日常のふしぎ 波動 予備知識なしでOK 読了 約6分

かくれんぼで、姿は見えないのに声だけ聞こえるのは、なぜ?
― 音は角を曲がれて、光は曲がれません

音も光も、同じ「波」の仲間です。それなのに、音は物かげにまわり込んで届き、光はまわり込めません。この差を決めているのは、じつは波そのものの性能ではなく、波の長さと、かくれている物の大きさの比だけです。

公開:2026.09.05 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

子どもがかくれんぼをしています。ソファのうしろにしゃがみこんで、体はすっかり見えません。ところが「まだー?」という声だけは、はっきり聞こえてきます。

玄関のドアを閉めたときも同じです。すりガラス越しに人の姿は分からないのに、外の話し声は伝わってきます。

姿は隠せるのに、声は隠せない。子どもに「なんで?」と聞かれると、意外と答えに詰まる問いです。

答えは、ふたつの数字の比べっこです

1
波は、じゃまな物のかげに回り込む性質をもっている

波はまっすぐしか進めないわけではありません。すき間や物のふちを通りすぎるとき、そこを新しい出発点にして、横へも広がっていきます。音も光も、この性質を等しくもっています。

2
回り込める幅は、波の長さくらいまで

ただし、どこまでも回り込めるわけではありません。回り込める幅は、その波の長さと同じくらいが目安です。音の波は2mほど、光の波は0.0005mmほど。この差が、すべてを分けています。

つまり、音と光で結果が変わるのは、性質がちがうからではありません。同じ性質をもった波が、自分の大きさに対して、まるでちがう大きさの障害物に出会っているからです。順番に見ていきます。

波は、すき間を出たとたんに横へ広がる

まっすぐ進んできた波が、へいのすき間を通りぬけるところを考えます。すき間から出た波は、まっすぐ前だけに進むのではありません。すき間そのものが新しい波の出どころのようになり、そこから扇のように広がっていきます。

この「波が物のかげに回り込む現象」を、回折といいます。水面でも見られます。堤防の切れ目を通った波が、切れ目の内側で円くひろがっていくのを見たことがあるかもしれません。

図1を見てください。左が音、右が光です。同じ幅80cmのすき間に、同じように波が入っていきます。それでも、出てきたあとの姿はまったくちがいます。

左:音のばあい(波の長さ 約2m) 右:光のばあい(波の長さ 0.0005mm) やってくる音の波 すき間 80cm かげの中まで回り込む ここにいても声は届く やってくる光の波 まっすぐ抜けるだけ かげの中は暗いまま ここに姿は見えない 広がりは髪の毛より細い
図1:左の音は、すき間を出たあと扇形の弧をえがいて広がり、灰色のかべのかげの中にまで届きます。右の光は、同じすき間を通っても中央の帯のようにまっすぐ抜けるだけで、その上下のかげは暗いまま残ります。まん中のたて点線が、左右を分ける境目です。

なぜ、広がり方にこれほど差がつくの?

広がりの大きさを決めるのは、波の長さをすき間の幅で割った値です。この値が大きいほど、大きく広がります。

人の声の波の長さは、だいたい0.5mから3mです。ふつうのドアやへいのすき間は、せいぜい1m前後。つまり音にとって、すき間は自分と同じか、自分より小さいくらいのものです。小さな穴を通った波は、勢いよく全方向へ広がります。だから声は、かべのかげにいる人にも届きます。

一方、目に見える光の波の長さは0.0005mmほどしかありません。同じ80cmのすき間は、光からすると160万倍もの大きさです。ここを通る光にとって、すき間はもはや「すき間」ではなく、はてしなく広い野原のようなもの。広がろうにも、広がる余地が相対的に無さすぎるのです。結果として、光はほぼまっすぐ進み、くっきりした影ができます。

💡 光もちゃんと回り込んでいます

影のふちをじっくり見ると、境目は数学のように鋭くはなく、ごくわずかにぼやけています。これが光の回り込みの跡です。光を髪の毛ほどのすき間に通せば、しま模様になって広がるのが実際に見えます。光が曲がらないのではなく、曲がる量が小さすぎて気づけないだけです。

💡 低い声のほうが、遠くの角までよく届く

波が長いほど大きく回り込みます。同じ人の声でも、低い成分ほど波が長いので、建物のかげへよく回り込みます。となりの部屋の音楽で、高い音は消えて低音の「ズンズン」だけが残るのも、同じ理屈が効いています。

まとめ

音も光も、すき間や物のふちで回り込む性質をもった波です。ちがうのは、その波自身の長さだけ。声にとって家具やドアは「自分と同じ大きさの小石」なので、たやすく回り込みます。光にとっては「160万倍の広野」なので、まっすぐ進むしかありません。姿は隠せて声が隠せないのは、そういう理由です。

隠れているのは体ではなく、光にとってだけです。
音から見れば、その物かげは初めから存在していません。

音の回り込みは、遠くまで届くしくみとも深くつながっています。夜になると遠くの音がよく聞こえる理由はなぜ夜は、遠くの音がよく聞こえるの?で、音がはね返って戻ってくる話はやまびこは、なぜ少し遅れて聞こえてくるの?で扱っています。

🧪 家で確かめてみる
  1. スマートフォンで音楽を鳴らし、机の上に置きます。そのまま部屋を出て、ドアを半分だけ開けた状態で廊下に立ち、スマートフォンが見えない位置まで横にずれてみてください。姿は見えないのに、音はしっかり聞こえます。
  2. 次に、ドアのすき間をだんだん狭くしていきます。音の大きさは下がりますが、聞こえてくる向きの広がりはむしろ増えます。すき間が小さいほど、波は大きく広がるからです。
  3. 同じ場所で、明かりの見え方も比べます。すき間からもれる光は、床にくっきりした細い帯をつくるだけで、横へは広がりません。同じすき間なのに、音と光でこれだけちがうことが体で分かります。

音量は控えめにして、近所や家族の迷惑にならない時間帯に試してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(波動光学・音響学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:音と光は、すき間の何倍か

波の長さは、速さを1秒あたりの振動回数で割れば出ます。音と光で、同じすき間がそれぞれ何倍の大きさに見えるのかを計算してみます。

① もとになる数値
空気中を進む音の速さ約340 メートル毎秒
大人の低めの声の振動回数約170 回毎秒
真空中を進む光の速さ約300000000 メートル毎秒
緑色の光の振動回数約600000000000000 回毎秒
ドアのすき間の幅0.8 メートル
② 計算してみる
声の波の長さ340 ÷ 170 = 2
すき間は、声の波の何倍か0.8 ÷ 2 = 0.4
光の波の長さ300000000 ÷ 600000000000000 = 0.0000005
すき間は、光の波の何倍か0.8 ÷ 0.0000005 = 1600000

長さの単位はどれもメートルです。声から見ると、すき間は自分の0.4倍しかない「小さな穴」。光から見ると160万倍の「広野」。同じドアが、波によってこれほど別物に見えています。回折の広がりは、この倍率が小さいほど大きくなります。

高校高校+広がる角度は、割り算ひとつで決まる

高校幅のあるすき間を通った波が広がる角度は、波の長さをすき間の幅で割った値でほぼ決まります。この値が1に近ければ、波はほぼ全方向へ広がります。1よりずっと小さければ、広がりは無視できるほど小さくなります。

高校+光の場合、この値は160万分の1です。10メートル先まで進んでも、横に広がる量は0.01ミリメートルほどにしかなりません。髪の毛の太さの10分の1以下で、目では影のぼやけとして見えるかどうかという大きさです。逆に声では値が1を超えるため、すき間の裏側全体が音でみたされます。

大学「かげ」という言葉が近似でしかない理由

大学では、波の広がり方を、すき間の面全体からの寄与を足し合わせる形で扱います。この考え方では、幾何学的な影の内側にも必ずいくらかの波が入り込み、影のふちがきっぱり切れることは原理的にありません。障害物のふちを回り込んだ波が面に沿って伝わる成分も加わり、建物のかげでの音の減り方を精密に予測する計算では、この寄与が実際に効いてきます。日常でいう「かげ」は、波の長さが十分に短いときに成り立つ近似の呼び名なのです。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近な現象ほど、細部はまだ研究の対象として残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・音と光の性質音は回り込み、光はまっすぐ進むという対比
高校物理基礎・波の性質・回折波の長さとすき間の幅の比で広がりが決まること
高校+物理・ホイヘンスの原理すき間が新しい波の出どころになる考え方
大学波動光学・建築音響学影の内側にも波が入り込むという扱い
研究都市の音の環境・人工構造材料市街地での音の回り込みと、その制御
生活とのつながりとなりの部屋から低音だけが伝わってくる理由
参考・出典
  1. 日本音響学会 編『音のなんでも小事典』講談社
  2. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(音の速さ、光の速さ、目に見える光の波長の値)
  3. ホイヘンス『光についての論考』(回折と波の面の考え方の原典)
  4. ヘクト『光学』丸善出版(回折のくわしい扱い)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。音を使った確認は、周囲の迷惑にならない音量と時間帯で行ってください。