地球は、ビリヤードの球よりなめらかって本当?
― 球に縮めると、エベレストは髪の毛の太さの半分です
8000メートルをこえる山も、1万メートルをこえる海の谷も、地球の大きさにくらべると驚くほど小さなでこぼこです。実際に縮めて計算すると、地球は手ざわりのよい球になります。そして私たちが暮らす海と空気は、その表面をおおう、ラップのように薄い膜だと分かります。
飛行機の窓から見下ろすと、山脈はごつごつと連なり、地面はとてもでこぼこに見えます。登山をすれば、山の高さは体でいやというほど感じます。
ところが宇宙から撮った地球の写真は、つるりとした青い球です。山の影も、海の谷のくぼみも、まったく見えません。
「地球はビリヤードの球よりなめらか」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは、ただのたとえ話なのでしょうか。それとも、計算すると本当なのでしょうか。
答えの鍵は、2つの「くらべる」です
いちばん高い山の頂上から、いちばん深い海の底までの差は、約20キロメートルです。地球の直径は約1万2700キロメートル。差は直径の0.16%ほどしかありません。
地球は自転のせいで、赤道のまわりが少しふくらんでいます。それでも直径の差は0.34%ほどです。縮めてみると、球の規格で許される範囲に収まります。
大きなものほど、そのでこぼこを「どれくらいの大きさにくらべるか」で印象が変わります。実際に地球を縮めて、数字で確かめてみましょう。
地球を縮めると、山はどれくらいになる?
ビリヤードの球の直径は、約57ミリです。地球をこの大きさに縮めるには、すべての長さを約2億2300万分の1にします。形はそのままで、全体を同じ割合で小さくするのです。
するとエベレストの高さ8849メートルは、約0.04ミリになります。髪の毛の太さは0.08ミリほどなので、その半分です。最も深いマリアナ海溝の底も、約0.05ミリのくぼみにしかなりません。
図1を見てください。右側は、縮めた球の表面を大きく拡大したものです。左の丸い粒が髪の毛の断面で、その横にエベレストの三角形が並んでいます。指でなでても、まず気づかない大きさです。
赤道のふくらみも、規格の中に入る
もう1つの問題は、丸さです。地球は1日に1回まわっているので、赤道のまわりが外へふくらんでいます。赤道方向の直径は、北極と南極を結ぶ直径より、約43キロメートル長いのです。
縮めた球では、この差は約0.19ミリになります。ビリヤードの球の規格では、直径のずれを上下0.127ミリ以内、つまり幅で0.25ミリほどまで認めているとされます。地球のゆがみは、その幅の中に入ります。
もちろん本物の球の表面は、0.04ミリの段差よりずっとなめらかに磨かれています。ですから「どちらがなめらかか」は、何をなめらかさの基準にするかで答えが変わります。確かなのは、地球が「指でなでても分からないほど丸い球」だということです。
縮めた球の上では、海の平均の深さは約0.017ミリです。台所のラップの厚さは0.01ミリほどなので、ラップ1〜2枚ぶんです。空気の重さの99%も、厚さ0.13ミリほどの層に入っています。雲も雨も台風も、すべてこの薄い膜の中の出来事です。
海は数千キロの広さに対して、深さは数キロしかありません。お盆に張った水よりも、さらに浅い割合です。そのため海流も風も、大部分は横向きに流れます。天気図が地図の上に横向きの矢印で描けるのは、このためです。
まとめ
地球のいちばん高い所と低い所の差は、直径の0.16%ほどです。ビリヤードの球の大きさに縮めると、エベレストは髪の毛の太さの半分、赤道のふくらみも球の規格の中に収まります。そして私たちを守る海と空気は、ラップ数枚ぶんの薄い膜です。
地球は、指でなでても分からないほど丸い。
私たちは、その表面のラップ1枚の中で暮らしています。
山がどうしてそれ以上高くならないのか、地球の中心からいちばん遠い山はどこなのかは「エベレストは、本当に世界でいちばん高い山なの?」で詳しく紹介しています。空気の薄い膜の重さは「空気に重さはあるの? 部屋の空気は何キロ?」、宇宙の距離感は「月って、どれくらい遠いの?」もどうぞ。
- 家にある球を1つ選び、直径を定規で測ります(ピンポン玉なら約40ミリ、サッカーボールなら約220ミリ)。
- その直径を、地球の直径1万2742キロメートルで割ります。これが縮める割合です。エベレスト8.8キロメートルや、旅客機が飛ぶ高さ10キロメートルにかけてみましょう。
- 出てきた長さを、髪の毛(約0.08ミリ)や紙1枚(約0.1ミリ)とくらべます。紙を球の表面に貼ったら、その厚さでどの高さまで届くかを考えてみてください。
サッカーボールに縮めても、エベレストは0.15ミリほどで、紙1枚と同じくらいです。図1のつまみでも、同じ計算を確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科・数学で習う範囲
- 高校高校の「地学」「数学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(測地学・地球物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 相似:形を変えずに大きさだけを変えること。縮めると、すべての長さが同じ割合で小さくなります。
- 縮尺:本物の長さを、どれだけの割合で縮めたかを表す数。地図の「2万5千分の1」と同じ考え方です。
- 扁平率:球がどれだけつぶれているかを表す数。地球はおよそ298分の1とされます。
中学高校式で確かめる:地球をビリヤードの球に縮めると、山は何ミリになるか
形を変えずに縮めるとき、どの長さも同じ割合で小さくなります。この性質だけで、山の高さも海の深さも計算できます。
| 記号で書くと | h′ = h × ( d ÷ D ) |
| 言葉で書くと | 縮めたときの高さ = 本当の高さ ×(縮めた球の直径 ÷ 地球の直径) |
| どこから来る式か | 相似の性質。形を保って縮めると、長さの比はどこでも同じになる |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| h | 本物の高さや深さ(ミリメートル) |
| h′ | 縮めた球の上での高さや深さ(ミリメートル) |
| d | 縮めた球の直径(ミリメートル) |
| D | 地球の直径(ミリメートル) |
| 地球の平均の直径 | 約1万2742 km(12742000000 mm) |
| ビリヤードの球の直径 | 約57.2 mm |
| エベレストの高さ | 8849 m(8849000 mm) |
| マリアナ海溝の最も深い所 | 約1万920 m(10920000 mm) |
| 海の平均の深さ | 約3700 m(3700000 mm) |
| 空気の重さの99%が入る高さ | 約30 km(30000000 mm)とされる |
| 赤道方向と南北方向の直径の差 | 約43 km(43000000 mm) |
| 何分の1に縮めるか(D ÷ d) | 12742000000 ÷ 57.2 ≒ 222760000 |
| エベレストの高さ(mm) | 8849000 ÷ 222760000 ≒ 0.040 |
| マリアナ海溝の深さ(mm) | 10920000 ÷ 222760000 ≒ 0.049 |
| いちばん高い所と低い所の差(mm) | 0.040 + 0.049 = 0.089 |
| その差は直径の何割か | 0.089 ÷ 57.2 ≒ 0.0016 |
| 赤道のふくらみ(直径の差、mm) | 43000000 ÷ 222760000 ≒ 0.19 |
| 海の平均の深さ(mm) | 3700000 ÷ 222760000 ≒ 0.017 |
| 空気の99%が入る層(mm) | 30000000 ÷ 222760000 ≒ 0.13 |
エベレストは約0.04ミリで、髪の毛(約0.08ミリ)の半分です。山から海溝までの差は直径の0.16%ほどで、赤道のふくらみ約0.19ミリも、球の規格で許される幅0.25ミリほどの中に入ります。海は約0.017ミリで、台所のラップ1〜2枚ぶんの薄さです。
高校高校+なぜ地球は丸く、なぜ少しつぶれているのか
高校地球ほど大きな天体では、重力が岩をあらゆる方向から中心へ引き寄せます。高すぎる山は、ふもとの岩が重さに耐えられず沈み込んだり崩れたりします。そのため、天体が大きいほど形は球に近づきます。高校の地学では、地球の大きさを初めて測ったエラトステネスの方法や、地球楕円体として習います。
高校+自転する地球では、赤道の上ほど外向きの遠心力が大きくなります。その分だけ赤道方向にふくらみ、扁平率およそ298分の1の形で落ち着いています。17〜18世紀には、地球が赤道方向に太いのか南北方向に長いのかが大論争になり、フランスの測量隊がラップランドとペルーで実際に測って決着させました。
大学地球楕円体とジオイド
測地学では、地球の形を2段階で表します。1つめは、なめらかな回転楕円体で近似した地球楕円体(国際的な基準は GRS80 など)です。2つめは、海面を陸の下まで延ばしたような重力の等ポテンシャル面であるジオイドです。ジオイドと地球楕円体のずれは、大きい所でも100メートル程度とされます。縮めた球の上では、0.0005ミリにもなりません。人工衛星による重力場の測定で、この細かな形が詳しく調べられています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:地球楕円体(ウィキペディア) / ジオイド(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 海の底の地形は、まだ大部分が粗い地図です。 船の音波で詳しく測られた海底は、全体の4分の1ほどにとどまるとされます。月や火星の表面のほうが、細かく地図にされているといわれます。
- 地球のつぶれ具合は、少しずつ変わっています。 氷河が溶けて水が移動したり、氷期に押し下げられた大地が戻ったりすると、扁平率がわずかに変わります。その変化から、氷や水の動きを読み取る研究が続いています。
- ジオイドのでこぼこの原因。 インド洋の南では、海面が周りより100メートルほど低い所があるとされます。地球の深い所の密度のむらが原因と考えられていますが、詳しいしくみはまだ議論されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数ミクロンの話をしているのに、その元になる海底の地図は、まだ完成していません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 数学「相似な図形」、社会「地図の縮尺」 | 地球をビリヤードの球に縮める計算 |
| 高校 | 地学基礎「地球の形と大きさ」 | 地球が丸い理由、エラトステネス |
| 高校+ | 地学「地球楕円体と扁平率」 | 赤道のふくらみと18世紀の測量 |
| 大学 | 測地学・地球物理学 | 地球楕円体とジオイド |
| 研究 | 海底地形の測量、衛星重力測定 | 海底の地図、扁平率の変化 |
| ― | 生活とのつながり | 海と空気がどれほど薄い膜かを実感する |
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の大きさ・形、扁平率)
- アメリカ海洋大気庁(NOAA)・How deep is the ocean?
- 国土地理院「地球の形と大きさ」に関する解説(測地基準系、GRS80)
- World Pool-Billiard Association, Equipment Specifications(球の直径と許容差)
- The Nippon Foundation-GEBCO Seabed 2030 Project の報告(海底の測量済みの割合)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。ビリヤードの球の規格値は団体や年代によって異なる場合があります。