地震の「カタカタ」は、なぜ
「グラグラ」より先に来るの?
地震のとき、最初に小さくカタカタと来て、少し遅れて大きくグラグラ揺れます。この順番は、ほぼ必ず同じです。地下では2種類の波が同時に出発し、片方だけが先に着いているからです。そしてこの数秒の差が、緊急地震速報を成り立たせています。
地震が来るとき、いきなり大きく揺れることは多くありません。まずコトコト、カタカタという細かい揺れがあります。食器がかすかに鳴る程度のこともあります。
「地震かな」と思った数秒後、ぐらりと大きな揺れが来ます。こちらが本番です。棚のものが落ちるのも、体を支えられなくなるのも、たいていこの揺れです。
遠くの地震ほど、この2つの間隔が長くなります。「かなり間があいたな」と感じたら、震源は遠いということです。
同じ地震から出た揺れなのに、なぜ2回に分かれて届くのでしょうか。
ひとつは押し引きの波、もうひとつはゆさぶりの波。同じ場所から同時に出ますが、伝わる速さが違います。
先に着く押し引きの波は揺れが小さく、後から着くゆさぶりの波が大きく揺らします。だから「小さい→大きい」の順になります。
この時間差は偶然ではなく、地面という物質の性質から決まっています。順に見ていきましょう。
なぜ、押し引きの波のほうが速いのか
地面のような固体には、2通りの「ゆがめ方」があります。
- 縮める・伸ばす ― 体積を変えるゆがみ方です
- ずらす ― 体積は変えずに、形だけを横にひずませるゆがみ方です
そして物質は、縮めるのに対しては強く抵抗し、ずらされるのには比較的弱く抵抗します。消しゴムを想像してください。押しつぶすのは大変ですが、横にねじるのは簡単です。
波の速さは、抵抗が強いほど速く、重いほど遅くなります。ぴんと張った弦のほうが高い音(速い波)になるのと同じです。
だから、抵抗の強い「縮める」ほうを使う押し引きの波が速く、抵抗の弱い「ずらす」ほうを使うゆさぶりの波が遅くなります。順番が入れ替わることはありません。
順番が違うのは、地面のゆがみにくさの違いです。
ここから、驚くような話につながります。ゆさぶりの波は、液体の中を伝われません。液体には「形を保とうとする力」がないので、ずらしても元に戻らず、波として伝わらないのです。
20世紀のはじめ、大きな地震のあとに世界中の観測所の記録を集めた人たちが、あることに気づきました。地球の裏側のある範囲に、ゆさぶりの波だけがまったく届いていなかったのです。
説明はひとつしかありません。地球の内部に、液体の層がある。誰も見たことのない地下数千キロの構造が、地面の揺れの記録だけから明らかになりました。私たちが「地球の外核は液体である」と知っているのは、この観測のおかげです。
数秒の差が、警報を可能にしている
緊急地震速報は、この時間差を使っています。
震源に近い観測点が先に届く押し引きの波をつかまえ、その情報を電気信号として送ります。電気信号は、地面の波よりはるかに速いので、大きな揺れが到着する前に知らせが届きます。
ただし、この方法には避けられない限界があります。
- 震源が近いと間に合いません。真下で起きた地震では、2つの波がほぼ同時に着きます。直下型では、揺れてから警報が鳴ることもあります
- 最初の数秒で規模を見積もるため、修正されることがあります。小さく始まって大きくなる地震があり、初動だけでは最終的な大きさが読み切れません
- 猶予は、長くても数十秒です。この時間でできることを、あらかじめ決めておく必要があります
- まず頭を守り、低い姿勢になる丈夫な机の下に入り、脚を持ちます。机がなければ、落ちてこない・倒れてこない・移動してこない場所へ。窓ガラス、背の高い家具、吊り下げ照明から離れてください。
- あわてて外に出ない。火にも走らない外は落下物が危険です。コンロの火は、揺れが収まってから止めます。いまのガス機器は揺れを感知して自動で止まるものが多く、無理に近づくほうが危険です。
- 揺れが収まってから、身の安全を確認して行動する足元をスリッパや靴で守り(ガラスが散っています)、出口を確保します。けが人がいれば119番。津波の危険がある場所では、警報を待たずすぐ高い場所へ避難してください。
「間隔」から距離がわかります
カタカタが始まってから、グラグラが来るまでの秒数を数えてみてください。その秒数に、およそ8をかけると、震源までのおおよその距離(キロメートル)になります。
5秒なら約40キロ、10秒なら約80キロ。かなり単純ですが、これは19世紀に日本で見いだされた関係で、いまも目安として使われています。
逆にいえば、間隔がほとんどない地震は、震源が非常に近いということです。いきなり大きく突き上げられるような揺れは、真下や近くで起きたことを意味します。
家で確かめられること
- 長めのばね(コイル状のおもちゃ)を床に伸ばし、片端を持つ
- 持っている端を前後にすばやく押すと、縮んだ部分が走っていきます。これが押し引きの波です
- 同じばね(またはロープ)の端を左右にひと振りすると、横向きのふくらみが走っていきます。これがゆさぶりの波です
- どちらが速いか、ばねを固くしたり緩めたりして比べてみる
- 次に、水を張ったバットの端を左右に振ってみる。横向きのゆがみが、そのまま伝わらないことがわかります
同じばねでも、揺らし方によってまったく違う伝わり方をするのが見えます。そして水では横のゆがみが伝わらない――これが「ゆさぶりの波は液体を通れない」ということで、地球の内部が液体だと突き止めた手がかりです。台所のバットと、地球の核が、同じ理屈でつながっています。
まとめ
カタカタが先に来るのは、地面が「縮められる」ことには強く抵抗し、「ずらされる」ことには弱く抵抗するからです。抵抗の強いほうを使う波が速く、先に着きます。この数秒の差が緊急地震速報を成り立たせ、同じ性質が地球の内部構造まで教えてくれました。
最初のカタカタは、警告です。
数えるより先に、頭を守ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」「地学」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地震学・弾性論)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:地震の言葉
- P波:本文の「押し引きの波」。Primary(最初の)の頭文字です。進む向きに振動する縦波で、初期微動を起こします。
- S波:本文の「ゆさぶりの波」。Secondary(2番目の)の頭文字。進む向きと直角に振動する横波で、主要動を起こします。
- 初期微動継続時間:P波が届いてからS波が届くまでの時間。P-S時間とも呼ばれます。
- 震度とマグニチュード:震度はその場所の揺れの強さで、場所ごとに違います。マグニチュードは地震そのものの規模で、1つの地震に1つの値です。
- 震源と震央:震源は地下で岩盤が壊れ始めた点、震央はその真上の地表の点です。
高校式で確かめる:小さな揺れを数えると、震源までの距離が出る
地震が来たとき、最初にカタカタという小さな揺れがあり、そのあとに大きな揺れが来ます。あいだの秒数を数えるだけで、震源までの距離が出せます。
距離 = 速さ × 時間
| 速い波(P波) | 約 7 km/s |
| 遅い波(S波) | 約 4 km/s |
| あいだの秒数 | 小さな揺れが続く時間[秒] |
同じ瞬間に、同じ場所から、速さの違う2つの波が出発します。遠いほど、到着の差が開きます。マラソンで、速いランナーと遅いランナーの差が距離とともに広がるのと同じです。
つまり「差の秒数」が、そのまま距離のものさしになります。
震源までの距離を D、小さな揺れの続いた時間を t とします。それぞれの到着時刻は D ÷ 7 と D ÷ 4。その差が t です。整理すると、こうなります。
D = t × (7 × 4) ÷ (7 − 4)
| 分子を計算する | 7 × 4 = 28 |
| 分母を計算する | 7 − 4 = 3 |
| 割る | 28 ÷ 3 ≒ 9.3 |
| まとめると | D ≒ t × 9.3(km) |
よく言われる「秒数 × 8」は、この 9.3 を実際の地下の構造に合わせて調整したものです(波の速さは深さで変わります)。ざっくり「秒数 × 8〜9 km」と覚えておけば十分です。
| 小さな揺れが 3 秒続いた | 3 × 8 = 24 km |
| 小さな揺れが 10 秒続いた | 10 × 8 = 80 km |
| 小さな揺れが 30 秒続いた | 30 × 8 = 240 km |
ここでの読み方が大事です。秒数が長い=遠い=安心、ではありません。遠いのに揺れを感じるということは、それだけ大きな地震だということです。
逆に、数える間もなく大きく揺れたら、震源が近いということです。どちらにしても、数えるのは身を守ったあとにしてください。
速報は、先に着くP波を観測して、あとから来るS波を知らせるしくみです。稼げる時間は、②と同じ計算で出ます。
| 震源までの距離 | 100 km とする |
| P波が届くまで | 100 ÷ 7 ≒ 14 秒 |
| S波が届くまで | 100 ÷ 4 = 25 秒 |
| 差し引き | 25 − 14 = 11 秒 |
11秒。しかも観測してから発表するまでに数秒かかるので、実際に動ける時間はもっと短くなります。
そして震源が近いほど、この差は小さくなります。20 km なら 20 ÷ 7 ≒ 3 秒 と 20 ÷ 4 = 5 秒 で、差はわずか 5 − 3 = 2 秒。真下で起きた地震では、速報は揺れに間に合いません。これは技術の問題ではなく、波の速さから決まる限界です。
だから「知らせが来てから考える」のでは遅いことになります。家具を固定しておく、寝る場所に倒れてくるものを置かない――先に済ませておける対策のほうが、確実に効きます。
マグニチュードは、1増えるとエネルギーが約32倍になる目盛りです。足し算ではなく掛け算で増えます。
| M7 と M8 の差 | 32 倍 |
| M7 と M9 の差 | 32 × 32 = 1024 倍 |
「M7 と M9 は 2 違うだけ」ではありません。約1000倍です。数字が小さく見える目盛りなので、差の感覚がつかみにくくなっています。目盛りの意味を知っているかどうかで、同じ発表の受け取り方が変わります。
高校「秒数×8」はどこから出るのか
震源までの距離を d、P波とS波の速さを Vp、Vs とすると、到着時刻の差は次のようになります。
t = d/Vs − d/Vp
これを d について解くと d = t × Vp·Vs/(Vp − Vs)。数字を入れてみます。
| P波の速さ | 約 8 km/s |
| S波の速さ | 約 4 km/s |
| 係数 Vp·Vs/(Vp−Vs) | 8 × 4 ÷ (8 − 4) = 8 |
| P-S時間が10秒なら | d ≒ 8 × 10 = 80 km |
※ 実際の速さは地下の構造で変わるため、係数はおおむね6〜8の範囲とされています。目安として使ってください。
この関係は、明治期に日本で研究した大森房吉らの名にちなんで大森公式と呼ばれています。時計1つで震源までの距離がわかる、という点で、いまも地学の基本として教えられています。
高校+波の速さを決めるもの
弾性体を伝わる波の速さは、おおまかに v = √(弾性率 / 密度) の形になります。硬いほど速く、重いほど遅いということです。
ここで、2種類の波が使う「硬さ」が違います。
- P波:Vp = √((K + 4μ/3) / ρ) 体積を変えにくさ K と、形を変えにくさ μ の両方が効きます
- S波:Vs = √(μ / ρ) 形を変えにくさ μ だけが効きます
P波の式の中身のほうが必ず大きくなるので、数学的にも Vp > Vs が保証されます。順番が入れ替わることは原理的にありません。典型的な岩石では、比はおよそ 1.7 倍程度になります。
そして液体では μ = 0 なので、Vs = 0。S波は伝わりません。本文で書いた話は、この一行から出ています。
大学揺れの記録から、地球を透視する
地震波は、地下の物質が変わる境目で屈折・反射します。光がガラスで曲がるのと同じです。この性質を使うと、世界中の観測点に届いた波の到達時刻から、地球内部の速度構造を逆算できます。
初期の大きな成果が、S波の影の発見でした。震央から角度にして約103度から143度の範囲に、S波がまったく届かない領域があることが1910年代に見いだされ、液体の外核の存在が確定しました。その後、内核(固体)の発見(1936年、レーマン)へと続きます。
現在は、多数の地震と観測点のデータを組み合わせて三次元の速度分布を求める地震波トモグラフィーが使われています。沈み込んだプレートの行方や、マントルの流れの推定に用いられており、医療のCT検査と考え方は同じです。
研究まだできていないこと
- 地震の予知は、できていません。「いつ・どこで・どれくらいの規模で起きるか」を事前に特定する手法は、科学的に確立していません。日本を含む各国で長く研究されてきましたが、実用的な短期予知には至っていないというのが現在の共通認識です。予知はできないという前提で、事前の備えと直後の情報(緊急地震速報)に力が注がれています。
- 地震の始まりが、最終的な大きさを決めているのかがわかりません。大きな地震も小さな地震も、始まりの波形はよく似ています。「小さく始まって成長するかどうかは偶然」という考え方と、「始まりの時点で最終規模が決まっている」という考え方があり、決着していません。これは緊急地震速報の精度に直結する問題です。もし後者が正しければ、初動から規模をより正確に見積もれることになります。
- ゆっくりすべる現象の意味も、研究の途上です。2000年代に、プレートの境界で数日から数か月かけてゆっくりずれる現象や、それに伴う微弱な震動が見つかりました。大地震との関係が注目されていますが、前ぶれになるのかどうかは 確定していません。
- 長周期の揺れの予測も難しい問題です。震源から遠く離れた場所の高層ビルが大きく揺れることがあり、これは地下の堆積層の構造に強く左右されます。地下構造の把握には限りがあり、予測の不確かさが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・地震のゆれと伝わり方/初期微動継続時間 | P波とS波、震度とマグニチュード、秒数×8 |
| 高校 | 物理基礎・波(縦波と横波)/地学基礎・地球内部 | 2種類の波の違い、大森公式の導出 |
| 高校+ | 物理・弾性と波の速さ(発展扱いが多い) | v=√(弾性率/密度)、液体でS波が伝わらない理由 |
| 大学 | 地震学・弾性論・地球物理学 | S波の影、外核と内核の発見、トモグラフィー |
| 研究 | 地震学(未解決) | 予知の限界、破壊の成長、スロースリップ |
| ― | 防災教育 | 頭を守る、外へ出ない、揺れが収まってから行動 |
- 気象庁による地震の解説、緊急地震速報のしくみと限界に関する説明。
- Shearer, P. M., Introduction to Seismology(地震学の標準的な教科書)。
- Lehmann, I., P', Publications du Bureau Central Séismologique International, 1936(内核の発見)。
- Obara, K., Nonvolcanic deep tremor associated with subduction in southwest Japan, Science 296, 1679–1681, 2002(深部低周波微動の発見)。
- 内閣府および各自治体による、地震発生時の行動と備えに関する資料。
※ 地震波の速さや係数は、地下の構造によって変わります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。
※本記事は一般向けの科学解説です。地震発生時の行動は、気象庁・消防・自治体の指示および各地域の防災計画に従ってください。津波の危険がある地域では、警報を待たずに高い場所へ避難してください。掲載した数値は、しくみを理解するための目安です。