蛇口の水は、なぜ下にいくほど細くなるの?
― 水は減っていません。急いでいるだけです
蛇口を少しだけ開けると、水の柱は出口でいちばん太く、下へいくほど細くなります。途中で水がどこかへ消えているわけではありません。落ちるにつれて速くなるので、同じ量の水が、より細い通り道で足りてしまうのです。そして細くなった柱は、最後に自分の力で粒に切れていきます。
コップに水をくもうと、台所の蛇口をそっとひねります。出てきた水は、ガラスの棒のように透きとおって、止まっているようにさえ見えます。
よく見ると、その棒は根もとが太く、下へいくほど先細りの形をしています。流しの底に近いあたりでは、表面がでこぼこして、ぱらぱらと粒になっていることもあります。
毎日見ているのに、なぜそうなるのかは、案外だれも説明してくれません。
理由は2つだけ
1秒間に蛇口から出る水の量は、どの高さでも同じです。下では水が速く流れるので、同じ量を運ぶのに、細い柱で間に合います。
水の表面は、できるだけ面積を小さくしようと縮みます。細長い柱は面積のむだが多いので、くびれが育ち、やがて粒にちぎれます。
1つ目は「形がしぼむ」理由、2つ目は「最後に切れる」理由です。順番に見ていきましょう。
速くなった分だけ、細くなる
水道の水は、途中で増えも減りもしません。出口を出た水は、1秒たてば必ず少し下の段を通ります。ですから、1秒間に通る水の量は、出口でも10cm下でも20cm下でも、同じになります。
ところが、水は落ちながらどんどん速くなります。速く流れる水は、細い通り道でも同じ量を運べます。道路でいえば、車が速く走る区間ほど、車と車のあいだが空くのと似ています。水の場合は空くかわりに、柱そのものが細くなるのです。
図1のつまみで、蛇口の開け具合(出口での水の速さ)を変えてみてください。そっと出すほど、出口のあとの加速の割合が大きいので、柱はぐっと細くなります。勢いよく出すと、もともと速いので、落ちても速さの比はあまり変わらず、ほぼまっすぐな柱になります。
出口の太さが1cm、速さが毎秒0.5mの場合、20cm落ちると速さは約4倍になります。断面の面積は4分の1になり、太さ(直径)はほぼ半分になります。図1の初期値は、ちょうどこの状態です。
細い柱は、自分で粒にちぎれる
水の表面には、ゴムの膜のように縮もうとする力がはたらいています。これが表面張力です。同じ量の水なら、細長い柱より、丸い粒のほうが表面の面積は小さくて済みます。
柱の表面には、蛇口のわずかな振動などで、目に見えないほど小さな波がいつも立っています。くびれた部分は表面のカーブがきつく、内側へ押す力が強くなります。押し出された水はふくらんだ部分へ逃げるので、くびれはますます細くなります(図2)。
図2の下のほうのように、柱が切れると丸い粒が並びます。粒どうしのあいだに、ごく小さな粒がはさまることもよくあります。落ちる水の柱が細くなる(理由1)ほど、表面張力の効き目は相対的に強くなります。ですから、そっと出した細い流れほど、短い距離で粒に変わります。
蛇口を大きく開けると、水の柱はガラス棒のような透明さを失い、白っぽくざらついて見えます。出口の中で流れが乱れ、表面が細かく波立って光をあちこちへはね返すためです。透きとおった柱が見たければ、蛇口をごく細く開けるのがこつです。
液の柱が一定の間隔で粒に切れる性質は、一部のプリンターで、インクの粒をそろえて飛ばすのに利用されてきました。台所の流しで見える現象が、ものづくりの道具にもなっているのです。
まとめ
蛇口の水が下ほど細くなるのは、水が減るからではなく、落ちて速くなるからです。1秒間に通る量が同じなら、速いところほど細い柱で足ります。そして細くなった柱は、表面張力によってくびれ、最後は粒に分かれます。
水は、急ぐほど細くなる。
細くなりすぎた水は、自分で丸まって粒になる。
表面張力がつくる「丸い形」の話は、シャボン玉は、なぜ四角い枠で吹いても丸くなるの?で、注いだ水がふちを伝う話は、やかんからゆっくり注ぐと、なぜ液が外側を伝って垂れるの?でくわしく紹介しています。
- 蛇口をごく細く開け、透きとおった柱をつくります。定規を流れのすぐ後ろに立て、出口のすぐ下と、15cmほど下の太さを見比べます。
- 蛇口を少しずつ開けていき、柱の先細りがゆるやかになっていくのを見ます(図1のつまみを右へ動かしたときと同じです)。
- スマートフォンのスロー撮影で、流しの底に近いあたりを撮ります。柱がくびれ、粒に切れる瞬間が見えることがあります。
水を出しっぱなしにせず、確かめたらすぐ止めましょう。暗い背景の前で、横から光を当てると見やすくなります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 流量:1秒間にある断面を通りぬける水の体積。途中で水が増減しなければ、どの高さでも同じです。
- 自由落下:重力だけで落ちる運動。速さは時間とともに増えていきます。
- 表面張力:液体の表面が、面積を小さくしようと縮む性質。水の粒が丸くなる原因です。
中学高校式で確かめる:20cm下で、柱の太さはどれくらいになる?
出口の太さが1cm、出口での速さが毎秒0.5mの細い流れが、20cm落ちたときの太さを求めます。
| 記号で書くと | A₀ × v₀ = A × v 、 v = √( v₀² + 2 × g × h ) 、 d = d₀ × √( v₀ ÷ v ) |
| 言葉で書くと | (断面積 × 速さ)は、どの高さでも同じ。落ちた先の速さは、出口の速さと落ちた高さで決まる。太さ(直径)は、速さの比の平方根に比例して細くなる。 |
| どこから来る式か | 1つ目は、水が途中で増えも減りもしないこと(質量の保存=連続の式)。2つ目は、落ちるあいだに位置エネルギーが運動エネルギーに変わること(エネルギーの保存)。断面積は直径の2乗に比例するので、3つ目が出てきます。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| A₀、A | 出口と、落ちた先での柱の断面積(平方メートル) |
| v₀、v | 出口と、落ちた先での水の速さ(m/秒) |
| d₀、d | 出口と、落ちた先での柱の太さ(直径、cm) |
| g | 重力加速度(およそ 9.8 m/秒²) |
| h | 出口から落ちた高さ(m) |
| 出口の太さ | 1 cm |
| 出口での速さ | 毎秒 0.5 m |
| 落ちた高さ | 20 cm(0.2 m) |
| 重力加速度 | 9.8 m/秒² |
| 2 × 重力加速度 | 2 × 9.8 = 19.6 |
| それに落ちた高さをかける | 19.6 × 0.2 = 3.92 |
| 出口の速さの2乗 | 0.5 × 0.5 = 0.25 |
| 足し合わせる | 0.25 + 3.92 = 4.17 |
| 落ちた先の速さ | 4.17 の平方根は およそ 2.04(毎秒 約2m) |
| 速さは何倍になったか | 2.04 ÷ 0.5 ≒ 4.1 |
| 断面積は何分の1になったか | 1 ÷ 4.1 ≒ 0.24 |
| 太さの比 | 0.24 の平方根は およそ 0.49 |
| 20cm下での太さ | 1 × 0.49 = 0.49(cm) |
20cm落ちるだけで、速さは約4倍、断面積は約4分の1、太さはほぼ半分の約5mmになります。流しまでの短い距離で、柱が目に見えて細くなるのはこのためです。
高校高校+速さと太さの関係を、もう一歩
高校落下の速さの式は、等加速度運動の「v² − v₀² = 2gh」そのものです。空気の抵抗は、この程度の速さと距離ではほとんど効かないとされます。柱の各部分は、出口を出た時刻が違うだけで、同じ落下運動をしています。
高校+出口の速さが小さいほど、落ちた後の速さの比は大きくなり、柱は細くなります。逆に、出口の速さが大きいと比は1に近づき、柱はほとんど細くなりません。図1のつまみで見た違いは、この比の違いです。また、管の中や出口付近の流れには「ベルヌーイの定理」がそのまま使えます。
大学柱が粒に切れるしくみ:プラトー・レイリー不安定性
液体の柱がくびれて粒に分かれる現象は、流体力学で「プラトー・レイリー不安定性」と呼ばれます。19世紀にプラトーが実験で、レイリー卿が理論で調べました。柱の周の長さより長い波長の凹凸だけが成長し、最も速く育つ波長は柱の半径の約9倍とされます。そのため、できる粒の大きさは柱の太さでほぼ決まり、直径は柱の直径の2倍弱になるとされています。表面張力と慣性のつり合いを比べる「ウェーバー数」や、粘りけの効きを表す「オーネゾルゲ数」で、切れ方が整理されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:連続の方程式(ウィキペディア) / プラトー・レイリー不安定性(英語版ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- どこで切れるかの予測 柱が粒に切れる位置は、蛇口の振動や空気の動きなど、ごく小さな乱れに左右されます。実際の流しで「何cm下で切れるか」を正確に言い当てるのは、今も簡単ではないとされます。
- 切れる瞬間のふるまい くびれが細くなって切れる直前、首の太さは理論上ゼロに向かいます。その瞬間の形や速さの変化は、数学的な特異点として研究が続けられています。
- 小さな粒のでき方 大きな粒のあいだにできる小さな粒(衛星液滴)を、どうすれば出さずに済むかは、印刷や薬の製造でも重要な課題とされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎日の流しの水にも、まだ解かれていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「運動とエネルギー」 | 落ちるほど速くなる |
| 高校 | 物理「等加速度直線運動」「力学的エネルギー保存」 | 20cm下での速さの計算 |
| 高校+ | 物理(発展)「流体・ベルヌーイの定理」 | 連続の式と柱の太さ |
| 大学 | 流体力学「界面の不安定性」 | 柱が粒に切れるしくみ |
| 研究 | 界面流体力学・液滴の生成 | 切れる位置・衛星液滴 |
| ― | 生活とのつながり | 蛇口の開け具合・インクの粒・スプレー |
- ウィキペディア「連続の方程式」
- ウィキペディア「表面張力」
- Wikipedia, "Plateau–Rayleigh instability"
- J. Eggers, "Nonlinear dynamics and breakup of free-surface flows", Reviews of Modern Physics 69, 865 (1997)
- Lord Rayleigh, "On the instability of jets", Proceedings of the London Mathematical Society 10, 4–13 (1878)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の柱の太さや切れる位置は、蛇口の形や水圧によって変わります。