自然のふしぎ 生命・生物 予備知識なしでOK 読了 約6分

魚は、水の中でどうやって息をしているの?
― 水にとけた酸素は、空気のわずか30分の1です

魚も、私たちと同じように酸素を取りこんで生きています。ただし吸っているのは空気ではなく、水にとけた酸素です。その量は、同じ1リットルの空気とくらべて約30分の1しかありません。魚のえらは、このうすい酸素を取りこぼさないための、とてもよくできた装置です。

公開:2026.11.04 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

水族館の水槽の前で、子どもが聞きます。「お魚は、なんでずっと水の中にいて苦しくないの?」

よく見ると、魚は口をパクパクと開け閉めしています。そのたびに、頭の横のふたのような部分も、少しだけ開いたり閉じたりしています。

「えらで息をしているんだよ」と答えるのは簡単です。でも、えらは水の中から何をどうやって取り出しているのでしょうか。そして、空気のほうが酸素はずっと多いのに、なぜ魚は陸に上がると息ができなくなるのでしょうか。

魚の息のしかたを決めているのは、2つのことだけ

1
水の中の酸素は、とても少ない

水にも酸素はとけています。しかしその量は、同じかさの空気の約30分の1です。しかも水は空気の約800倍も重く、動かすのに力がいります。魚は、重くて酸素の少ないものを相手に息をしています。

2
えらは、酸素を「取りきる」形をしている

えらは、うすい板が何千枚も重なった形で、広い面で水にふれます。さらに、水と血液を逆向きに流すことで、水の中の酸素の大部分を取りこみます。人の肺が空気から取る割合よりも、ずっと高い割合です。

順番に見ていきましょう。まずは「水の中には、どれくらい酸素があるのか」からです。

水にとけている酸素は、思ったよりずっと少ない

コップの水を置いておくと、空気中の酸素が少しずつ水にとけこみます。池や川、海の水にも、こうしてとけた酸素が入っています。魚はこれを使って生きています。

図1を見てください。1リットルの空気には、約280ミリグラムの酸素があります。一方、20℃の水1リットルにとけられる酸素は、いっぱいまでとけても約9ミリグラムです。つまみで水温を変えてみてください。水が温かくなるほど、とけていられる酸素は減っていきます。

1リットルの中にある酸素の量(同じ温度でくらべる) 空気 約279 mg 水 (とけきった状態) 約9.1 mg 水の酸素は、空気の約31分の1 左の線から右へのびる棒の長さが、酸素の量を表します
つまみを動かすと、水にとけていられる酸素の量が変わります
図1:1リットルの空気(上の長い棒)と、1リットルの水(下の短い棒)にある酸素の量。水の棒は、左の縦線のすぐ右にわずかに見えるだけです。つまみで水温を上げると、水の棒はさらに短くなります。

少ないのは量だけではありません。酸素が水の中を広がっていく速さは、空気の中の約1万分の1とされています。じっとしている水の中では、えらのすぐそばの酸素を使い切ると、次の酸素がなかなか届きません。

だから魚は、いつも新しい水をえらに送り続けます。口から水を入れて、えらぶたのすき間から外へ出す。水は行ったり来たりせず、一方通行で流れます。重い水を往復させるのは、力のむだが大きすぎるからです。

マグロやカツオのように、口を開けたまま泳ぎ続けて、その勢いで水をえらに通す魚もいます。こうした魚は、泳ぐのをやめると十分に息ができなくなるとされています。

えらは、水と血液を「逆向き」に流している

えらをよく見ると、くしの歯のような細い糸が並び、その1本1本に、さらにうすい板がびっしり付いています。板の中には細い血管が通っています。水と血液のあいだは、紙よりもずっとうすい膜1枚だけです。

大事なのは、流れの向きです。図2を見てください。左は、水と血液が同じ向きに流れる場合です。はじめは酸素が勢いよく移りますが、両方が同じ濃さになったところで止まります。血液は、水の酸素の半分ほどしか受け取れません。

右が、実際のえらのしくみです。水と血液が逆向きに流れています。血液はどこへ行っても、自分より少しだけ酸素の多い水と向かい合います。だから最後まで酸素を受け取り続け、出口では水とほぼ同じ濃さにまで近づきます。

同じ向きに流すと 逆向きに流すと(えら) 水の酸素(%) 100 75 60 52 0 25 40 48 血液の酸素(%) 両方が半分ほどで止まる 血液は約50%までしか受け取れない 水の酸素(%) 100 70 40 15 90 60 30 5 血液の酸素(%) どこでも血液のほうが少しだけ低い 血液は約90%まで受け取れる
図2:水(上の帯)と血液(下の帯)の流れの向きによる違い。数字は、入ってくる水の酸素を100としたときの濃さの目安です。左は同じ向きに流す場合で、半分ほどで頭打ちになります。右は実際のえらで、上の矢印と下の矢印が逆向きです。血液は最後まで酸素を受け取り続けます。

このくふうのおかげで、魚はえらを通る水から、酸素の大部分を取りこめるとされています。人の肺は、吸った空気の酸素のうち4分の1ほどしか使わずに吐き出します。酸素が少ない場所で生きる魚のほうが、取り出しはずっと上手なのです。

💡 空気のほうが酸素は多いのに、なぜ魚は陸で息ができないの?

えらのうすい板は、水の中ではたがいに離れて、広い面を水にさらしています。ところが水から出すと、板どうしがぺたりとくっついてしまいます。酸素にふれられる面がほとんど無くなるうえ、表面もかわいていきます。酸素が目の前にたくさんあっても、受け取る窓が閉じてしまうのです。

💡 夏の明け方、池の魚が水面で口をパクパクさせるのは?

水温が高い夏は、もともと水にとけていられる酸素が少なくなります。さらに夜のあいだは、水草や小さな藻も光合成をせず、酸素を使う一方です。そのため、明け方は一日でいちばん酸素が少なくなりやすいとされています。魚は、空気にふれて少しだけ酸素の多い水面の水を求めて集まります。水槽で魚を飼うときも、夏は水温を上げすぎず、空気を送る装置を止めないこと、魚を入れすぎないことが大切です。

まとめ

魚は、水にとけた酸素をえらで取りこんで息をしています。水の中の酸素は空気の約30分の1しかなく、しかも水は重くて動かしにくい相手です。魚は、水を一方通行で流し続け、さらに水と血液を逆向きに流すことで、そのうすい酸素の大部分を取りこんでいます。

魚は、苦しくないのではない。
うすい酸素を、取りこぼさない形をしているのです。

私たち人が、息を止めるとすぐ苦しくなるしくみは「息は、なぜ1分も止めていられないの?」で解説しています。また、えらは息だけでなく、体の塩分の調節もしています。海の魚と川の魚の水の飲み方の違いもあわせてどうぞ。

🧪 魚の息を、目で確かめてみよう
  1. 金魚や熱帯魚の水槽の前で、1分間に口が何回開くかを数えてみましょう。えらぶたが、口と少しずれて動くことにも注目してください。
  2. 水槽に空気を送る装置があれば、その泡の近くと遠くで、魚がいる場所に違いがあるかを見てみましょう。
  3. 暑い日と涼しい日で、同じ魚の口の動く回数をくらべてみましょう。水温が高いと、回数が増えることが多いはずです。

水温が高いと酸素が少なくなるうえ、魚の体の働きも活発になって、より多くの酸素が必要になります。数えるだけで、図1の話を自分の目で確かめられます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・物質移動)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:酸素100ミリグラムを得るのに、どれだけ動かす必要があるか

魚と人が、同じ100ミリグラムの酸素を体に取りこむとします。そのために、えらや肺に通さなければならない水や空気の量を計算してみます。

⓪ もとになる式
記号で書くとV = Q ÷ ( C × E )
言葉で書くと通す水(空気)の量 = ほしい酸素の量 ÷ (1リットルあたりの酸素 × 取り出せる割合)
どこから来る式か酸素の量の保存。体に入った酸素の分だけ、通した水や空気の中から酸素が減ります。
記号意味と単位
Vえら(肺)に通す水(空気)の量 単位はリットル
Q体に取りこみたい酸素の量 単位はミリグラム
C水(空気)1リットルにふくまれる酸素 単位はミリグラム毎リットル
E通したうち、取り出せる酸素の割合(0から1の数)
① もとになる数値
取りこみたい酸素 Q100 ミリグラム
20℃の水1リットルの酸素約 9 ミリグラム
えらが取り出せる割合約 0.8(80%前後とされる)
空気1リットルの酸素約 280 ミリグラム
人の肺が取り出せる割合約 0.25(4分の1ほど)
1リットルの重さ水は 1000 グラム、空気は 1.2 グラム
② 計算してみる
水1リットルから取れる酸素9 × 0.8 = 7.2
魚が通す水の量(リットル)100 ÷ 7.2 ≒ 13.9
空気1リットルから取れる酸素280 × 0.25 = 70
人が通す空気の量(リットル)100 ÷ 70 ≒ 1.43
魚が動かす水の重さ(グラム)13.9 × 1000 = 13900
人が動かす空気の重さ(グラム)1.43 × 1.2 ≒ 1.72
重さで何倍か13900 ÷ 1.72 ≒ 8081

同じ量の酸素を得るのに、魚はえらに約14リットル、バケツ1杯半ほどの水を通します。人が肺に通す空気は約1.4リットルで、量でいえば約10倍の差です。重さでくらべると、魚は人の約8000倍の重さのものを動かして息をしていることになります。えらがあれほど高い割合で酸素を取りきるのは、ぜいたくではなく、そうしないと間に合わないからです。

高校高校+気体のとけ方と、血液の酸素の受け取り方

高校気体が液体にとける量は、その気体の圧力(分圧)に比例します。これをヘンリーの法則といいます。また、気体は温度が高いほど液体にとけにくくなります。図1で水温を上げると水の棒が短くなるのは、このためです。

高校+血液の中で酸素を運ぶのはヘモグロビンです。生物基礎で習う酸素解離曲線のとおり、まわりの酸素が多いところで酸素と結びつき、少ないところで離します。魚のヘモグロビンにも、種類や住む水の温度に合わせた性質の違いがあるとされています。

大学対向流交換と、拡散の速さ

図2の右のしくみは、対向流交換(向流交換)と呼ばれます。2つの流れが逆向きなら、どの場所でも濃さの差が保たれ、受け渡しが最後まで続きます。膜を通る酸素の量はフィックの拡散の法則に従い、面積と濃さの差に比例し、膜の厚さに反比例します。えらが広い面とうすい膜を持つのは、この法則に沿った形です。同じ対向流の考え方は、鳥の脚や腎臓の熱や物質のやりとりにも現れます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア(英語版)「対向流交換」 / ウィキペディア「ヘンリーの法則」

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに海の温暖化と魚の関係は、これからの観測で考え方が変わる可能性があります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2分野「動物のからだのつくりとはたらき」えら呼吸と肺呼吸、図1の酸素の量
高校化学「気体の溶解度」、生物基礎「ヘモグロビン」ヘンリーの法則、水温と酸素
高校+生物「酸素解離曲線」血液の酸素の受け取り方
大学動物生理学・物質移動論図2の対向流交換、フィックの拡散の法則
研究海洋生態学・進化生理学温暖化と魚の大きさ、空気呼吸の進化
―生活とのつながり夏の水槽や池の管理、釣った魚の扱い
参考・出典
  1. ウィキペディア「えら」
  2. ウィキペディア「溶存酸素量」
  3. ウィキペディア(英語版)「Countercurrent exchange」
  4. クヌート・シュミット=ニールセン『動物生理学 ― 環境への適応』(東京大学出版会)
  5. Daniel Pauly, Gasping Fish and Panting Squids: Oxygen, Temperature and the Growth of Water-Breathing Animals (International Ecology Institute, 2010)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。酸素の量や取り出せる割合は、魚の種類・水温・塩分などで変わります。生き物の飼育で困ったときは、飼育の専門店や獣医師に相談してください。