ボールは、なぜ跳ねるたびに低くなるの?
― 消えたのではなく、少しずつ熱と音に変わっています
落としたボールは、2回目は1回目より低く、3回目はさらに低く跳ねます。どこかで力が「なくなった」ように見えますが、実はなくなってはいません。ボールが床でつぶれて戻るたびに、動きの一部を熱と音に替えて手放しているのです。しかも手放すのは、毎回「同じ割合」です。
子どもがスーパーボールを床に落とします。ポーン、ポン、ポン、トン、トトトト……。跳ねるたびに低くなり、音の間隔もどんどん短くなって、最後は床の上でふるえるように止まります。
「ねえ、なんでだんだん低くなるの? ずっと同じ高さで跳ねればいいのに」。そう聞かれて、「力がなくなるから」と答えたくなります。
でも、その「力」はどこへ行ったのでしょう。ボールを手で触っても、何かが減ったようには見えません。答えは、跳ねる一瞬のあいだに隠れています。
低くなる理由は、2つだけです
床に当たったボールは、一瞬ぺしゃんとつぶれ、元に戻る勢いで跳ね上がります。ところが、戻るときに返ってくる勢いは、つぶれたときより少し小さいのです。差の分は、ボールの中で熱になります。
「ポン」という音は、空気をふるわせる仕事をした証拠です。床もわずかにふるえます。どれも、ボールの動きから分けてもらったものです。
どちらも、ボールの動きが別の形に変わっただけで、合計は減っていません。理科でいう「エネルギーの保存」です。ただ、熱や音になった分は、もうボールを持ち上げる役には立ちません。
毎回「同じ割合」だけ低くなる
跳ねるボールには、ふしぎな規則があります。何センチ減るかではなく、何割に減るかが、だいたい毎回同じなのです。卓球の球を硬い台に落とすと、跳ね返る高さは落とした高さのおよそ4分の3です。1メートルから落とせば75センチ、次は56センチ、その次は42センチと、かけ算で小さくなります。
高さが低くなると、宙にいる時間も短くなります。だから「ポン、ポン、トトトト」と、音の間隔がどんどん詰まっていくのです。図1のつまみで、跳ね返る割合を変えてみてください。
ふしぎなのは、計算の上では跳ねる回数が無限にあるのに、止まるまでの時間は有限だということです。山の幅がどんどん縮むので、足し合わせても数秒で終わります。実際には、最後は跳ねているのか、ふるえているのか区別がつかなくなります。
失われた分は、ボールの中で熱になる
ゴムのボールがつぶれるとき、中ではゴムの長い分子がこすれ合いながら伸び縮みしています。手をこすると温かくなるのと同じで、こすれ合いは熱を生みます。図2を見てください。つぶれる途中と戻る途中で、このこすれの分だけ勢いが目減りします。
熱になる量はわずかで、触っても温かさは分かりません。それでも、跳ねる回数を重ねると効いてきます。この目減りが少ない素材ほど高く跳ねます。スーパーボールがよく跳ねるのは、つぶれても中でこすれにくいゴムでできているからです。
スカッシュのボールは、冷えているとほとんど跳ねません。選手は試合前に何度も壁に打ちつけて、ボールを温めます。ゴムは温度で硬さやこすれ方が変わり、温まると跳ね返りがよくなるからです。跳ねるたびに生まれる熱を、逆に利用しているわけです。
卓球やテニスの公式ボールには、決まった高さから落としたときに跳ね返る高さの基準があります。跳ね方がばらつくと試合にならないからです。下の折りたたみでは、この基準の数値を使って計算します。
まとめ
ボールが跳ねるたびに低くなるのは、つぶれて戻る一瞬に、動きの一部が熱と音に変わるからです。失う割合が毎回ほぼ同じなので、高さはかけ算で減り、音の間隔は詰まっていきます。エネルギーは消えていません。形を変えて、床やまわりの空気に散っていっただけです。
ボールは、跳ねるたびに少しずつ熱を払っている。
低くなっていく高さは、その支払いの記録です。
動きが熱に変わる話は、手をこすり合わせると、なぜあたたかくなるの?や、滝つぼの水は、落ちる前より温かいの?でも扱っています。水の上で石が跳ねる話は石は、なぜ水の上を何回も跳ねるの?へどうぞ。
- 壁にメジャーを貼り、ボールを1メートルの高さから静かに落とします。スマートフォンで横から動画を撮ると、跳ね上がった高さを読みやすくなります。
- 1回目と2回目の高さを読み、「1回目÷1メートル」と「2回目÷1回目」を比べます。ほぼ同じ割合になるはずです。
- スーパーボール・テニスボール・ピンポン球など、種類を変えて比べます。冷蔵庫で冷やしたボールと、手で温めたボールでも比べてみましょう。
床が柔らかい畳やじゅうたんだと、床のほうが熱を受け取ってしまい、どのボールもあまり跳ねません。硬い床で比べてください。ボールを投げつけず、静かに手を離すのがコツです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・材料力学・高分子物理)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 力学的エネルギー:高さによるエネルギー(位置エネルギー)と、速さによるエネルギー(運動エネルギー)の合計。ボールが宙にいるあいだは、ほぼ一定に保たれます。
- エネルギーの保存:エネルギーは形を変えても、全体の合計は増えも減りもしないという決まり。跳ねるたびに減って見えるのは、熱や音に形を変えたからです。
- 反発係数(はね返り係数):ぶつかる直前の速さに対する、跳ね返った直後の速さの割合。1なら勢いを全部返し、0ならまったく跳ねません。
中学高校式で確かめる:跳ねるたびに、高さはどれだけ減るか
卓球とテニスの公式ボールの基準値を使って、跳ね返る高さと、止まるまでの時間を計算します。
| 記号で書くと | hn = h0 × e2n(反発係数 e = √( h1 ÷ h0 )) |
| 言葉で書くと | n回目に跳ね上がる高さ = 落とした高さ × (反発係数の2乗)を n 回かけたもの |
| どこから来る式か | 宙にいるあいだは力学的エネルギーが保存されるので、高さは速さの2乗に比例する。床で速さが e 倍になるたびに、高さは e の2乗倍になる |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| h0 | 落とした高さ(cm) |
| hn | n回目に跳ね上がる高さ(cm) |
| e | 反発係数(単位なし、0から1のあいだ) |
| t0 | 最初に床まで落ちる時間(秒) |
| 卓球の球:落とす高さ(国際ルールの基準) | 30.5 cm |
| 卓球の球:跳ね返る高さの目安 | およそ 23 cm |
| テニスボール:落とす高さ(国際ルールの基準) | 254 cm |
| テニスボール:跳ね返る高さの基準の中央 | およそ 141 cm(135〜147 cm) |
| 1 m の高さから落ちるのにかかる時間 | およそ 0.45 秒 |
| 卓球の球:跳ね返る高さの割合(e の2乗) | 23 ÷ 30.5 ≒ 0.75 |
| 1 m から落とした1回目の高さ | 100 × 0.75 = 75 cm |
| 2回目の高さ | 75 × 0.75 ≒ 56 cm |
| 3回目の高さ | 56 × 0.75 = 42 cm |
| テニスボール:跳ね返る高さの割合 | 141 ÷ 254 ≒ 0.56 |
| テニスボールが1回で失う割合 | 1 − 0.56 = 0.44 |
卓球の球は1回跳ねるごとに力学的エネルギーの約4分の1を、テニスボールは4割以上を熱や音として手放していることになります。
| 止まるまでの時間の式(山の幅を等比級数として足し合わせた結果) | T = t0 × (1 + e) ÷ (1 − e) |
| 0.75 の平方根(反発係数 e) | およそ 0.866 とされます |
| 分子 | 1 + 0.866 = 1.866 |
| 分母 | 1 − 0.866 = 0.134 |
| 分子を分母で割る | 1.866 ÷ 0.134 ≒ 13.9 |
| 止まるまでの時間 | 0.45 × 13.9 ≒ 6.3 秒 |
跳ねる回数は計算上いくらでも続きますが、時間の合計は約6秒で頭打ちになります。図1の右上の数字と同じ値です。実際には空気の抵抗や、ゆっくりした衝突での跳ね方の変化があるので、目安として見てください。
高校高校+はね返り係数と、失われるエネルギー
高校物理基礎では、床とのはね返り係数を「衝突後の速さ ÷ 衝突前の速さ」として習います。運動エネルギーは速さの2乗に比例するので、1回の衝突で残るエネルギーの割合は e の2乗です。これが、跳ね上がる高さの割合と一致します。
高校+止まるまでの時間は、山の幅が一定の比 e で縮む等比数列になります。そのため、無限個を足しても有限の値に収まります。数学の無限等比級数の和の公式そのものです。
大学粘弾性とヒステリシス損失
ゴムは、ばねのような弾性と、はちみつのような粘性をあわせ持つ粘弾性体です。縮めるときの力の曲線と、戻るときの曲線が一致せず、その間の面積がヒステリシス損失として熱になります。接触の瞬間の変形はヘルツの接触理論で見積もられます。反発係数は、衝突の速さや温度によって変わることが知られています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:反発係数(ウィキペディア) / 力学的エネルギー保存則(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 速さによって反発係数がどう変わるか。 反発係数は一定ではなく、衝突が速いほど小さくなる傾向があるとされます。素材ごとの細かな変わり方を、分子の動きから予測するのは今も難しい課題です。
- 最後の「ふるえ」の正体。 跳ねる高さが非常に小さくなると、ボールと床の振動や空気の層の影響が無視できなくなります。どこで跳ねるのをやめるかは、単純な式では決まりません。
- たくさんの粒がぶつかり合う場合。 砂粒のような集団では、少しずつ勢いを失う衝突がくり返され、粒が急に固まりをつくることがあります。この「非弾性崩壊」は粉体物理の研究テーマです。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎回同じ割合で減るという規則も、あくまでよい近似だと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「力学的エネルギー」「エネルギーの移り変わり」 | 動きが熱や音に変わる、という説明 |
| 高校 | 物理基礎「はね返り係数」「力学的エネルギー」 | 高さの割合 = e の2乗の計算 |
| 高校+ | 数学「無限等比級数」 | 止まるまでの時間が有限になること |
| 大学 | 材料力学・高分子物理「粘弾性」「ヒステリシス」 | ゴムの中で熱が生まれるしくみ |
| 研究 | 接触力学・粉体物理 | 反発係数の速さ依存、非弾性崩壊 |
| ― | 生活とのつながり | スポーツのボール検査、スカッシュのボールを温める習慣 |
- 国際卓球連盟(ITTF)『競技規則』および技術資料(ボールの規格:30.5 cm から落としたときの跳ね返り)
- 国際テニス連盟(ITF)『テニス規則』付則(ボールの規格:254 cm から落としたときの跳ね返り 135〜147 cm)
- Cross, R. "The bounce of a ball", American Journal of Physics 67, 222 (1999)
- 高等学校「物理基礎」教科書(はね返り係数、力学的エネルギー保存の単元)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。ボールの跳ね方は、素材・温度・床の硬さによって大きく変わります。