日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約6分

春じゃないのに、なぜ9月に鼻がムズムズするの?
― 秋の花粉は、背の低い草から飛んでいます

秋の花粉は、春の花粉とは出どころが違います。高い木ではなく、道ばたの低い草から出ています。だから飛ぶ距離がぐんと短く、「近づかない」だけで効き目があります。

公開:2026.09.11 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

9月の朝、くしゃみが止まりません。鼻水も出ます。「風邪をひいたかな」と思います。

でも熱はありません。のども痛くありません。しかも、去年の同じころも同じでした。

春の花粉は終わったはずです。それなのに、なぜ今なのでしょう。

理由は2つだけです

1
秋にも、花粉を飛ばす植物がいる

春はスギやヒノキという高い木が花粉を出します。秋に出すのは、ブタクサやヨモギといった背の低い草です。時期が半年ずれているだけで、しくみは同じです。

2
体が花粉を「敵」として覚えてしまう

花粉そのものに毒はありません。体の守りのしくみが、花粉を危険なものだと勘違いして覚え、次からは全力で追い出そうとします。その追い出す動作が、くしゃみと鼻水です。

この2つがそろうと、秋の症状になります。そして1つめの「背が低い」という点が、春との大きな違いを生みます。

背が低いと、花粉は遠くまで飛べません

花粉はとても軽い粒ですが、それでも空気の中をゆっくり落ちていきます。高いところから出れば、落ちきるまでに時間がかかります。その長い時間のあいだ、ずっと風に運ばれ続けます。

スギの花粉は、高さ20メートルほどの木のてっぺんから出ます。落ちきるまでに長くかかるので、風に乗って何キロメートルも移動できます。だから春は、近くに木が1本もなくても症状が出ます。

いっぽうブタクサの背丈は1メートルほどです。出た花粉は、すぐ地面に届いてしまいます。図1を見てください。同じ風でも、届く距離が桁違いになるのが分かります。

左:春の花粉(高い木から) 右:秋の花粉(低い草から) 高さ 約20m 矢印は花粉の道すじ 数km 先まで届く 高さ 約1m 数百m で落ちてしまう 点線の右がわが秋の話です
図1:左の高い木と、右の低い草のちがい。中央の縦の点線が2つの場面の区切りです。オレンジ色の矢印は花粉の道すじで、小さい丸は飛んでいる花粉を表しています。出る高さが20分の1になると、風に運ばれる距離も大きく短くなります。

なぜ、去年までは平気だったのでしょう

「急に花粉症になった」という話をよく聞きます。これは体の守りのしくみの、覚える性質から説明できます。

体の中には、外から入ったものを見分ける細胞がいます。この細胞が花粉を「敵」と判定すると、その形に合う目印の道具を作って用意しておきます。これが1回目です。このときは、まだ何も起きません。

用意ができたあと、また同じ花粉が入ってくると、今度はすぐに見つかります。鼻の粘膜にいる細胞が刺激され、たくわえていた物質を放出します。その物質が神経や血管をゆさぶり、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが起きます。図2の3つの段階です。

左:1回目 花粉が鼻に入る このときは 症状は出ません 中央:覚える 形に合う目印を 作って用意する 何年もかかります 右:2回目から 鼻の細胞が 物質を放出する くしゃみ・鼻水 矢印は時間の流れです。左から右へ、何年もかけて進みます。
図2:花粉症が起きるまでの3つの段階。左の箱が初めて吸ったとき、中央の箱が体が覚える段階、右の箱が症状が出る段階です。あいだの2本の矢印は、時間が左から右へ流れることを表しています。

つまり「去年まで平気だった」のは、体がまだ用意を終えていなかっただけ、と考えられています。用意が終わった年から、急に始まります。

💡 風邪との見分け方のヒント

秋の鼻の症状は、風邪とよく間違えられます。目安になるのは、さらさらの鼻水が続くこと、目やのどのかゆみがあること、熱が出ないこと、そして毎年同じ時期に起きることです。ただし見分けは簡単ではありません。長引くときは医療機関で調べてもらうのが確実です。

💡 秋の草は、どこに生えているでしょう

ブタクサやヨモギは、河川敷・空き地・線路ぎわ・道路のわきなど、手入れされていない地面によく育ちます。ジョギングや犬の散歩の道を少し変えるだけで、吸う量が変わることがあります。

まとめ

秋の鼻のムズムズは、風邪ではなく草の花粉かもしれません。春の花粉と違って、出どころが低いところにあります。そのぶん飛ぶ距離が短く、自分の行き先を変えるという単純な方法が効きます。

春の花粉は空から降ってきます。
秋の花粉は、足もとから立ちのぼっています。

体が「敵」を覚えてしまうという同じしくみは、「ハチに2回刺されると危ない」は、本当なの?でも主役になっています。鼻がつまると味が分からなくなる理由はかぜをひくと、なぜ食べ物の味がしなくなるの?で説明しています。

🧪 飛んでいる粒を、自分の目で見てみる
  1. 透明なセロハンテープを5センチほど切り、粘着面を上にして紙の上に貼りつけます。これを窓ぎわやベランダに半日置きます。
  2. 半日たったら、テープを透明なカードやガラスにそっと貼ります。虫めがねで見ると、小さな粒がついているのが分かります。
  3. 同じことを、風の強い日と雨の日にくらべます。雨の日は粒が減るはずです。空気中の粒が雨で洗い落とされるためです。

花粉かどうかの判定には顕微鏡が要ります。ここで確かめられるのは「日によって空気の汚れ具合が変わる」ことまでです。症状のある人は、外に出る時間を短くして行ってください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(免疫学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:出る高さが変わると、届く距離はどれだけ変わるのか

花粉は空気の中をほぼ一定の速さで落ちていきます。落ちきるまでの時間に風の速さをかければ、おおよその到達距離が出ます。記号の意味は下のとおりです。

記号意味と単位
H花粉が出る高さ。単位はメートル
V花粉が落ちる速さ。単位はメートル毎秒
U風の速さ。単位はメートル毎秒
① もとになる数値
高い木から出る高さ H20
低い草から出る高さ H1
花粉が落ちる速さ V0.02(秒速2センチほどとされています)
そよ風の速さ U3
② 計算してみる
木の花粉が落ちきるまでの秒数20 ÷ 0.02 = 1000
そのあいだに運ばれる距離(メートル)3 × 1000 = 3000
草の花粉が落ちきるまでの秒数1 ÷ 0.02 = 50
そのあいだに運ばれる距離(メートル)3 × 50 = 150

③ 実感に直すと、3000メートルは駅3つ分ほど、150メートルは道の向かいの空き地までです。高さが20分の1になっただけで、届く先が「町じゅう」から「すぐそこ」に縮みます。実際の空では上向きの風もあるため、どちらももっと遠くまで運ばれます。それでも、この差の大きさは変わりません。

高校高校+なぜ、無害なものに反応してしまうのか

高校生物基礎では、体を守るしくみを自然免疫と獲得免疫に分けて習います。花粉症は後者のうち、本来は寄生虫などに向けられる型の反応が、無害な花粉に向いてしまったものと説明されます。

高校+この型の反応では、作られた抗体が肥満細胞という細胞の表面に結合して待機します。そこへ花粉の成分が来て、となり合う2つの抗体を同時に橋わたしすると、細胞が一気に中身を放出します。橋わたしが引き金になるので、ごく少量でも強い反応が起こります。

大学症状が「早い波」と「遅い波」に分かれる理由

免疫学では、花粉を吸ってから数分で起きる反応と、数時間おくれて起きる反応を分けて考えます。前者はたくわえられていた物質がそのまま出るもので、くしゃみや水のような鼻水が中心です。後者は細胞が新しく作った物質や、集まってきた別の細胞によるもので、鼻づまりが中心になります。薬の種類によって効く波が違うのは、このためとされています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に「なぜ自分に症状が出たのか」という問いには、まだ誰も正確には答えられません。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・植物のなかまと生殖風に花粉を運ばせる植物の話
高校生物基礎・免疫体が覚えてから反応するという流れ
高校+生物・細胞と情報の伝達2つの抗体が橋わたしされる引き金
大学免疫学・アレルギー学早い波と遅い波に分ける見方
研究環境疫学大気の汚れや気候の変化との関係
生活とのつながり通る道を変える、洗濯物の干し方を変える
参考・出典
  1. 環境省「花粉症環境保健マニュアル」(花粉を出す植物の種類と飛散の時期について)
  2. 日本アレルギー学会「鼻アレルギー診療ガイドライン」(症状の分類と治療の考え方について)
  3. 気象庁「風の強さと吹き方」(風の速さの目安について)
  4. 『標準免疫学』医学書院(抗体と肥満細胞のはたらきについて)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。症状の診断や薬の選択については医療の専門家の判断が必要です。鼻や目の症状が長引くとき、息苦しさをともなうときは、自己判断せず医療機関に相談してください。