日常のふしぎ 流体 予備知識なしでOK 読了 約6分

蛇口の水は、なぜ下にいくほど細くなるの?
― 水は減っていません。急いでいるだけです

蛇口を少しだけ開けると、水の柱は出口でいちばん太く、下へいくほど細くなります。途中で水がどこかへ消えているわけではありません。落ちるにつれて速くなるので、同じ量の水が、より細い通り道で足りてしまうのです。そして細くなった柱は、最後に自分の力で粒に切れていきます。

公開:2026.10.06 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

コップに水をくもうと、台所の蛇口をそっとひねります。出てきた水は、ガラスの棒のように透きとおって、止まっているようにさえ見えます。

よく見ると、その棒は根もとが太く、下へいくほど先細りの形をしています。流しの底に近いあたりでは、表面がでこぼこして、ぱらぱらと粒になっていることもあります。

毎日見ているのに、なぜそうなるのかは、案外だれも説明してくれません。

理由は2つだけ

1
落ちるほど速くなり、その分だけ細くなる

1秒間に蛇口から出る水の量は、どの高さでも同じです。下では水が速く流れるので、同じ量を運ぶのに、細い柱で間に合います。

2
表面張力が、細い柱をくびれさせて粒にする

水の表面は、できるだけ面積を小さくしようと縮みます。細長い柱は面積のむだが多いので、くびれが育ち、やがて粒にちぎれます。

1つ目は「形がしぼむ」理由、2つ目は「最後に切れる」理由です。順番に見ていきましょう。

速くなった分だけ、細くなる

水道の水は、途中で増えも減りもしません。出口を出た水は、1秒たてば必ず少し下の段を通ります。ですから、1秒間に通る水の量は、出口でも10cm下でも20cm下でも、同じになります。

ところが、水は落ちながらどんどん速くなります。速く流れる水は、細い通り道でも同じ量を運べます。道路でいえば、車が速く走る区間ほど、車と車のあいだが空くのと似ています。水の場合は空くかわりに、柱そのものが細くなるのです。

図1のつまみで、蛇口の開け具合(出口での水の速さ)を変えてみてください。そっと出すほど、出口のあとの加速の割合が大きいので、柱はぐっと細くなります。勢いよく出すと、もともと速いので、落ちても速さの比はあまり変わらず、ほぼまっすぐな柱になります。

蛇口 流しの底 0 cm 10 cm 20 cm 出口のすぐ下(ゆっくり) 太さ 1.0 cm / 速さ 0.5 m/秒 1秒間に通る水の量は、どの高さでも同じ → 速くなった分だけ、柱が細くなる 20 cm 下(速い) 太さ 0.49 cm / 速さ 2.0 m/秒
つまみを動かすと、柱の細くなり方が変わります
図1:蛇口から落ちる水の柱を横から見たところ。左のものさしは落ちた距離です。上の点線の文字が出口、下の点線の文字が20cm下の太さと速さです。つまみで出口の速さを変えると、ゆっくり出すほど下で細くなることが分かります(図では、下のほうで粒に切れる様子は省いています)。

出口の太さが1cm、速さが毎秒0.5mの場合、20cm落ちると速さは約4倍になります。断面の面積は4分の1になり、太さ(直径)はほぼ半分になります。図1の初期値は、ちょうどこの状態です。

細い柱は、自分で粒にちぎれる

水の表面には、ゴムの膜のように縮もうとする力がはたらいています。これが表面張力です。同じ量の水なら、細長い柱より、丸い粒のほうが表面の面積は小さくて済みます。

柱の表面には、蛇口のわずかな振動などで、目に見えないほど小さな波がいつも立っています。くびれた部分は表面のカーブがきつく、内側へ押す力が強くなります。押し出された水はふくらんだ部分へ逃げるので、くびれはますます細くなります(図2)。

上:なめらかな柱 ガラスの棒のように透きとおって見える 中:くびれが育つ 左右の赤い矢印:細いところほど、表面が内側へ強く押す 上下の黄色い矢印:押し出された水は、ふくらみへ逃げる 下:粒に分かれる 大きな粒のあいだに、小さな粒がはさまることも多い
図2:細い水の柱が粒に分かれるまで(上から下へ時間が進む)。中ほどの左右の矢印は、くびれを内側へ押す表面張力、上下の矢印は、押し出された水がふくらみへ移る向きです。下では柱が切れ、丸い粒が並びます。

図2の下のほうのように、柱が切れると丸い粒が並びます。粒どうしのあいだに、ごく小さな粒がはさまることもよくあります。落ちる水の柱が細くなる(理由1)ほど、表面張力の効き目は相対的に強くなります。ですから、そっと出した細い流れほど、短い距離で粒に変わります。

💡 勢いよく出すと、なぜ白くにごるの?

蛇口を大きく開けると、水の柱はガラス棒のような透明さを失い、白っぽくざらついて見えます。出口の中で流れが乱れ、表面が細かく波立って光をあちこちへはね返すためです。透きとおった柱が見たければ、蛇口をごく細く開けるのがこつです。

💡 インクジェットプリンターも、同じ現象を使っています

液の柱が一定の間隔で粒に切れる性質は、一部のプリンターで、インクの粒をそろえて飛ばすのに利用されてきました。台所の流しで見える現象が、ものづくりの道具にもなっているのです。

まとめ

蛇口の水が下ほど細くなるのは、水が減るからではなく、落ちて速くなるからです。1秒間に通る量が同じなら、速いところほど細い柱で足ります。そして細くなった柱は、表面張力によってくびれ、最後は粒に分かれます。

水は、急ぐほど細くなる。
細くなりすぎた水は、自分で丸まって粒になる。

表面張力がつくる「丸い形」の話は、シャボン玉は、なぜ四角い枠で吹いても丸くなるの?で、注いだ水がふちを伝う話は、やかんからゆっくり注ぐと、なぜ液が外側を伝って垂れるの?でくわしく紹介しています。

🧪 台所の蛇口で確かめてみよう
  1. 蛇口をごく細く開け、透きとおった柱をつくります。定規を流れのすぐ後ろに立て、出口のすぐ下と、15cmほど下の太さを見比べます。
  2. 蛇口を少しずつ開けていき、柱の先細りがゆるやかになっていくのを見ます(図1のつまみを右へ動かしたときと同じです)。
  3. スマートフォンのスロー撮影で、流しの底に近いあたりを撮ります。柱がくびれ、粒に切れる瞬間が見えることがあります。

水を出しっぱなしにせず、確かめたらすぐ止めましょう。暗い背景の前で、横から光を当てると見やすくなります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:20cm下で、柱の太さはどれくらいになる?

出口の太さが1cm、出口での速さが毎秒0.5mの細い流れが、20cm落ちたときの太さを求めます。

⓪ もとになる式
記号で書くとA₀ × v₀ = A × v 、 v = √( v₀² + 2 × g × h ) 、 d = d₀ × √( v₀ ÷ v )
言葉で書くと(断面積 × 速さ)は、どの高さでも同じ。落ちた先の速さは、出口の速さと落ちた高さで決まる。太さ(直径)は、速さの比の平方根に比例して細くなる。
どこから来る式か1つ目は、水が途中で増えも減りもしないこと(質量の保存=連続の式)。2つ目は、落ちるあいだに位置エネルギーが運動エネルギーに変わること(エネルギーの保存)。断面積は直径の2乗に比例するので、3つ目が出てきます。
記号意味と単位
A₀、A出口と、落ちた先での柱の断面積(平方メートル)
v₀、v出口と、落ちた先での水の速さ(m/秒)
d₀、d出口と、落ちた先での柱の太さ(直径、cm)
g重力加速度(およそ 9.8 m/秒²)
h出口から落ちた高さ(m)
① もとになる数値
出口の太さ1 cm
出口での速さ毎秒 0.5 m
落ちた高さ20 cm(0.2 m)
重力加速度9.8 m/秒²
② 計算してみる
2 × 重力加速度2 × 9.8 = 19.6
それに落ちた高さをかける19.6 × 0.2 = 3.92
出口の速さの2乗0.5 × 0.5 = 0.25
足し合わせる0.25 + 3.92 = 4.17
落ちた先の速さ4.17 の平方根は およそ 2.04(毎秒 約2m)
速さは何倍になったか2.04 ÷ 0.5 ≒ 4.1
断面積は何分の1になったか1 ÷ 4.1 ≒ 0.24
太さの比0.24 の平方根は およそ 0.49
20cm下での太さ1 × 0.49 = 0.49(cm)

20cm落ちるだけで、速さは約4倍、断面積は約4分の1、太さはほぼ半分の約5mmになります。流しまでの短い距離で、柱が目に見えて細くなるのはこのためです。

高校高校+速さと太さの関係を、もう一歩

高校落下の速さの式は、等加速度運動の「v² − v₀² = 2gh」そのものです。空気の抵抗は、この程度の速さと距離ではほとんど効かないとされます。柱の各部分は、出口を出た時刻が違うだけで、同じ落下運動をしています。

高校+出口の速さが小さいほど、落ちた後の速さの比は大きくなり、柱は細くなります。逆に、出口の速さが大きいと比は1に近づき、柱はほとんど細くなりません。図1のつまみで見た違いは、この比の違いです。また、管の中や出口付近の流れには「ベルヌーイの定理」がそのまま使えます。

大学柱が粒に切れるしくみ:プラトー・レイリー不安定性

液体の柱がくびれて粒に分かれる現象は、流体力学で「プラトー・レイリー不安定性」と呼ばれます。19世紀にプラトーが実験で、レイリー卿が理論で調べました。柱の周の長さより長い波長の凹凸だけが成長し、最も速く育つ波長は柱の半径の約9倍とされます。そのため、できる粒の大きさは柱の太さでほぼ決まり、直径は柱の直径の2倍弱になるとされています。表面張力と慣性のつり合いを比べる「ウェーバー数」や、粘りけの効きを表す「オーネゾルゲ数」で、切れ方が整理されます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:連続の方程式(ウィキペディア) / プラトー・レイリー不安定性(英語版ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎日の流しの水にも、まだ解かれていない問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「運動とエネルギー」落ちるほど速くなる
高校物理「等加速度直線運動」「力学的エネルギー保存」20cm下での速さの計算
高校+物理(発展)「流体・ベルヌーイの定理」連続の式と柱の太さ
大学流体力学「界面の不安定性」柱が粒に切れるしくみ
研究界面流体力学・液滴の生成切れる位置・衛星液滴
―生活とのつながり蛇口の開け具合・インクの粒・スプレー

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の柱の太さや切れる位置は、蛇口の形や水圧によって変わります。