自然のふしぎ 電磁気 予備知識なしでOK 読了 約6分

方位磁針の北は、なぜ地図の北とずれているの?
― 山では、1km歩くごとに100mほど横へそれます

登山や測量をする人は、地図を広げるとまず鉛筆で斜めの線を何本も引きます。「磁北線」と呼ばれる線です。方位磁針が指す北と、地図の上の北は、同じ北ではありません。日本では、その差はおよそ5〜10度あるとされています。わずかな角度ですが、歩くほどに開いていきます。

公開:2026.09.21 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

地図と方位磁針を持って、林の中を歩いています。目指す小屋は、地図の上では「ほぼ真北」にあります。

そこで方位磁針の針に合わせて、まっすぐ北へ歩き出します。地図では1kmほどの道のりです。

ところが、着いた場所に小屋はありません。少し西の斜面に出てしまいました。方位磁針は壊れていませんし、地図も正しいものです。

理由は2つだけです

1
地球の「こまの軸」と「磁石の軸」がそろっていない

地図の北は、地球が回るときの軸が指す北です。方位磁針の北は、地球という大きな磁石の軸が指す北です。この2つの軸は、はじめからずれています。

2
地球の磁石は、きれいな棒磁石ではない

磁力は地球の内部で作られていて、その分布には場所ごとのゆがみがあります。だからずれの向きと大きさは、立っている場所によって変わります。

この2つが重なって、「地図の北」と「針の北」の差が生まれます。この差には名前があり、磁気偏角と呼ばれています。日本ではどこでも針が西へ寄っていて、北海道では西へ9〜10度ほど、関東では7度半ほど、沖縄では5度ほどとされています。

1つめ:地球の磁石は、傾いて入っている

地球のまわりの磁力は、中心の核で作られていると考えられています。そのはたらきが作る磁石の軸は、地球が回る軸に対して十数度ほど傾いています。つまり、針が指す先は、地図の北極点そのものではありません。

しかも針の北は、じっと止まっていません。長い年月のあいだ動き続けていて、20世紀にはカナダの北方にありましたが、いまはシベリア寄りへ移ってきたとされています。地図の北が動かないのに対して、針の北は動く目印なのです。図1の左を見てください。縦の点線と傾いた実線が、そろっていないことがわかります。

① 回転の軸と、磁石の軸はそろっていない ② そのまま歩くと横へそれる 点線=回転の軸(地図の北) 実線=磁石の軸(針の北) 地球 十数度 出発点 地図の北 針の北(西寄り) 2本の点線のはば 約130m 矢印は1kmぶん 角の差 7度半
図1:左の図は、地球の回転の軸(縦の点線)と磁石の軸(傾いた実線)がそろっていないこと。右の図は、出発点から2本の矢印が上へ伸び、1km進んだところで先端が点線のはばだけ横に離れることを示しています。

2つめ:ずれ方は、場所ごとに違う

もし地球がきれいな棒磁石なら、ずれは計算だけで求められます。しかし実際の磁力の分布は場所ごとにゆがんでいて、大陸の下や海の下で強さも向きも変わります。

そのため、ずれは地方ごとに測っておくしかありません。国土地理院は全国で地磁気を測り、何度西へ寄っているかを示した図を作って公表しています。地形図の端に書かれている方位の注記も、この測量の結果です。

ずれは年ごとにも動きます。日本では西へ寄る角度が少しずつ増えていて、1年あたり数分(1分は60分の1度)の割合とされています。古い地図の注記をそのまま使うと、わずかに合わなくなるのはこのためです。

💡 飛行場の番号が、ときどき書きかえられる

飛行場の滑走路には「34」「16」のような番号が塗られています。これは針の北を基準にした方位を、10で割った数です。針の北が動くと番号が実際の向きと合わなくなるため、世界のあちこちで番号の塗りかえが行われてきました。動く目印を使うと、地面の文字まで書きかえることになるのです。

まとめ

方位磁針は正直に地球の磁力を指しています。ただ、その磁力の軸が地球の回転の軸とそろっていないので、地図の北とは一致しません。日本ではおよそ5〜10度西へ寄り、その角度のぶん、歩くほどに横へそれていきます。だから現場では、地図に磁北線を引いてから針を合わせます。

針は「北」を指しているのではなく、
地球の磁石の向きを指しているだけです。

針そのものが北を向くしくみはコンパスの針は、なぜ北を向くの?で、動かない目印としての星の使い方は北極星は、いちばん明るい星なの?で説明しています。

🧪 手元の地図と方位磁針で確かめる
  1. 紙の地形図を用意し、端の注記を探します。「西偏7度10分」のように、何度西へ寄るかが書かれています。
  2. 分度器で、地図の縦線からその角度ぶん左へ傾けた線を、地図いっぱいに何本か引きます。これが磁北線です。
  3. 屋外で方位磁針を地図に置き、針と磁北線が平行になるように地図ごと回します。地図の向きが地面と合います。

鉄の柱や車のそば、電線の下では針が引っぱられます。数メートル離れて、置く場所を変えて2回読むと気づけます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・数学I」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球電磁気学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:7度半のずれは、何メートルになる?

角度のずれは、進んだ距離をかけると長さに変わります。主題である「横へのずれ」そのものを計算します。

⓪ もとになる式
記号で書くとd = L × tan θ
言葉で書くと横のずれ = 進んだ距離 × 偏角の正接(タンジェント)
どこから来る式か直角三角形の三角比の定義から来ます。進んだ距離を底辺、偏角を出発点の角とみると、横のずれは向かい側の辺になります。
① もとになる数値
進んだ距離 L1000 m(地図の上で1km)
偏角 θ(関東のあたり)西へ 7.5 度 とされています
7.5 度の正接およそ 0.132 とされています
谷から谷までの間隔(山での目安)300 m
② 計算してみる
1km 進んだときの横のずれ(m)1000 × 0.132 = 132
5km 進んだときの横のずれ(m)132 × 5 = 660
谷の間隔いくつぶんか660 ÷ 300 = 2.2

1km で約132m、5km で約660mです。谷ひとつぶんの幅を300mとすれば、その2.2倍にあたります。尾根を2つ越えて、別の谷へ入ってしまう量です。角度は小さくても、距離をかけると地形をまたぐ長さになります。

高校高校+針が向く向きは、何で決まるのか

高校針が向きたがるのは、地球の磁場のうち水平な成分(水平分力)の向きです。地球の磁場は斜め下を向いているので、その水平な向きだけを取り出したものが、地図の上での「針の北」になります。

高校+ある地点の地磁気は、偏角・伏角・全磁力の3つで表せます。これを地磁気の三要素と呼びます。地球を1本の棒磁石とみなす双極子磁場の近似では、伏角と磁気緯度の関係が tan(伏角)= 2 × tan(磁気緯度)という式で結ばれます。実際の値がこの近似からどれだけ外れるかが、場所ごとのゆがみの大きさを表します。

大学世界の偏角は、どう計算されているのか

地球全体の磁場は、球面調和関数による展開で表されます。その係数(ガウス係数)を世界中の観測所と人工衛星の記録から決めた標準模型が、国際地磁気標準場(IGRF)です。地図や機器が示す偏角は、この模型に地点と日付を入れて計算した値です。磁場そのものを作る流れの理論は、地球ダイナモ理論と呼ばれます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:地磁気(三要素と双極子近似)ダイナモ理論

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。偏角の数値も測量のたびに更新されるので、実際に使うときは新しい図で確かめてください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1分野「電流と磁界」地球が大きな磁石であること、針が磁界の向きを指すこと
高校数学I「三角比」/物理基礎「磁界」横のずれを正接で求める計算、水平分力の考え方
高校+地学「地球の磁場」地磁気の三要素、双極子磁場の近似からのずれ
大学地球電磁気学・測地学球面調和関数による展開、国際地磁気標準場(IGRF)
研究地球内部物理学磁極の移動、地磁気の反転の予測
生活とのつながり登山で地図に磁北線を引く、地形図の方位の注記を読む
参考・出典
  1. 国土地理院「地磁気測量・磁気図」(日本各地の偏角の分布と、その年ごとの変化)
  2. 気象庁 柿岡地磁気観測所の観測記録(長期間の偏角・伏角・全磁力の変化)
  3. 国際地球電磁気学・超高層物理学協会(IAGA)「国際地磁気標準場(IGRF)」の係数表
  4. ウィキペディア日本語版「地磁気」(三要素・双極子近似・磁極の移動のまとめ)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。山に入るときは、最新の地形図と現地の案内、自治体や関係機関の情報に従ってください。