つららは、なぜ一番寒い日ではなく
「少しゆるんだ日」にできるの?
つららは氷です。だから、寒ければ寒いほどよくできそうに思えます。ところが実際は、一日中しっかり氷点下の日には、ほとんど伸びません。つららができるには、「とける」と「こおる」の両方が必要だからです。
雪の降った翌朝、軒の先に細い氷の棒がずらりと並んでいます。日が当たると、その先からぽたぽたと水がしたたります。
不思議なのは、そこです。氷なのに、先っぽは濡れています。こおっているはずの場所で、水が流れているのです。
しかも、真冬の一番冷えこんだ日に見に行くと、つららは意外と伸びていません。よく伸びるのは、日中に少しゆるむような日のあとです。
理由は、大きく2つです
屋根や岩の上に積もった雪が、日ざしや下から伝わる熱で少しずつとけます。その水が、軒の先へ流れ落ちます。水が供給されなければ、つららは始まりません。
軒の先の空気は0℃より低いままです。流れてきた水はそこで薄い膜になって表面を伝い、伝いながら少しずつこおります。こおった分が積み重なり、下へ伸びていきます。
つまりつららは、「とける」と「こおる」がすぐ近くで同時に起きている、めずらしい氷です。だから、一日中しっかり氷点下の日には育ちにくいのです。雪をとかす熱が、どこにもないからです。
とける側:水は、どこから来るの?
雪をとかす熱の出どころは、おもに2つあります。ひとつは日ざしです。曇っていても、昼のあいだは雪の表面に熱が届きます。もうひとつは、建物の中から屋根を通って伝わる熱です。
屋根の下があたたかいと、積もった雪の底のほうが先にとけます。とけた水は雪の下をつたい、軒の先まで流れます。軒の外に出たとたん、水は建物の熱から切りはなされ、冷たい空気にさらされます。図1の左側が、この流れです。
こおる側:熱を「捨てられた分」だけ伸びる
水がこおるとき、じつは熱が出ます。冷たくなるのに熱が出るというのは意外ですが、水の分子がきちんと並んで固まるとき、余った分のエネルギーが熱として外へ出るのです。この熱を潜熱といいます。
ですから、つららが伸びる速さを決めているのは、流れてくる水の量そのものではありません。出てきた熱を、まわりの空気がどれだけ持ち去れるかです。熱が逃げなければ、水は流れ落ちるだけで、こおりません。
風があると、つららの育ちが速くなることが知られています。動く空気のほうが、熱をよく運び去るからです。逆にあたたかい風の日は、上でとける量が増えても下でこおらず、水はそのまま落ちてしまいます。
表面から先にこおるため、育っている最中のつららは、まん中に水の通り道が残っていることがあります。折れたつららの断面に小さな穴が見えるのは、そのなごりだと考えられています。
大きなつららの表面には、輪のような細かい段々が並びます。その間隔はおよそ1センチメートルで、太さや気温をいろいろ変えても、あまり変わらないという報告があります。なぜその長さになるのかは、いまも議論が続いています。
まとめ
つららは、寒さだけでできる氷ではありません。上でとかす熱と、下で熱を捨てる冷たさ。この二つがそろった日にだけ、水は流れながら固まり、少しずつ下へ伸びていきます。
つららは「こおった水」ではなく、
こおりながら流れつづけている水です。
同じ「上から下へ伸びる」でも、時間の桁がまるで違う例が鍾乳石です。反対に、土の中から上へ伸びる氷は霜柱で見られます。氷の表面がいつも濡れているという話は、凍った道が滑る理由にもつながります。
- 雪の日の翌朝、日の当たる側の軒と、当たらない側の軒を見比べます。多くの場合、つららが長いのは日の当たる側です。上でとける量が多いからです。
- 気温の記録を見て、つららが伸びた日の「昼の最高気温」と「夜の最低気温」を書き出します。最高は0℃より上、最低は0℃より下、という日が多いはずです。
- 冷凍庫の氷をひとつ、皿の上のコップのふちに置き、しずくの落ち方を10分おきに見ます。とける速さが場所の温度でずいぶん変わることが分かります。
つららの真下は、氷が落ちてくることがあります。観察は、少し離れた場所からにしてください。屋根の上での作業は、自分でやらないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(伝熱工学・雪氷学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 潜熱:温度を変えずに、状態が変わるときに出入りする熱のことです。水がこおるときは外へ出て、氷がとけるときは外から入ります。
- 融解と凝固:氷が水になることを融解、水が氷になることを凝固といいます。つららでは、この二つが上と下で同時に起きています。
- 熱の運ばれ方:つららから空気へ熱が逃げる道は、おもに空気の流れが運ぶ形です。風があるほど、運ばれる量は増えます。
中学高校式で確かめる:1時間で何センチメートル伸びるのか
つららが伸びる速さは、こおる水の量で決まります。そしてこおる量は、空気へ捨てられた熱の量で決まります。順に見ていきます。単位は、重さがグラム、熱がジュール、長さがセンチメートルです。
| 記号のかわりに使う量:水1グラムがこおるときに出る熱 | およそ334ジュール |
| 先たんから空気へ、1分あたりに逃がせる熱(想定) | およそ33.4ジュール |
| 氷1立方センチメートルの重さ | およそ0.92グラム |
| 育ちはじめのつららの、先たんの太さ(想定) | 1平方センチメートル |
| 1分あたりにこおる水の重さ(グラム) | 33.4 ÷ 334 = 0.1 |
| それを体積に直す(立方センチメートル) | 0.1 ÷ 0.92 ≒ 0.11 |
| 太さが1平方センチメートルなら、1分で伸びる長さはこの数値と同じです。1時間では | 0.11 × 60 = 6.6 |
1時間に数センチメートル、という答えになりました。ひと晩で数十センチメートルまで伸びるという観察と、だいたい合います。ただし、これは条件のよいときの目安です。
高校高校+なぜ「上が太く、先が細い」のか
高校熱の逃げやすさは、まわりの空気との温度差と、空気に触れている面積で決まります。細い先たんほど、体積のわりに空気と接する面積が大きく、熱を捨てやすい形になっています。
高校+表面を伝う水の膜は、氷に熱を渡しながら下っていきます。上のほうでは水が多くてこおりにくく、下へ行くほどこおりやすい。この差の積み重ねが、上が太く先が細いという形をつくると考えられています。
大学形そのものが、答えの一部になっている問題
つららは、熱の逃げ方が形を決め、決まった形がまた熱の逃げ方を変える、という関係になっています。こうした「境目そのものが動く問題」は、大学では自由境界問題と呼ばれ、金属が固まる過程や結晶の成長と同じ枠組みで扱われます。つららの細長い形も、その解のひとつとして調べられています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- さざなみ模様の間隔 表面の段々の間隔がおよそ1センチメートルにそろう理由は、いくつかの説が出ていますが、決着していません。
- 水にとけているものの役割 純度の高い水では模様ができにくく、わずかに塩などがとけていると出やすい、という実験報告があります。何がその違いを生むのかは、研究が続いています。
- ねじれながら育つつらら ゆっくり回りながら伸びたように見えるつららの報告もあり、どんな条件でそうなるのかは、まだよくわかっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身近な氷の柱にも、まだ答えの出ていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・状態変化と熱 | とける、こおるで熱が出入りする話 |
| 高校 | 物理基礎・熱量と潜熱 | 「式で確かめる」の計算 |
| 高校+ | 物理・熱の伝わり方 | 上が太く先が細くなる理由 |
| 大学 | 伝熱工学・雪氷学 | 形と熱の逃げ方が互いを決める話 |
| 研究 | 結晶成長・パターン形成 | さざなみ模様のなぞ |
| ― | 生活とのつながり | つららが伸びる日の見分け方 |
- 気象庁(気温・降雪などの観測と統計)
- 前野紀一・福田正己 編『基礎雪氷学講座』(古今書院)― 氷の成長と熱の出入りの基礎
- Maeno, N. ほか「Growth rates of icicles」Cold Regions Science and Technology(1994)
- Chen, A. S.-H. and Morris, S. W.「On the origin and evolution of icicle ripples」New Journal of Physics(2013)
- 日本雪氷学会 編『新版 雪氷辞典』― 用語の定義
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。屋根の雪おろしやつららの除去は危険をともなう作業です。自分で行おうとせず、自治体や専門の業者の案内・指示に従ってください。