地球の中は、ドロドロのマグマでできているって本当?
― マントルは固い岩。ただし何百年もかけて見ると、ゆっくり流れています
地面の下には、赤く溶けたマグマの海が広がっている。そう思っている人は少なくありません。ところが、地球の体積の8割あまりを占める「マントル」は、溶けていない固い岩です。それでも「流れている」とも言われます。固いのに流れる。この一見むじゅんした話の鍵は、「どれだけ長い時間で見るか」にあります。
図鑑で、地球を半分に切った絵を見たことがあるでしょう。中はオレンジや赤で塗られ、いかにも熱くて溶けていそうです。
ニュースでは、火口からあふれた真っ赤な溶岩が流れていきます。あれが地下にたっぷり詰まっている、と考えるのは自然なことです。
では、もし地面の下がすぐ液体の海なら、大陸はその上に浮かぶ薄いいかだのはずです。本当にそうなのでしょうか。
「溶けていない」と言える理由は、2つあります
揺れには、液体の中を進めない種類があります。その揺れがマントルをふつうに通り抜けてくるので、マントルは固体だと分かります。
岩は数分の揺れには「ばね」のように弾み、数百年より長い力には「水あめ」のように流れます。誤解は、この2つの顔を混ぜたことから生まれました。
つまり「マントルはドロドロ」は、半分だけ当たっています。溶けているのではなく、固いまま、とてもゆっくり形を変えているのです。
地震の揺れは、液体の中を進めない
地震が起きると、揺れは地球の中を通って、遠くの観測所まで届きます。揺れには2種類あります。押し縮める揺れと、横にずらす揺れです。
横にずらす揺れは、ずらされた形を元に戻そうとする力で伝わります。液体には、その力がありません。水を横にずらしても、水はそのまま流れてしまうからです。だから横ずれの揺れは、液体の中を進めません。
観測すると、この横ずれの揺れは、深さ約2900kmまでのマントルをふつうに通り抜けてきます。止まるのは、その下の「外核」に入ったところです。図1を見てください。地球の中で大きく液体になっているのは、外核の溶けた鉄だけです。
マントルの温度は、上のほうで1000℃前後、底では3000℃をこえるとされます。それでも溶けないのは、上にのった岩の重さで、ものすごい圧力がかかっているからです。圧力が高いほど、岩は溶けにくくなります。
マグマができるのは、この条件がくずれた場所だけです。岩がゆっくり上がってきて圧力が下がった場所や、沈みこむ海の板から水がしみ出して、岩が溶けやすくなった場所です。そこでも岩の一部が溶けて、しみ出した液が集まるだけです。マグマの海が広がっているわけではありません。
固いのに流れる ― 鍵は「見る時間の長さ」
固い岩が流れる、と聞くと変に思えます。でも、身近に似たものがあります。雪山の氷河は、固い氷のまま、1日に数十cmから数mも谷を下ります。
大事なのは、ものには「切りかわりの時間」があることです。それより短い力には、ばねのように弾みます。それより長く押し続けると、水あめのように流れます。マントルの岩では、この時間が数百年ほどと見積もられています。
図2のつまみで、見る時間の長さを変えてみてください。数十秒しか続かない地震の揺れにとって、マントルはただの固い岩です。けれど何万年、何千万年という時間では、上の面を押された岩はどんどん傾き、元に戻らなくなります。
実際に、マントルが流れている証拠があります。北欧のスカンジナビア半島は、いまも1年に最大で1cmほど持ち上がり続けているとされます。約2万年前には、ここに厚さ数kmの氷がのっていました。その重みで沈んだ地面が、氷が消えたあと、下のマントルが流れこむにつれて少しずつ戻っているのです。
この戻る速さから、マントルの「ねばり」が初めて見積もられました。1935年のことです。値は水の1兆倍の、さらに1兆倍とされます。プレートが動く速さも1年に数cmで、爪がのびる速さと同じくらいです。
オーストラリアのクイーンズランド大学では、1927年から「ピッチ」というタールの仲間を漏斗に入れて置いてあります。ハンマーでたたくと割れるほど固いのに、漏斗の先からしずくが落ちてきます。これまでに落ちたのは9滴だけです。ピッチのねばりは水の1000億倍以上とされ、マントルはそのさらに1兆倍ほど強い粘りを持ちます。
まとめ
地面の下は、溶けたマグマの海ではありません。地殻の下のマントルは固い岩で、地震の横ずれの揺れが通り抜けることがその証拠です。大きく液体になっているのは、深さ約2900kmより下の外核の鉄だけです。マグマは、圧力が下がったり水が加わったりした、地表近くの限られた場所でだけ生まれます。ただし固いマントルも、数百年より長い時間で見れば流れます。プレートを動かし、氷河が消えた大地を持ち上げているのは、この「ゆっくりした流れ」です。
地球の中は、溶けてはいない。
ただ、人の一生では見えない速さで流れている。
揺れが中を通るか通らないかで、地球の中が分かったいきさつは地球の中心まで誰も行けないのに、中のようすがなぜ分かるの?で、マントルを温め続けている熱の源は地球の中は、46億年たっても、なぜ冷めないの?で読めます。マグマが噴き出すしくみは火山はなぜ噴火するの?へどうぞ。
- 市販のスライム(または洗濯のりで作ったスライム)を丸めて、机の上に軽く落とします。一瞬だけ、ボールのように少し弾むのが分かります。
- 同じ玉を机に置いたまま、10分ほど放っておきます。弾んだはずの玉が、平らに広がっていきます。
- 最後に、両手で一気に引っぱってみます。ゆっくり引けばのびるのに、素早く引くと、ちぎれるように切れます。
短い力には固体、長い力には液体。スライムの切りかわりは数秒ほどで、マントルではそれが数百年です。スライムで遊んだあとは、手を洗いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・レオロジー)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- マントル:地殻の下から深さ約2900kmまでの、岩でできた層。地球の体積の8割あまりを占めます。
- S波(横波):地震の揺れのうち、横にずらす揺れ。液体の中は伝わりません。押し縮める揺れはP波(縦波)と呼びます。
- 粘弾性:短い力にはばねのように、長い力には液体のようにふるまう性質。スライムや氷河の氷、マントルの岩が持っています。
- 後氷期回復:氷河期の厚い氷が消えたあと、沈んでいた大地がゆっくり持ち上がってくる現象。
中学高校式で確かめる:マントルが「固体」から「液体」に切りかわる時間
ねばり(粘性率)を、固さ(剛性率)でわると、ばねの顔と液体の顔が入れかわる時間が出ます。この時間をマクスウェル時間と呼びます。記号の意味は次のとおりです。単位は秒、パスカル、パスカル秒です。
| τ | 切りかわりの時間(マクスウェル時間、単位は秒) |
| η | ねばりの強さ(粘性率、単位はパスカル秒) |
| G | 横ずれに対する固さ(剛性率、単位はパスカル) |
| 記号で書くと | τ = η ÷ G |
| 言葉で書くと | 切りかわりの時間 = ねばりの強さ ÷ 固さ |
| どこから来る式か | ばね(固さ G)と、液体のダンパー(ねばり η)を直列につないだ模型(マクスウェル模型)で、ばねにためた変形が、液体の流れで逃げていく速さから出てきます |
| マントルの粘性率 η(後氷期回復から見積もられた値) | およそ 1×10の21乗 パスカル秒 |
| 上部マントルの剛性率 G | およそ 7×10の10乗 パスカル |
| 1年の長さ | およそ 3154万 秒 |
| マントル対流の速さ(プレートの速さと同じくらい) | 1年に およそ 5 cm |
| τ の数の部分(1 ÷ 7) | 1 ÷ 7 ≒ 0.143 |
| τ の「10の何乗」の部分(21 − 10) | 21 − 10 = 11 |
| 合わせると 0.143×10の11乗 秒 = およそ143億秒。年に直す | 14300000000 ÷ 31540000 ≒ 453 |
| 地震の揺れ(約1分=60秒)は、τ の何分の1か | 14300000000 ÷ 60 ≒ 238000000 |
| マントルの厚さ 2900 km をcmに直す | 2900 × 100000 = 290000000 |
| その厚さを、1年に5cmで流れ切る年数 | 290000000 ÷ 5 = 58000000 |
| その年数は、τ(453年)の何倍か | 58000000 ÷ 453 ≒ 128000 |
切りかわりの時間は約450年です。地震の揺れはその約2億分の1しか続かないので、マントルはばねとして揺れを伝えます。一方、岩が厚さぶんを流れ切るには約5800万年かかり、これは切りかわり時間の10万倍をこえます。この長さでは、マントルは完全に液体の顔を見せます。図2の数値も、この τ = 約143億秒を使っています。
高校高校+S波の影と、圧力で上がる「溶ける温度」
高校震源から角度で約103度より遠い観測点では、S波が届きません。これを「S波の影」と呼び、外核が液体である証拠とされます。逆にマントルの中は、S波がふつうに通ります。地学基礎の「地球の内部構造」で習う内容です。
高校+岩が溶けはじめる温度(ソリダス)は、圧力が上がるほど高くなります。マントルの実際の温度は、どの深さでもこのソリダスより低いため固体のままです。中央海嶺やホットスポットでは岩が上昇して圧力が下がり、ソリダスを下回って一部が溶けます(減圧融解)。沈みこみ帯では水が加わってソリダスそのものが下がります。
大学マクスウェル模型・マントル対流・アイソスタシー
短い力に弾み、長い力に流れる性質は、レオロジーの粘弾性として扱います。いちばん簡単な模型が、ばねとダッシュポットを直列につないだマクスウェル模型で、その時定数が上のマクスウェル時間です。実際のマントルの岩は、結晶の中の転位や原子の拡散によってゆっくり変形する「固体のクリープ」で流れます。この流れが、熱で温められた岩の浮力に駆動されたものがマントル対流で、レイリー数がきわめて大きいため、固体でも対流が起こります。粘性率の値は、氷床が消えたあとの地殻の戻りを、アイソスタシー(地殻が浮力でつり合う状態)へ向かう緩和として解析し、ハスケルが1935年に初めて見積もりました。
📖 式の導出や、さらに先の内容:粘弾性(ウィキペディア) / マントル対流(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 深さによって、ねばりはどれだけ違うのか。 下部マントルは上部より数十倍ねばいとする見積もりが多いものの、値には幅があり、場所によっても違うと考えられています。
- マントルは全体で1つの対流なのか。 深さ約660kmの境目で上下が分かれているのか、沈みこんだ板が底まで落ちて全体がかき混ぜられているのか、議論が続いています。
- マントルの底の「巨大な塊」は何か。 アフリカと太平洋の下に、揺れの伝わりが遅い大きな領域が見つかっています。組成が違う岩なのか、一部が溶けているのか、まだ決着していません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の中は誰も直接見たことがなく、揺れと重力と実験室の岩から、少しずつ組み立てられています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2分野「大地の変化」(地震の揺れ・火山) | 揺れの2種類と、マグマのでき方 |
| 高校 | 地学基礎「地球の内部構造」 | S波の影と外核、図1の断面 |
| 高校+ | 地学「プレートの運動・マグマの発生」 | ソリダスと減圧融解 |
| 大学 | 地球物理学・レオロジー | マクスウェル時間、マントル対流、後氷期回復 |
| 研究 | 地球内部ダイナミクス | 粘性の深さ分布、対流の形、底の巨大な塊 |
| ― | 生活とのつながり | スライム、氷河、北欧の大地の隆起 |
- Haskell, N. A. (1935) The Motion of a Viscous Fluid Under a Surface Load. Physics 6, 265.
- クイーンズランド大学 数理物理学部「Pitch Drop experiment」
- ウィキペディア「マントル対流」
- ウィキペディア「粘弾性」
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の内部構造の数値)
- Turcotte, D. L. & Schubert, G. Geodynamics, Cambridge University Press(マクスウェル時間とマントルの粘性)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。マントルの粘性率や温度は、深さや場所、研究によって幅があります。