地球の中は、46億年たっても、なぜ冷めないの?
― 熱の半分は、いまも岩の中で生まれています
「地球の中が熱いのは、生まれたときの熱がまだ残っているから」。よく聞く説明ですが、これは半分だけ正しい話です。地面から逃げていく熱のおよそ半分は、昔の残りではありません。いまこの瞬間も、岩の中にわずかに混じった元素が、少しずつ新しい熱を生み出しています。
深いトンネルや鉱山に入ると、外は涼しい季節でも、奥へ行くほどむっと暖かくなります。地下では、深さ100メートルごとに約3℃ずつ温度が上がるとされています。
いれたてのお茶は、30分もすればぬるくなります。熱いものは、ふつう冷めていくものです。
では、46億年前に生まれた地球は、なぜいまも中心が数千℃もあるのでしょう。「大きいから冷めにくい」だけで、本当に説明がつくのでしょうか。
理由は2つあります
熱がしみ出すのにかかる時間は、厚みの2乗で長くなります。岩だけでじわじわ冷えるなら、地球が冷めきるには1兆年以上かかる計算です。
岩にはウラン・トリウム・カリウムがわずかに含まれ、こわれるたびに熱を出します。地表から逃げる熱の、およそ半分にあたるとされます。
「余熱が残っているだけ」という説明は、2つ目の理由をまるごと落としています。そして、この2つ目の理由に気づくまでの歴史には、大物科学者の大きな読み違いがありました。
大きなものほど、とんでもなく冷めにくい
お茶の湯のみと、お風呂の湯船を比べてみてください。同じ温度のお湯でも、湯船はなかなか冷めません。量が多いほど、冷めるのに時間がかかります。
しかも、その差は大きさに比例するのではありません。熱が奥から表面まで伝わる時間は、距離の2乗で長くなります。距離が10倍なら、時間は100倍です。
岩は、熱をとても通しにくい物質です。熱が岩の中を100キロ進むだけで、およそ3億年かかると見積もられます。地球の半径は6400キロあります。岩の中を熱が伝わるだけなら、中心の熱が抜けるのに1兆年以上かかる計算になります。
ただし、実際の地球はもう少し速く冷えています。地下の岩は、何千万年という長い時間で見ると、ゆっくり流れて上下に入れかわるからです。熱い岩そのものが上がってくるぶん、熱は伝わるだけのときより速く外へ運ばれます。
岩の中で、いまも熱が生まれている
地面からは、いつも少しずつ熱が逃げています。1平方メートルあたりにすると、わずか0.09ワットほどです。豆電球にも足りません。それでも地球全体を合わせると、およそ46兆ワットになります。人類が使うエネルギー全体の2倍を超える量です。
この熱の出どころの1つが、岩に混じったウラン・トリウム・カリウムです。これらは放射性元素と呼ばれ、長い時間をかけて別の元素へ変わります。変わるたびに、ほんのわずかな熱を出します。
量はわずかでも、地球全体の岩を合わせると話が変わります。この熱を測ったのが、岐阜県の地下1000メートルにある観測装置でした。元素がこわれるときに飛び出す「ニュートリノ」という粒を捕まえたのです。2011年の発表では、ウランとトリウムだけで約20兆ワットと見積もられました。逃げていく熱のおよそ半分です。
図1を見てください。つまみで時間をさかのぼると、昔ほど熱が多かったことが分かります。
放射性元素は、時間とともに減っていきます。だから昔の地球の中は、いまより何倍も多くの熱を生み出していました。いまの地球は、その「燃料」がだいぶ減った状態です。それでも、まだ半分を支えています。
「地球は1億年もたっていない」と言った大科学者
1860年代、温度の単位にも名を残すケルビン卿は、地下の温度の上がり方から地球の年齢を計算しました。熱い球が冷えてきただけだと考えると、地球はせいぜい1億年以下、のちには数千万年という答えになりました。
これは、生き物の進化や地層の積み重なりに必要な時間よりずっと短い数字でした。当時の地質学者や生物学者は、強く反発したといわれています。
ところが1896年、放射能が発見されます。岩の中に熱の「補給」があるなら、計算の前提が崩れます。1904年、ラザフォードは講演でこの点を指摘しました。会場にはケルビン本人がいたと伝えられています。
最近の研究では、ケルビンの答えが短すぎた主な原因は、放射能よりも「岩が流れること」を見落とした点だと考えられています。中が流れてかき混ぜられると、深いところが熱いまま保たれ、表面近くの急な温度の上がり方が長く続きます。この指摘は1895年に、彼の元助手ペリーがすでにしていました。
地球の中から出てくる熱は、太陽から届いて吸収される熱の2700分の1ほどしかありません。日なたの地面が温かいのも、季節が移り変わるのも、ほぼ太陽のしわざです。地球の中の熱は、ずっと深いところで、山や大陸を動かすほうに使われています。
まとめ
地球の中がいまも熱いのには、2つの理由があります。1つは、岩が熱を通しにくく、地球が大きすぎて冷めにくいこと。もう1つは、岩に混じった放射性元素が、いまも熱を生み出していることです。地表から逃げる熱のおよそ半分は、この「いま生まれた熱」とされています。地球は少しずつ冷えていますが、そのペースは10億年で100℃ほどともいわれる、ゆっくりしたものです。
地球は、冷めかけの燃えかすではない。
中でいまも、小さな火がともり続けている。
地球のいちばん奥のようすは「地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、なぜ溶けていないの?」で、地下の熱が地上に届く身近な例は「温泉は、なぜ熱いの?」で紹介しています。
- 同じ温度のお湯を、小さな湯のみと大きな鍋に入れます。
- 10分ごとに、指を入れずに温度計で測ります。湯のみの温度が10℃下がるまでの時間を記録します。
- 鍋のお湯が同じだけ下がるまで、どれくらいかかるかを比べます。鍋の大きさが湯のみの何倍かと見比べてみましょう。
お湯はかき混ぜなくても中で動くので、岩だけで冷える場合ほどの差は出ません。それでも、大きいほうが何倍も長く温かいことが分かります。地球はこの鍋の何億倍も大きいのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 地殻熱流量:地球の中から地表へ、1平方メートルあたり毎秒どれだけの熱が出てくるかを表す量。
- 地温勾配:深くなるにつれて温度が上がる割合。陸の上では、1キロあたり約25〜30℃とされます。
- 放射性壊変(崩壊):不安定な原子が、放射線を出しながら別の原子に変わること。そのときに熱が出ます。
- ジオニュートリノ:地球の中の放射性元素が壊変するときに出るニュートリノ。岩も地球も素通りするので、深い場所の情報を運んできます。
中学高校式で確かめる:岩だけで冷えるなら、何年かかる?
熱が物の中をしみ出していく時間は、次の式で見積もれます。記号の κ(カッパ)は熱拡散率で、熱の「しみ出しやすさ」を表します。単位は平方メートル毎秒です。
| 記号で書くと | t ≒ L² ÷ κ (あわせて Q = q × A) |
| 言葉で書くと | 熱が届く時間 ≒ 距離の2乗 ÷ 熱のしみ出しやすさ。地球全体から逃げる熱 = 1平方メートルあたりの熱 × 表面積 |
| どこから来る式か | 熱は温度の高いほうから低いほうへ、温度の差に比例して流れる(フーリエの法則)。これを熱の保存と組み合わせた「熱伝導方程式」の大きさの見積もり |
| t | 熱が距離 L を伝わるのにかかる時間(年) |
| L | 熱が伝わる距離(メートル) |
| κ | 岩の熱拡散率(平方メートル毎秒) |
| q | 地殻熱流量(ワット毎平方メートル) |
| A | 地球の表面積(平方メートル) |
| 岩の熱拡散率 κ | 約0.000001 平方メートル毎秒とされる |
| 1年の長さ | 約3150万秒 |
| 地球の半径 | 約6400 km |
| 地殻熱流量の地球平均 q | 約0.09 ワット毎平方メートル(海底のほうが大きい) |
| 地球の表面積 A | 約510兆 平方メートル |
| ウランとトリウムの発熱(2011年の観測) | 約20兆ワット |
| κ を1年あたりに直す | 0.000001 × 31500000 = 31.5(平方メートル毎年) |
| 距離100 km(100000 m)の2乗 | 100000 × 100000 = 10000000000 |
| 100 km 伝わる時間 | 10000000000 ÷ 31.5 ≒ 317460317(約3.2億年) |
| 地球の半径は100 kmの何倍か | 6400 ÷ 100 = 64 |
| 時間は2乗で増える | 64 × 64 = 4096 |
| 半径ぶん伝わる時間(億年) | 3.2 × 4096 ≒ 13107(約1.3兆年) |
| 地球の年齢(46億年)の何倍か | 13107 ÷ 46 ≒ 285 |
| 地球全体から逃げる熱(兆ワット) | 0.09 × 510 ≒ 45.9 |
| そのうちウランとトリウムの割合 | 20 ÷ 46 ≒ 0.43 |
岩の中を熱が伝わるだけなら、地球が冷めるには年齢の280倍以上の時間がかかります。実際には岩がゆっくり流れて熱を運ぶので、これより速く冷えています。それでも、逃げる熱の4割以上は放射性元素がいま補っています。
高校高校+熱の出どころを分けてみる
高校放射性元素は、半減期ごとに量が半分になります。ウラン238の半減期は約45億年、トリウム232は約140億年です。一方、カリウム40は約13億年、ウラン235は約7億年と短めです。そのため誕生直後の地球では、カリウム40とウラン235の熱が大きな割合を占めていたと考えられています。
高校+逃げる熱のうち、放射性元素の分を除いた残りは、地球ができるときの衝突の熱や、重い鉄が中心へ沈んだときの熱の「残り」です。さらに、中心の液体の鉄が少しずつ固まるとき、凝固熱も出しています。生まれたときの余熱と、いま生まれる熱。その2つの合計が、地表から逃げていく熱です。
大学熱伝導方程式・マントル対流・ユーリー比
上の見積もりは、熱伝導方程式の拡散時間(距離の2乗を熱拡散率で割ったもの)です。実際のマントルは、レイリー数がきわめて大きく、固体のまま対流しています。そのため熱の運び方は、伝導だけの場合と大きく変わります。放射性元素の発熱と、地表から逃げる熱の比は「ユーリー比」と呼ばれ、熱の歴史を考える要の量です。ジオニュートリノの観測から、この比はおよそ0.5前後とされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:熱伝導方程式(ウィキペディア) / マントル対流(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 放射性元素は、地球のどこにどれだけあるのか。 ジオニュートリノの観測はまだ誤差が大きく、マントルにどれだけあるかの見積もりは研究者によって幅があります。
- 中心の核にもカリウムがあるのか。 核に放射性元素がどれだけ溶け込んでいるかは分かっておらず、地球の磁場がいつ生まれたかの議論にも関わっています。
- 地球はどれくらいの速さで冷えているのか。 マントルが10億年あたり何十℃冷えてきたかは、昔の岩の性質から推定されていますが、まだ幅があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の中の熱の出どころは、ニュートリノという新しい「目」を手に入れて、ようやく直接測れるようになったところです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「大地の変化」「エネルギー」 | 地下ほど温度が高いこと、熱の伝わり方 |
| 高校 | 地学「地球の内部」、物理「原子と原子核」 | 地殻熱流量、半減期と放射性元素 |
| 高校+ | 地学の発展 | 余熱と放射性発熱の内訳、核の凝固熱 |
| 大学 | 地球物理学、伝熱工学 | 熱伝導方程式、マントル対流、ユーリー比 |
| 研究 | ニュートリノ地球科学 | 放射性元素の分布、地球の冷え方 |
| ― | 生活とのつながり | 温泉や地熱発電の熱の、さらに大もとの出どころ |
- KamLAND Collaboration (2011) Partial radiogenic heat model for Earth revealed by geoneutrino measurements. Nature Geoscience 4
- Davies, J. H. & Davies, D. R. (2010) Earth's surface heat flux. Solid Earth 1
- England, P., Molnar, P. & Richter, F. (2007) John Perry's neglected critique of Kelvin's age for the Earth: A missed opportunity in geodynamics. GSA Today 17
- 熱伝導(ウィキペディア)
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の諸量)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地球内部の発熱量や元素ごとの内訳は、研究によって見積もりに幅があります。