おしっこは、1日にどれくらい作られているの?
― 腎臓は毎日180リットルをこして、99%を体に戻しています
1日に出るおしっこは、およそ1.5リットルです。ところが腎臓は、その100倍以上の水分を毎日こしています。いったん「ほとんど全部」を外へ出し、そこから必要なものだけを拾い戻しているのです。遠回りに見えるこのやり方には、ちゃんとした理由があります。
朝起きてトイレに行き、昼にも行き、夕方にも行く。1日に何回か行くのが、ごくふつうの毎日です。
ペットボトルで数えれば、1日の量は大きいボトル1本ぶんより少し少ないくらい。体の中で作られているのも、そのくらいだと思いがちです。
実はこの「1.5リットル」は、腎臓が1日に動かしている水の量の、ほんのしぼりかすにすぎません。
腎臓のしごとは、2つの段階に分かれます
血液を目の細かいふるいに通し、血の細胞と大きなたんぱく質以外は、ほとんど全部こし出します。その量は1日に約180リットル。家のお風呂1杯ぶんに近い量です。
こし出した液は、長い管を通るあいだに水も塩も糖も、ほとんどが体へ戻されます。最後まで戻されずに残った1%足らずが、おしっこになります。
「捨てるものを選ぶ」のではなく、「残すものを選ぶ」。これが腎臓のやり方です。順番に見ていきましょう。
腎臓は、血しょうを1日に60回も洗い直しています
心臓が送り出す血液のうち、およそ5分の1は腎臓へ流れこむとされています。腎臓は左右に1つずつあり、どちらも握りこぶしくらいの大きさです。その中には、小さなこし器が片方だけで100万個ほど詰まっていると言われます。
こし器の入口では、毛細血管が毛糸玉のように丸まっています。ここで血液は、血圧に押されて壁のすき間から液をしみ出させます。すき間は、血の細胞や大きなたんぱく質は通さない細かさです。けれども水や塩、糖、小さな老廃物はそのまま通り抜けます。
こうしてこし出される量は、1分間にコップ半分ほど。1日に直すと約180リットルになります。体じゅうの血しょう(血液から細胞を除いた液の部分)は3リットルほどです。つまり同じ液を、1日に60回くらいこし直している計算です。
図1を見てください。左から入った血液が、まん中のこし器で大量にこし出されます。そのほとんどが、上の矢印のように体へ戻されます。右下のバケツにたまる量が、おしっこです。
こし出す力は、血圧の「差し引き」で決まります
こし器の中で液を押し出しているのは、心臓がつくる血圧です。ただし、押す力がそのまま全部使われるわけではありません。
こし出された液がたまる袋の側にも、押し返す圧力があります。さらに血液に残ったたんぱく質は、水を血管の内側へ引き戻そうとします。図2の左の長い棒が押す力で、右の2本がそれを打ち消す力です。差し引きで残るのは、もとの血圧の6分の1ほどとされています。
残る力は小さいのに、なぜ大量にこせるのでしょうか。こし器の壁がとても薄く、すき間が多く、しかも合計の面積が広いからです。弱い力でも、通り道が広ければ流れはたくさん通ります。逆にいえば、血圧が大きく下がるとこす力はすぐ消えてしまいます。そのため腎臓には、血圧が多少変わってもこす量を一定に保つ調節の仕組みがあるとされています。
なぜ、わざわざ全部出してから戻すの?
99%を戻すくらいなら、最初から要らないものだけを選んで出せばよさそうに見えます。けれどもその方法では、腎臓は「捨てるべきもの」をすべて見分けなければなりません。
体に入ってくる物質は、食べ物の成分、薬、体の中で生まれる老廃物など、数えきれないほどあります。初めて出会う物質もあります。それらを1つずつ見分けて捨てる仕組みを、全部そろえるのは大変です。
そこで腎臓は逆を行きます。小さいものはひとまず全部外へ出し、体に必要だと分かっているもの(水、塩、糖、アミノ酸など)だけを取り戻すのです。こうすれば、取り戻す仕組みが用意されていない物質は、自動的に外へ出ていきます。見知らぬ物質ほど、確実に捨てられるわけです。
そのかわり、取り戻す作業には大きなエネルギーがいります。腎臓は体重の0.5%ほどの重さしかないのに、体が使う酸素の1割近くを使っているとされます。その多くは、塩を体の側へくみ戻す作業に使われていると考えられています。
血液の糖は、ふだんはこし出されても、ほぼ全部が取り戻されます。ところが血液中の糖が多くなりすぎると、取り戻す仕組みが追いつかなくなります。すると戻しきれなかった糖が、おしっこに混じって出てきます。昔の医師がこれを見つけたことが、病名の由来になりました。
汗をたくさんかいた日は尿が少なく、濃くなります。体が水を惜しんで、戻す割合を99%より少しだけ上げているからです。図1のつまみで試すと分かるとおり、戻す割合が少し変わるだけで、尿の量は大きく変わります。寒い日にトイレが近くなる話は、寒くなると、なぜトイレが近くなるの?で紹介しています。
まとめ
腎臓は1日に約180リットルの液をこし出し、その99%以上を体に戻しています。おしっこの1.5リットルは、その戻しきれなかった残りです。必要なものだけを選んで残す方法なので、見知らぬ物質も取りこぼさずに捨てられます。量の調節も、最後の1%を動かすだけで済みます。
腎臓は、捨てるものを探していない。
残すものを選び、それ以外を全部流している。
血液がどう体をめぐっているかは血が体をぐるぐる回っていると、どうやって分かったの?で、血圧と体の高さの関係はキリンの血圧は、なぜ人の2倍もあるの?で読めます。
- 計量カップで1回ぶんの量をはかり(軽くすすいで清潔に)、1日の回数をかけて、およその1日量を出してみます。
- その量を180リットルで割って、こした液のうち何%が外に出たのかを計算します。
- 汗をたくさんかいた日と、涼しくて水をよく飲んだ日で、量と色のちがいをくらべてみましょう。
多くの人は0.5〜1%ほどになるはずです。量が極端に少ない日が続く、色や量の変化が気になる、というときは医療機関に相談してください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・腎臓学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 糸球体(しきゅうたい):腎臓の中にある、毛細血管が毛糸玉のように丸まったこし器。ここで血しょうがこし出されます。
- 原尿(げんにょう):糸球体でこし出されたばかりの液。1日に約180リットルできます。
- 再吸収(さいきゅうしゅう):原尿から、水・塩・糖などを尿細管で体へ取り戻すこと。
- ネフロン:糸球体とそれにつながる尿細管をひとまとめにした単位。片方の腎臓に100万個ほどあるとされます。
中学高校式で確かめる:1日の尿量を、こす量と戻す割合から出す
尿の量は、「どれだけこしたか」と「そのうちどれだけ戻したか」の2つで決まります。
| 記号で書くと | V = G × t × (1 − r) |
| 言葉で書くと | 1日の尿量 = 1分あたりのこす量 × 1日の分数 ×(1 − 戻す割合) |
| どこから来る式か | 水の出入りの帳じり(質量保存)。こし出した量は「体に戻す分」と「尿として出る分」に必ず分かれ、ほかに行き先はありません。 |
| V | 1日の尿量(L) |
| G | 糸球体ろ過量:1分あたりにこし出される量(mL/分) |
| t | 時間(分)。1日なら1440分 |
| r | こした量のうち体に戻す割合(0〜1) |
| 1分あたりのこす量(成人の代表値) | 約125 mL |
| 1日の分数 | 1440 分 |
| 体に戻す割合(代表値) | 約99.2 % |
| 体全体の血しょうの量 | 約3 L |
| 血しょう1 Lあたりのナトリウム | 約140 ミリモル |
| 食塩1モルの重さ | 約58.5 g |
| 1日にこす量(mL) | 125 × 1440 = 180000 |
| リットルに直す | 180000 ÷ 1000 = 180 |
| 尿にならずに残る割合(1 − 0.992) | 1 − 0.992 = 0.008 |
| 1日の尿量(L) | 180 × 0.008 = 1.44 |
| 血しょうを1日に何回こすか | 180 ÷ 3 = 60 |
| 1日にこし出すナトリウム(ミリモル) | 180 × 140 = 25200 |
| 食塩に直すと(25.2モル、g) | 25.2 × 58.5 = 1474.2 |
こし出す量の180リットルから、ほぼ1日の尿量の約1.4リットルが出てきました。戻す割合を98%にすると「1 − 0.98 = 0.02」で、尿は「180 × 0.02 = 3.6」リットルに増えます。図1のつまみと同じ計算です。また、こし出される塩は食塩に直して1日に約1.5キログラム。食事でとる塩の100倍以上を、毎日いったん外へ出しては取り戻している計算になります。
高校高校+どこで、何を取り戻しているのか
高校高校の生物では、糸球体からボーマンのうへこし出された原尿が、細尿管(尿細管)と集合管を通るあいだに再吸収されると習います。糖やアミノ酸はふつう全部が、水や塩は大部分が戻されます。尿素は一部しか戻らないため、尿の中では血しょうより何十倍も濃くなります。この「濃縮率」を物質ごとにくらべると、腎臓がどれを選んで残しているかが分かります。
高校+水を戻す量は、脳の下垂体から出るバソプレシン(抗利尿ホルモン)が集合管に働いて調節しています。体の水が足りないとこのホルモンが増え、集合管の壁に水の通り道(アクアポリン)が増えて、水がよく戻ります。お酒を飲むとトイレが近くなるのは、アルコールがこのホルモンの分泌をおさえるためとされています。
大学正味ろ過圧・クリアランス・対向流
図2の差し引きは、毛細血管の壁を通る液の流れを表すスターリングの式(スターリングの力)にあたります。糸球体の場合は、糸球体毛細血管の静水圧から、ボーマン嚢の静水圧と血しょうの膠質浸透圧を引いたものが「正味ろ過圧」です。これに壁の透過しやすさと面積をまとめた係数(限外ろ過係数)をかけると、糸球体ろ過量になります。臨床では、ろ過されたあと再吸収も分泌もされないイヌリンの「腎クリアランス」で、糸球体ろ過量を測ります。日常の検査では、血液中のクレアチニンから推算した値(推算糸球体ろ過量)が使われています。また、尿を血しょうより濃くできるのは、ヘンレのループがつくる「対向流増幅系」によって、腎臓の奥ほど塩が濃くなっているためです。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「糸球体濾過量」 / ウィキペディア「ネフロン」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- ネフロンの数は、なぜ人によって何倍もちがうのか。 片方の腎臓あたり数十万から200万個以上まで、大きな個人差があると報告されています。生まれる前の環境が関わるという考えがあり、調べられています。
- こす量を一定に保つ調節は、どう組み合わさっているのか。 血管そのものが圧力に反応する仕組みと、尿細管が塩の量を感じてこし器に知らせる仕組みがあるとされます。両者の分担や、病気のときにどう崩れるかは研究が続いています。
- 老化とともにろ過量が減るのは、どこまで避けられないのか。 年齢とともに少しずつ下がるとされますが、どこからが病気で、どこまでが自然な変化なのかの線引きには議論があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。180リットルや99%という数字も、体格や年齢、その日の水の取り方によって変わる代表値です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「動物の体のつくりとはたらき(排出)」 | 腎臓が血液から不要物をこし出すこと |
| 高校 | 生物「体内環境の維持(腎臓)」 | 原尿、再吸収、濃縮率、1日の尿量の計算 |
| 高校+ | 生物「ホルモンによる調節」 | バソプレシンと水の戻し方の調節 |
| 大学 | 生理学・腎臓学 | 正味ろ過圧、腎クリアランス、対向流増幅系 |
| 研究 | 腎臓学・発生学 | ネフロン数の個人差、ろ過量の調節、加齢による変化 |
| ― | 生活とのつながり | 汗をかいた日の尿の色、健康診断の腎機能の値 |
- ホール『ガイトン生理学』(原著第13版の日本語訳)エルゼビア・ジャパン ― 糸球体ろ過と正味ろ過圧の章
- 本間研一 監修『標準生理学』医学書院 ― 腎臓の章
- ウィキペディア「糸球体濾過量」
- ウィキペディア「ネフロン」
- 日本腎臓学会 編『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン』東京医学社
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体の状態や病気についての判断は、医師などの専門家にご相談ください。