同じ地震なのに、となりの町より揺れが大きいのは、なぜ?
― やわらかい地面は、揺れをふくらませます
地震のあと、ニュースに震度の一覧が出ます。震源からの距離はほとんど同じなのに、となりの町より震度が1つ大きい。そんなことがよくあります。違いを生んでいるのは、建物でも運でもなく、足もとの地面です。やわらかい地層は、下から来た揺れを大きくふくらませます。
夜、スマートフォンが鳴って、地震の速報が出ました。揺れはすぐに収まりました。テレビをつけると、地図の上に震度の数字が並んでいます。
自分の町は震度5弱。ところが、川の向こうの高台の町は震度4です。震源からの距離は、ほとんど変わりません。
同じ地震の、同じくらいの距離なのに、なぜ揺れ方が違うのでしょうか。答えは、地面の「中身」にあります。
揺れが大きくなる理由は、2つだけ
地震の揺れは、深い固い岩盤を伝わって下から上がってきます。やわらかい地層に入ると、揺れの進みが遅くなります。そのぶん揺れの勢いが狭い範囲に押しこめられて、揺れの幅が大きくなります。
やわらかい地層は、ブランコのように決まったリズムで揺れやすい性質を持っています。地震の揺れの中にそのリズムが含まれていると、揺れがどんどん育ちます。これを共振と呼びます。
どちらも、地震そのものの大きさとは関係がありません。同じ揺れを受け取っても、受け取る側の地面によって、地表の揺れは何倍にも変わります。
揺れは、やわらかい地面で「ふくらむ」
図1を見てください。左は、固い岩盤がそのまま地表まで続いている町です。右は、固い岩盤の上に、砂や泥でできたやわらかい地層がのっている町です。どちらにも、下から同じ大きさの揺れが届いています。
揺れが伝わる速さは、地面の固さで大きく違います。固い岩盤の中では秒速700mほど、やわらかい泥の中では秒速100mほどとされています。揺れが遅くなる場所では、後から来た揺れが前の揺れに追いつきます。運んできた勢いが、つまって積み上がるのです。
これは、沖の波が浅瀬に来ると高くなるのと同じしくみです。波も、浅い所では進みが遅くなり、そのぶん背が高くなります。図1の計算では、地層のやわらかさしだいで、揺れの幅はおよそ3倍にもなります。
揺れの幅が3倍になると、震度はおよそ1段階上がるとされています。震度は、揺れの大きさが2倍、4倍と増えるごとに一定ずつ上がる「目盛りの飛び方」で決められているからです。冒頭の「となりの町より1つ大きい」は、ちょうどこのくらいの違いです。
地層は、自分の好きなリズムで揺れを育てる
やわらかい地層には、もう1つ困った性質があります。地層ぜんたいが、決まったリズムで揺れやすいのです。地層の厚さが20m、揺れの伝わる速さが秒速100mなら、1往復0.8秒ほどのリズムになると見積もられます。
地震の揺れには、速い揺れから遅い揺れまで、いろいろなリズムが混ざっています。その中に地層の好きなリズムがあると、ブランコを押すタイミングが合ったときのように、揺れが重なって育ちます。図2の左を見てください。地層のいちばん上の地表が最も大きく揺れ、岩盤との境目はほとんど動きません。
建物にも、それぞれ揺れやすいリズムがあります。目安は「階数×0.1秒」とされ、8階建てならおよそ0.8秒です。地面のリズムと建物のリズムがそろうと、共振が二重に重なります。1985年のメキシコ地震では、震源から300km以上離れた首都で、昔の湖を埋めた地盤の上の中層ビルが集中して倒れたとされています。
やわらかい地層では、揺れが大きくなるだけでなく、長く続きやすくなります。地層の中で、揺れが上下に行ったり来たりして、なかなか抜けていかないためです。地震のあと「うちのほうが長く揺れた」と感じるのも、気のせいとは限りません。
海や湖を埋め立てた土地、川沿いの低い平地、昔の沼や田んぼの跡、谷を土で埋めた造成地に多いとされています。どれも、水が運んできた砂や泥がたまってできた、まだ新しい地面です。
じゃあ、どうすればいいの?
地面の固さは、住んでいる人の努力では変えられません。でも、自分の足もとが揺れやすいかどうかは、前もって調べられます。分かっていれば、備えの優先順位を決められます。
- 揺れたら、まず頭を守る机の下にもぐるか、かばんやクッションで頭をかくして、低い姿勢になります。揺れが収まってから動きます。
- 家具が倒れてこない場所で寝る揺れやすい地面の家ほど、家具は大きく揺さぶられます。寝る場所のそばには、背の高い家具を置かないようにします。
- 住んでいる場所の「揺れやすさ」を家族で見ておく市町村のハザードマップや、国の防災科学技術研究所の地図で、自宅の地面のやわらかさを確かめられます。
家具を壁に固定し、窓ガラスや照明の下から離れた場所を、家の中の「逃げ場所」に決めておきます。揺れが収まったら、火の元を確かめ、けが人がいれば119番に通報します。建物が傾いた、ひびが入ったと感じたら、無理に家にとどまらず避難します。市町村の避難情報にも従ってください。
まとめ
同じ地震でも、地表の揺れを決めるのは足もとの地面です。やわらかい地層は、遅くなった揺れを押しこめて幅を約3倍にふくらませ、さらに地層の厚さで決まるリズムで揺れを育てます。だから、震源からの距離が同じでも、震度が1つ違うことが起こります。
揺れの大きさは、地震だけでは決まらない。
半分は、自分の足もとが決めている。
揺れが下から届くしくみは地震の「カタカタ」は、なぜ「グラグラ」より先に来るの?で、やわらかい地面がさらに崩れる現象は液状化は、なぜ地面が「水」のようになるの?で解説しています。浅瀬で波が高くなるしくみは津波の記事、リズムが合うと揺れが育つしくみはブランコの記事とも共通です。
- お皿の上に、カップから出したゼリー(またはプリン)をのせます。かたいゼリーとやわらかいゼリーを並べると、違いがよく分かります。
- お皿を左右に小さく、ゆっくり揺すります。お皿の動きより、ゼリーのてっぺんのほうが大きく揺れることを確かめます。
- 揺するリズムを少しずつ速くしていきます。ゼリーのてっぺんがいちばん大きく揺れるリズムを探します。やわらかいゼリーほど、ゆっくりしたリズムで大きく揺れるはずです。
お皿が「岩盤」、ゼリーが「やわらかい地層」です。背の高いゼリーほど、好きなリズムがゆっくりになることも試せます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地震学・地震工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 地盤増幅(じばんぞうふく):地表近くのやわらかい地層によって、地震の揺れが大きくなること。その倍率を「表層地盤増幅率」と呼び、地図で公開されています。
- 固有周期(こゆうしゅうき):地層や建物が、いちばん揺れやすい1往復の時間。
- 共振(きょうしん):外から来る揺れのリズムが固有周期とそろったとき、揺れが大きく育つこと。
中学高校式で確かめる:揺れの幅は何倍になるのか
揺れが運ぶ勢い(エネルギーの流れ)は、境目をこえても失われないと考えます。すると、遅くてやわらかい地層ほど、揺れの幅を大きくしないと同じ勢いを運べません。この考えから、揺れの幅の倍率と、地層の揺れやすい周期を見積もります。
| 記号で書くと | As ÷ Ab = √( ρb × Vb ÷ ( ρs × Vs ) ) / T = 4 × H ÷ Vs |
| 言葉で書くと | 揺れの幅の倍率 =(岩盤の密度×岩盤の速さ)÷(地層の密度×地層の速さ)の平方根。揺れやすい周期 = 4 × 地層の厚さ ÷ 地層の速さ |
| どこから来る式か | 1つ目は、揺れが運ぶエネルギーの流れ(密度×速さ×幅の2乗に比例)が、境目の上と下で保存されることから。2つ目は、地層の厚さが、揺れの波長のちょうど4分の1になるとき共振することから。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| As、Ab | 地層の中、岩盤の中での揺れの幅 |
| ρb、ρs | 岩盤、地層の密度(単位は g/cm³) |
| Vb、Vs | 岩盤、地層の中を横揺れが伝わる速さ(単位は m/秒) |
| H | やわらかい地層の厚さ(単位は m) |
| T | 地層の揺れやすい周期(単位は 秒) |
| 岩盤の密度と速さ(目安) | 2.0 g/cm³、秒速 700 m |
| やわらかい泥の地層の密度と速さ(目安) | 1.6 g/cm³、秒速 100 m |
| 地層の厚さ(例) | 20 m |
| 建物の揺れやすい周期の目安 | 1階あたり 0.1 秒 |
| 岩盤の「密度×速さ」 | 2.0 × 700 = 1400 |
| 地層の「密度×速さ」 | 1.6 × 100 = 160 |
| その比 | 1400 ÷ 160 = 8.75 |
| 揺れの幅の倍率 | 8.75 の平方根は およそ 2.96。約3倍 |
| 震度の上がり方(3 の常用対数は およそ 0.48) | 2 × 0.48 = 0.96 |
| 周期の分子 | 4 × 20 = 80 |
| 地層の揺れやすい周期 | 80 ÷ 100 = 0.8 秒 |
| 周期がそろう建物の階数 | 0.8 ÷ 0.1 = 8 階 |
やわらかい泥の地層では、揺れの幅が岩盤の中の約3倍になり、震度にしておよそ1段階ぶんの違いになります。厚さ20mの地層なら0.8秒のリズムで揺れやすく、8階建てくらいの建物と共振しやすい、という見積もりです。実際の倍率は、地層の重なり方や揺れの強さで変わります。
高校高校+波の性質として見る
高校地震の揺れも波です。波の速さは「波長÷周期」で、境目をこえても周期は変わりません。そのため、遅い地層に入った揺れは波長が短く詰まります。厚さHの地層の下端が節、地表が腹になる定常波ができるとき、地層の厚さは波長の4分の1です。これが周期の式 4H÷Vs の正体で、片方が閉じた管の気柱の共鳴と同じ形です。
高校+震度は、揺れの加速度を地震計の記録から計算した「計測震度」で決まります。計測震度は加速度の常用対数のおよそ2倍で増えるように定められているため、揺れが2倍で約0.6、3倍で約1だけ上がります。
大学インピーダンス比と、地盤の伝達関数
密度×速さの積は、地震学で「地震波インピーダンス」と呼ばれ、音の世界の音響インピーダンスと同じ量です。本文の平方根の式は、性質がなだらかに変わる場合の近似です。境目がくっきりした1層の地層では、地表の揺れは周期ごとに倍率の違う「伝達関数」で表されます。共振の周期で倍率は最大になり、その高さはインピーダンス比と地層の減衰で決まります。実務では、地表と地下の地震計の記録や、常時微動の水平動と上下動のスペクトル比(H/V スペクトル比)から固有周期を推定します。1985年メキシコ地震は、湖の堆積層による長周期の地盤増幅の代表例として教科書に必ず登場します。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「音響インピーダンス」 / ウィキペディア「メキシコ地震 (1985年)」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 強い揺れでは、地層がやわらかくなる。 揺れが強くなると土の粒どうしがずれて、地層がさらにやわらかく、周期も長くなります。この「非線形」のふるまいをどこまで正確に予測できるかは、いまも研究が続いています。
- 盆地の端で揺れが重なる。 平野をつくる深い地層の盆地では、端で曲がった揺れどうしが重なり、帯状に被害が集まることがあるとされています。どこで重なるかの予測には、地下の詳しい形の調査が欠かせません。
- 地図の解像度の限界。 公開されている揺れやすさの地図は、数百m四方ごとの平均です。同じ区画の中でも、谷を埋めた土地と元の尾根とでは揺れ方が違うことがあり、家1軒ごとの評価は難しい課題です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに倍率の数字は、地層の性質を単純化した見積もりだと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「大地の変化(地震)」 | 震度、揺れが地下から伝わること |
| 高校 | 物理「波」・地学「地震」 | 波長と周期、4分の1波長の共鳴 |
| 高校+ | 計測震度の定義(常用対数) | 揺れ3倍で震度約1段階 |
| 大学 | 地震学・地震工学 | 地震波インピーダンス、伝達関数、H/V スペクトル比 |
| 研究 | 強震動地震学 | 土の非線形化、盆地端の揺れの集中 |
| ― | 生活とのつながり | 自宅の地盤の確認、家具の固定、寝る場所の選び方 |
- 防災科学技術研究所「J-SHIS 地震ハザードステーション」(表層地盤増幅率の地図)
- 気象庁ホームページ(震度と計測震度の解説)
- ウィキペディア「メキシコ地震 (1985年)」
- 山中浩明 編著『地震の揺れを科学する ― みえてきた強震動の姿』東京大学出版会
- 内閣府「地盤のゆれやすさ全国マップ」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の避難や建物の安全の判断は、市町村の指示、消防・自治体および気象庁の発表する情報に従ってください。