新米は、なぜ水を少なめにして炊くといわれるの?
― 水の差は小さじ1杯ほど。違うのは、お米の「若さ」です
秋になると「新米は水を控えめに」とよく言われます。新米は水分が多いから、という説明が定番です。ところが実際に計算すると、新米と1年前のお米の水分の差は、1合でわずか4グラムほどしかありません。水かげんを変えたくなる本当の理由は、お米の粒そのものが、1年かけて少しずつ「かたく」なっていくことにあります。
10月、スーパーの米売り場に「新米」のシールが並びはじめます。袋の裏には「新米は水を少なめに」と書いてあることもあります。
言われたとおり炊いてみると、つやつやで、ほんのり甘い香りがします。去年の残りのお米とは、たしかに何かが違います。
でも、「水分が多いから」というのは本当でしょうか。お米は乾いた粒です。1年で、そんなに水分が変わるものなのでしょうか。
水かげんが変わる理由は、2つあります
とれたてのお米は、1年たったお米より少しだけ水分が多いとされます。ただしその差は、1合で小さじ1杯(5グラム)にも届きません。
お米は収穫後も、粒の中で少しずつ変化しています。細胞の壁や油が変わり、炊いても粘りが出にくくなります。
つまり「新米は水を減らす」は、半分は水の量の話です。残りの半分は、お米の粒の「年齢」の話です。そして計算してみると、効いているのは後者のほうだと分かります。
水分の差は、本当に小さい
お米を出荷するとき、玄米の水分は15%以下にすることが決められています。とれたての新米は、この上限に近い15%前後とされます。1年ほど倉庫で保管されると、14%前後まで下がることが多いといわれます。
差はおよそ1%です。1合のお米は150グラムなので、その1%は1.5グラムにすぎません。炊くときに足す水への影響を計算しても、4グラムほどの差にしかなりません。大さじ1杯(15グラム)の4分の1くらいです。
図1を見てください。お米1合を炊くときに必要な水を、「お米がはじめから持っている水」と「炊くときに足す水」に分けて描いています。下のつまみでお米の水分を変えても、足す水の長さはほとんど変わりません。
新米を1割控えめに炊くと、1合あたり約17グラム水が減ります。水分の差(約4グラム)だけでは、この4分の1ほどしか説明できません。では、残りは何なのでしょうか。
1年で、お米の粒は「かたく」なる
お米は、乾いていても生きている種です。収穫されたあとも、粒の中ではゆっくりと変化が続いています。保管しているあいだに、主に3つのことが起きるとされます。
1つ目は、粒の中の細胞の壁がかたくなることです。炊くとき、水はこの壁を通ってデンプンのところへ入っていきます。壁がかたいと、水がしみこみにくくなります。2つ目は、たんぱく質どうしが結びつきを増やし、粒の中が締まることです。
3つ目は、お米に少しだけ含まれる油の変化です。油は分解されたり、空気の酸素と反応したりします。分解されてできた油の成分は、デンプンにまとわりついて、ふくらむのをじゃまするとされます。酸素と反応してできた成分は、「古米くさい」と言われるにおいのもとになります。
図2を見てください。左の新米は壁がやわらかく、水が粒の奥まで入ります。右の1年たったお米は壁がかたく、水が表面で止まりがちです。だから同じ水かげんで炊くと、新米はやわらかく粘りが強く、古いお米はぱさついて仕上がります。
理屈を逆に使うと、古いお米をおいしく炊くこつになります。水をほんの少し多めにし、ひたす時間を長めにとると、かたい壁の奥まで水が届きやすくなります。新米でも、最近は乾かし方がそろっているため、目盛りどおりで十分という声もあります。まずは目盛りどおりに炊き、好みで加減するのが確実です。
粒の変化は、温度が高いほど速く進むとされます。米の倉庫が15℃以下に保たれることが多いのはこのためです。家庭でも、袋を閉じて冷蔵庫の野菜室に入れると、においの変化をおそくできるといわれます。
まとめ
新米と古いお米の水分の差は、1合でわずか4グラムほどです。水かげんを変えたくなる本当の理由は、お米が1年かけて「かたく」なり、水を通しにくくなることでした。新米がやわらかく粘るのは、粒がまだ若く、水を素直に受け入れるからです。
新米のおいしさは、水の量ではなく、
水を受け入れる粒の「若さ」にあります。
ごはん1杯ぶんのお米の数を数えた「お茶碗1杯のごはんは、お米何粒なの?」や、同じデンプンの変化が甘さを生む「焼きいもは、なぜ砂糖を入れていないのにあんなに甘いの?」もあわせてどうぞ。
- 新米と、前の年のお米を、同じ重さだけ別々の透明なコップに入れ、同じ量の水にひたします。
- 10分ごとに数粒を取り出し、明るいところで透かして見ます。白い芯が消えて全体が半透明になるまでの時間を比べます。
- 袋を開けたばかりの両方のお米を、乾いたまま鼻に近づけて、においも比べてみましょう。
新米のほうが早く芯まで水が入る傾向が見られるはずです。結果は品種や保管のしかたでも変わるので、何度か比べてみてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(食品化学・調理科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 水分(含水率):お米の重さのうち、水が占める割合。玄米の出荷では15%以下と決められています。
- デンプン:お米の重さの大部分を占める成分。ブドウ糖がたくさんつながってできています。
- 古米化(こまいか):保管中にお米の性質が変わり、炊いたときに粘りや香りが落ちていくこと。
中学高校式で確かめる:新米と古米で、足す水はどれだけ違う?
炊きあがりのごはんの水分は、約60%とされます。お米の「乾いた中身」は炊いても変わらないので、そこから必要な水の量が決まります。お米1合(150グラム)で、水分15%の新米と14%の古米を比べます。炊いているあいだに湯気で逃げる水は、どちらも同じなので計算から外します。
| 記号で書くと | W = M × (1 − w) × 60/40 − M × w |
| 言葉で書くと | 足す水 = 乾いた中身 × 1.5 − お米がはじめから持っている水 |
| どこから来る式か | 炊いても「乾いた中身」の重さは変わらない(保存される)ことから。ごはんの水分が6割なら、水は乾いた中身の60/40倍=1.5倍です。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| W | 炊くときに足す水(グラム) |
| M | お米の重さ(グラム)。1合で約150グラム |
| w | お米の水分の割合(15%なら0.15) |
| お米1合の重さ | 約150グラム |
| 新米の水分 | 15%前後とされる |
| 1年たったお米の水分 | 14%前後とされる |
| 炊きあがりのごはんの水分 | 約60% |
| 大さじ1杯の水 | 15グラム |
| 新米の乾いた中身 | 150 × 0.85 = 127.5 グラム |
| 新米の炊きあがりに必要な水 | 127.5 × 1.5 = 191.25 グラム |
| 新米がはじめから持っている水 | 150 × 0.15 = 22.5 グラム |
| 新米に足す水 | 191.25 − 22.5 = 168.75 グラム |
| 古米の乾いた中身 | 150 × 0.86 = 129 グラム |
| 古米の炊きあがりに必要な水 | 129 × 1.5 = 193.5 グラム |
| 古米がはじめから持っている水 | 150 × 0.14 = 21 グラム |
| 古米に足す水 | 193.5 − 21 = 172.5 グラム |
| 足す水の差 | 172.5 − 168.75 = 3.75 グラム |
| 大さじに直すと | 3.75 ÷ 15 = 0.25 杯 |
| 新米の水を1割減らした量 | 168.75 × 0.1 ≒ 16.9 グラム |
水分の差で説明できるのは、大さじ4分の1杯(約4グラム)だけです。昔から言われる「1割減らす」(約17グラム)の4分の1にも届きません。残りは、粒の性質の違いを補うための「好み」の調整だと考えられます。
高校高校+炊くとき、粒の中で何が起きているか
高校生のデンプンは、分子がぎっしり並んだ結晶のような状態で、そのままでは消化しにくく、かたいままです。水と一緒に加熱すると、すき間に水が入りこんで並びがほどけ、やわらかく粘りのある状態に変わります。これを糊化(こか)と呼びます。
高校+糊化には、デンプンの近くまで十分な水が届くことが必要です。古いお米では細胞の壁や、たんぱく質のつながりが水の通り道をせまくします。そのため同じ時間・同じ水かげんでは、糊化が粒の芯まで進みにくいとされます。
大学古米化を化学の言葉で言うと
貯蔵中のお米では、酵素のリパーゼが油を分解して遊離脂肪酸が増えるとされます。遊離脂肪酸はデンプンの一種アミロースのらせんの中に入りこみ、アミロース・脂質複合体をつくって、糊化や膨潤をおさえると考えられています。一方、油の脂質過酸化反応からはヘキサナールなどのアルデヒド類が生じ、これが古米臭の主な成分とされます。たんぱく質ではジスルフィド結合が増え、粒の組織が締まるとされます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:糊化(ウィキペディア) / 脂質過酸化反応(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 3つの変化の「どれがどれだけ」効くのか。 細胞の壁、たんぱく質、油の変化のうち、食感の低下への寄与の割合は、品種や保管温度によって異なり、まだ整理しきれていないとされます。
- 新米の「香り」の正体。 新米特有のよい香りに、どの成分がどれだけ効いているのかは、今も分析が続いています。
- 古米化を遅らせる保管方法。 低温・低酸素での保管や、品種改良で油を分解する酵素を減らす試みなどが研究されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は目安で、実際のお米の水分は産地・乾かし方・保管のしかたで変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(植物のつくり、デンプン)・数学(割合) | 水分の割合と、足す水の計算 |
| 高校 | 化学(糖類・デンプン)・生物(細胞壁) | 糊化と、細胞の壁の役割 |
| 高校+ | 化学(油脂の酸化) | 古米くさいにおいのもと |
| 大学 | 食品化学・調理科学 | アミロース・脂質複合体、脂質過酸化反応 |
| 研究 | 穀物科学・食品工学 | 古米化の要因の切り分け、保管技術 |
| ― | 生活とのつながり | 新米と古いお米の水かげん、お米の保管場所 |
- 文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会『日本食品標準成分表(八訂)』(こめ・めしの水分)
- 農林水産省『農産物規格規程』(水稲うるち玄米の水分の上限)
- 石谷孝佑・大坪研一 編『米の科学』(シリーズ食品の科学)朝倉書店
- ウィキペディア「糊化」
- ウィキペディア「脂質過酸化反応」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。お米の水かげんは、品種・炊飯器・好みによって変わります。炊飯器の説明書の指示を優先してください。