お茶碗1杯のごはんは、
お米何粒なの?
数えた人がいます。答えはおよそ3000粒。そして、その3000粒を実らせるのに必要な苗は、たった5本ほどです。1粒のもみが半年で数百粒に増える、その増え方には、はっきりしたしくみがあります。
茶碗によそったごはんを、箸の先で少しだけすくってみます。ほんのひとくちのはずなのに、白い粒がいくつもくっついています。
では、茶碗1杯ぜんぶでは何粒あるのでしょうか。100粒でしょうか、500粒でしょうか。
実際に数えると、たいていの人の予想を大きく超えます。そして、その粒が実った田んぼの広さを聞くと、もう一度おどろくことになります。
1粒があれだけ増えるのは、2つの理由があります
イネは、地面すれすれのところで茎が次々と枝分かれします。分げつといいます。植えたときは細い1本でも、夏のあいだに何本もの茎に増えていきます。
増えた茎は、それぞれ先端に穂をつけます。穂は1つの花ではありません。小さな花が枝分かれした軸にびっしり並び、そのほとんどが粒になります。
つまり「枝分かれする回数」と「1本あたりの粒の数」が、かけ算で効いてきます。かけ算だからこそ、もとが1粒でも、秋には思いがけない数になります。順番に見ていきましょう。
夏のあいだに、1本の苗が何本にもなる
田植えのとき、農家は苗を1か所に2〜3本まとめて植えるのがふつうです。このひとかたまりを「株」と呼びます。植えた直後の株は、頼りないほど細く見えます。
ところが6月から7月にかけて、株の根元から新しい茎が持ち上がってきます。これが分げつです。増えた茎からさらに次の茎が出るので、増え方は足し算ではなく、ねずみ算に近い形になります。日本の水田では、秋までに1株で20本前後の穂が立つのが目安とされています。株には2〜3本の苗が入っていますから、苗1本から見れば5本から10本ほど、というところです。
ただし、出た茎がすべて実るわけではありません。遅れて出た細い茎は穂をつけずに枯れます。これを無効分げつといい、農家が夏に田んぼの水をわざと抜くのは、この無駄な枝分かれを止める意味もあります。
穂を数えると、1本で約90粒
秋の田んぼで、垂れた穂をひとつだけ手に取ってみてください。穂は1本の棒ではなく、軸から小さな枝がいくつも出ていて、その枝に粒がぶら下がっています。
この粒ひとつひとつが、もとは花です。イネの花は花びらを持たず、朝のうちに数時間だけ開いて自分の花粉で受粉します。目立たないので気づかれませんが、粒の数だけ花が咲いたということになります。品種や育ち方で幅はありますが、1本の穂につく粒は70〜100粒ほどとされています。
ここまでの数をかけ合わせると、苗1本あたりおよそ630粒。図1の中央のパネルが、その姿です。そして炊いたごはん150gは、炊く前の米にして約65g。米1粒はおよそ0.02gですから、茶碗1杯はおよそ3250粒になります。苗にして5本ぶん、株にすれば2株にも足りません。
日本の水稲は、1平方メートルあたり0.5kgほどの米がとれるとされています。1人が1年に食べる米はおよそ50kg。単純に割れば100平方メートル、つまり10メートル四方の田んぼが、1人の1年分ということになります。教室の広さより、少し大きいくらいです。
1粒のもみが万倍になるという昔からの言い方があります。今回の数え方では約600倍でした。ただし条件よく育った株は、もっと多くの茎を出します。倍率は育て方と場所しだいで、大きく動きます。
まとめ
茶碗1杯の3000粒は、たくさんの田んぼから少しずつ集めたものではありません。苗5本が、半年かけて作った量です。枝分かれの回数と、穂1本の粒の数。この2つのかけ算が、小さな種を食卓の一杯に変えています。
茶碗1杯は約3000粒。
それを作ったのは、苗5本と半年の時間です。
夏に田んぼの水を抜く理由は「田んぼの水は、なぜ夏にわざと抜くの?」で、収穫のあとに甘さが変わる話は「渋柿は、干すとなぜ甘くなるの?」でくわしく書いています。
- 炊く前の米を、台所のはかりで10gだけ量ります。デジタルのはかりがあれば正確です。
- その10gを、紙の上で10粒ずつまとめながら数えます。5分ほどで終わります。500粒前後になるはずです。
- 茶碗1杯ぶんは炊く前で約65gですから、数えた数を6.5倍してみてください。3000粒を超えるはずです。
品種によって粒の重さは変わります。もち米や大粒の品種なら、数は少なめに出ます。ちがいが出たら、それも発見です。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(作物学・植物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 分げつ:イネやムギの茎が、地ぎわの節から枝分かれして増えること。増えた茎の一本一本が、そのまま穂をつける単位になります。
- 有効分げつと無効分げつ:穂をつけて実る茎が有効分げつ、穂をつけずに枯れる茎が無効分げつです。後者が多いと、養分が分散します。
- 千粒重:もみ1000粒ぶんの重さ。イネの実りぐあいを表す代表的な数値で、玄米では20g台とされます。1粒あたりの重さは、ここから求めます。
- 穎花:穂についている、粒になる前の小さな花。花びらはなく、もみ殻になる部分が花を包んでいます。
中学高校式で確かめる:茶碗1杯は、苗何本ぶんか
本文で出した数を、順番に計算してみます。使うのはかけ算とわり算だけです。
| 苗1本から実る穂の数 | 約7本とされる |
| 穂1本につく粒の数 | 約90粒とされる |
| 米1粒の重さ | 約0.02g |
| 茶碗1杯ぶんの米(炊く前) | 約65g |
| 苗1本が実らせる粒の数 | 7 × 90 = 630 |
| 茶碗1杯の粒の数 | 65 ÷ 0.02 = 3250 |
| 必要な苗の本数 | 3250 ÷ 630 ≒ 5.2 |
茶碗1杯は、苗にして約5本ぶん。田植えで1か所に2〜3本植えることを思えば、2株ぶんにも届きません。植えるときの、あの細い苗ひとかたまりが、ごはん2杯ぶんに育つということです。
高校高校+なぜ、茎はいくらでも増えないのか
高校植物が実らせる粒の重さは、結局のところ光合成で作った糖の量で決まります。葉が受け取れる光の量には限りがあるので、茎をいくら増やしても、葉が重なり合えば下の葉は暗くなり、増えたぶんだけ収穫が増えるわけではありません。
高校+そこで作物学では、粒の数を「株数 × 1株の穂数 × 1穂の粒数」に分け、さらに実った割合と千粒重をかけて収量を見積もります。ある要素を増やすと別の要素が減る関係があり、この押し合いを収量構成要素の相補性と呼びます。田んぼの肥料や水の管理は、この配分を調整する作業だといえます。
大学枝分かれを止めている物質
植物の枝分かれは、気まぐれに起きているわけではありません。ストリゴラクトンと呼ばれる植物ホルモンが、わき芽の伸びを抑える向きに働くことが2008年ごろに報告され、以後、イネやエンドウで詳しく調べられてきました。この物質が作れない変異体は、茎が異常に多く枝分かれします。土の中の栄養、とくにリンが乏しいとこの物質が増え、枝分かれが抑えられることも知られています。分げつの数は、株が土の状態を読み取った結果でもあるわけです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 暑さで粒が白くなる理由 実る時期に高温が続くと、粒の内部が白くにごる現象が増えます。糖の送り込みが追いつかないためと考えられていますが、どの段階が決め手かは議論が続いています。
- 粒の数と大きさの上限 粒の数を増やす遺伝子はいくつも見つかっていますが、数を増やすと一粒が軽くなることが多く、両立のしくみは完全には解明されていません。
- 根と微生物のやりとり 水田の土の中で、根から出る物質が微生物の働きを通して分げつにどう影響するかは、まだ全体像が描けていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は代表的な目安で、品種・地域・その年の天気で大きく変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・植物のつくりと働き | 花が実になる、という話 |
| 高校 | 生物基礎・光合成とエネルギー | 粒の重さは糖の量で決まる |
| 高校+ | 生物・植物の生殖と成長 | 収量構成要素の押し合い |
| 大学 | 作物学・植物生理学 | 枝分かれを抑える植物ホルモン |
| 研究 | 作物育種学・土壌微生物学 | 高温で粒が白くなる問題 |
| ― | 生活とのつながり | 茶碗1杯を数える、食べ残しを考える |
- 農林水産省「作物統計調査 水稲の収穫量」(10アール当たり収量の全国平均)
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」こめ・水稲穀粒の項
- 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)「イネの生育ステージと分げつ」に関する栽培解説資料
- Umehara ほか「Inhibition of shoot branching by new terpenoid plant hormones」Nature 455巻(2008年)
- 星川清親『解剖図説 イネの生長』農山漁村文化協会
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。品種・地域・栽培方法によって実際の値は大きく変わります。