日常のふしぎ 光 予備知識なしでOK 読了 約6分

合わせ鏡の奥は、なぜだんだん暗く、緑っぽくなっていくの?
― 鏡は、跳ね返すたびに光を1割ほど失っています

鏡は光を「全部」返しているように見えます。でも実は、1回跳ね返すたびに少しずつ光を失っています。そして失い方は、色によってわずかに違います。合わせ鏡は、その小さな差を何十回も重ねて見せてくれる装置です。

公開:2026.10.04 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

洗面所の鏡と、手に持った手鏡を向かい合わせにします。すると鏡の中に鏡が映り、その中にまた鏡が映り、トンネルのように奥へ続いていきます。

よく見ると、奥の像ほど暗くなっています。しかも、手前は白っぽいのに、奥へ行くほど深い緑色に沈んでいきます。

鏡そのものに色は付いていないはずです。では、この暗さと緑色は、どこから来たのでしょうか。

理由は2つだけ

1
鏡は光を100%は返さない

ふつうの鏡が返す光は、およそ9割前後とされます。1回なら気づかない差ですが、何十回も重なると、明るさは急速に減っていきます。

2
表のガラスが、緑以外を少し多く吸う

鏡の銀の膜は、ガラスの裏に貼られています。光はそのガラスを往復します。窓ガラスと同じガラスはわずかに緑がかっていて、赤と青を少し多く吸います。

1つ目が「暗くなる」理由、2つ目が「緑になる」理由です。どちらも、1回ではほとんど見えない小さな差です。合わせ鏡は、それを何十回もかけ算して、目に見える大きさにしています。

1回で1割。でも20回重なると、残りは1割

鏡に入った光のうち、9割が返ってくるとします。2回跳ね返ると、9割のさらに9割で、8割ほどになります。3回目、4回目と進むたびに、そのときの明るさの9割だけが残ります。

こうした減り方は、毎回「同じ量」ではなく「同じ割合」で減るのが特徴です。最初は大きく減り、あとはゆっくり減りながら、どこまでもゼロに近づいていきます。図1のつまみで、1回あたりに返す光の割合を変えてみてください。

跳ね返った回数ごとの、像の明るさ 100% 50% 10% オレンジの点線より下=最初の10分の1以下 1 5 10 15 20 跳ね返った回数(右へ行くほど、トンネルの奥の像)
明るさが最初の10分の1を下回るのは、22 回目です
図1:合わせ鏡の像の明るさを、跳ね返った回数ごとに棒で並べました。左の棒が手前の像、右の棒が奥の像です。横の点線は「最初の10分の1」。つまみで鏡が1回に返す光の割合を変えると、10分の1を下回る回数が大きく変わります。

図1で90%のとき、10回目の像はすでに最初の3分の1ほどの明るさです。22回目ごろには、10分の1を下回ります。99%まで上げると、10分の1になるのは200回を超えてからです。つまり、たった1割の差が、トンネルの「深さ」を10倍も変えてしまいます。

実際には、鏡を完全に平行に保つのも難しく、トンネルは奥へ行くほど少しずつ曲がっていきます。それでも、像が数十個まで見えることがあるのは、鏡が9割前後というかなり高い割合で光を返しているからです。

緑色の正体は、鏡の「表のガラス」

家の鏡は、板ガラスの裏側に薄い銀の膜を付け、さらにその裏を塗料で守った作りになっています。光はまずガラスに入り、裏の銀で跳ね返り、もう一度ガラスを通って出てきます(図2)。つまり1回の反射で、光はガラスの厚みを2回通ります。

家の鏡の断面(厚みは大きく描いています) 板ガラス(厚さ数ミリ) ↑ 銀の膜と、裏を守る塗料 入る光(白) 出る光 (わずかに緑寄り) 行き:ガラスを1回 帰り:もう1回 ここで跳ね返る ガラスを通るたびに、赤と青が少しだけ多く吸われる
図2:家の鏡の断面。左上から入った白い光は、上の板ガラスを下へ通り、下の銀の膜で跳ね返って、もう一度ガラスを通って右上へ出ます。矢印の行きと帰りで2回ガラスを通るため、そのたびに赤と青が少し多く失われます。

ふつうの板ガラスには、原料の砂などに由来する鉄分がわずかに含まれています。この鉄分が、赤に近い光と青に近い光を少しだけ多く吸うため、ガラスはほんのり緑がかっています。正面から見ると透明に見えますが、ガラスの切り口をのぞくと、はっきり緑色に見えます。

切り口が緑に見えるのは、光がガラスの中を長い距離通ってくるからです。合わせ鏡も同じです。20回跳ね返った光は、厚さ4ミリのガラスなら合計16センチ分のガラスを通ってきた計算になります。トンネルの奥は、分厚いガラスの塊をのぞいているのとほぼ同じなのです。

💡 「鏡の本当の色は緑」と言われることがある

白いものを映すと白く見えるので、鏡は色のない物の代表のように思われています。しかし、色ごとに返す割合を細かく測ると、ふつうの鏡は緑のあたりで返す割合が一番高いとされています。「鏡はごくわずかに緑色の物体だ」という言い方は、この意味では正しいのです。

💡 望遠鏡の鏡が「表」に銀やアルミを付ける理由

天体望遠鏡の大きな鏡は、ガラスの表側に金属の膜を付けています。光をガラスに通さないので、色の偏りや二重の像が生まれにくくなります。そのかわり膜が傷つきやすく、家の鏡のように手で拭くことはできません。

まとめ

合わせ鏡の奥が暗くなるのは、鏡が1回ごとに光を1割ほど失い、それが何十回もかけ算で重なるからです。緑っぽくなるのは、鏡の表のガラスが赤と青をほんの少し多く吸い、その差もまた重なっていくからです。1回では気づけない小さな差が、くり返しによって目に見える大きさに育ちます。

鏡は、光を「ほぼ全部」返している。
その「ほぼ」が、合わせ鏡の奥で緑色の暗がりになる。

鏡がなぜ左右だけ逆に見えるのかは「鏡はなぜ左右だけを逆にして、上下はそのままなの?」で、夜の窓ガラスが鏡になるしくみは「夜になると窓ガラスが鏡になるのは、なぜ?」で解説しています。

🧪 家で確かめてみよう:鏡のトンネルと、ガラスの切り口
  1. 洗面所の鏡の前で、手鏡を顔の横に持ち、2枚がほぼ向かい合うように角度を合わせます。手鏡の中に、奥へ続くトンネルが見えます。
  2. 手前から何個目まで像が数えられるか、数えてみましょう。奥の像ほど暗く、緑がかっていくのを確かめます。
  3. 窓ガラスや、写真立てのガラスの切り口を、真横からのぞいてみます。正面からは透明なガラスが、切り口では緑色に見えるはずです。

ガラスの切り口は鋭いことがあります。指でなぞらず、目で見るだけにしてください。鏡に日光を当てて人の目に向けるのも避けましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「数学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・物質科学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:何回目で、明るさは10分の1になる?

1回の反射で、明るさは毎回同じ割合 R だけ残ります。これを n 回くり返したときの明るさを求め、10分の1を下回る回数を確かめます。

⓪ もとになる式
記号で書くとIn = I0 × Rn
言葉で書くとn 回目の像の明るさ = 最初の明るさ × (1回で返す割合を n 回かけたもの)
どこから来る式か1回の反射ごとに「そのときの明るさの R 倍」だけが残る、という関係を n 回くり返したもの。毎回同じ割合で減るので、等比数列(指数関数)になります。
Inn 回跳ね返ったあとの像の明るさ(最初を1とした割合)
I0最初の明るさ(ここでは1とする)
R鏡が1回で返す光の割合(反射率、単位なし)
n跳ね返った回数
① もとになる数値
家の鏡の反射率(目安)およそ 0.9 とされる
板ガラスの厚さ(家の鏡の一例)4 ミリ
1回の反射でガラスを通る回数2 回(行きと帰り)
② 計算してみる
2回目の像の明るさ0.9 × 0.9 = 0.81
4回目(2回目の明るさを2乗)0.81 × 0.81 ≒ 0.656
8回目(4回目を2乗)0.656 × 0.656 ≒ 0.430
16回目(8回目を2乗)0.430 × 0.430 ≒ 0.185
20回目(16回目に4回分をかける)0.185 × 0.656 ≒ 0.121
22回目(20回目に2回分をかける)0.121 × 0.81 ≒ 0.098
20回の反射でガラスを通る回数20 × 2 = 40
そのとき通ったガラスの合計の厚さ(ミリ)40 × 4 = 160

22回目で、明るさは最初の約0.098倍、つまり10分の1を下回ります。図1の「22回目」と同じ答えです。そこまでに光は、厚さ16センチほどのガラスを通ってきています。ガラスの切り口を真横からのぞくのと同じくらいの長さなので、緑色がはっきり見えてくるわけです。

高校高校+「同じ割合で減る」ことの意味

高校毎回同じ割合で減る量は、等比数列になります。両辺の対数をとると、10分の1になる回数は「0.1 の対数 ÷ R の対数」で求まります。R が1に近いほど、R の対数は0に近づくため、回数は急に大きくなります。90%と99%で、回数が約10倍違うのはこのためです。

高校+ガラスの中の吸収も、同じ「同じ割合で減る」形をしています。通った厚さに対して明るさが指数関数的に減る関係は、ランベルト・ベールの法則と呼ばれます。赤・緑・青で吸収の強さが少しずつ違うため、長く通るほど、吸収の一番弱い緑が残ります。

大学金属の反射率と、ガラス中の鉄イオン

金属がよく光を返すのは、金属の中を自由に動ける電子が、光の電場を打ち消すように揺れるためです。この揺れ方はドルーデ模型で説明され、銀やアルミニウムは可視光の大部分を返します。一方、板ガラス(ソーダ石灰ガラス)の緑色は、主に微量の鉄イオンの吸収によるとされています。2価の鉄イオンは赤から近赤外に、3価の鉄イオンは紫外から青の側に吸収を持つとされ、その両側の「谷」にあたる緑が通り抜けます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ランベルト・ベールの法則(ウィキペディア) / 鏡の構造と種類(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。反射率や色合いは鏡の種類によって違うため、数値は目安として読んでください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1年「光の反射・屈折」鏡で光が跳ね返る、ガラスを通る
高校数学「指数関数・対数関数」、物理「光の性質」同じ割合で減る明るさ、10分の1になる回数
高校+化学の発展「光の吸収と色」ランベルト・ベールの法則、緑だけが残る理由
大学光学、固体物理、ガラス工学ドルーデ模型、鉄イオンの吸収
研究視覚科学、光学材料見える像の数、色の偏らない鏡
―生活とのつながり合わせ鏡、ガラスの切り口の緑色、望遠鏡の鏡
参考・出典
  1. ウィキペディア「鏡」(鏡の構造・種類)
  2. ウィキペディア「ランベルト・ベールの法則」
  3. E. Hecht, Optics, 5th ed., Pearson(金属の反射と吸収の章)
  4. W. Vogel, Glass Chemistry, Springer(ガラス中の鉄イオンによる着色)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。鏡の反射率やガラスの色合いは、製品や製法によって異なります。