空気からは、穴が水を吸いこみ続ける
つまみを動かすと、穴が水で埋まり始める湿度が変わります
図2:細い穴の中で、水蒸気が水に戻るしくみ。左は穴の断面で、両側の壁のあいだの下半分に水がたまり、水面はまん中がへこんでいます。右の横棒は湿度で、上の帯がふだんの部屋の湿度(40〜70%)です。下向きの印が、穴が水で埋まり始める湿度を指します。つまみで穴を細くすると印は左へ動き、乾いた空気からでも水を取れるようになることが分かります。

穴の直径が10ナノメートルになると、湿度が80パーセントほどになるまで穴は埋まりません。逆に1ナノメートルまで細くすると、湿度10パーセント台でも埋まり始めます。食品用のシリカゲルは、乾いた空気からも水を取れるよう、穴を細めに作ってあるとされています。

💡 青い粒がピンクに変わるのは?

靴の箱や押し入れ用の乾燥剤には、青い粒がまざっているものがあります。あれは水を吸うと色が変わる薬品をしみこませた「目印の粒」です。ピンクになったら、穴がほぼ水で埋まった合図です。最近は、別の色に変わる薬品を使う製品も増えています。

💡 白い粉の乾燥剤は、しくみが別もの

せんべいなどには、白い粉や粒の「石灰乾燥剤」が入っていることもあります。こちらは穴の壁ではなく、水と化学反応して別の物質に変わることで水を取ります。反応のときにかなり熱くなるので、水にぬらしたり、目に入ったりしないよう気をつけてください。表示を確かめて、自治体の決まりに沿って捨てましょう。

まとめ

シリカゲルは、ガラスと同じ成分を、ぶどうの房のような細かい粒の集まりにしたものです。中に折りたたまれた広い壁が、水の分子を1層ずつ貼りつけます。さらに細い穴の中では、湿りきっていない空気からも水蒸気が水に戻ってたまります。乾いた見た目のまま、自分の重さの3分の1ほどの水をしまいこめるとされています。

乾燥剤は、水を吸う「材料」ではなく、水をとらえる「形」です。
1グラムの中に、テニスコート2面分の壁が隠れています。

穴の大きさで水のふるまいが変わる話は、砂糖や塩が固まる話ともつながっています。粒の表面に集まった水が、粒どうしをくっつけるしくみです。

🧪 自分で確かめてみよう:湿気を吸う速さと、水に落としたときの音
  1. 青い目印の粒が入った乾燥剤を用意し、粒を少しずつ、2枚の小皿に分けます(のりの袋の乾燥剤でも、手順3は試せます)。
  2. 1枚はふたつきの空きびんに入れて閉め、もう1枚は浴室や台所など湿った場所に出しておきます。数時間ごとに、色の変わり方をくらべます。
  3. 乾いた透明な粒を1つぶ、コップの水に落としてみます。耳を近づけると、パチパチと小さな音がして、粒にひびが入ることがあります。

手順3の音は、穴に一気に水が入りこみ、そのとき出る熱と力で粒がきしむためと考えられています。粒は食べられないので、小さな子どもの手の届かない所で試し、終わったら捨ててください。白い粉の石灰乾燥剤では試さないでください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・界面化学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:壁に1層並べると、水は何グラム貼りつくか

まず、壁に水の分子をすき間なく1層だけ並べたときの重さを出します。それを、実際に吸えるとされる量とくらべます。最後に、のりの袋の中の空気にある水とくらべます。

⓪ もとになる式
記号で書くとm = S × σ (σ = m₁ ÷ a)
言葉で書くと貼りつく水の重さ = 壁の広さ × 1平方メートルに1層並べた水の重さ
どこから来る式か壁の上に、水の分子が1個ずつ自分の面積を占めて並ぶ、という数え上げ。1層の膜の重さは、分子1個の重さ m₁ を、1個が占める面積 a でわって求めます。

記号の意味:m は貼りつく水の重さ(ミリグラム)、S はシリカゲル1グラムの壁の広さ(平方メートル)、σ は水の分子を1層並べた膜の、1平方メートルあたりの重さ(ミリグラム)です。

① もとになる数値
シリカゲル1グラムの壁の広さおよそ700平方メートルとされる(製品により数百〜800)
水の分子1層の膜の重さ1平方メートルあたり およそ0.29ミリグラム(分子1個が約0.1平方ナノメートルを占めるとして)
実際に吸える水の量湿った空気では、自分の重さの35パーセントほどとされる
25℃の空気1リットルが含める水蒸気最大 およそ0.023グラム
テニスコート(ダブルス)1面の広さおよそ261平方メートル
② 計算してみる
1層の水の重さ(ミリグラム)700 × 0.29 = 203
グラムに直す203 ÷ 1000 = 0.203
実際に吸える量(グラム)1 × 0.35 = 0.35
1層ぶんの何倍か0.35 ÷ 0.203 ≒ 1.7
壁の広さはコート何面か700 ÷ 261 ≒ 2.7
5グラムの小袋が吸える水(グラム)5 × 0.35 = 1.75
湿度60%の空気1リットルにある水(グラム)0.023 × 0.6 ≒ 0.014
小袋は、空気1リットル分の何倍を吸えるか1.75 ÷ 0.014 = 125

壁に1層並べるだけで、自分の重さの約2割の水が貼りつきます。実際に吸える量はその1.7倍ほどで、差の分は、細い穴の中で水に戻った水(毛管凝縮)と考えられます。そして5グラムの小袋は、袋の中の空気にある水の100倍以上を受け止められます。袋のすき間から少しずつしみこむ湿気を、何週間も吸い続けられるのはこのためです。

高校高校+壁の「手」の正体と、吸うときに出る熱

高校シリカゲルの壁の表面には、ケイ素に酸素と水素がついた「シラノール基」が並んでいます。水の分子は、このシラノール基と水素結合でつながります。水素結合は分子どうしの弱い結びつきなので、加熱すれば水は離れ、シリカゲルは何度でも使い直せます。これが、化学反応で水を取る石灰乾燥剤との大きな違いです。

高校+水蒸気が壁に貼りつくと、水蒸気が水に戻るときと同じように熱が出ます(吸着熱)。乾いた粒を水に落とすと、穴の奥まで一気に水が入り、その熱と、穴の中の空気が押し出される力で粒にひびが入ることがあります。湿度は「その温度で空気が含める最大の水蒸気に対する、いまの水蒸気の割合」で、これを相対湿度と呼びます。

大学ケルビンの式と、表面積の測り方(BET法)

図2の計算には、ケルビンの式を使っています。穴の半径を r、水の表面張力を γ、水1モルの体積を V、気体定数を R、温度を T とします。すると、穴が水で埋まる相対湿度は、自然対数で −2γV ÷ (rRT) になります。25℃の水では 2γV ÷ RT がおよそ1.05ナノメートルなので、直径2.4ナノメートルの穴ではおよそ42パーセントです。実際の穴では、壁にすでに貼りついた水の膜の厚さぶんだけ半径が小さくなるため、この補正を加えた式で解析します。

シリカゲルの「1グラム700平方メートル」という値は、窒素ガスを低温で吸着させ、その量から BET式(ブルナウアー・エメット・テラーの式)で1層ぶんの量を求めて出したものです。湿度を上げるときと下げるときで吸着量の曲線がずれる「吸着ヒステリシス」も、毛管凝縮の目印として知られています。穴の大きさは、2ナノメートル未満を「ミクロ孔」、2〜50ナノメートルを「メソ孔」と呼び分けます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ケルビンの式(英語版ウィキペディア) / シリカゲル(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に、とても細い穴の中で水がどうふるまうかは、まだ新しい発見が続いている分野です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「水蒸気と湿度」「状態変化」湿度、水蒸気が水に戻ること
高校化学「水素結合」「ケイ素の化合物」シラノール基と水の結びつき、シリカゲルの成分
高校+化学「蒸気圧」「状態変化と熱」相対湿度、吸着熱、水に落とした粒が割れる理由
大学物理化学・界面化学ケルビンの式、BET式、吸着ヒステリシス
研究ナノ空間の水、空気から水を取る材料研究の節
―生活とのつながり食品・靴・カメラの湿気よけ、乾燥剤の正しい捨て方
参考・出典
  1. ウィキペディア「シリカゲル」
  2. Wikipedia "Kelvin equation"
  3. 近藤精一・石川達雄・安部郁夫『吸着の科学』丸善
  4. S. J. Gregg, K. S. W. Sing, "Adsorption, Surface Area and Porosity", Academic Press
  5. 国民生活センター 石灰乾燥剤による事故に関する注意喚起

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。乾燥剤は食べられません。誤って口に入れたり目に入ったりしたときは、製品の表示に従い、必要に応じて医療機関や中毒110番に相談してください。捨て方は自治体の指示に従ってください。