夜になると窓ガラスが鏡になるのは、
なぜ?
じつは窓ガラスは、昼も夜も、まったく同じだけ部屋の中を映しています。変わっているのはガラスではなく、外から届く光の量です。映り込みはいつもそこにあって、昼はまぶしい外の景色に隠されているだけなのです。
夕方、部屋の窓から庭が見えています。木の形も、となりの家の屋根も、はっきり見えます。
本を読んでいるうちに外が暗くなりました。ふと顔を上げると、そこに映っているのは庭ではなく、自分の顔と部屋の天井の灯りです。
窓は同じ窓です。だれもガラスを磨いたり、裏に銀を塗ったりしていません。それなのに、いつのまにか鏡になっています。
理由は2つだけです
透明に見えるガラスでも、表面に当たった光の4%ほどはそこで跳ね返ります。これは昼でも夜でも変わりません。窓はもともと、うすい鏡なのです。
目は、外から通りぬけてきた光と、室内から跳ね返った光を同時に受け取ります。片方がずっと強いと、弱いほうは見えなくなります。夜は室内の光が勝ちます。
つまり「鏡になる」のではなく、「もともとある鏡が、見えるようになる」だけです。順番に見ていきましょう。
透明なのに、なぜ跳ね返るの?
光は、通る物が変わるところで進み方を乱されます。空気とガラスの境目は、光にとっては段差のようなものです。大部分はそのまま進みますが、一部はその段差で跳ね返ります。
ふつうの板ガラスの場合、この跳ね返る割合は、正面から当たったときで4%ほどです。残りの96%はガラスの中へ入っていきます。だから窓はちゃんと透明で、しかも同時に、ほんのりとした鏡でもあるのです。
4%というのは小さな数字に見えます。しかし、それが問題になるかどうかは、比べる相手の明るさで決まります。図1を見てください。昼と夜で、目に届く2種類の光の強さが入れかわっています。
強い光は、弱い光を消してしまいます
目は、明るさを引き算ではなく割り算のように感じ取ります。真っ暗な部屋のろうそくはよく見えますが、昼の屋外では同じろうそくの炎はほとんど分かりません。炎の明るさは変わっていないのに、まわりが明るいと見分けられないのです。
窓でも同じことが起きています。昼は、外から通りぬけてくる景色の光が、室内の映り込みより何十倍も強いことがあります。映り込みはたしかに目に届いているのに、景色に埋もれて気づけません。
日が沈むと、外から届く光だけが数百分の1に減ります。室内の灯りはそのままです。すると立場が逆転し、弱い映り込みのほうが強く見えるようになります。これが「夜になると鏡になる」の正体です。
昼間、窓の近くに立って、外の暗い木陰や日かげの部分に目をやってみてください。その暗い部分にだけ、自分や部屋の白い壁がうっすら映っているのが分かります。窓全体では負けている映り込みが、暗い一角では勝つからです。
よく見ると、映った像は2つあります
もうひとつ、夜の窓でしか気づけないことがあります。窓に映った電球や明るい照明を、少し斜めから見てみてください。像が2つ、わずかにずれて重なって見えます。
ガラスには、部屋側の面と外側の面があります。光はそのどちらでも4%ほど跳ね返ります。外側の面で跳ね返った光はガラスの厚みを2回横切るので、部屋側で返った光より少しずれた位置から出てきます。図2の左へ戻る2本の矢印が、その2つの像です。
乗り物の窓は二重になっていることもあり、面の数だけ像が増えます。トンネルに入ったとたんに窓が鏡に変わるのも、まったく同じしくみです。外の明るさが、一瞬でゼロ近くまで落ちるからです。
まとめ
窓ガラスは、昼も夜も変わらず4%ほどの光を返しています。夜だけ鏡に見えるのは、比べる相手である外の景色が暗くなって、映り込みに負けるからです。ガラスが変わったのではなく、外と内の明るさの勝ち負けが入れかわったのです。
窓は、昼も夜もうすい鏡。
夜は外が暗くなって、その鏡がやっと見えるだけ。
鏡そのもののふしぎについては鏡はなぜ左右だけを逆にして、上下はそのままなの?を、明るい光が弱い光を見えなくする話については夜の道で、横断中の人が急に見えなくなるのは、なぜ?もあわせてどうぞ。
- 夜、部屋の灯りをつけたまま窓に近づき、顔のまわりを両手で囲って外を見ます。手が室内の光をさえぎるので、映り込みが弱まり、外の景色が浮かび上がってきます。
- 次に部屋の灯りを消して、同じ窓を見ます。映っていた自分の姿が消え、外が見えるようになります。窓は何も変えていないのに、見えるものが入れかわります。
- もう一度灯りをつけ、窓に映った照明を斜めから見ます。明るい像のすぐそばに、うすい2つめの像が見つかります。ガラスの2つの面が、それぞれ返した光です。
1と2は、昼に同じことをしても何も起きません。外が明るいうちは、どちらの場合も外の光が勝ったままだからです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・電磁気学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 屈折率:その物の中で光がどれだけ進みにくくなるかを表す数。空気はほぼ1、板ガラスは1.5ほどです。
- 反射率:境目に当たった光のうち、跳ね返る割合。空気とガラスの境目では、正面から当たったときに4%ほどです。
- 半透鏡:光を一部だけ通し、一部だけ返す鏡。夜の窓ガラスは、弱い半透鏡そのものです。
- 照度:ある面がどれだけ光を受けているかの量。単位はルクスで、明るさを数で比べるときに使います。
中学高校式で確かめる:映り込みは外の景色の何倍明るいか
窓が返す室内の光と、外から届く光を、大づかみに比べてみます。ここでは室内を読書ができる明るさ、外を満月の夜として計算します。
| 読書をする面の明るさ | 300ルクスとされています |
| 満月の夜の屋外の明るさ | 0.2ルクスとされています |
| ガラス1面が返す割合 | 0.04(4%)とされています |
| 灯りを消した室内の明るさ | 1ルクスとして計算します |
| 窓が室内へ返す光 | 300 × 0.04 = 12 |
| 外の景色にくらべると | 12 ÷ 0.2 = 60 |
| 灯りを消したとき、窓が返す光 | 1 × 0.04 = 0.04 |
| そのとき、外の景色にくらべると | 0.04 ÷ 0.2 = 0.2 |
灯りがついていると、映り込みは外の景色の60倍。消すと0.2倍まで落ちて、外の景色が勝ちます。数のけたが入れかわるので、見えるものもまるごと入れかわります。
なお、この計算は目安です。厳密には、面がどれだけ光って見えるかを表す量(輝度)で比べる必要があり、部屋の壁の色や窓との距離でも変わります。
高校高校+4%という数はどこから来るのか
高校光が境目で曲がる角度は、屈折率の比で決まります(屈折の法則)。曲がる角度と跳ね返る割合は、同じ境目の性質から一緒に出てきます。
高校+正面から当たった場合、跳ね返る割合は2つの屈折率の差を和で割り、それを2乗した値になります。空気とガラスなら、差の0.5を和の2.5で割って0.2、その2乗で0.04です。斜めから当たるほどこの値は大きくなり、ごく浅い角度ではほとんどの光が跳ね返ります。遠くの水面だけが鏡のように光って見えるのも、同じ理由です。
大学反射の割合は、光の振動の向きごとに違います
境目での反射と透過の割合を角度ごとに与える関係式は、19世紀にフレネルが導きました。光の振動の向きが境目に対して平行か垂直かで、反射率の角度変化は別々の曲線になります。ある特定の角度では片方の成分の反射がゼロになり、これを利用したのが偏光板つきのサングラスです。また、反射した2つの波をわざと打ち消し合わせる薄い膜を表面に重ねると、4%の反射を0.1%程度まで下げられます。眼鏡やカメラのレンズに使われている技術です。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 「まぶしさ」の数値化 明るい映り込みが視界をどれだけ邪魔するかは、単純な明るさの比だけでは決まりません。年齢や目の状態で大きく変わり、評価の方法はいまも議論されています。
- どこまで反射を消せるか 広い波長と広い角度の両方で反射をほぼゼロにするには、表面に細かい構造を作る方法が研究されています。蛾の目の表面構造が手本のひとつですが、耐久性と量産の両立が課題です。
- 夜間照明の影響 室内から窓を通して外へもれる光が、虫や鳥の行動をどれだけ変えるかは、地域ごとの調査が進んでいる段階です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。跳ね返る割合そのものは確立した知識ですが、それが人にどう見えるかの部分には、まだ研究の余地があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(光の反射と屈折) | ガラスが光を返すという話、図1 |
| 高校 | 物理基礎・物理(波、屈折の法則) | 屈折率と、2つめの像のずれ |
| 高校+ | 物理(発展:反射率) | 4%を求める計算 |
| 大学 | 光学・電磁気学(境界条件) | 振動の向きごとに違う反射率と、反射を抑える膜 |
| 研究 | 視覚科学・照明工学 | まぶしさの数値化、夜間照明の影響 |
| ― | 生活とのつながり | 夜の窓から外を見たいときは、室内の灯りを落とすと見えるようになる |
- E. Hecht『Optics』(第5版)、反射と屈折・フレネルの関係式の章
- 日本産業規格 JIS Z 9110「照明基準総則」(作業や読書に推奨される照度)
- 国立天文台編『理科年表』、月光による屋外照度の項
- 板硝子協会『板ガラスの性能と種類』(板ガラスの屈折率と、可視光の透過・反射)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。窓や照明の条件によって、見え方は大きく変わります。