日常のふしぎ 波動 予備知識なしでOK 読了 約5分

録音した自分の声が別人に聞こえるのは、なぜ?
― 自分だけが、骨を伝わる音を足して聞いています

留守番電話や動画で自分の声を聞いて、思わず「これ、自分じゃない」と感じたことはないでしょうか。録音が下手なわけでも、機械が声をゆがめているわけでもありません。ふだんあなたが聞いている自分の声のほうに、耳の中でしか起きていない「おまけ」が付いているのです。

公開:2026.09.12 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

友だちと撮った動画を、あとから再生してみます。友だちの声は、いつもどおりの声で聞こえます。

ところが自分の番になると、なんだか薄っぺらくて、高くて、頼りない声が流れてきます。「録音のせいだ」と思いたくなります。

でも、友だちはその録音を聞いて「いつものあなたの声だね」と言います。おかしいのは録音ではなく、自分だけが聞いている声のほうなのです。

理由は、大きく2つです

1
自分の声には、道が2本ある

他人の声は、空気を通ってしか耳に届きません。ところが自分の声には、のどの振動が頭の骨を伝わって直接耳の奥に届く、もう1本の道があります。

2
骨の道は、低い音をよく運ぶ

骨を伝わる道は、低い成分を比較的よく通すとされています。だから自分の声だけが、低く、太く、厚みのあるものとして聞こえます。

録音のマイクが拾えるのは、空気を通る道だけです。つまり録音の声とは、あなた以外の全員がいつも聞いている、あなたの本当の声のことです。

道が2本ある、とはどういうことでしょう

声は、のどにある声帯という2枚のひだが細かく震えることで生まれます。この震えは口から空気へ出ていきますが、同時に、のど・あご・頭の骨そのものも小さく揺らしています。

骨は空気よりずっと固く、振動をよく伝えます。だから声帯の震えは、頭の骨をつたって耳の奥にある音のセンサーへ、外を回らずに直接届きます。前者を空気の道、後者を骨の道と呼び分けておきましょう。図1を見てください。他人の声には左の道しかなく、自分の声には2本の道があります。

左:他人に聞こえている声 右:自分に聞こえている声 話す人 聞く人の耳 空気 空気の道(実線)だけ 耳の奥 のど(声帯) ①空気の道(実線)に加えて ②骨の道(点線)も重なる
図1:左の枠が他人に聞こえている声で、空気の道(実線の矢印)だけを通ります。右の枠が自分に聞こえている声で、外を回る実線の矢印に加えて、のどから耳の奥へ向かう点線の矢印がもう1本重なります。

なぜ、低い声に聞こえるのでしょう

2本の道は、同じ声を同じだけ運ぶわけではありません。骨の道は低い成分を比較的よく通し、高い成分はあまり通さないとされています。

その結果、自分の耳に届く声は「空気の道の音」に「低い成分の多い骨の道の音」が足し算されたものになります。図2の点線が、自分に聞こえている声です。左側、つまり低いほうが持ち上がっているのが分かります。

録音を再生すると、この足し算のうち骨の分がごっそり抜けます。低い土台を失った声は、細く、高く、頼りなく感じられます。私たちが録音に感じる違和感の正体は、この引き算です。

縦:耳への届きやすさ 点線:自分に聞こえる声 実線:録音で聞く声 低い 高い 声にふくまれる音の高さ(左ほど低い)
図2:横軸は声にふくまれる音の高さで、左端が低く右端が高いほうです。点線が自分に聞こえている声、実線が録音で聞く声。左端で二つの差がいちばん大きく、右へ行くほど重なっていきます。
💡 両耳をふさぐと、自分の声が急に太くなります

話しながら両耳の穴を指で軽くふさぐと、自分の声が大きく低く響きます。耳の穴をふさぐと、骨を伝わって耳の穴の中に生まれた低い音が外へ逃げられなくなるためで、外耳道閉鎖効果と呼ばれます。骨の道が本当にあることを、道具なしで確かめられる現象です。

💡 「自分の声が苦手」は、ほとんどの人が感じます

録音の声に違和感を持つのは、耳や録音機の性能の問題ではなく、しくみのうえで誰にでも起きることです。聞き慣れた音とのずれが気持ち悪さになるだけなので、繰り返し聞いていると違和感はしだいに薄れていきます。

まとめ

自分の声だけは、空気の道と骨の道という2本立てで自分の耳に届きます。骨の道が低い成分を足してくれるぶん、私たちは自分の声を実際より低く豊かに聞いています。録音はその足し算のない、素の声です。

自分の声が変なのではありません。
自分だけが、おまけ付きの声を聞いていたのです。

音が耳に届くまでの道のりについては、目をつぶっていても、音がどっちから来たか分かるのは、なぜ?や、かくれんぼで、姿は見えないのに声だけ聞こえるのは、なぜ?もあわせてどうぞ。

🧪 骨の道を、自分の頭で確かめる
  1. 「あー」と声を出しながら、両耳の穴を指で軽くふさいでみます。声が急に太く大きくなったら、それが骨の道の音です。
  2. 次に、声を出さずに歯を軽く合わせてみます。まわりではほとんど鳴っていないのに、頭の中では大きく響きます。
  3. スマートフォンで自分の声を録音し、両耳をふさいだ状態で再生してみます。ふさいでも録音の声は太くなりません。骨の道が関わるのは、自分がいま出している声だけだからです。

耳の穴に指を深く入れたり、強く押し込んだりしないでください。軽くふたをするだけで十分です。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(音響学・聴覚生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:2本の道は、どれくらい時間が違うのでしょう

骨は空気よりずっと速く振動を伝えます。声帯から耳の奥まで、2本の道が何秒ずつかかるのかを比べてみます。

記号意味と単位
L音が進む距離。単位はメートル
V音が進む速さ。単位はメートル毎秒
Tかかる時間。単位は秒
① もとになる数値
空気の中を音が進む速さ(気温15度)約340 メートル毎秒
口から耳の穴までの距離約0.15 メートル
頭の骨を振動が進む速さ約3000 メートル毎秒 とされています
のどから耳の奥までの骨の距離約0.1 メートル
② 計算してみる
空気の道にかかる時間(秒)0.15 ÷ 340 ≒ 0.00044
骨の道にかかる時間(秒)0.1 ÷ 3000 ≒ 0.000033
空気の道は骨の道の何倍か0.00044 ÷ 0.000033 ≒ 13
空気の道をミリ秒に直すと0.00044 × 1000 = 0.44

骨の道のほうが13倍ほど速く着きます。ただし差そのものは0.4ミリ秒ほどで、これは左右の耳に音が届く時間差とほぼ同じ大きさです。私たちはこの2つを別々の音としてではなく、1つの声として聞いています。

高校高校+なぜ骨の道は低い音に偏るのでしょう

高校音は、固いものほど速く、よく伝わります。空気と骨のように性質が大きく違うものの境目では、音の多くがはね返されて先へ進めません。口から出た声が自分の頭の骨をふたたび揺らしにくいのは、このためです。

高校+頭全体を1つのおもりとばねの組と見ると、速い振動ほど動かしにくくなります。骨導では、頭蓋骨の共振や下あごの動きが効く数百ヘルツあたりまではよく伝わり、それより高い側では伝わりにくくなる傾向があるとされています。

大学骨導には、少なくとも3つの経路があります

聴覚生理学では、骨導の内訳を複数の経路に分けて考えます。頭蓋骨の振動が内耳の液を直接ゆらす経路、振動が耳小骨を揺らす経路、そして骨の振動が耳の穴の壁から空気中へ放射され、あらためて鼓膜を鳴らす経路です。耳の穴をふさいだときに声が太くなるのは、3つめの経路の音が逃げ場を失うためだと説明されています。自分の声の聞こえ方は、この3つの合計として決まります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。骨の道があること自体は確かめられていますが、その内訳の配分はまだ議論が続いています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・音の性質/感覚器官声が振動として伝わる話、耳のつくり
高校物理基礎・波/生物基礎・受容器物質による音の速さの違い、内耳が振動を受け取るしくみ
高校+物理・波の反射と共振性質の違う物質の境目で音がはね返る話
大学音響学・聴覚生理学骨導の3つの経路と外耳道閉鎖効果
研究聴覚科学・生体医工学経路の配分、骨導を使う機器の個人差
生活とのつながり録音の声への違和感、耳をふさいだときの声の変化
参考・出典
  1. アメリカ国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)「How Do We Hear?」
  2. Stenfelt, S.「Acoustic and Physiologic Aspects of Bone Conduction Hearing」Advances in Oto-Rhino-Laryngology, 2011
  3. 日本音響学会 編『音響学入門』コロナ社
  4. 切替一郎 原著・野村恭也 編『新耳鼻咽喉科学』南山堂

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。聞こえ方に気になる変化があるときは、自己判断せず耳鼻咽喉科の医師にご相談ください。