身のまわりの不思議 生命・生物 予備知識なしでOK 読了 約7分

どんぐりは、なぜ豊作の年と不作の年があるの?
― 森じゅうの木が、示し合わせたように実らせます

同じ公園、同じ木なのに、足の踏み場もないほどどんぐりが落ちている年と、探しても数個しか見つからない年があります。木が元気かどうかの違いではありません。木は、あえて「実らせない年」を作っています。そして不思議なことに、その休みは森じゅうの木でそろいます。

公開:2026.09.02 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

秋の公園。去年は、歩くたびにどんぐりを踏んでしまうほどでした。ポケットがいっぱいになるくらい、いくらでも拾えました。

ところが今年、同じ木の下に立っても、地面はほとんど空っぽです。木は枯れていません。葉はしっかり茂っています。

そして少し歩いて、別のどんぐりの木を見に行っても、やっぱり空っぽなのです。1本の木の気まぐれではなさそうだ、と気づきます。

理由は、大きく2つです

1
食べる動物を、あふれさせるため

どんぐりは、ネズミやリスや鳥にとってごちそうです。毎年同じ量を出せば、食べる側もその量に合わせて増え、ほとんど食べ尽くされてしまいます。実らせない年を作って相手を減らし、次の年に一気にあふれさせれば、食べ残しが出ます。その食べ残しが、次の世代の木になります。

2
花粉を、むだなく届けるため

どんぐりの木の花は、風で花粉を飛ばします。相手の花が咲いていなければ、花粉は空振りです。森じゅうが同じ年にたくさん咲けば、花粉が届く見込みがぐんと上がります。「そろえる」こと自体に得があるのです。

この2つは別々の話に見えますが、どちらも「まとめて一度にやると得をする」という同じ形をしています。そして木には、まとめるための貯金と、そろえるための合図があります。順番に見ていきます。

1つずつ実らせると、なぜ全部食べられてしまうの?

森で暮らすネズミは、食べ物が多い年にはたくさんの子を育て、少ない年には数が減ります。つまり動物の数は、その前の年のどんぐりの量に引きずられて決まります。ここに、木がつけ入るすきがあります。

木が毎年ほどほどに実らせると、動物の数もそのほどほどの量に合った数で安定します。用意した分だけ食べられて、地面に残るのはごくわずかです。ところが、数年つづけて実らせなければ、動物の数は減っていきます。そこで一気に大量のどんぐりを落とすと、少ない口では食べきれません。あふれた分が、芽を出すきっかけを得ます。

図1を見てください。棒がどんぐりの量、点線が食べる動物の数です。動物の数は、どんぐりの量より1年おくれてついてきます。このおくれこそが、木のねらいです。

たての棒=どんぐりの量  点線=食べる動物の数 1年目 2年目 3年目 4年目 5年目 6年目 まとめて実らせる年 動物はおくれて増える
図1:たてに伸びる棒がどんぐりの量、上下に折れ曲がる点線が食べる動物の数です。高い棒2本(3年目と6年目)が、まとめて実らせた年。点線はその棒より1年おくれて持ち上がるので、高い棒の年には食べきれない分が地面に残ります。

森じゅうの木は、どうやってタイミングをそろえているの?

木どうしが相談しているわけではありません。そろうのは、外からの合図と、内側の貯金の2つが重なるからです。

外からの合図は、天気です。花のもとになる芽は、実る年の前の年の夏ごろに作られます。この時期の気温や日ざしが、その地域の木にいっせいに同じ条件を与えます。前の年の夏が花芽を作りやすい天気だったかどうかが、翌年そろって咲くかどうかを左右する、と考えられています。

内側の貯金は、木がためた養分です。たくさんの実を作るには、葉が作った糖や、根が吸い上げた養分を大量に使います。使い切った木は、次の年にはもう出す元手がありません。そのため、大量に実らせた翌年は自然と休みになります。天気の合図でそろえられた木々が、そろって使い切り、そろって休む。これが数年おきのくり返しを生みます。

💡 どんぐりの中身は、芽が出たあとの弁当

どんぐりの茶色い部分は、かたい皮でおおわれた実です。中身のほとんどはでんぷんで、これは芽が出たあとの数日を支える弁当のようなものです。栄養が多いからこそ動物に好かれ、好かれるからこそ「あふれさせる」作戦が必要になった、という関係にあります。

💡 食べられることは、損ばかりではありません

ネズミやカケスは、どんぐりを土に埋めてたくわえる習性があります。埋めた場所をすべて覚えてはいられないので、忘れられた分がそのまま芽を出します。親の木から離れた場所に運んでもらえるので、木にとっては引っ越しの手段でもあります。食べる相手は、やっかいな相手であり運び手でもあるのです。

まとめ

どんぐりの豊作と不作は、木の調子の良し悪しではありません。食べる動物の増え方に一歩先んじるための間の取り方であり、風まかせの花粉をむだにしないための足並みの合わせ方です。何年かに一度あふれるほど実るのは、その年に力があったからではなく、それまでの数年を休んだからです。

木は、毎年少しずつ配るのをやめました。
まとめて出す年と、出さない年に分けたのです。

前の年の天気が翌年の咲き方を決める、という点では桜がいっせいに咲くしくみとよく似ています。木が1年ごとに何を記録しているのかは木の年輪の話に、どんぐりを食べる動物の冬の過ごし方は冬眠の話にあります。

🧪 自分で確かめてみよう
  1. 近所の公園や神社で、どんぐりの木を2〜3本えらび、目印になる特徴を覚えておきます。秋に木の下の1歩四方(およそ80cm四方)を決めて、その中に落ちているどんぐりを数えます。
  2. 同じ日に、えらんだ木すべてで同じことをします。1本だけ多い年なのか、どの木も多い年なのかが分かります。そろっていれば、それが「そろえるしくみ」のあらわれです。
  3. 数と日付をメモして、来年の同じころにもう一度数えます。2年でも差が見えますが、3年つづけると休みの年が見つかりやすくなります。落ちているどんぐりに穴が開いていたら、虫に食べられた分です。その割合も一緒に数えると面白いです。

木や落ち葉をむやみに動かさず、公園や神社のきまりを守って観察してください。拾ったどんぐりは、持ち帰らずその場に戻すのがおすすめです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生態学・森林科学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:まとめて出すと、どれだけ食べ残るのか

数を単純にした森を考えます。ここで使う記号は数を数える単位だけで、単位は「本」「個」「%」の3つです。動物が1年に食べられる量は、その前の年の食べ物の量で決まっているものとします。

① もとになる数値(考えやすくした例です)
森にあるどんぐりの木100本
1本がまとめて実らせる年の実の数500個
休みの年がつづいて減った動物が食べられる量5000個
② 計算してみる
まとめて実らせた年の森ぜんたいの実100 × 500 = 50000
食べられずに残る実50000 - 5000 = 45000
残る割合45000 ÷ 50000 = 0.9
百分率に直す0.9 × 100 = 90

まとめて出した年には、9割が食べられずに地面に残る計算になります。もし毎年ほどほどに出していれば、動物の数もその量に見合ったところで落ち着くので、残る割合はこれよりずっと小さくなります。数字はしくみを見るための例で、実際の森の値ではありません。

高校高校+「そろう」ことの中身

高校高校の生物では、生物どうしの数の増減が互いに影響しあうことを学びます。食べる側の数は、食べ物の量に対しておくれて反応します。このおくれがあるかぎり、食べ物を出す側は「量を変動させる」ことで得をする余地を持ちます。

高校+風で花粉を運ぶ花では、受粉できる見込みは、まわりで同時に咲いている花の量が増えるほど高くなります。少しだけ咲く年は、花粉も雌しべもむだになりやすいということです。そのため、量を平らにならすより山と谷をつけたほうが、生涯で残せる種の合計が大きくなり得ます。

大学資源のやりくりと、地域全体でのそろい方

大学の生態学では、この現象を、木がためた養分を使い切るしくみと、天気という共通の合図が組み合わさったものとして扱います。前者だけでは、木ごとにばらばらの周期になります。後者が加わることで、離れた木どうしの山と谷がそろい、地域一帯が同じ年に実る、という説明が立てられます。地域をまたいだそろい方の強さや、その届く距離を測ることも、森林科学の題材になっています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。なぜそろうのかという問いは、長く観察が続けられてきた今も、決着していません。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・生物のふえ方と自然界のつり合い食べる側と食べられる側の数の関係
高校生物・個体群と生物群集数の増減におくれが出ること
高校+生物・繁殖のしかたと適応風で運ぶ花粉と、そろって咲くことの利点
大学生態学・森林科学養分のやりくりと、地域全体のそろい方
研究森林生態学・気候と生物の関係合図の正体と、気候の変化による影響
生活とのつながりどんぐりが少ない年は、山の動物が里におりてくることが増えると言われています。市町村や都道府県が出す情報に注意し、山に入るときは音の出るものを持つなど、地元の指示に従って行動してください。
参考・出典
  1. 森林研究・整備機構 森林総合研究所(ブナ科樹木の結実の豊凶に関する調査・解説)
  2. Kelly, D. "The evolutionary ecology of mast seeding", Trends in Ecology & Evolution, 1994.
  3. Koenig, W. D. and Knops, J. M. H. "Scale of mast-seeding and tree-ring growth", Nature, 1998.
  4. Crone, E. E. and Rapp, J. M. "Resource depletion, pollen coupling, and the ecology of mast seeding", Annals of the New York Academy of Sciences, 2014.
  5. 環境省(野生鳥獣の出没状況と対応に関する情報)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。野外での観察は、その場所のきまりと、自治体・管理者の指示に従って行ってください。