自然のふしぎ 天文・宇宙 予備知識なしでOK 読了 約8分

月のウサギの模様は、何でできているの?
― 黒いところは、30億年以上前にあふれ出た溶岩の平原です

「月でウサギがおもちをついているよ」。子どものころ、そう教わった人は多いはずです。では、あの黒い模様は何なのでしょう。影でも、汚れでも、水でもありません。正体は、月の中からあふれ出て、冷えて固まった溶岩です。

公開:2026.11.01 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

11月の夜、塾の帰りに子どもと満月を見上げます。白く光る丸の中に、うっすらと黒い模様があります。

「ねえ、あの黒いのって何?」と聞かれました。「ウサギだよ」と答えると、「そうじゃなくて、本当は何なの?」と重ねて聞かれます。

大人もつい「影かな」「くぼみかな」とごまかしがちな質問です。実はこの問いには、月の40億年分の歴史がつまっています。

黒い模様ができた理由は、2つだけ

1
黒いところは、溶岩が固まった「黒い岩」

白いところは、月ができてすぐに固まった軽くて白い岩です。黒いところは、あとから中からわき出した溶岩が固まった、鉄を多くふくむ黒い岩です。色の違いは、岩の種類の違いです。

2
溶岩が出られたのは、地球に向いた側だけ

月の表面の「皮」は、地球に向いた側がうすく、裏側が厚いとされています。うすい側だけ、溶岩が地表まで届きました。だから模様は、私たちに見える側にばかりあります。

ひとつずつ見ていきましょう。まずは、黒いところがどうやってできたのかです。

巨大なくぼみに、溶岩が何億年もかけてたまった

月ができたばかりのころ、表面はどろどろにとけた岩でおおわれていたと考えられています。それが冷えるとき、軽くて白い鉱物が上へ浮かび、白い地面をつくりました。これがいまの月の白いところで、「高地」と呼ばれます。

そのあと、月には大きな天体がいくつもぶつかりました。直径数百kmをこえる巨大なくぼみ(盆地)が、あちこちにできたとされています。

さらにそのあと、月の内部で岩の一部がとけ、溶岩になりました。溶岩は割れ目を通って上がり、低い盆地にたまっていきました。図1のつまみを右へ動かすと、その様子が分かります。

地球から見た月(表側) いまから 約30億年前 白いところ=高地(軽く白い岩) 点線の輪=衝突でできたくぼみ 黒いところ=流れこんだ溶岩 溶岩は低いくぼみにたまり、 平らな黒い平原になりました。 ※海の形と位置はおおまかな模式です
右へ動かすほど時代が進み、くぼみに溶岩がたまっていきます
図1:月の表側の模式図。点線の輪は、巨大な衝突でできたくぼみです。つまみを左端(約40億年前)にすると、黒い部分が消えて白い地面とくぼみだけになります。右へ動かすと、くぼみに溶岩がたまって黒い平原が広がり、ウサギの模様ができあがります。

溶岩の多くは、いまから約39億年前から31億年前ごろにかけて流れ出たとされています。何億年もかけて、少しずつ平原を広げていったのです。そのあとの30億年、月の顔はあまり変わっていません。私たちが見ているウサギは、恐竜よりはるか昔の「顔」なのです。

黒く見えるのは、溶岩が固まった岩(玄武岩)に鉄が多くふくまれるためです。光を吸いやすく、はね返す割合は白い高地のおよそ半分とされています。平らで目立つクレーターも少ないので、遠くから見るとのっぺりした黒い面になります。

💡 なぜ「海」と呼ぶの?

黒いところは「静かの海」「雨の海」のように、海と名づけられています。昔の天文学者が、本当に水をたたえた海だと考えたからです。17世紀に月の地図をつくったイタリアの天文学者がつけた名前が、いまも使われています。実際には、水は一滴もない溶岩の平原です。

模様が「地球に向いた側」にばかりあるのは、なぜ?

月はいつも同じ面を地球に向けています(理由はこちらの記事で説明しています)。1959年、探査機が初めて裏側を撮影すると、研究者は驚きました。裏側には、黒い「海」がほとんどなかったのです。

表側では、面積のおよそ3割が海だとされています。裏側では、ごくわずかしかありません。月の顔は、表と裏でまるで別の天体のように違います。

大きな理由と考えられているのが、月の表面をおおう「皮」(地殻)の厚さです。図2を見てください。探査機で月の重力を細かく測ると、地殻は表側でうすく、裏側で厚いことが分かってきました。

地球 いつもこちらを向く マントル ✕ 表側:地殻がうすい 溶岩が地表まで届き、黒い海に 裏側:地殻が厚い 溶岩が途中で止まり、白いまま 白い地殻(厚い) 黒い溶岩の平原(海) ※厚さの違いは、分かりやすいよう大げさに描いています
図2:月を真ん中で切った断面の模式図。左が地球に向いた表側です。外側の白い層(地殻)は、左の表側でうすく、右の裏側で厚くなっています。オレンジの矢印は、とけた岩が上がってくる道すじです。左ではうすい地殻をつき抜けて黒い海をつくり、右では厚い地殻にはばまれて、✕の印のところで止まっています。

とけた岩は、まわりの岩より少し軽いので上へ上がろうとします。ただし、上に乗った地殻が厚すぎると、地表までたどり着けません。うすい表側では届き、厚い裏側では届かなかった。これが、模様が地球側にかたよっている理由の、いちばん有力な説明です。

では、なぜ表側だけ地殻がうすいのか。ここはまだ答えが出ていません。熱を出す元素が表側に集まっていた説、裏側に大きな天体がぶつかった説などがあり、研究が続いています。

💡 ウサギに見えるのは日本だけ?

同じ模様を、ほかの国ではカニ、本を読む女性、ロバなどに見立ててきたといわれます。人の目は、ばらばらの形の中にも、顔や動物を見つけてしまうくせがあります。どれに見えるかは文化しだいですが、見ている岩はどこの国でも同じです。

まとめ

月の黒い模様は、巨大な衝突でできたくぼみに、月の中から溶岩が流れこんで固まった平原です。白い高地より鉄が多く、光をあまりはね返さないので黒く見えます。溶岩が地表まで出られたのは、地殻のうすい表側だけでした。そのため、模様は地球から見える側にばかりあります。

月のウサギは、30億年以上前に固まった溶岩の地図。
地球に向いた側だけ、月の中身があふれ出しました。

月がいつも同じ面を向ける理由は「月はなぜ、いつも同じ面をこちらに向けているの?」、月の満ち欠けは「月の形は、なぜ毎日変わるの?」で紹介しています。月や地球が丸い理由は「地球は、なぜ丸いの?」もどうぞ。

🧪 双眼鏡で「海」と「高地」を見くらべてみよう
  1. 半月のころ、月の光っている部分と暗い部分の境目を、双眼鏡で見てみましょう。
  2. 白い高地の側は、境目がぎざぎざです。クレーターの影がたくさん並んでいます。
  3. 黒い海の側は、境目がなめらかです。溶岩が固まった平らな地面だからです。

満月の日は影ができないので、模様の黒さがいちばんはっきり見えます。逆に、でこぼこを見るなら半月が向いています。目を守るため、昼間に太陽の近くへ双眼鏡を向けるのはやめましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(惑星科学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:月の黒い模様は、どれくらいの広さ?

月の表面積を球の公式で出し、そのうち海が占める割合をかけて、黒い模様の広さを求めます。

⓪ もとになる式
記号で書くとS海 = 4 × π × r² × p
言葉で書くと海の広さ = 4 × 円周率 × 月の半径の2乗 × 海が占める割合
どこから来る式か前半の「4 × π × r²」は、球の表面積の公式です。それに、表面のうち海が占める割合をかけています。
S海海(黒い模様)の面積。単位は平方キロメートル
r月の半径。単位はキロメートル
p月の表面全体のうち、海が占める割合(単位なし)
① もとになる数値
月の半径約1737 km
4 × 円周率約12.57
月全体で海が占める割合約16%(0.16)とされる
表側だけで海が占める割合約31%(0.31)とされる
日本の国土の面積約37万8000 km²
② 計算してみる
半径の2乗1737 × 1737 = 3017169
月の表面積3017169 × 12.57 ≒ 37926000 km²
海の広さ(月全体)37926000 × 0.16 ≒ 6068000 km²
日本の何個分か6068000 ÷ 378000 ≒ 16
表側の面積(半分)37926000 ÷ 2 = 18963000 km²
表側にある海18963000 × 0.31 ≒ 5879000 km²
海のうち表側にある割合5879000 ÷ 6068000 ≒ 0.97

黒い模様の広さは、およそ600万km²。日本の国土の約16個分です。しかもその約97%が、地球に向いた表側にあります。割合の数値は資料によって少しずつ違いますが、「ほぼ全部が表側」という結論は変わりません。

高校高校+白い岩と黒い岩は、どう違うの?

高校高地の斜長岩は、斜長石という白く軽い鉱物がほとんどを占めます。海の玄武岩は、輝石やかんらん石など鉄を多くふくむ黒い鉱物が多い岩です。火成岩の分類でいえば、色のうすい岩と色の濃い岩の違いにあたります。

高校+アポロ計画では、1969年から1972年にかけて約382kgの月の石が地球へ持ち帰られました。その年代測定から、高地の岩は約44億年前ごろ、海の玄武岩の多くは約39〜31億年前にできたことが分かりました。クレーターの数を数えて地面の古さを見積もる方法も、この年代で目盛りが合わせられています。

大学マグマオーシャンと、月の表裏の二分性

月ができた直後、表面から数百kmまでがとけた「マグマオーシャン」になったと考えられています。冷える途中で軽い斜長石が浮いて集まり、高地の地殻になりました。重い鉱物は沈んでマントルをつくりました。その後、マントルの一部がとけて(部分溶融)できた玄武岩質のマグマが、衝突盆地を埋めたのが月の海です。表側と裏側で地殻の厚さや海の量が大きく違うことは「月の二分性」と呼ばれます。NASAの重力探査機の観測では、地殻の厚さは平均で30〜40km台とされ、表側のほうがうすいことが確かめられています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:月の海(ウィキペディア) / NASA・月の重力探査機の解説(英語)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。月の石を持ち帰る計画は今も続いていて、新しい試料が届くたびに、ウサギの模様の歴史は少しずつ書き直されています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「月と金星の見え方」「火山と火成岩」月の表面の模様、玄武岩という岩
高校地学「惑星と太陽系」「火成岩の分類」斜長岩と玄武岩の違い、海の広さの計算
高校+地学の発展「放射年代」アポロの石の年代測定
大学惑星科学・月惑星地質学マグマオーシャン、部分溶融、月の二分性
研究月の起源と熱の歴史表側だけ地殻がうすい理由、火山の終わり
―生活とのつながりお月見、双眼鏡での月の観察
参考・出典
  1. ウィキペディア「月の海」
  2. NASA Science, GRAIL (Ebb and Flow)
  3. Wieczorek, M. A. et al. (2013) The Crust of the Moon as Seen by GRAIL. Science 339, 671–675.
  4. Hiesinger, H. et al. (2011) Ages and stratigraphy of lunar mare basalts: A synthesis. Geological Society of America Special Paper 477.
  5. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(月の半径などの数値)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。月の年代や地殻の厚さは、研究によって見積もりが異なります。