日常のふしぎ 流体 予備知識なしでOK 読了 約6分

シャワーを浴びていると、なぜカーテンが体に吸い寄せられてくるの?
― 落ちるお湯が、内側の空気を引きずり出しています

押しても押しても、シャワーカーテンはまた内側へふくらんできます。犯人は湯気でも静電気でもありません。落ちていくお湯が、まわりの空気をいっしょに引きずり下ろしているのです。

公開:2026.09.11 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

シャワーの栓をひねります。お湯が出はじめて数秒、ふとももに冷たい布がぺたりと触れます。

手の甲で外へ押し返します。カーテンはいったん離れますが、すぐにまた同じところへ戻ってきます。

湯気で重くなったのかな、と思うかもしれません。でも、水のシャワーでも同じことが起きます。

理由は、大きく2つだけです

1
落ちる水が、空気を道連れにする

水の粒は、すぐ横にある空気を引っぱりながら落ちていきます。カーテンの内側では、空気が下へ運び去られ続けている状態になります。

2
運び出された分だけ、内側の圧力が下がる

狭い囲いの中では、抜けた空気がすぐには補えません。内側がほんの少し低い圧力になり、外側の空気がカーテンを押し込みます。

ポイントは「吸い寄せられている」のではなく、「外から押されている」ことです。カーテンはとても軽いので、ごくわずかな圧力の差でも動いてしまいます。順に見ていきましょう。

水は、空気を引きずりながら落ちている

シャワーから出た水は、細かい粒になって落ちていきます。粒の表面には空気がふれていて、落ちる粒はその空気を下へ引っぱります。

引っぱられた空気は、さらにそのとなりの空気を引っぱります。こうして、水の落ちる道すじに沿って、細い下向きの風ができます。この「水が空気を連れていく」はたらきを、流体の分野では巻き込みと呼びます。

浴槽のまわりはカーテンで囲われていて、空気の通り道は足元のすきまくらいです。運び出された空気を、外からすばやく補うことができません。その結果、内側の圧力が外側よりわずかに低い状態が続きます。図1を見てください。下向きの矢印が空気の流れ、外から内へ向かう矢印がカーテンを押す力です。

浴室の断面(横から見たところ) 浴槽・床 シャワー 落ちる水の粒 引きずられて下へ動く空気 内側:空気が運び出され、圧力が低い カーテン(内側へふくらむ) 点線:もとの位置 外側の空気が押す
図1:左のシャワーから落ちる水が、黄色い下向きの矢印のように空気を引きずり下ろします。囲いの内側は圧力がわずかに下がり、右のカーテンは外からの横向きの矢印に押されて、点線で示したもとの位置より内側へふくらみます。

ほんの数パスカルで、布は動いてしまう

内側と外側の圧力の差は、測ってもごくわずかだとされています。ふだん私たちが暮らしている大気の圧力の、10万分の1ほどの違いです。それでも布は動きます。

理由は、面積です。カーテンは、たたみ1畳分ほどの広さがあります。小さな圧力の差でも、広い面にかかれば合計の力は無視できない大きさになります。折りたたみの「式で確かめる」で、実際に計算してみます。

しかもカーテンはとても軽く、下の端は固定されていません。ちょっとした力で、振り子のように内側へ振れてしまいます。押し返してもすぐ戻るのは、空気の流れがシャワーを止めるまで続いているからです。

💡 お湯だと、もっと強くなります

お湯のシャワーでは、あたためられた空気が上へのぼる流れも加わります。囲いの中で空気がぐるりと回る動きが強まり、カーテンはより内側へ寄りやすくなります。ただし水のシャワーでも起きるので、湯気が主役ではありません。

💡 対策は「重さ」か「すきま」

裾を浴槽の内側に垂らす、裾に重りの入ったカーテンを使う、洗濯ばさみでタオルをはさむ。どれも内側へ振れにくくする工夫です。逆に、浴室の扉を少し開けて空気の入る道をつくると、圧力の差そのものが小さくなります。

まとめ

シャワーカーテンが寄ってくるのは、静電気でも湯気の重さでもありません。落ちる水が空気を連れ去り、囲いの内側の圧力がわずかに下がる。その差に、軽くて広い布が負けているだけです。

カーテンは吸われているのではありません。
外側の空気に、そっと押されているのです。

空気や水の「流れと圧力」の話は、ほかの場面でも顔を出します。なぜストローで飲み物が飲めるの?では、押す側と押される側の関係を、もっとはっきりした形で見ることができます。飛行機はなぜ飛ぶの?もあわせてどうぞ。

🧪 自分で確かめてみる
  1. シャワーを出したまま、カーテンの内側に手のひらを立ててかざします。下向きの弱い風を感じられれば、空気が引きずられている証拠です。
  2. 同じ強さで、熱いお湯と水の両方を試します。水でもカーテンが寄ってくれば、湯気が原因ではないと確かめられます。
  3. カーテンの裾に洗濯ばさみを3つほど留めて、もう一度出します。重さが増えると、寄り方が弱まるはずです。

浴室の床はすべりやすいので、手すりや壁に触れられる姿勢で試してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:数パスカルは、どれくらいの力か

カーテンにかかる力は、圧力の差に面積をかけたものです。記号の意味は次のとおりです。

記号の意味
P内側と外側の圧力の差。単位はパスカル
Sカーテンが受ける面積。単位は平方メートル
Fカーテンが押される力。単位はニュートン
① もとになる数値
カーテンの幅1.5 メートル
カーテンの高さ1.8 メートル
内側と外側の圧力の差2 パスカル(ごくわずかな差の目安)
② 計算してみる
面積を出す1.5 × 1.8 = 2.7
力を出す2 × 2.7 = 5.4
身近な重さに直す5.4 ÷ 9.8 ≒ 0.55

面積は2.7平方メートル、力は5.4ニュートン、重さに直すとおよそ0.55キログラムです。500ミリリットルの飲み物1本分ほどの力で、内側へ押されていることになります。カーテンそのものの重さは200グラム前後ですから、負けるのも当然です。

高校高校+「流れが速いと圧力が下がる」だけでは足りません

高校高校では、流れが速いところほど圧力が低くなる、という関係を習います。シャワーの近くでは空気が下向きに動いているので、その分だけ圧力が低い、という説明は一応成り立ちます。

高校+ただし、この関係は同じ流れの筋道の上でしか使えません。カーテンの内側と外側は別々の空気なので、単純には比べられないのです。より確かな説明は、囲いの中で空気が回り続ける渦ができ、その渦の中心の圧力が低くなる、というものです。

大学渦の中心は、なぜ圧力が低いのか

回る流れの中では、空気は円を描くために中心へ向かう力を必要とします。その力を用意しているのが、外側から中心へ向かって圧力が下がっていく状態です。つまり、渦があれば中心はまわりより低い圧力になります。台風の目のあたりが低気圧なのと同じ理屈です。浴室という狭い箱の中では、この渦が壁に沿って閉じこめられ、長く居座ります。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近な現象ほど、まじめに調べると難しいという例でもあります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・力と圧力圧力の差が力を生むところ
高校物理基礎・物理/流体流れの速さと圧力の関係
高校+物理の発展・粘性と渦単純な説明では足りない理由
大学流体力学・数値流体計算渦の中心が低い圧力になる話
研究室内の気流・気体と液体が混じる流れどの効果が主役かという問い
生活とのつながり裾の重り・扉のすきまという対策
参考・出典
  1. David P. Schmidt「Why does the shower curtain move toward the water?」(2001年、数値流体計算による検討。2001年のイグ・ノーベル賞物理学賞の対象)
  2. Improbable Research「Ig Nobel Prize winners」受賞者一覧(2001年物理学賞の項)
  3. アメリカ航空宇宙局 グレン研究センター「Bernoulli's Equation」(流れの速さと圧力の関係の解説)
  4. 日本機械学会編『流体力学』(JSMEテキストシリーズ、丸善出版)― 粘性・巻き込み・渦の基礎
  5. 空気調和・衛生工学会編『空気調和・衛生工学便覧』― 浴室まわりの換気と気流に関する記述

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。浴室での確認は転倒に注意し、住宅設備の扱いについては取扱説明書や管理者の指示に従ってください。