シャボン玉は、なぜ四角い枠で吹いても丸くなるの?
― 膜が縮む力と、中の空気が押す力。つり合える形は球だけです
星形の枠で吹いても、四角い枠で吹いても、飛んでいくシャボン玉は丸い玉です。形を決めているのは枠ではありません。いつも縮もうとしている膜と、どの向きにも同じ強さで押す中の空気です。この2つがどこでも同じようにつり合える形は、球しかないのです。
子どもが、おもちゃ屋で買った星形の枠でシャボン玉を吹いています。「星のシャボン玉ができるかな」と期待して、そっと息を吹きこみます。
ところが枠を離れたとたん、玉はふるふると揺れて、いつもの丸い形になってしまいます。四角い枠でも、ハート形の枠でも同じです。
「どうして星にならないの?」と聞かれたら、なんと答えますか。じつはこの問いには、はっきりした答えがあります。
丸くなる理由は2つだけ
シャボン玉の膜は、ぴんと張ったゴムのように、面積を小さくしようとしています。同じ量の空気を包むのに、面積がいちばん小さくてすむ形が球です。
閉じこめられた空気は、上にも下にも横にも、同じ強さで膜を押し返します。どこか一か所だけ出っ張ったりへこんだりした形は、長くは保てません。
枠の形が効いているのは、膜が枠についている間だけです。枠から離れた瞬間から、形を決めるのはこの2つの力だけになります。
膜は、面積を減らしたがっている
水の表面には、表面を小さくしようとする力がはたらいています。水の粒どうしが互いに引き合っているからです。葉の上の水滴が丸くなるのも、この力のためです。
シャボン玉の膜は、せっけん水のうすい層です。厚さは髪の毛の数十分の1ほどしかないとされます。この膜にも、表と裏の両面で同じ縮む力がはたらいています。せっけんは膜を破れにくくする役目をしていて、そのおかげで大きく広げられるのです。
では、同じ量の空気を包むとき、どの形なら面積がいちばん小さいでしょうか。答えは球です。図1の右側のように、同じ体積の立方体は、球より表面積が約24%も大きくなります。星形なら、とがった先の分だけ面積はもっと増えます。縮みたがる膜は、角を少しずつならして、面積の小さい丸い形へ落ち着くのです。
中の空気が、形をならしている
膜が縮むだけなら、シャボン玉はつぶれて消えてしまいます。そうならないのは、中に閉じこめた空気が押し返すからです。空気の押す力は、どの向きにも同じ強さです。
もし膜の一部がとがって出っ張ると、そこは曲がり方がきつくなります。曲がりのきつい場所ほど、膜が内側へ引く力は強くなります。すると出っ張りは押し戻されます。逆に平らにへこんだ場所は、空気に押し出されます。こうして、曲がり方がどこでも同じ形、つまり球に落ち着くのです(図1の左)。
中の空気は、外よりどれくらい強く押しているのでしょう。計算すると、直径4cmの玉で外の空気の約2万分の1しか高くありません(最後の折りたたみで計算します)。ほんのわずかな差で、形が保たれているのです。
小さい玉ほど、中の空気は強く押している
ここに、意外な性質があります。膜が内側へ引く力は、玉が小さいほど強くなります。小さい玉は曲がり方がきついからです。そのため小さいシャボン玉ほど、中の空気は強く押し返しています。
大小2つのシャボン玉を管でつなぐと、どうなるでしょうか。風船と同じように「大きいほうがしぼむ」と思いがちです。ところが実際は逆です。図2のように、小さい玉の空気が大きい玉へ流れこみ、小さい玉はしぼんでしまいます。
両手を広げたほどの巨大なシャボン玉は、ぐにゃぐにゃとゆがみながら飛びます。玉が大きいほど、膜が形を整える力は弱くなります。そのため風や膜の重さに負けてしまうのです。丸い形は、ほどよい大きさの玉だけの特権です。
膜の液は、重さでゆっくり下へ流れ落ちます。乾燥もするので、上のほうから薄くなっていきます。いちばん薄くなった所に穴があくと、一瞬で割れてしまいます。
まとめ
シャボン玉の膜は、いつも面積を減らそうとしています。中の空気は、どの向きにも同じ強さで押し返します。この2つが膜のどこでも同じようにつり合える形は、球だけです。枠が星形でも四角でも、離れてしまえば関係ありません。
シャボン玉の丸さは、枠が決めるのではない。
縮みたい膜と、押し返す空気の「話し合い」の答えが、球なのです。
膜の表面に浮かぶ虹色の模様についてはシャボン玉が虹色に見えるわけで、泡がたくさん集まったときの形の決まりごとはハチの巣が六角形になるわけで紹介しています。
- 針金ハンガーを曲げて、四角い枠と三角の枠を作ります。どちらで吹いても、飛んでいく玉は丸くなるかを見てみましょう。
- 枠をせっけん水にひたして持ち上げると、平らな膜が張ります。枠のどこかに糸の輪を浮かべ、輪の内側の膜だけを指でつついて割ると、糸がぴんと丸く広がります。
- ぬらしたお皿の上に、ストローで半球のシャボン玉を2つ作ります。大きさを変えておき、1本のストローの両端をそれぞれの玉の中に入れると、小さいほうがしぼんでいきます。
せっけん水は、台所用洗剤を水で10倍ほどにうすめると作れます。目に入らないよう気をつけ、終わったら手を洗いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(界面科学・流体力学・幾何学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 表面張力:液体の表面が、面積を小さくしようとする性質。水滴が丸くなるのもこのためです。
- 界面活性剤:せっけんや洗剤の成分。水の表面に並んで、うすい膜を破れにくくします。
- ラプラス圧:曲がった膜をはさんだ、内側と外側の圧力の差。曲がりがきついほど大きくなります。
中学高校式で確かめる:シャボン玉の中の圧力は、外よりどれだけ高い?
シャボン玉を半分に切ったと考えます。切り口では、膜が縮む力が玉を閉じようと引いています。一方、中の空気は切り口の円の面積いっぱいに押し返しています。この2つのつり合いから、中と外の圧力の差が求まります。
| 記号で書くと | Δp = 4 × γ ÷ R |
| 言葉で書くと | 中と外の圧力の差 = 4 × 膜の表面張力 ÷ 玉の半径 |
| どこから来る式か | 半球に切ったときの力のつり合い。膜は表と裏の2面あるので、縮む力は「2 × γ × 切り口の円周」。これが「Δp × 切り口の円の面積」と等しいとおくと、この式になります(ヤング・ラプラスの式を、両面の膜に当てはめたもの)。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| Δp | 中と外の圧力の差(単位はパスカル、Pa) |
| γ | せっけん水の表面張力(単位は N/m)。およそ 0.025 N/m とされます(水だけなら約 0.072 N/m) |
| R | 玉の半径(単位は m)。直径4cmの玉なら 0.02 m |
| 外の空気の圧力(大気圧) | 約 101300 Pa |
| 分子(4 × γ) | 4 × 0.025 = 0.1 |
| 直径4cmの玉の圧力差(Pa) | 0.1 ÷ 0.02 = 5 |
| 大気圧の何分の1か | 101300 ÷ 5 = 20260 |
| 直径1cmの小さい玉(R = 0.005 m) | 0.1 ÷ 0.005 = 20 |
| 小さい玉は大きい玉の何倍押すか | 20 ÷ 5 = 4 |
直径4cmの玉の中は、外よりわずか 5 Pa 高いだけです。大気圧のおよそ2万分の1にすぎません。直径1cmの玉では 20 Pa となり、4倍の強さで押しています。だから、つないだときには小さい玉から大きい玉へ空気が流れるのです。
| 体積1の球の表面積 | 約 4.84 とされる |
| 体積1の立方体の表面積 | 6 |
| 立方体は球の何倍か | 6 ÷ 4.84 ≒ 1.24 |
同じ量の空気を包むなら、立方体は球より約24%多く膜を使います。縮みたい膜にとっては、それだけ「損な形」なのです。
高校高校+力のつり合いと、表面のエネルギー
高校上の計算は、高校物理の「力のつり合い」と「圧力 = 力 ÷ 面積」だけでできています。半球を押す空気の力と、切り口を引く膜の力が等しい、と考えるだけです。
高校+表面張力は、表面を1だけ広げるのに必要なエネルギーとも考えられます。膜の面積が小さいほど、たくわえているエネルギーも小さくなります。物は、エネルギーが小さい状態へ落ち着こうとします。だから膜は、同じ体積のもとで面積が最小の球を選ぶのです。
大学ヤング・ラプラスの式と、平均曲率が一定の曲面
一般の曲がった膜では、圧力の差はヤング・ラプラスの式で表され、膜の2方向の曲率半径の逆数の和に比例します。圧力差がどこでも同じなら、この和、つまり平均曲率もどこでも一定でなければなりません。閉じていて、自分と交わらない、平均曲率一定の曲面は球に限られます。これはアレクサンドロフの定理として知られています。体積を決めて面積を最小にする形が球であることは、等周問題の3次元版です。泡がたくさん集まった泡沫では、膜の交わり方にプラトーの法則という決まりがあります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「ヤング・ラプラスの式」 / ウィキペディア「プラトーの法則」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- シャボン玉の寿命は、なぜこれほどばらつくのか。 膜の液が流れ落ちる速さや、蒸発、ほこりの影響が重なります。同じ液でも、割れるまでの時間を正確に予測するのは難しいとされています。
- 巨大シャボン玉の液の最適な配合。 長い分子(高分子)を混ぜると大きな膜が作りやすくなることが知られ、そのしくみの研究が続いています。
- 膜の中の流れのくわしい姿。 表面張力のわずかな差が生む流れ(マランゴニ流)が、膜を薄くしたり厚くしたりします。その全体像はまだ研究の途中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。丸くなる理由ははっきりしていますが、いつ割れるかは、今も研究の対象です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「圧力」 | 中の空気がどの向きにも同じ強さで押すこと |
| 高校 | 物理「力のつり合い」「圧力」 | 半球での力のつり合いから圧力差を出す計算 |
| 高校+ | 物理(発展)「表面張力」 | 表面のエネルギーを最小にする形としての球 |
| 大学 | 界面科学・微分幾何 | ヤング・ラプラスの式、平均曲率一定曲面、等周問題 |
| 研究 | ソフトマター物理 | 膜の寿命、巨大シャボン玉、膜の中の流れ |
| ― | 生活とのつながり | シャボン玉遊び、水滴や泡が丸くなること |
- ウィキペディア「表面張力」
- ウィキペディア「ヤング・ラプラスの式」
- C. V. Boys, "Soap Bubbles: Their Colours and the Forces Which Mould Them", 1890(邦訳『シャボン玉の科学』)
- C. Isenberg, "The Science of Soap Films and Soap Bubbles", Dover, 1992
- P.-G. ドゥジェンヌ ほか『表面張力の物理学』吉岡書店
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。せっけん水が目に入ったときは、すぐに水で洗い流してください。