魚は、水の中でどうやって息をしているの?
― 水にとけた酸素は、空気のわずか30分の1です
魚も、私たちと同じように酸素を取りこんで生きています。ただし吸っているのは空気ではなく、水にとけた酸素です。その量は、同じ1リットルの空気とくらべて約30分の1しかありません。魚のえらは、このうすい酸素を取りこぼさないための、とてもよくできた装置です。
水族館の水槽の前で、子どもが聞きます。「お魚は、なんでずっと水の中にいて苦しくないの?」
よく見ると、魚は口をパクパクと開け閉めしています。そのたびに、頭の横のふたのような部分も、少しだけ開いたり閉じたりしています。
「えらで息をしているんだよ」と答えるのは簡単です。でも、えらは水の中から何をどうやって取り出しているのでしょうか。そして、空気のほうが酸素はずっと多いのに、なぜ魚は陸に上がると息ができなくなるのでしょうか。
魚の息のしかたを決めているのは、2つのことだけ
水にも酸素はとけています。しかしその量は、同じかさの空気の約30分の1です。しかも水は空気の約800倍も重く、動かすのに力がいります。魚は、重くて酸素の少ないものを相手に息をしています。
えらは、うすい板が何千枚も重なった形で、広い面で水にふれます。さらに、水と血液を逆向きに流すことで、水の中の酸素の大部分を取りこみます。人の肺が空気から取る割合よりも、ずっと高い割合です。
順番に見ていきましょう。まずは「水の中には、どれくらい酸素があるのか」からです。
水にとけている酸素は、思ったよりずっと少ない
コップの水を置いておくと、空気中の酸素が少しずつ水にとけこみます。池や川、海の水にも、こうしてとけた酸素が入っています。魚はこれを使って生きています。
図1を見てください。1リットルの空気には、約280ミリグラムの酸素があります。一方、20℃の水1リットルにとけられる酸素は、いっぱいまでとけても約9ミリグラムです。つまみで水温を変えてみてください。水が温かくなるほど、とけていられる酸素は減っていきます。
少ないのは量だけではありません。酸素が水の中を広がっていく速さは、空気の中の約1万分の1とされています。じっとしている水の中では、えらのすぐそばの酸素を使い切ると、次の酸素がなかなか届きません。
だから魚は、いつも新しい水をえらに送り続けます。口から水を入れて、えらぶたのすき間から外へ出す。水は行ったり来たりせず、一方通行で流れます。重い水を往復させるのは、力のむだが大きすぎるからです。
マグロやカツオのように、口を開けたまま泳ぎ続けて、その勢いで水をえらに通す魚もいます。こうした魚は、泳ぐのをやめると十分に息ができなくなるとされています。
えらは、水と血液を「逆向き」に流している
えらをよく見ると、くしの歯のような細い糸が並び、その1本1本に、さらにうすい板がびっしり付いています。板の中には細い血管が通っています。水と血液のあいだは、紙よりもずっとうすい膜1枚だけです。
大事なのは、流れの向きです。図2を見てください。左は、水と血液が同じ向きに流れる場合です。はじめは酸素が勢いよく移りますが、両方が同じ濃さになったところで止まります。血液は、水の酸素の半分ほどしか受け取れません。
右が、実際のえらのしくみです。水と血液が逆向きに流れています。血液はどこへ行っても、自分より少しだけ酸素の多い水と向かい合います。だから最後まで酸素を受け取り続け、出口では水とほぼ同じ濃さにまで近づきます。
このくふうのおかげで、魚はえらを通る水から、酸素の大部分を取りこめるとされています。人の肺は、吸った空気の酸素のうち4分の1ほどしか使わずに吐き出します。酸素が少ない場所で生きる魚のほうが、取り出しはずっと上手なのです。
えらのうすい板は、水の中ではたがいに離れて、広い面を水にさらしています。ところが水から出すと、板どうしがぺたりとくっついてしまいます。酸素にふれられる面がほとんど無くなるうえ、表面もかわいていきます。酸素が目の前にたくさんあっても、受け取る窓が閉じてしまうのです。
水温が高い夏は、もともと水にとけていられる酸素が少なくなります。さらに夜のあいだは、水草や小さな藻も光合成をせず、酸素を使う一方です。そのため、明け方は一日でいちばん酸素が少なくなりやすいとされています。魚は、空気にふれて少しだけ酸素の多い水面の水を求めて集まります。水槽で魚を飼うときも、夏は水温を上げすぎず、空気を送る装置を止めないこと、魚を入れすぎないことが大切です。
まとめ
魚は、水にとけた酸素をえらで取りこんで息をしています。水の中の酸素は空気の約30分の1しかなく、しかも水は重くて動かしにくい相手です。魚は、水を一方通行で流し続け、さらに水と血液を逆向きに流すことで、そのうすい酸素の大部分を取りこんでいます。
魚は、苦しくないのではない。
うすい酸素を、取りこぼさない形をしているのです。
私たち人が、息を止めるとすぐ苦しくなるしくみは「息は、なぜ1分も止めていられないの?」で解説しています。また、えらは息だけでなく、体の塩分の調節もしています。海の魚と川の魚の水の飲み方の違いもあわせてどうぞ。
- 金魚や熱帯魚の水槽の前で、1分間に口が何回開くかを数えてみましょう。えらぶたが、口と少しずれて動くことにも注目してください。
- 水槽に空気を送る装置があれば、その泡の近くと遠くで、魚がいる場所に違いがあるかを見てみましょう。
- 暑い日と涼しい日で、同じ魚の口の動く回数をくらべてみましょう。水温が高いと、回数が増えることが多いはずです。
水温が高いと酸素が少なくなるうえ、魚の体の働きも活発になって、より多くの酸素が必要になります。数えるだけで、図1の話を自分の目で確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎」「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・物質移動)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- えら呼吸:水にとけた酸素を、えらで血液に取りこむ呼吸のしかた。
- 溶存酸素:水にとけている酸素のこと。水のきれいさや、生き物の住みやすさの目安に使われます。
- 二次鰓弁(にじさいべん):えらの細い糸の表面に並ぶ、うすい板。ここで酸素の受け渡しが起きます。
中学高校式で確かめる:酸素100ミリグラムを得るのに、どれだけ動かす必要があるか
魚と人が、同じ100ミリグラムの酸素を体に取りこむとします。そのために、えらや肺に通さなければならない水や空気の量を計算してみます。
| 記号で書くと | V = Q ÷ ( C × E ) |
| 言葉で書くと | 通す水(空気)の量 = ほしい酸素の量 ÷ (1リットルあたりの酸素 × 取り出せる割合) |
| どこから来る式か | 酸素の量の保存。体に入った酸素の分だけ、通した水や空気の中から酸素が減ります。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| V | えら(肺)に通す水(空気)の量 単位はリットル |
| Q | 体に取りこみたい酸素の量 単位はミリグラム |
| C | 水(空気)1リットルにふくまれる酸素 単位はミリグラム毎リットル |
| E | 通したうち、取り出せる酸素の割合(0から1の数) |
| 取りこみたい酸素 Q | 100 ミリグラム |
| 20℃の水1リットルの酸素 | 約 9 ミリグラム |
| えらが取り出せる割合 | 約 0.8(80%前後とされる) |
| 空気1リットルの酸素 | 約 280 ミリグラム |
| 人の肺が取り出せる割合 | 約 0.25(4分の1ほど) |
| 1リットルの重さ | 水は 1000 グラム、空気は 1.2 グラム |
| 水1リットルから取れる酸素 | 9 × 0.8 = 7.2 |
| 魚が通す水の量(リットル) | 100 ÷ 7.2 ≒ 13.9 |
| 空気1リットルから取れる酸素 | 280 × 0.25 = 70 |
| 人が通す空気の量(リットル) | 100 ÷ 70 ≒ 1.43 |
| 魚が動かす水の重さ(グラム) | 13.9 × 1000 = 13900 |
| 人が動かす空気の重さ(グラム) | 1.43 × 1.2 ≒ 1.72 |
| 重さで何倍か | 13900 ÷ 1.72 ≒ 8081 |
同じ量の酸素を得るのに、魚はえらに約14リットル、バケツ1杯半ほどの水を通します。人が肺に通す空気は約1.4リットルで、量でいえば約10倍の差です。重さでくらべると、魚は人の約8000倍の重さのものを動かして息をしていることになります。えらがあれほど高い割合で酸素を取りきるのは、ぜいたくではなく、そうしないと間に合わないからです。
高校高校+気体のとけ方と、血液の酸素の受け取り方
高校気体が液体にとける量は、その気体の圧力(分圧)に比例します。これをヘンリーの法則といいます。また、気体は温度が高いほど液体にとけにくくなります。図1で水温を上げると水の棒が短くなるのは、このためです。
高校+血液の中で酸素を運ぶのはヘモグロビンです。生物基礎で習う酸素解離曲線のとおり、まわりの酸素が多いところで酸素と結びつき、少ないところで離します。魚のヘモグロビンにも、種類や住む水の温度に合わせた性質の違いがあるとされています。
大学対向流交換と、拡散の速さ
図2の右のしくみは、対向流交換(向流交換)と呼ばれます。2つの流れが逆向きなら、どの場所でも濃さの差が保たれ、受け渡しが最後まで続きます。膜を通る酸素の量はフィックの拡散の法則に従い、面積と濃さの差に比例し、膜の厚さに反比例します。えらが広い面とうすい膜を持つのは、この法則に沿った形です。同じ対向流の考え方は、鳥の脚や腎臓の熱や物質のやりとりにも現れます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア(英語版)「対向流交換」 / ウィキペディア「ヘンリーの法則」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 海が温まると、魚は小さくなるのか。 体が大きくなるほど、えらの面積が体の重さに追いつかなくなるという考え方があります。温かく酸素の少ない海では魚が小型化するという予測につながりますが、賛否が分かれています。
- えらの「息」と「塩分調節」の両立。 えらは酸素を取りこむ場所であると同時に、塩分を出し入れする場所でもあります。面を広くうすくすると、塩や水も出入りしやすくなります。魚がこの板ばさみをどう調整しているかは、いまも調べられています。
- 空気で息をする魚への道すじ。 ハイギョのように、えらと肺の両方を使う魚がいます。水中の酸素が少ない環境が、空気呼吸の進化をどう後押ししたのかは、研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに海の温暖化と魚の関係は、これからの観測で考え方が変わる可能性があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2分野「動物のからだのつくりとはたらき」 | えら呼吸と肺呼吸、図1の酸素の量 |
| 高校 | 化学「気体の溶解度」、生物基礎「ヘモグロビン」 | ヘンリーの法則、水温と酸素 |
| 高校+ | 生物「酸素解離曲線」 | 血液の酸素の受け取り方 |
| 大学 | 動物生理学・物質移動論 | 図2の対向流交換、フィックの拡散の法則 |
| 研究 | 海洋生態学・進化生理学 | 温暖化と魚の大きさ、空気呼吸の進化 |
| ― | 生活とのつながり | 夏の水槽や池の管理、釣った魚の扱い |
- ウィキペディア「えら」
- ウィキペディア「溶存酸素量」
- ウィキペディア(英語版)「Countercurrent exchange」
- クヌート・シュミット=ニールセン『動物生理学 ― 環境への適応』(東京大学出版会)
- Daniel Pauly, Gasping Fish and Panting Squids: Oxygen, Temperature and the Growth of Water-Breathing Animals (International Ecology Institute, 2010)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。酸素の量や取り出せる割合は、魚の種類・水温・塩分などで変わります。生き物の飼育で困ったときは、飼育の専門店や獣医師に相談してください。