石は、なぜ水の上を何回も跳ねるの?
― 水は「速く押されたとき」だけ固い床になります
水は、手を入れればすっと沈む、やわらかいものです。それなのに、平たい石を低く投げると、石は沈まずに何度も跳ねていきます。じつは水は「速く押されたとき」だけ、固い床のようにふるまいます。そして石を跳ね続けさせているのは、指ではじいた回転です。
川原や湖のほとりで、平べったい石を拾います。体をかがめて、水面すれすれに、横向きに投げます。
石はトン、トン、トン、と水の上を走っていきます。5回、6回。うまくいくと、最後は細かくタタタタッと震えるように跳ねて消えます。
同じ石を、上からぽとんと落とせば、一度も跳ねずに沈みます。石は何も変わっていないのに、この差はどこから来るのでしょうか。
理由は、大きく2つです
石が沈むには、そこにある水がわきへどく必要があります。ところが水にも重さがあり、動き出すには時間がいります。速く当たれば、水はどききれず、石を押し返します。
跳ねるには、石が平らな面を下に向けたまま当たり続けなければなりません。指ではじいた回転が、石の傾きを次の一回まで保ちます。
この2つは役割が違います。1つ目は「跳ね返る力」を生み、2つ目は「その力を毎回きちんと受け取れる姿勢」を守ります。片方だけでは、水切りは続きません。順に見ていきます。
やわらかい水が、固い床に変わる瞬間
コップの水に指をゆっくり入れると、水はすっとよけてくれます。ところが同じ水面を手のひらで思いきりたたくと、痛いほどの手ごたえがあります。水そのものは何も変わっていません。変わったのは速さだけです。
石が水面に浅く当たると、石の下の水は下へ、横へと押しのけられます。押しのけられた水は、重さのぶんだけ石を押し返します。この押し返す力が石の重さより十分に大きければ、石は沈む前に上向きに向きを変え、水面から抜け出します。これが1回ぶんの跳ねです。
図1を見てください。左は上からぽとんと落とした石、右は水面すれすれに投げた石です。どちらも水を押しのけますが、右は「石の平らな面が斜め下を向いたまま、横へ滑る」ため、押しのけた水からの力が上向きの成分を持ちます。矢印の向きの違いが、沈むか跳ねるかを分けています。
ゆっくり入れた手には、水がよけてくれます。速くたたくと、水はよけきれずに押し返してきます。石が跳ねるときに受けているのも、これと同じ押し返す力です。手のひらは、水切りの石の気持ちを味わえる道具でもあります。
角度は「浅すぎても深すぎてもだめ」
水切りがうまい人は、無意識に石の傾きをそろえています。研究では、水面と石の面がつくる角度が20度あたりのとき、いちばんよく跳ねるとされています。この角度は、ふしぎなことに石の速さや大きさをかなり変えても、あまり動かないと報告されています。
角度が深すぎると、石は水の中へ潜ってしまい、押し返す力を受け取る前に沈みます。逆に浅すぎると、押しのける水の量そのものが足りず、上向きの力が小さくなります。石はずるずると水面をこすりながら止まってしまいます。図2の3つの場面を見比べてください。
回転が、次の一回を用意している
1回目に跳ねただけでは、水切りにはなりません。石は空中を飛ぶあいだ、水から押された力でくるりと向きを変えようとします。何もしなければ、2回目に当たるときには石は縦を向いてしまい、そのまま刺さって沈みます。
ここで効くのが、投げるときに指ではじいて与えた回転です。回っているものは向きを変えにくい、という性質があります。走っている自転車が安定するのも、同じ性質のおかげです。石はこの性質によって、平らな面を同じ傾きに保ったまま、次の着水を迎えられます。だから水切りでは「速く投げる」ことより「よく回す」ことのほうが、回数につながりやすいのです。
1回の投げで88回跳ねたという記録が知られています。後半は、跳ねる間隔がどんどん短くなり、水面を細かく震えるように走ります。速さが落ちて上向きの力が弱まると、石は水面から高く離れられなくなり、跳ねの間隔が縮んでいくためです。
まとめ
水がやわらかいか固いかは、水の側では決まっていません。決めているのは「どれだけ速く押したか」です。石はその速さを使って一瞬だけ水を固い床に変え、回転で姿勢を守りながら、その床を何度も踏んで走っていきます。上からぽとんと落とした石が沈むのは、水に「どく時間」を与えてしまったからです。
水は、ゆっくり押せばよけてくれる。
速く押せば、押し返してくる。
水と石の関係をもう少し見たい方は、川の石は、なぜ丸いの?もどうぞ。水切りに向く平たい石が、どうやってできたのかが分かります。回転が姿勢を守るしくみそのものは、猫はなぜ、いつも足から着地できるの?で別の角度から扱っています。
- 洗面器に水をためます。手のひらを下に向け、ゆっくり水面に沈めます。ほとんど手ごたえはありません。次に、同じ手のひらを水面の少し上から勢いよく下ろしてみます。同じ水なのに、はっきりした手ごたえがあるはずです。速さだけで水の「固さ」が変わることが、体で分かります。
- 川原や湖のほとりで、平たい石を2つ選びます。1つは回転をかけずにそっと横向きに投げ、もう1つは指ではじいてよく回して投げます。速さが同じくらいでも、回した方が跳ねる回数が増えることが多いはずです。
- 跳ねた回数と、跳ねた場所の間隔をメモします。1回目と2回目の間隔より、後半の間隔がはっきり短くなっていることに気づくはずです。石が速さを失っていく様子が、水面に残った記録として読み取れます。
石を投げるときは、人や動物、対岸の建物がいない方向を必ず確認してください。水辺は足もとが滑りやすいので、子どもだけで行かないようにしましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・剛体の力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 作用・反作用:石が水を押すと、水は同じ大きさの力で石を押し返します。跳ねる力の正体はこれです。
- 慣性:止まっているものは動き出しにくい、という性質です。水がすぐにどいてくれないのは、水にも慣性があるからです。
- 角運動量:回転の勢いを表す量です。外から回転を変える働きがなければ保たれるので、回っている石は向きを変えにくくなります。
中学高校式で確かめる:跳ね返る力は、石の重さの何倍か
石が1回跳ねるあいだに受ける力を、ざっくり見積もります。細かい水の流れは考えず、「上向きの勢いを、どれだけ短い時間で得たか」だけで計算します。数値はしくみをつかむための目安です。
| 石の質量 | 0.05 kg(50 g の平たい石) |
| 水に触れている時間 | 0.005 秒(1回の跳ねの接触時間の目安) |
| 跳ね上がるときの上向きの速さ | 1 m/s |
| 重力の強さ | 1 kg あたり 9.8 N |
| 上向きに得た勢い(運動量) | 0.05 × 1 = 0.05 |
| それを接触時間で割ると、平均の力 | 0.05 ÷ 0.005 = 10 |
| 石にかかる重力の大きさ | 0.05 × 9.8 = 0.49 |
| 跳ね返る力は、重力の何倍か | 10 ÷ 0.49 ≒ 20 |
単位は、勢いが kg·m/s、力が N(ニュートン)です。水は一瞬のあいだに、石の重さの20倍ほどの力で押し返している計算になります。人でいえば、体重の20倍の力で下から突き上げられるようなものです。水が「固い床」に見えるのも当然だと分かります。
高校高校+なぜ角度は20度あたりに落ち着くのか
高校石が受ける上向きの力は、単位時間あたりに押しのける水の量と、その水を押しのける速さで、おおよそ決まります。傾きが深いほど押しのける水は増えます。しかし同時に、石が水中へ進む深さも増えてしまいます。増える力と、沈み込む深さの兼ね合いから、最適な角度が生まれます。
高校+この兼ね合いを整理すると、最適な角度が石の速さや質量にあまり左右されない形になることが知られています。実験でも、幅広い条件で20度前後が最良とされました。ただし石が厚い、縁が丸いといった条件では、この値からずれます。
大学回転が姿勢を保つとは、どういうことか
回転する剛体は、外から加わる力のモーメントに対して、回転軸を「その力の向き」ではなく「直角の向き」へゆっくりずらす形で応答します。この応答は歳差運動と呼ばれます。水切りの石では、着水のたびに石を起こそうとするモーメントが働きます。しかし回転が速いほどこの応答は遅くなり、次の着水までに姿勢が大きくは崩れません。回転数が毎秒10回ほどあれば十分とされています。水の側は、自由表面をともなう時間変化の激しい問題です。水面が壊れて空気を巻き込むため、扱いは簡単ではありません。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 跳ねる回数の上限 何回まで跳ねられるのかは、理論的にきれいに決まっていません。後半の細かい跳ねを1回と数えるかどうかでも、記録の意味は変わります。
- 石の形の効き方 平たさ、縁の角の丸み、表面のざらつきが跳ねやすさをどう変えるかは、実験ごとに結果がばらついています。
- 水面の状態 波、風、水の温度が跳ねやすさに与える影響は、体験としてはよく語られます。しかし数値をそろえて調べた研究は多くありません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。水面と物体がぶつかる現象は、水上を走る乗り物や、着水する機体の設計にもつながる題材として、いまも調べられています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:力のつり合い、作用・反作用 | 水が石を押し返す話 |
| 高校 | 物理基礎:運動量と力積 | 式で確かめるの計算 |
| 高校+ | 物理:剛体の回転、角運動量 | 回転が姿勢を守る話 |
| 大学 | 流体力学、剛体の力学 | 歳差運動と、自由表面の流れ |
| 研究 | 水面への衝突の実験 | 跳ねる回数の上限、石の形の効き方 |
| ― | 生活とのつながり | 水面を勢いよくたたくと痛い理由、水辺で石を投げるときの注意 |
- C. Clanet, F. Hersen, L. Bocquet「Secrets of successful stone-skipping」Nature 427巻(2004年)。最適な角度がおよそ20度であることを実験で示した論文。
- L. Bocquet「The physics of stone skipping」American Journal of Physics 71巻(2003年)。跳ねる回数と回転の関係を扱った解説。
- 日本物理学会編の一般向け解説書に収められた、水面への衝突に関する解説。
- 戸田盛和『物理と数学の風景』ほか、剛体の回転と歳差運動を扱った一般向けの解説書。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。水辺での行動については、その場の管理者や自治体の掲示・指示に従ってください。