エベレストは、本当に世界でいちばん高い山なの?
― 地球の中心から測ると、1位は赤道のそばの山に入れかわります
「世界一高い山はエベレスト」。これは間違いではありません。ただし、それは「海面から測れば」という条件つきの答えです。ものさしを当てる場所を変えると、1位はハワイの山にも、南米の山にも入れかわります。
クイズ番組で「世界でいちばん高い山は?」と聞かれたら、ほとんどの人が「エベレスト」と答えるはずです。高さは約8849メートル。教科書にも地図帳にも、そう書いてあります。
ところが、南米エクアドルの人に聞くと「宇宙にいちばん近い山頂は、うちの国のチンボラソだ」と言われることがあります。標高は約6270メートル。エベレストより2500メートル以上も低い山です。
低い山が、なぜ「いちばん宇宙に近い」のでしょう。どちらかが間違っているのではありません。2人は、違うものさしで高さを測っているのです。
「いちばん高い」が入れかわる理由は2つだけ
ふだん使う「標高」は、海面を0として測った高さです。でも、山のふもとから測ることも、地球の中心から測ることもできます。起点を変えれば、順位も変わります。
地球は回っているので、赤道のあたりが外へ少しふくらんでいます。赤道の近くでは、海面そのものが地球の中心から遠いのです。そこに立つ山は、最初から「下駄」をはいています。
この2つを順に見ると、エベレストが1位になるのはどんなときで、1位でなくなるのはどんなときかが、はっきり分かります。
ものさしを3本用意してみる
高さを測るものさしとして、3本を考えます。1本目は海面から、2本目は山のふもとから、3本目は地球の中心からです。図1は、この3本で有名な3つの山をくらべたものです。
1本目の「海面から」では、エベレストの約8849メートルが文句なしの1位です。ハワイのマウナケアは約4207メートルしかありません。
ところが、マウナケアは海の上に顔を出しているだけの山です。ふもとは、海面の下約6000メートルの海底にあるとされています。2本目の「ふもとから」で測ると、高さは1万メートルを超えます。エベレストのふもとは高い高原の上にあるので、ふもとからの高さは8849メートルよりずっと小さくなります。
赤道のふくらみが、低い山を押し上げる
3本目のものさしで、なぜチンボラソが勝つのでしょう。カギは地球の形です。地球は1日に1回まわっているので、赤道のあたりが外へふくらんでいます。赤道での半径は、北極での半径より約21キロ長いとされています。
チンボラソは、赤道から南へわずか約1.5度の場所にあります。ふくらみのほぼてっぺんです。一方、エベレストは北緯約28度にあります。そこでは海面が、赤道の海面より約4.7キロ中心寄りに下がっています。
図2のつまみで、山を置く場所を赤道から北へずらしてみてください。北へ行くほど海面が中心に近づき、エベレストの山頂に並ぶのに必要な標高がどんどん増えていきます。赤道の真上なら約4.2キロの山で足ります。北緯60度では20キロを超える山が必要です。
チンボラソの山頂は、地球の中心から約6384キロです。エベレストの山頂は約6382キロです。標高では2500メートル以上負けているのに、中心からの距離では約2キロ勝っているのです。
地球の中心からいちばん遠いという意味では、チンボラソの山頂が地上でいちばん「外側」の地点とされています。ただし空気の薄さは、標高でほぼ決まります。息が苦しいのは、やはりエベレストのほうです。
まとめ
「世界一高い山はエベレスト」は、海面から測るという約束のもとで正しい答えです。ふもとから測ればマウナケアが、地球の中心から測ればチンボラソが1位になります。チンボラソが勝つのは、回る地球の赤道がふくらみ、海面そのものが外へ押し出されているからです。
「いちばん高い」は、山の性質ではなく、
ものさしをどこに当てるかで決まります。
地球がなぜ丸く、どれくらいつぶれているのかは「地球は、なぜ丸いの?」で、山の上で海の生き物の化石が見つかる理由は「山の上にある貝の化石は、どうやってそこへ行ったの?」で解説しています。
- 地図帳や地球儀で、エベレストとチンボラソとマウナケアの場所を探し、それぞれの緯度を読み取ります。
- 図2のつまみを3つの山の緯度に合わせ、それぞれの場所の海面がどれだけ中心寄りに下がっているかを見ます。
- 日本の富士山(北緯約35度、標高約3776メートル)でも同じことをしてみます。エベレスト山頂に並ぶには、あと何キロ足りないでしょうか。
地球儀は回転でつぶれた形まで再現していないので、ふくらみは数値で確かめるのがおすすめです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(測地学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 標高:平均的な海面を0として測った高さ。地図や登山で使う「高さ」は、ふつうこれです。
- 比高:山のふもとから山頂までの高さ。マウナケアのように海底から立ち上がる山では、標高よりずっと大きくなります。
- 回転楕円体:楕円を軸のまわりに回してできる形。地球は、赤道方向に少しふくらんだ回転楕円体に近い形をしています。
中学高校式で確かめる:山頂は地球の中心から何キロか
山頂から地球の中心までの距離を、エベレストとチンボラソについて計算してくらべます。
| 記号で書くと | r = a − ( a − b ) × sin²φ + h |
| 言葉で書くと | 山頂の中心からの距離 = 赤道半径 −(赤道半径と極半径の差)×(緯度の正弦の2乗)+ 標高 |
| どこから来る式か | 地球を、自転でつぶれた回転楕円体とみなしたときの海面の半径(近似式)に、海面からの高さを足したもの。重力と自転の遠心力のつり合いで、赤道がふくらむ |
記号の意味:r は山頂の中心からの距離、a は赤道半径、b は極半径、φ は緯度、h は標高。単位はすべてキロメートル(φ は度)です。
| 赤道半径 a | 約6378.1キロ |
| 極半径 b | 約6356.8キロ |
| エベレスト:緯度・標高 | 北緯約28度・約8.85キロ |
| チンボラソ:緯度・標高 | 南緯約1.5度・約6.27キロ |
| 28度の正弦の2乗 | およそ 0.22 とされます |
| 1.5度の正弦の2乗 | およそ 0.0007 とされます |
| 赤道と極の半径の差 | 6378.1 − 6356.8 = 21.3 |
| エベレストの場所で海面が下がる分 | 21.3 × 0.22 ≒ 4.7 |
| エベレストの場所の海面の半径 | 6378.1 − 4.7 = 6373.4 |
| エベレスト山頂の中心からの距離 | 6373.4 + 8.85 = 6382.25 |
| チンボラソの場所で海面が下がる分 | 21.3 × 0.0007 ≒ 0.015 |
| チンボラソの場所の海面の半径 | 6378.1 − 0.015 ≒ 6378.1 |
| チンボラソ山頂の中心からの距離 | 6378.1 + 6.27 = 6384.37 |
| 2つの山頂の差 | 6384.37 − 6382.25 = 2.12 |
チンボラソの山頂のほうが、地球の中心から約2.1キロ遠いことが分かります。標高の差(約2.6キロ)を、海面のふくらみの差(約4.7キロ)が上回っているのです。図2の点線と縦の帯も、この式で描いています。
高校高校+なぜ赤道がふくらむのか
高校地球は自転しているので、地表の物には遠心力がはたらきます。遠心力は自転軸から遠い赤道で最も大きく、極では0です。海水も岩も、長い時間をかけて、重力と遠心力を合わせた力に垂直な面に落ち着きます。その結果、赤道が外へふくらんだ形になります。
高校+つぶれ具合は扁平率で表し、地球ではおよそ298分の1とされています。また実際の海面は、地下の重さのかたよりで凸凹しています。この凸凹した海面をジオイドと呼び、標高は本来ジオイドから測ります。
大学測地学での「高さ」の定義
測地学では、地球を近似する回転楕円体(準拠楕円体。日本では国際的に定められたGRS80楕円体を使います)からの高さを楕円体高、ジオイドからの高さを標高と呼び分けます。2つの差がジオイド高です。上の式は、楕円体の地心半径を緯度で展開した近似式で、測地緯度と地心緯度の違いなどは省いています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:地球楕円体(ウィキペディア) / チンボラソ(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 山頂の高さそのものが動いている。 エベレストは、インドの大陸がアジアを押し続けているため、今も少しずつ隆起しているとされます。一方で浸食や地震で下がる分もあり、正味の変化はまだ議論が続いています。
- 雪と氷をどこまで含めるか。 山頂の雪や氷の厚さは季節や年で変わります。チンボラソでも、測量の年によって標高に数メートルの違いが出ています。
- 海底のふもとはどこか。 マウナケアのふもとは、自分の重さで海底を押し下げているとされます。どこを「ふもと」とするかで、比高の値は大きく変わります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。山の高さは、測る技術が進むたびに書きかえられてきました。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・大地の変化 | 山の高さ、標高という言葉 |
| 高校 | 地学基礎・地球の形と大きさ/物理・遠心力 | 赤道がふくらむ理由 |
| 高校+ | 地学・扁平率、ジオイド | 標高の起点となる海面 |
| 大学 | 測地学 | 楕円体高と標高の違い |
| 研究 | 測地学・地球物理学 | 山の隆起、ふもとの沈み込み |
| ― | 生活とのつながり | カーナビやスマートフォンの位置測定も、楕円体からの高さを使っています |
- ウィキペディア「地球楕円体」
- ウィキペディア「チンボラソ」
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の形と大きさ、主な山の高さ)
- 国土地理院「測地学の基礎」に関する解説資料(標高・楕円体高・ジオイド高)
- 中国・ネパール両政府によるエベレスト標高の共同発表(2020年、8848.86メートル)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。山の高さは測量の年や方法によって数メートル程度異なります。