朝と夜で身長が1センチもちがうのは、なぜ?
― 背骨のクッションは、昼に水をしぼられ、夜に吸い戻しています
身長は、1日のうちで変わっています。いちばん高いのは朝起きたとき。夜には1センチほど低くなっているとされています。縮んでいるのは骨ではありません。骨と骨のあいだにはさまった、水を含んだやわらかいクッションです。
健康診断の身長の数字が、去年より少し低くて、どきっとしたことはありませんか。測ったのが朝だったか夕方だったかを、思い出してみてください。
子どものころ、柱に背比べの線を引いた人もいるでしょう。朝に測った線のほうが、なぜか高い位置に来ることがあります。
長く宇宙に滞在した飛行士が、地上に戻る前に「背が伸びていた」と話すこともあります。どれも、同じひとつのしくみで説明がつきます。
理由は2つだけ
背骨は、骨の積み木と、そのあいだのクッションが交互に重なったものです。立ったり座ったりしているあいだ、上半身の重さがクッションを押しつづけ、中の水が少しずつ外へにじみ出ます。
横になると、背骨を縦に押す重さがほとんど消えます。するとクッションは、まわりの組織から水を引き寄せてふくらみます。朝にはまた、背が高い状態に戻っています。
つまり背骨は、1日ごとに「しぼる」と「吸う」をくり返す、水のスポンジのようなものです。ひとつずつ見ていきましょう。
昼のあいだ、背骨の中で何が起きているの?
首から腰まで、背骨の骨(椎骨)のあいだには、全部で23枚のクッションがはさまっています。これが椎間板です。中心はゼリーのようにやわらかく、若い人では重さの8割ほどが水だとされています。まわりは、何重にも巻いた丈夫な繊維の輪が囲んでいます。
立っていると、クッション1枚ごとに、その上にある体の重さがかかります。腰のあたりでは、上半身ほぼまるごとの重さです。水は押されると、すき間から少しずつ逃げていきます。ぬれたスポンジを手のひらで押しつづけると、じわっと水が出てくるのと同じです。
1枚あたりの縮みはわずかです。けれど23枚ぶんが足し合わさるので、身長としては1センチほどの差になります。図1を見てください。左が朝、右が夕方の背骨です。骨の積み木の厚さは変わらず、あいだのクッションだけが薄くなっています。
寝ているあいだに、なぜ水が戻ってくるの?
クッションの中心には、水を強く引きつける性質の物質がたくさん含まれています。ゼリーやおむつの吸水材が、水を抱えこむのと似ています。重さがかかっていると、押す力が引きつける力に勝ち、水は出ていきます。
横になると、押す力がぐっと弱まります。今度は引きつける力が勝ち、まわりから水が戻ってきます。昼にしぼられた水が、夜のあいだに吸い戻されるわけです。
この変化には、時間のくせがあります。図2を見てください。起きてから最初の1〜2時間で大きく縮み、そのあとは夜までゆっくり縮みつづけるとされています。寝ているあいだに、また元の高さへ戻ります。
この「起きてすぐは水がいっぱい」という状態には、生活上の意味もあります。水で張ったクッションは、前かがみに深く曲げたときの負担を受けやすいと考えられています。起きてすぐに重い物を持ち上げたり、深く前屈したりするのは避けたほうがよい、という指摘があるのはこのためです。
体の重さがかからない宇宙では、クッションが一日じゅう水を吸った状態になります。長く滞在すると、身長が数センチ伸びることがあるとされています。地上に戻ると、重さがかかってまた元に戻ります。宇宙飛行士に腰の痛みを訴える人が多いことも、この変化と関係があると考えられています。
クッションが水を抱える力は、年齢とともに弱まるとされています。昼にしぼられた水が戻りきらなくなり、少しずつ薄くなっていきます。年をとって背が縮む原因のひとつが、ここにあると考えられています。
まとめ
身長が朝と夜でちがうのは、背骨の骨のあいだにある23枚のクッションが、昼は体の重さで水をしぼられ、夜は横になって水を吸い戻すからです。1枚ごとの変化はごくわずかでも、積み重なって1センチほどの差になります。
背骨は、毎日しぼって吸い戻す、23枚のスポンジ。
あなたの身長は、朝がいちばん高い。
重力が体の中の水を動かす話は、ほかにもあります。夕方に足がむくむ理由は「立ちっぱなしだと足がむくむのは、なぜ?」で解説しています。体の大きさと重さの関係はアリの力持ちの記事も合わせてどうぞ。
- 朝起きてすぐ、壁に背中とかかとをつけて立ちます。頭のてっぺんに本などを水平に当て、家族に壁へ小さな印をつけてもらいます。
- 同じ日の夜、寝る前に同じやり方でもう一度印をつけます。
- 2つの印のあいだを、定規で測ります。靴下の有無や姿勢は、朝と夜で必ずそろえてください。
数ミリから1センチほどの差が出ることが多いはずです。昼に長く立っていた日と、座っていた日で比べてみるのもおもしろいでしょう。壁に印をつけるときは、消せるシールやマスキングテープを使いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生体力学・整形外科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 椎間板(ついかんばん):背骨の骨と骨のあいだにあるクッション。首から腰までに23枚あります。
- 髄核(ずいかく):椎間板の中心にある、水を多く含んだゼリー状の部分。
- 線維輪(せんいりん):髄核を囲む、繊維を何重にも巻いた丈夫な輪。
- 身長の日内変動:1日のうちで身長が変わること。朝が高く、夜が低くなります。
中学高校式で確かめる:1枚あたりは、どれくらい縮んでいるの?
クッション全体の厚さと、1日の縮みを比べてみます。1枚の厚さは場所によって大きくちがうので、ここでは平均のめやすを仮に置きます。単位はすべてミリメートルです。
| 記号 N:椎間板の枚数(首から腰まで) | 23枚 |
| 記号 t:1枚の厚さの平均(めやすとして仮定) | 約7ミリ |
| 記号 d:1日に縮む量(めやす) | 約10ミリ |
| 記号 H:身長の例 | 1700ミリ |
| クッション全体の厚さ(N × t) | 23 × 7 = 161 |
| クッション全体が薄くなる割合(d ÷ 全体) | 10 ÷ 161 ≒ 0.062 |
| 百分率に直す | 0.062 × 100 = 6.2 |
| 身長に対する割合(d ÷ H) | 10 ÷ 1700 ≒ 0.0059 |
| 1枚あたりの縮み(d ÷ N) | 10 ÷ 23 ≒ 0.43 |
身長で見ると0.6%ほどの変化ですが、クッションだけで見ると6%ほど薄くなっています。1枚あたりでは0.4ミリほどで、シャープペンシルの芯の太さくらいです。小さな変化が23枚ぶん積み重なって、ようやく目に見える差になります。
高校高校+押す力と、水を引く力のつり合い
高校クッションにかかる圧力は、上にある体の重さを、クッションの面積で割ったものです。腰の椎間板ほど上に載る重さが大きいので、圧力も大きくなります。一方で髄核には、水を引きこもうとする浸透圧のような力があります。水が出ていくか入ってくるかは、この2つの大小で決まります。
高校+水はすき間の多い組織の中をゆっくりしか動けません。そのため、押されたとたんに縮むのではなく、時間をかけてじわじわ縮みます。力をかけつづけると時間とともに変形が進むこの性質を、クリープと呼びます。起きてすぐに大きく縮み、あとはゆっくりになるのは、はじめほど押す力と引く力の差が大きいためと考えられています。
大学髄核が水を抱えるしくみと、椎間板の中の圧力
髄核には、プロテオグリカンと呼ばれる大きな分子が多く含まれます。この分子はマイナスの電気を多く帯びていて、まわりにプラスのイオンを集めます。その結果、髄核の中はイオンが濃くなり、水が引きこまれる圧力が生まれます。この圧力がクッションの張りを保っています。椎間板の中の圧力は、姿勢によって大きく変わることが測定で示されてきました。一般に、寝ているときより立っているとき、立っているときより前かがみで重い物を持つときのほうが高いとされています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 水の出入りと腰痛の関係。 朝の前かがみを控えると腰痛がやわらいだという報告はあります。ただし、どの程度の人にどれほど効くのかは、まだ議論が続いています。
- 宇宙飛行士の腰の痛み。 無重力でクッションがふくらむことが原因のひとつと考えられていますが、筋肉の衰えなど、ほかの要因との切り分けは研究の途中です。
- 年齢による変化を遅らせられるか。 椎間板が水を抱える力が落ちていく過程を、運動や治療でどこまで遅らせられるかは、まだはっきりしていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。身長の日内変動そのものはよく確かめられていますが、それが体の不調とどう結びつくかは、これからの研究を待つ部分が残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:力のはたらき、圧力/ヒトの体のつくり(骨格) | 体の重さがクッションを押す |
| 高校 | 物理基礎:力のつり合い/生物:浸透 | 押す力と水を引く力の大小 |
| 高校+ | 物理の発展:弾性と変形の時間変化 | 最初に大きく、あとはゆっくり縮む理由 |
| 大学 | 生体力学・整形外科学 | 髄核が水を抱えるしくみ、椎間板の中の圧力 |
| 研究 | 腰痛研究・宇宙医学 | 水の出入りと痛みの関係 |
| ― | 生活とのつながり | 身長は時刻をそろえて測る/起きてすぐの重い物の持ち上げを避ける |
- Tyrrell AR, Reilly T, Troup JDG. Circadian variation in stature and the effects of spinal loading. Spine, 1985.
- Adams MA, Dolan P, Hutton WC. Diurnal variations in the stresses on the lumbar spine. Spine, 1987.
- Adams MA, Bogduk N, Burton K, Dolan P. The Biomechanics of Back Pain(椎間板の水分と力学の章)
- 標準整形外科学(医学書院)脊椎の章
- NASA Human Research Program による、長期滞在中の脊椎の伸びと腰痛に関する解説資料
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、個人差があります。腰や背中の痛み・しびれが続く場合は、医療機関に相談してください。