地球のN極とS極が入れかわるって本当?
― 千葉の崖に、77万年前の「入れかわり」が刻まれています
本当です。地球という大きな磁石は、長い歴史の中で南北の向きを何百回も入れかえてきました。最後に入れかわったのは、およそ77万年前です。そのころに方位磁針があったら、針のN極は南を指していました。地球の磁石は、固まった鉄の棒ではなく、地下深くで流れ続ける液体の鉄がつくっているからです。
登山や地図の授業で、方位磁針を手のひらにのせたことがあると思います。針は少し揺れてから、決まって同じ方向で止まります。
私たちはこの向きを「変わらないもの」として使っています。船も、渡り鳥も、何千年もこの向きを頼りにしてきました。
ところが時間を何十万年も巻き戻すと、針が今と正反対を指していた時代が、何度も出てきます。
入れかわりが起きて、しかもそれが分かる理由は2つだけ
地下およそ2900〜5100kmには、どろどろに溶けた鉄の層があります。この鉄がゆっくり渦を巻いて流れることで、電流が生まれ、巨大な電磁石になっています。流れが乱れると、磁石の向きもひっくり返ることがあります。
溶岩が冷えて固まるとき、中にふくまれる鉄の小さな粒が、その時の地球の磁石の向きにそろって固定されます。岩は、できた時代の「北」を何百万年も記録し続けます。
1つめが「なぜ入れかわるのか」、2つめが「なぜ昔のことが分かるのか」の答えです。順番に見ていきましょう。
地球の磁石は、なぜひっくり返るの?
理科の教科書では、地球の中に大きな棒磁石があるような絵がよく使われます。けれども地球の中心近くは数千℃もあります。鉄の棒磁石は、熱すると磁石の力を失います。だから地球の中に、固まった磁石が入っているわけではありません。
代わりに働いているのが、液体の鉄の流れです。電気を通すものが磁場の中を動くと、電流が生まれます。その電流が、また磁場をつくります。この「自分で自分を保ち続ける発電機」のような仕組みで、地球の磁場は保たれていると考えられています。
流れは、天気の風のように少しずつ変わり続けます。ふだんは向きがそろっていても、ときどき大きく乱れ、磁場が弱まります。その乱れが収まるときに、前と逆向きでそろい直すことがあります。これが地磁気の逆転です。
図1のつまみを動かすと、過去260万年のあいだの向きを見ることができます。今と同じ向きの時代と、逆向きの時代が、まだらに入りまじっているのが分かります。
入れかわる間隔は、まったく規則的ではありません。数万年で戻ることもあれば、数千万年も同じ向きが続いた時代もあったとされています。ならすと、最近の数百万年では数十万年に1回ほどです。
何十万年も前の「北」が、なぜ分かるの?
手がかりは、岩の中にある磁鉄鉱という鉄の鉱物です。熱い溶岩の中では、磁鉄鉱の粒は磁石の性質を失っています。冷えて580℃ほどを下回ると、粒はその時の地球の磁場の向きにそろって磁石になります。いったん固まると、その向きは何百万年も残ります。
この「岩の記憶」に最初に気づいた一人が、京都帝国大学の松山基範です。1920年代の終わり、兵庫県の玄武洞などの岩を調べ、今と逆向きに磁石になった岩があることを報告しました。当時は信じない人も多かったのですが、いまでは逆向きの時代に「松山」の名前が付いています。
決め手になったのは海の底です。海底には、地球の内部から溶岩がわき出して、左右に広がっていく山脈(海嶺)があります。わき出た溶岩は、その時の向きを記録しながら、ベルトコンベアのように両側へ運ばれます。図2のように、海嶺をはさんで左右対称のしま模様ができます。
1960年代、この左右対称の模様が実際の海底で見つかりました。地磁気が逆転してきたことと、海底が広がっていることが、同時に確かめられた瞬間でした。
千葉県市原市の養老川沿いの崖には、約77万年前の入れかわりが、地層の中にとてもよく残っています。2020年、この地層が国際的な基準に選ばれ、およそ77万年前から13万年前の時代が「チバニアン(千葉時代)」と名付けられました。地質時代に日本の地名が付いたのは初めてです。
入れかわりの途中では、磁場が数千年ほどかけて弱まると考えられています。宇宙から来る粒子が増え、人工衛星や送電網には影響が出るかもしれません。一方で、人類の祖先はすでに入れかわりを何度も経験していて、そのたびに生き物が大量に絶滅したという証拠は見つかっていないとされています。
まとめ
地球の磁石は、地下の液体の鉄が流れることで保たれている、動き続ける磁石です。だから向きはときどき入れかわり、最後は約77万年前でした。その記録は、溶岩が冷えて固まるときに岩の中に残り、海の底や千葉の崖で読むことができます。方位磁針が北を指すのは、地球の長い歴史の中では「いまはたまたまそうなっている」状態です。
方位磁針の「北」は、永遠の決まりではない。
地球が流れ続けている、いまの姿を映しているだけです。
方位磁針が北を向くしくみは「コンパスの針は、なぜ北を向くの?」、磁場をつくる地球の中心については「地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、なぜ溶けていないの?」でくわしく紹介しています。地図の北と磁石の北のずれは「方位磁針の北は、なぜ地図の北とずれているの?」をどうぞ。
- 縫い針を、磁石の同じ極で、根元から先へ一方向に20回ほどこすります。針を水に浮かべたコルクの上にのせると、方位磁針のように南北を向きます。
- どちらの端が北を向いたか、印を付けておきます。
- 今度は磁石の反対の極で、同じように一方向にこすってから、もう一度浮かべます。さっきとは逆の端が北を向けば、針の中の磁石の向きが入れかわったことになります。
針の中の小さな磁石の向きがそろったり入れかわったりする様子は、岩の中の磁鉄鉱が向きを記録するしくみと似ています。針を扱うときは、指をささないように気をつけてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・古地磁気学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 地磁気:地球がつくっている磁場のこと。方位磁針が南北を向くのはこのためです。
- 地磁気逆転:地磁気の向きが南北反対になること。今と同じ向きの時代を「正磁極期」、逆の時代を「逆磁極期」と呼びます。
- 海嶺:海底にある大山脈。地球の内部から溶岩がわき出し、海底が両側へ広がっていく場所です。
中学高校式で確かめる:最後の入れかわりから、海底はどれだけ広がった?
図2の中央の白い帯は、約77万年前から今までに海嶺で生まれた岩です。その片側の幅を、海底が広がる速さから求めてみます。
| 記号で書くと | L = v × t |
| 言葉で書くと | しまの幅 = 海底が片側へ広がる速さ × 同じ向きが続いた時間 |
| どこから来る式か | 海嶺で生まれた岩は、ほぼ一定の速さで両側へ運ばれる。中学で習う「道のり = 速さ × 時間」そのもの。岩は生まれた瞬間の磁場の向きを記録しているので、向きが同じ区間の長さが、しま1本の幅になる |
| 記号 | 意味と単位 |
| L | しま(同じ向きの帯)の片側の幅〔cm〕 |
| v | 海底が片側へ広がる速さ〔cm/年〕 |
| t | 同じ向きが続いた時間〔年〕 |
| 海底が片側へ広がる速さ(海嶺により1〜数cm。ここでは例として) | 1年に約2cm |
| 最後の入れかわりからの時間 | 約77万年 |
| 地磁気の強さの変化(観測が始まった1800年代前半から) | 約200年で約1割弱まったとされる |
| しまの幅をcmで | 2 × 770000 = 1540000 cm |
| kmに直す(1km=100000cm) | 1540000 ÷ 100000 = 15.4 km |
| 歩く速さ(時速4km)で横切る時間 | 15.4 ÷ 4 ≒ 3.9 時間 |
| 参考:1割ずつ減るとしたら、ゼロまでに何回ぶんか | 100 ÷ 10 = 10 回 |
| 参考:その年数(今のペースが続くと仮定) | 10 × 200 = 2000 年 |
77万年かけて、海底はたった15kmほどしか広がりません。爪がのびるくらいの速さでも、何十万年も積み重なると、船で測れる大きさのしま模様になります。なお下の2行は「単純に延ばすと」の目安で、実際の地磁気は強まったり弱まったりをくり返すため、逆転の予測にはなりません。
高校高校+電流が磁場をつくり、磁場の中の動きが電流をつくる
高校高校物理では、電流のまわりに磁場ができること、磁場の中で導体が動くと起電力が生まれること(電磁誘導)を習います。地球の外核では、液体の鉄が対流しながら地球の自転の影響でねじれ、この2つが同時に起きています。高校地学では、海洋底の磁気のしま模様が、プレートテクトニクスの証拠として扱われます。
高校+磁鉄鉱は約580℃(キュリー温度)より高いと磁石の性質を失い、冷えるとその時の磁場の向きに磁化されます。これを熱残留磁化といいます。地層にたまった細かい粒が向きをそろえる堆積残留磁化もあり、千葉の地層はこちらを利用しています。
大学ダイナモ理論と、海洋底拡大の証明
液体金属の流れが磁場を自分で維持する仕組みは、ダイナモ理論として研究されています。外核の対流とコリオリの力の組み合わせで、磁場の向きが自発的に反転することが、コンピュータ模擬実験でも再現されています。過去の地磁気を岩石から読み取る分野を古地磁気学といい、最後の逆転はマツヤマ‐ブリュンヌ境界と呼ばれます。海底のしま模様と逆転を結びつけた説明は、1963年のバイン・マシューズ仮説として知られています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ダイナモ理論(ウィキペディア) / 地磁気逆転(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 次の入れかわりはいつか。 地磁気はここ200年ほど弱まり続けていますが、それが逆転の始まりなのか、ただの揺らぎなのかは分かっていません。
- 入れかわりの途中で何が起きるか。 磁場がどこまで弱まり、どんな形に乱れるのか、何年かかるのかは、記録によってばらつきがあり、研究が続いています。
- 間隔がばらばらな理由。 数千万年も逆転が起きなかった時代があった理由は、地球の深いところの温度の分布と関係があるのではないかと考えられていますが、決着していません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の中心は誰も行ったことがない場所で、手がかりは岩の記録と、地表で測る磁場だけです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:磁界、大地の変化 | 方位磁針、道のり=速さ×時間 |
| 高校 | 物理:電流と磁場、電磁誘導/地学:プレートテクトニクス | 液体の鉄がつくる電磁石、海底のしま模様 |
| 高校+ | 地学の発展:岩石の磁化 | キュリー温度、熱残留磁化 |
| 大学 | 地球物理学・古地磁気学 | ダイナモ理論、マツヤマ‐ブリュンヌ境界 |
| 研究 | 地球深部の研究 | 次の逆転の時期、逆転の途中の様子 |
| ― | 生活とのつながり | 方位磁針の信頼性、チバニアン |
- チバニアン(ウィキペディア日本語版)
- Vine, F. J. & Matthews, D. H. (1963) Magnetic Anomalies Over Oceanic Ridges. Nature 199
- Matuyama, M. (1929) On the Direction of Magnetisation of Basalt in Japan, Tyôsen and Manchuria. Proceedings of the Imperial Academy 5
- 気象庁 地磁気観測所
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。過去の逆転の年代は、研究によって数千年程度の幅があります。