電気と磁石がつながっていると、どうやって分かったの?
― 講義の机の上で、方位磁針がぴくりと振れました
いまでは、電気を流すと磁石の力が生まれることは当たり前です。モーターもスピーカーも、そのしくみで動いています。けれど200年ほど前まで、電気と磁石はまったく別のものだと考えられていました。その壁を崩したのは、電流を流した導線のそばに置かれた、小さな方位磁針でした。
山歩きの途中で、方位磁針を取り出して北を確かめます。ところが、胸ポケットのスマホや、ヘッドランプのそばで見ると、針の向きが少しずれてしまいます。
方位磁針は、地球というとても大きな磁石の力を感じて北を向いています。その力は、思っているよりずっと弱いものです。だから、近くにある小さな磁石や、電気の流れる線にも、針は簡単に引っぱられます。
この「電気の流れる線で、針が振れる」ことを最初に確かめたのが、1820年のデンマークの物理学者、エルステッドでした。
発見のかぎは、2つだけ
それまでの電気は、静電気の火花のように一瞬で消えるものでした。1800年に電池が発明され、電気を流し続けられるようになって、はじめて針がじっくり反応できるようになりました。
磁石の力は、引きつけるか遠ざけるかのどちらかだと思われていました。ところが導線の力は、導線のまわりをぐるりと回る向きにはたらいていました。予想と違う向きを探していたので、見つからなかったのです。
順番に見ていきましょう。
針は、導線と平行に置いたときだけ大きく振れる
エルステッドは、電気と磁気のあいだには何かつながりがあるはずだと、長いあいだ考えていました。自然の力はおおもとでは1つにつながっている、という考え方に影響を受けていたとされています。
1820年の春、彼は大学の講義の場で、電池につないだ導線を方位磁針の上に近づけました。すると針がわずかに振れた、と伝えられています。電池は弱く、振れはごく小さなものでした。聴衆の多くは、何が起きたのか気づかなかったともいわれます。
彼はその夏、くわしい実験をくり返しました。そして7月21日、わずか4ページの報告をラテン語で書き、ヨーロッパ中の学者へ送りました。
大事なのは、導線の置き方です。図1を見てください。導線を針と同じ南北の向きに、針の真上を通します。電流を流すと、針は東西のどちらかへ回ります。電流を強くするほど、振れは大きくなります。
針は、地球の磁場と導線の磁場をあわせた向きを指します。地球の磁場は、日本付近の横向きで約30マイクロテスラとされます。1アンペアの電流が2センチ先につくる磁場は、その3分の1ほどです。それだけで、針ははっきり振れます。
逆に、導線を東西の向きに置くと、針はほとんど動きません。導線の磁場が、ちょうど南北の向きにそろってしまうからです。どの向きで試すかで、結果が変わってしまう実験でした。
力は「引く」でも「押す」でもなく、「回る」向き
当時の学者は、磁石どうしと同じように考えていました。導線が針を引きつけるか、押しのけるか、のどちらかだろうと。図2を見てください。左が当時の予想、右が実際のようすです。
導線のまわりの磁場は、導線を中心とした円をえがきます。だから針は、導線を向くのではなく、円にそった向きにそろいます。引力でも反発力でもない「回る力」は、それまでの物理学には無い形でした。
報告はすぐに各地で話題になりました。パリのアンペールは、知らせを聞いてから数週間のうちに、電流を流した2本の導線が引き合うことを示したとされます。電流と磁気をめぐる研究は、ここから一気に進みました。
エルステッドより前にも、船に雷が落ちたあと、方位磁針の北と南が入れかわったという記録が残っているとされます。雷は、一瞬だけ流れるとても強い電流です。いま思えば、電流が磁気を生むことの手がかりでした。けれど一瞬のできごとなので、しくみまでは追えませんでした。
磁場の強さを表す古い単位には「エルステッド」という名前がついています。いまも磁石の性能を表す数字などで使われることがあります。
まとめ
電気と磁気がつながっていることは、電池で電気を流し続けられるようになって、はじめて見つかりました。その力は導線を「引く・押す」向きではなく、まわりを回る向きにはたらいていました。地球の磁場は弱いので、1アンペアほどの電流でも、近くの方位磁針ははっきり振れます。山で方位磁針を使うときは、スマホや電池を使う道具から離して見るのが安心です。
電気が流れると、そのまわりに磁石の力が輪になって生まれる。
たった4ページの報告が、電気と磁気を1つの学問にしました。
方位磁針が北を向くしくみはコンパスの針は、なぜ北を向くの?で、針の北と地図の北のずれは方位磁針の北は、なぜ地図の北とずれているの?で解説しています。電池が生まれるきっかけになった発見はカエルの脚は、なぜ金属に触れただけでピクッと動いたの?をどうぞ。地球の磁場そのものが、地球の中を流れる電流から生まれている話は地球のN極とS極が入れかわるって本当?にあります。
- 方位磁針を机に置き、針が北を向いて止まるのを待ちます。まわりからスマホや鉄のものを離しておきます。
- 単3の乾電池1本と、ビニールで覆われた導線を用意します。導線を針の真上に、針と同じ南北の向きで張ります。
- 導線の両端を、電池の両極に数秒だけ当てます。針が東か西へ振れるのを見たら、すぐに離します。電池の向きを逆にすると、振れる向きも逆になります。
導線を電池に直接つなぐと、大きな電流が流れて導線と電池が熱くなります。当てるのは数秒だけにして、熱くなったらすぐに離してください。導線を東西の向きに置きかえると、ほとんど振れないことも確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 電流がつくる磁界:まっすぐな導線に電流を流すと、導線を中心とする同心円の磁界(磁場)ができます。中学では「右ねじの法則」で向きを覚えます。
- 右ねじの法則:電流の向きに右ねじを進めるとき、ねじを回す向きが磁界の向きになる、という覚え方です。
- 地磁気:地球がもつ磁場です。方位磁針が北を向くのは、この磁場の向きにそろうためです。
中学高校式で確かめる:1アンペアで、針はどれくらい振れるか
まっすぐな導線のまわりの磁場の強さは、電流に比例し、導線からの距離に反比例します。図1と同じ条件で、針の振れを計算してみます。
| 記号で書くと | B = ( μ0 ÷ 2π ) × I ÷ r / 針の振れ θ は tan θ = B ÷ BE |
| 言葉で書くと | 導線の磁場 = 定数 × 電流 ÷ 距離。針の振れの正接 = 導線の磁場 ÷ 地球の磁場(横向き) |
| どこから来る式か | アンペールの法則(磁場を導線のまわりの円にそって足し合わせると、中を通る電流に比例する)から出る式です。針は2つの磁場を合わせた向きを指すので、振れの角は2つの比で決まります。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| B | 導線がつくる磁場の強さ(マイクロテスラ、μT) |
| I | 導線を流れる電流(アンペア) |
| r | 導線から針までの距離(メートル) |
| BE | 地球の磁場の横向きの成分(マイクロテスラ) |
| μ0 | 真空の透磁率。μ0 ÷ 2π はマイクロテスラ単位で 0.2 になります |
| 定数(μ0 ÷ 2π) | 0.2 μT・m/A とされます |
| 電流 I | 1 アンペア |
| 導線と針の距離 r | 2 センチ = 0.02 メートル |
| 地球の磁場の横向き成分(日本付近) | 約 30 μT とされます |
| 定数 × 電流 | 0.2 × 1 = 0.2 |
| 距離でわって、導線の磁場 | 0.2 ÷ 0.02 = 10 μT |
| 地球の磁場とのくらべ(正接) | 10 ÷ 30 ≒ 0.33 |
| 正接が 0.33 になる角 | 約 18 度とされます |
| 比較:1メートル離れたときの導線の磁場 | 0.2 ÷ 1 = 0.2 μT |
| そのときの地球の磁場とのくらべ | 0.2 ÷ 30 ≒ 0.0067 |
2センチの距離なら、乾電池でも流せる1アンペアほどで、針は約18度も振れます。1メートル離れると振れは0.4度ほどになり、目では分かりません。電流が針に効くかどうかは、強さ以上に「どれだけ近いか」で決まります。方位磁針を電気製品から離して使うのは、このためです。
高校高校+電流と磁場の関係を、もう一歩
高校高校物理では、直線電流のまわりの磁場を H = I ÷ 2πr(磁場の強さ)、磁束密度を B = μ0 × H として学びます。円形の電流やコイルの中心の磁場も、同じ考え方で求められます。電流は磁場から力を受けることも習い、これがモーターのしくみになります。
高校+エルステッドの発見の11年後、ファラデーは逆に「磁場が変わると電流が生まれる」電磁誘導を見つけました。電流が磁場を生み、変化する磁場が電流を生む。この2つがそろって、発電機と変圧器の時代が始まります。
大学ビオ・サバールの法則と、マクスウェル方程式
大学の電磁気学では、電流の小さな一片がつくる磁場を足し合わせる「ビオ・サバールの法則」と、閉じた道にそって磁場を足し合わせる「アンペールの法則」を学びます。どちらも1820年の発見の直後に、フランスの学者たちによって式の形にまとめられました。のちにマクスウェルは、アンペールの法則に「変位電流」を加えてマクスウェル方程式を完成させ、光が電磁波であることを導きました。
📖 式の導出や、さらに先の内容:アンペールの法則(ウィキペディア) / ビオ・サバールの法則(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 発見は本当に「講義中の偶然」だったのか。 講義の場で見つけたという話は、のちの回想にもとづくとされます。本人はもっと計画的だったと書いているともいわれ、科学史の研究者のあいだで解釈が分かれています。
- 地球の磁場を生む電流の流れ方。 地球の磁場は、外核の溶けた鉄が流れて生まれる電流によるとされます。ただ、その流れの細かい形や、ときどき北と南が入れかわる理由は、まだ研究が続いています。
- 生き物は磁場をどう感じているのか。 渡り鳥などは地球の磁場を感じとると考えられています。けれど、体のどこでどう感じているのかは、いくつかの説が競っている段階です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。発見の「物語」の部分にも、確かめきれていないところが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「電流と磁界」 | 導線のまわりの同心円の磁界、右ねじの法則 |
| 高校 | 物理「電流がつくる磁場」 | 直線電流の磁場の式、針の振れの計算 |
| 高校+ | 物理「電磁誘導」 | ファラデーの発見とのつながり |
| 大学 | 電磁気学 | ビオ・サバールの法則、アンペールの法則、マクスウェル方程式 |
| 研究 | 科学史、地球電磁気学、動物の感覚 | 発見の経緯の解釈、地球の磁場の源、生き物の磁気感覚 |
| ― | 生活とのつながり | 山で方位磁針を使うときは、スマホや電気製品から離して見る |
- H. C. Ørsted (1820) "Experimenta circa effectum conflictus electrici in acum magneticam"(発見を報告した4ページの論文)
- R. C. Stauffer (1957) "Speculation and Experiment in the Background of Oersted's Discovery of Electromagnetism", Isis 48
- ハンス・クリスティアン・エルステッド(ウィキペディア)
- 気象庁 地磁気観測所
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地磁気の値)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地磁気の強さは場所や時期で変わります。乾電池を導線で直接つなぐ実験は、ごく短い時間にとどめてください。