宇宙は、どこから始まるの?
― 真上にたった100km。地球儀にすると、空気の層は2ミリ半しかありません
宇宙はとても遠い場所だと感じます。でも、宇宙との境目とされる高さは、真上にわずか100kmです。高速道路を車で1時間走るくらいの距離にすぎません。私たちを包む空気は、思っているよりずっと薄い膜なのです。
夜空を見上げると、星はとても遠くに見えます。宇宙は、手の届かないはるか彼方にあるように感じます。
では、車がそのまま真上へ走れたとしたらどうでしょう。時速100kmで走り続ければ、1時間後にはもう「宇宙」にいます。東京から箱根あたりまで行くのと同じくらいの距離です。
そんなに近いなら、なぜ空は果てしなく深く見えるのでしょう。そして、境目が100kmと決まっているのは、なぜなのでしょう。
境目が「100km」になった理由は2つ
空気は、のぼるほど一定の割合で減っていきます。地上近くでは、5.5kmほどのぼるごとに半分になります。100kmまで来ると、残りは地上の100万分の1にも届きません。
飛行機は、空気を翼で押して浮いています。空気が薄すぎると、浮くために必要な速さがどんどん上がります。100km前後で、その速さが「地球を回り続ける速さ」に追いつきます。
つまり100kmは、空に引かれた目に見える線ではありません。「ここから上は、空気の世界ではなく宇宙のやり方で動く」という目安です。順に見ていきましょう。
空気は、半分、半分と減っていく
空気にも重さがあります。上にある空気の重さが、下の空気を押しつぶしています。だから地面の近くほど空気はぎゅっと詰まり、上へ行くほどすかすかになります。
減り方には決まった型があります。一定の高さをのぼるたびに、同じ割合ずつ減るのです。地上近くなら、5.5kmほどのぼると半分になります。さらに5.5kmのぼると、その半分です。
図1のつまみで、高さを変えてみてください。富士山の頂上(約3.8km)では、空気は地上の6割ほどです。旅客機が飛ぶ高さ(約10km)では、およそ4分の1まで減ります。高さ50kmより上には、空気全体の0.1%しか残っていません。
100kmから上は、翼より「回り続けること」で浮く
飛行機は、翼で空気を下へ押し、その反動で浮いています。浮く力は、空気の濃さと、速さの2乗の両方に比例します。空気が4分の1に薄くなれば、速さを2倍にしないと同じ力は出ません。
空気が100万分の1まで薄くなったらどうでしょう。速さは1000倍が必要です。ふつうの飛行機では、とても出せない速さです。
一方、別の浮き方もあります。秒速約7.9km(時速2万8000kmほど)で横へ進むと、落ちる分だけ地面が丸く遠ざかります。落ち続けているのに、地球にぶつからないのです。人工衛星や宇宙ステーションは、このやり方で空にいます。
高さ80〜100kmのあたりで、翼で浮くのに必要な速さが、この「回り続ける速さ」を追いこすとされています。そこから上では、翼はもう役に立ちません。この考えを最初に示した学者の名前から、100kmの線は「カーマン・ライン」と呼ばれています。
地球儀にすると、空気はどれくらいの厚さ?
100kmと聞くと、ずいぶん高く感じます。けれど地球の直径は約1万2700kmです。比べると、100kmは直径の127分の1しかありません。
図2を見てください。直径30cmの地球儀にすると、宇宙との境は表面からわずか2.4mmです。雲や雨がある層は0.26mmで、コピー用紙3枚ほどの厚さしかありません。宇宙ステーションでさえ、表面から1cmほどの所を回っています。
宇宙飛行士の多くは、宇宙から地球を見て「空気の層が、驚くほど薄くて青い線に見えた」と語っています。私たちが吸っている空気は、地球をうっすら覆う、紙のように薄い膜なのです。
境目の上でも、空気はゼロにはなりません。高さ約400kmを回る宇宙ステーションも、ごくわずかな空気にぶつかり、少しずつ高さを下げています。そのため、ときどきエンジンをふかして高さを戻しているそうです。また、アメリカでは80km(50マイル)を宇宙飛行士の目安に使う場合もあります。境目は、自然が引いたものではなく、人が決めた約束なのです。
まとめ
宇宙との境目は、真上にわずか100kmです。空気は5.5kmほどのぼるごとに半分になり、100kmでは地上の100万分の1にも届きません。そこから先は、翼では飛べず、地球を回り続けることでしか空にいられない世界です。
宇宙は、遠くではなく「すぐ上」にある。
私たちは、地球儀なら2ミリ半の空気の膜の底で暮らしている。
高い山で息が苦しくなるわけは高山病の記事で、100km前後で光る流れ星の正体は流れ星の記事で解説しています。空気そのものの重さについては部屋の空気は何キロ?もどうぞ。
- スマートフォンに気圧計の機能があれば、気圧を表示するアプリを開きます。1階で数字を読み、エレベーターや階段で上の階へ行って、もう一度読みます。10m上がると、およそ1.2ヘクトパスカル下がるはずです。
- 地球儀かボールを用意し、直径を測ります。直径を127で割った長さが、その球にとっての「宇宙との境」です。定規で、その厚さを表面に当ててみましょう。
- コピー用紙を3枚重ねて、厚さを指でつまんでみます。直径30cmの地球儀なら、雲や雨が起きている層は、ちょうどこのくらいです。
気圧の数字は天気によっても変わります。比べるときは、短い時間のうちに上と下で続けて測りましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(大気物理学・宇宙工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 大気圧(気圧):上にある空気の重さが、面を押す力。地上では1平方センチメートルあたり約1キログラムぶんの重さに相当します。
- 大気圏:地球を包む空気の層。下から対流圏・成層圏・中間圏・熱圏と呼び分けます。
- カーマン・ライン:高さ100kmに引かれた、大気圏と宇宙空間の境目。国際航空連盟が定めた目安です。
中学高校式で確かめる:100kmでは空気はどれだけ残り、地球儀では何ミリか
気圧は「その高さより上にある空気の重さ」なので、気圧の割合がそのまま、上に残っている空気の割合になります。この割合と、地球儀に縮めた厚さを計算します。
| 記号で書くと | p = p₀ × e^( −h ÷ H ) 地球儀での厚さ d = h × D ÷ L |
| 言葉で書くと | 高さ h での気圧 = 地上の気圧 × (高さ H のぼるごとに約0.37倍、をくり返した割合)。地球儀での厚さ = 本当の高さ × 地球儀の直径 ÷ 地球の直径 |
| どこから来る式か | 薄い空気の層1枚にかかる重力と、その上下の気圧の差がつり合う(静水圧平衡)。これに、気体の濃さは気圧に比例するという性質(理想気体の状態方程式)を組み合わせると、一定の高さごとに同じ割合で減る形になります。後半は、ただの縮尺(比例)の式です。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| p | 高さ h での気圧(地上の何倍かで考える) |
| p₀ | 地上の気圧(約1013ヘクトパスカル) |
| H | スケールハイト。気圧が約0.37倍になる高さ(単位はkm) |
| D・L | 地球儀の直径(mm)と、地球の直径(km) |
| スケールハイト H(0〜100kmの平均の目安) | 約7km(地上付近は約8km、冷たい上空では約6km) |
| 宇宙との境の高さ h | 100km |
| 地球の直径 L | 約1万2700km |
| 地球儀の直径 D | 300mm(30cm) |
| コピー用紙1枚の厚さ | 約0.09mm |
| 指数の中身(h ÷ H) | 100 ÷ 7 ≒ 14.3 |
| e を底に、その分だけ小さくした割合 | およそ 0.0000006(約160万分の1)とされます |
| 地球儀での厚さ:まず h × D | 100 × 300 = 30000 |
| それを地球の直径で割る | 30000 ÷ 12700 ≒ 2.36 |
| 雲・雨の層(約11km):11 × D | 11 × 300 = 3300 |
| それを地球の直径で割る | 3300 ÷ 12700 ≒ 0.26 |
| 紙何枚ぶんか | 0.26 ÷ 0.09 ≒ 2.9 |
100kmより上に残る空気は、全体のおよそ160万分の1です(実際の観測にもとづく標準の値では、さらに少なく300万分の1ほど)。地球儀に縮めると、宇宙との境は表面から約2.4mm、雲や雨の層は紙3枚ほどになります。
高校高校+空気の層のつくりと、減り方が「指数」になるわけ
高校地学基礎では、大気を温度の変わり方で4つの層に分けます。下から約11kmまでが対流圏で、雲や雨などの天気はほぼここで起きます。その上の成層圏にはオゾン層があり、約50kmから中間圏、約80〜90kmから熱圏になります。流れ星やオーロラが光るのは、中間圏の上部から熱圏にかけてです。
高校+「一定の高さごとに同じ割合で減る」という減り方は、量が多いほど減る量も多い、という関係から生まれます。上にある空気が多いところほど、のぼったときに失う重さも大きいからです。これは、放射性物質の半減期と同じ形の式になります。
大学気圧の測高公式と、国際標準大気・カーマン・ライン
静水圧平衡の式と理想気体の状態方程式を合わせると、気圧の高度分布を表す「測高公式」が得られます。ここでのスケールハイトは、気体定数・温度・平均分子量・重力加速度で決まります。温度が高さで変わるため、実際には層ごとに分けて積み上げた「国際標準大気」というモデルが使われます。境界の100kmは、空力的な揚力で機体を支える速さが第一宇宙速度(円軌道速度)を超える高さ、というカーマンの見積もりにもとづきます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:スケールハイト(ウィキペディア) / 国際標準大気(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 大気は、どこで本当に終わるのか。 地球のまわりには、水素がうすく光る層が広がっています。太陽観測衛星の古いデータを調べ直した研究で、この層が月の軌道より先まで届いているという報告があります。
- 上空の空気の濃さの予測。 高さ数百kmの空気の濃さは、太陽の活動や磁気嵐で大きく変わります。磁気嵐の直後に、打ち上げたばかりの多数の小型衛星が空気の抵抗で落ちた例もあり、予測の精度向上が課題です。
- 観測の空白地帯。 高さ50〜150kmあたりは、気球では届かず、人工衛星が回るには低すぎます。直接測る手段が限られ、まだよく分かっていない現象が多い層とされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。宇宙との境目そのものも、科学の進展や使う目的によって見直される可能性があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「気象とその変化」(大気圧) | 空気の重さが下の空気を押している、という説明 |
| 高校 | 地学基礎「大気の構造」、物理基礎「圧力」 | 対流圏・成層圏・中間圏・熱圏、図1の帯 |
| 高校+ | 数学「指数関数」 | 一定の高さごとに同じ割合で減る、という減り方 |
| 大学 | 大気物理学・宇宙工学 | 測高公式、国際標準大気、第一宇宙速度との比較 |
| 研究 | 超高層大気物理・宇宙天気 | 大気の果て、上空の濃さの予測、観測の空白地帯 |
| ― | 生活とのつながり | 高い山や飛行機で息苦しさや耳の違和感が出るわけ、スマートフォンの気圧計 |
- ウィキペディア「カーマン・ライン」
- ウィキペディア「国際標準大気」
- NOAA・NASA・アメリカ空軍「U.S. Standard Atmosphere, 1976」
- 国際航空連盟(FAI)宇宙の境界に関する声明(2018年)
- JAXA 有人宇宙技術部門「国際宇宙ステーション」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。上空の空気の量は温度や太陽の活動によって変わり、境目の高さも機関や目的によって異なる場合があります。