🦴 体の中のふしぎ ⚙️ 力学 予備知識なしでOK 読了 約6分

朝と夜で身長が1センチもちがうのは、なぜ?
― 背骨のクッションは、昼に水をしぼられ、夜に吸い戻しています

身長は、1日のうちで変わっています。いちばん高いのは朝起きたとき。夜には1センチほど低くなっているとされています。縮んでいるのは骨ではありません。骨と骨のあいだにはさまった、水を含んだやわらかいクッションです。

公開:2026.09.13 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

健康診断の身長の数字が、去年より少し低くて、どきっとしたことはありませんか。測ったのが朝だったか夕方だったかを、思い出してみてください。

子どものころ、柱に背比べの線を引いた人もいるでしょう。朝に測った線のほうが、なぜか高い位置に来ることがあります。

長く宇宙に滞在した飛行士が、地上に戻る前に「背が伸びていた」と話すこともあります。どれも、同じひとつのしくみで説明がつきます。

理由は2つだけ

1
昼は、体の重さでクッションの水がしぼられる

背骨は、骨の積み木と、そのあいだのクッションが交互に重なったものです。立ったり座ったりしているあいだ、上半身の重さがクッションを押しつづけ、中の水が少しずつ外へにじみ出ます。

2
夜は、横になるとクッションが水を吸い戻す

横になると、背骨を縦に押す重さがほとんど消えます。するとクッションは、まわりの組織から水を引き寄せてふくらみます。朝にはまた、背が高い状態に戻っています。

つまり背骨は、1日ごとに「しぼる」と「吸う」をくり返す、水のスポンジのようなものです。ひとつずつ見ていきましょう。

昼のあいだ、背骨の中で何が起きているの?

首から腰まで、背骨の骨(椎骨)のあいだには、全部で23枚のクッションがはさまっています。これが椎間板です。中心はゼリーのようにやわらかく、若い人では重さの8割ほどが水だとされています。まわりは、何重にも巻いた丈夫な繊維の輪が囲んでいます。

立っていると、クッション1枚ごとに、その上にある体の重さがかかります。腰のあたりでは、上半身ほぼまるごとの重さです。水は押されると、すき間から少しずつ逃げていきます。ぬれたスポンジを手のひらで押しつづけると、じわっと水が出てくるのと同じです。

1枚あたりの縮みはわずかです。けれど23枚ぶんが足し合わさるので、身長としては1センチほどの差になります。図1を見てください。左が朝、右が夕方の背骨です。骨の積み木の厚さは変わらず、あいだのクッションだけが薄くなっています。

この差が、1日の縮み (誇張して描いています) 水をたっぷり 含んだ厚い クッション 上半身の重さ ← 水が押し出され クッションが薄い 朝(起きてすぐ) 夕方〜夜 骨(椎骨) クッション(椎間板)
図1:左の列が朝、右の列が夕方の背骨(模式図)。骨の積み木の厚さは同じで、あいだのクッションだけが薄くなります。右の列の上の下向き矢印が上半身の重さ、横の小さな丸が押し出された水です。上の2本の点線の高さの差が、1日の縮みにあたります。

寝ているあいだに、なぜ水が戻ってくるの?

クッションの中心には、水を強く引きつける性質の物質がたくさん含まれています。ゼリーやおむつの吸水材が、水を抱えこむのと似ています。重さがかかっていると、押す力が引きつける力に勝ち、水は出ていきます。

横になると、押す力がぐっと弱まります。今度は引きつける力が勝ち、まわりから水が戻ってきます。昼にしぼられた水が、夜のあいだに吸い戻されるわけです。

この変化には、時間のくせがあります。図2を見てください。起きてから最初の1〜2時間で大きく縮み、そのあとは夜までゆっくり縮みつづけるとされています。寝ているあいだに、また元の高さへ戻ります。

(形をわかりやすくした模式図) 寝ているあいだに 水が戻る 高い 低い 身長 6時 12時 18時 24時 翌6時 起きた直後がいちばん高い ↙ 最初の1〜2時間で大きく縮む 昼から夜は、ゆっくり縮みつづける
図2:1日の身長の変化(模式図)。左端の丸が起きた直後で、線は最初に急に下がり、その後はゆるやかに下がります。右側の網かけの帯が寝ている時間で、線は元の高さへ戻っていきます。

この「起きてすぐは水がいっぱい」という状態には、生活上の意味もあります。水で張ったクッションは、前かがみに深く曲げたときの負担を受けやすいと考えられています。起きてすぐに重い物を持ち上げたり、深く前屈したりするのは避けたほうがよい、という指摘があるのはこのためです。

💡 宇宙に行くと、背が数センチ伸びる

体の重さがかからない宇宙では、クッションが一日じゅう水を吸った状態になります。長く滞在すると、身長が数センチ伸びることがあるとされています。地上に戻ると、重さがかかってまた元に戻ります。宇宙飛行士に腰の痛みを訴える人が多いことも、この変化と関係があると考えられています。

💡 年をとると背が低くなるのも、一部は同じ場所

クッションが水を抱える力は、年齢とともに弱まるとされています。昼にしぼられた水が戻りきらなくなり、少しずつ薄くなっていきます。年をとって背が縮む原因のひとつが、ここにあると考えられています。

まとめ

身長が朝と夜でちがうのは、背骨の骨のあいだにある23枚のクッションが、昼は体の重さで水をしぼられ、夜は横になって水を吸い戻すからです。1枚ごとの変化はごくわずかでも、積み重なって1センチほどの差になります。

背骨は、毎日しぼって吸い戻す、23枚のスポンジ。
あなたの身長は、朝がいちばん高い。

重力が体の中の水を動かす話は、ほかにもあります。夕方に足がむくむ理由は「立ちっぱなしだと足がむくむのは、なぜ?」で解説しています。体の大きさと重さの関係はアリの力持ちの記事も合わせてどうぞ。

🧪 自分の身長の「1日の変化」を測ってみよう
  1. 朝起きてすぐ、壁に背中とかかとをつけて立ちます。頭のてっぺんに本などを水平に当て、家族に壁へ小さな印をつけてもらいます。
  2. 同じ日の夜、寝る前に同じやり方でもう一度印をつけます。
  3. 2つの印のあいだを、定規で測ります。靴下の有無や姿勢は、朝と夜で必ずそろえてください。

数ミリから1センチほどの差が出ることが多いはずです。昼に長く立っていた日と、座っていた日で比べてみるのもおもしろいでしょう。壁に印をつけるときは、消せるシールやマスキングテープを使いましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生体力学・整形外科学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1枚あたりは、どれくらい縮んでいるの?

クッション全体の厚さと、1日の縮みを比べてみます。1枚の厚さは場所によって大きくちがうので、ここでは平均のめやすを仮に置きます。単位はすべてミリメートルです。

① もとになる数値
記号 N:椎間板の枚数(首から腰まで)23枚
記号 t:1枚の厚さの平均(めやすとして仮定)約7ミリ
記号 d:1日に縮む量(めやす)約10ミリ
記号 H:身長の例1700ミリ
② 計算してみる
クッション全体の厚さ(N × t)23 × 7 = 161
クッション全体が薄くなる割合(d ÷ 全体)10 ÷ 161 ≒ 0.062
百分率に直す0.062 × 100 = 6.2
身長に対する割合(d ÷ H)10 ÷ 1700 ≒ 0.0059
1枚あたりの縮み(d ÷ N)10 ÷ 23 ≒ 0.43

身長で見ると0.6%ほどの変化ですが、クッションだけで見ると6%ほど薄くなっています。1枚あたりでは0.4ミリほどで、シャープペンシルの芯の太さくらいです。小さな変化が23枚ぶん積み重なって、ようやく目に見える差になります。

高校高校+押す力と、水を引く力のつり合い

高校クッションにかかる圧力は、上にある体の重さを、クッションの面積で割ったものです。腰の椎間板ほど上に載る重さが大きいので、圧力も大きくなります。一方で髄核には、水を引きこもうとする浸透圧のような力があります。水が出ていくか入ってくるかは、この2つの大小で決まります。

高校+水はすき間の多い組織の中をゆっくりしか動けません。そのため、押されたとたんに縮むのではなく、時間をかけてじわじわ縮みます。力をかけつづけると時間とともに変形が進むこの性質を、クリープと呼びます。起きてすぐに大きく縮み、あとはゆっくりになるのは、はじめほど押す力と引く力の差が大きいためと考えられています。

大学髄核が水を抱えるしくみと、椎間板の中の圧力

髄核には、プロテオグリカンと呼ばれる大きな分子が多く含まれます。この分子はマイナスの電気を多く帯びていて、まわりにプラスのイオンを集めます。その結果、髄核の中はイオンが濃くなり、水が引きこまれる圧力が生まれます。この圧力がクッションの張りを保っています。椎間板の中の圧力は、姿勢によって大きく変わることが測定で示されてきました。一般に、寝ているときより立っているとき、立っているときより前かがみで重い物を持つときのほうが高いとされています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身長の日内変動そのものはよく確かめられていますが、それが体の不調とどう結びつくかは、これからの研究を待つ部分が残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科:力のはたらき、圧力/ヒトの体のつくり(骨格)体の重さがクッションを押す
高校物理基礎:力のつり合い/生物:浸透押す力と水を引く力の大小
高校+物理の発展:弾性と変形の時間変化最初に大きく、あとはゆっくり縮む理由
大学生体力学・整形外科学髄核が水を抱えるしくみ、椎間板の中の圧力
研究腰痛研究・宇宙医学水の出入りと痛みの関係
生活とのつながり身長は時刻をそろえて測る/起きてすぐの重い物の持ち上げを避ける
参考・出典
  1. Tyrrell AR, Reilly T, Troup JDG. Circadian variation in stature and the effects of spinal loading. Spine, 1985.
  2. Adams MA, Dolan P, Hutton WC. Diurnal variations in the stresses on the lumbar spine. Spine, 1987.
  3. Adams MA, Bogduk N, Burton K, Dolan P. The Biomechanics of Back Pain(椎間板の水分と力学の章)
  4. 標準整形外科学(医学書院)脊椎の章
  5. NASA Human Research Program による、長期滞在中の脊椎の伸びと腰痛に関する解説資料

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、個人差があります。腰や背中の痛み・しびれが続く場合は、医療機関に相談してください。