日常のふしぎ 電磁気 予備知識なしでOK 読了 約6分

心臓は、なぜ自分から動き続けられるの?
― 胸の中で、毎秒つくられている小さな電気

眠っているあいだも、心臓は勝手に動いています。動かそうと思ったことは一度もないはずです。じつは心臓の中に、自分で電気の合図を作りつづける細胞の集まりがあります。その合図が筋肉に伝わって、ポンプの動きになっています。

公開:2026.09.09 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

手首に指を当てると、トクン、トクンと脈が返ってきます。速さは変わっても、止まったことはありません。

腕や足は、動かそうと思わなければ動きません。まぶたも、指先も、意識を切れば止まります。

なのに心臓だけは、眠っていても動き続けます。何がそれを動かしているのでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
自分で電気を作る細胞がある

心臓の上のほうに、ひとりでにリズムを刻む細胞の集まりがあります。脳から命令が来なくても、自分で電気の合図を出し続けます。

2
その電気が、決まった順番で広がる

合図は心臓の中を専用の道筋で伝わります。上の部屋から下の部屋へ順番に縮むので、血が一方向へ押し出されます。

この2つは別々の話ではありません。「合図を作る係」と「合図を配る係」がそろって、はじめて心臓はポンプになります。順番に見ていきましょう。

心臓は、自分で自分に電気の合図を送っています

心臓の右上のあたりに、洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる小さな部分があります。数ミリほどの、細胞の集まりです。

ふつうの細胞は、外から刺激が来ないかぎり静かにしています。ところが洞結節の細胞は違います。放っておいても膜の電気の状態がじりじり変わり、あるところで一気に切りかわります。これがリズムの正体です。

合図が出ると、電気は心臓の中を広がっていきます。まず上の部屋(心房)が縮み、少し遅れて下の部屋(心室)が縮みます。この「少し遅れて」が大事です。上と下が同時に縮んだら、血はうまく前へ進みません。

図1の左を見てください。合図が生まれる場所から、電気が下へ伝わっていく順番を描いています。

左:電気が伝わる順番 右:体の表面で測れる波 上の部屋(心房) ① 洞結節 下の部屋(心室) ② 房室結節 ③ 心室全体へ ① 心房の波 ② 心室の波 ③ 戻る波 これで1回の拍動
図1:左の図は心臓の模式図です。丸い点が合図の出る場所で、黄色の矢印が電気の伝わる向きを示します。右の図は、その電気が体の表面まで届いたときの形です。とがった山が下の部屋(心室)の縮む瞬間で、うすい線は次の拍動を表しています。

その電気は、胸の皮膚まで出てきています

おどろくのはここからです。心臓の中で起きた電気の変化は、心臓の中だけで終わりません。体の中は塩水に近く、電気を通します。だから電気のかたよりが、皮膚の表面までうっすら届きます。

その大きさは、およそ1ミリボルト前後とされています。乾電池の1500分の1ほどの、ごく小さな電圧です。それでも、胸や手足に貼った電極でしっかり測れます。これが健康診断でおなじみの心電図です。

つまり心電図は、電気を体に流して調べているのではありません。心臓がもともと出している電気を、外から聞いているだけです。図1の右が、そのときに見える形です。

この波の形が崩れていれば、電気の道筋のどこかで様子が変わっている、と見当がつきます。心電図が短い時間で多くを教えてくれるのは、そのためです。

💡 予備の合図係が、いくつも控えています

洞結節が休んでも、心臓はすぐには止まりません。房室結節など下流の場所も、遅いながら自分でリズムを作れます。ふだんは一番速い洞結節が主導権を握り、ほかは黙って従っています。速いほうが勝つ、という単純な決まりで順位がついています。

💡 動物によって、リズムの速さはまるで違います

ハツカネズミの心拍は1分間に数百回、ゾウは数十回とされています。体が小さいほど速い、という関係が知られています。同じしくみで動いていても、刻む速さは体の大きさで変わります。

まとめ

心臓が止まらないのは、根性でも脳の指令でもありません。自分で電気の合図を作る細胞が心臓の中にあり、その合図が決まった順番で筋肉に配られているからです。そしてその電気は、皮膚の表面からも読み取れます。

心臓は「動かされている」のではなく、
自分で合図を出して動いています。

体の中の電気については、立ちっぱなしだと足がむくむのは、なぜ?で心臓以外のポンプの話を、サメは、なぜ砂に隠れた獲物を見つけられるの?で、生き物が出す弱い電気を感じ取る話を扱っています。

🧪 自分の心臓のリズムが呼吸で変わるのを確かめる
  1. いすに深くすわり、手首の親指側に反対の手の指を軽く当てて脈を探します。強く押さえず、そっと触れるのがこつです。
  2. ふつうに呼吸したまま、15秒間の脈の数を数えます。これを2回くり返して覚えておきます。
  3. 次に、ゆっくり大きく息を吸いながら数え、続けてゆっくり吐きながら数えます。吸うときのほうが速くなることが多いはずです。

呼吸に合わせて脈が揺れる現象は、呼吸性洞性不整脈と呼ばれます。名前は難しそうですが、若い人ほどはっきり出やすい、ごくふつうの反応とされています。合図を出す場所が、神経からの調節を受けている証拠です。うまく感じ取れないときは、首の横で試すと分かりやすくなります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・生体電磁気学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:心臓は一生で何回打つのか

心臓は休みません。1回ずつは小さな動きでも、積み上げるとかなりの数になります。安静時の心拍を1分間に70回として数えてみます。

① もとになる数値
安静時の心拍1分間に約70回
1日の長さ1440分
体表で測れる心電図の大きさおよそ1ミリボルト(0.001ボルト)とされる
② 計算してみる
1日の拍動70 × 1440 = 100800
1年の拍動100800 × 365 = 36792000
80年ぶんの拍動36792000 × 80 = 2943360000

およそ29億回です。部品を替えずに29億回動く機械は、人の作るものにはなかなかありません。

③ 実感に直す
乾電池の電圧との比1.5 ÷ 0.001 = 1500

体の表面に出てくる心臓の電気は、乾電池のおよそ1500分の1です。それでも増幅すれば、紙の上にはっきり波として描けます。

高校高校+なぜ、放っておくのに電位が動くのか

高校細胞の膜には、特定の粒だけを通す小さな門がたくさん並んでいます。門の開き具合が変わると、膜の内と外の電気のかたよりが変わります。神経が信号を伝えるときも、同じしくみが働いています。

高校+洞結節の細胞では、静まっているはずの時間帯にも、じわじわと電気を運び込む流れが続いています。そのため電位が坂道のように上がり、ある高さに届いたところで一気に切りかわります。坂道の傾きが変われば、リズムの速さも変わります。運動や緊張で脈が速くなるのは、神経とその伝達物質がこの傾きを変えるからです。

大学体の表面に電位が現れる理由

心臓の中では、興奮した部分とまだ興奮していない部分のあいだに電位の差ができます。この対を、大きな電気の双極子と見なして扱うのが古典的な考え方です。体は電気を通すので、双極子が作る電位は表面まで分布します。心電図のそれぞれの誘導は、その双極子の向きを、いくつかの方向から見た成分にあたります。実際の体は形も電気の通りやすさも一様ではないため、精密な議論では体全体を数値モデルにして解きます。逆に体表の電位から心臓内部の様子を推定する問題は、答えが一つに定まりにくい難しい問題として知られています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。心臓の電気は200年ほど調べられてきましたが、リズムの根っこにはまだ研究の余地が残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・動物のからだのつくり心臓が血を送るポンプであること
高校生物・興奮の伝導/物理・電流と電圧活動電位と、体表で測れる電圧の大きさ
高校+生物・心臓の自動性と自律神経の調節坂道のように上がる電位と、脈の速さの変化
大学生理学・生体電磁気学双極子として見る心臓と、体表電位の分布
研究心臓電気生理学・再生医療リズムの源をめぐる議論と、細胞から作る歩調取り
生活とのつながり健康診断の心電図が何を見ているか、脈の測り方
参考・出典
  1. Guyton and Hall, Textbook of Medical Physiology(心臓の律動的興奮の章)
  2. 標準生理学(医学書院)循環の章
  3. Bers, D. M., Excitation-Contraction Coupling and Cardiac Contractile Force
  4. Malmivuo, J. and Plonsey, R., Bioelectromagnetism(心電図の双極子理論の章)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。脈や動悸で気になることがあるときは、自己判断せず医療機関に相談し、医師や自治体等の指示に従ってください。