青い鳥や青いチョウは、なぜ青いの?
― 羽をすりつぶすと、青は消えてしまいます
赤い羽は、すりつぶしても赤い粉になります。ところが青い羽をすりつぶすと、出てくるのはくすんだ灰色や茶色の粉です。青い鳥やチョウの多くは、青い色素を持っていないのです。青は「色の材料」ではなく、羽の中に作られた、目に見えないほど細かい「形」から生まれています。
川辺の枝から、カワセミがさっと飛び立ちます。背中が、宝石のような青に光りました。図鑑で見た南米のモルフォチョウも、金属のような青で輝いていました。
ところが、公園で拾ったカケスの青い羽を、窓の光に透かしてみると、青はどこかへ消えて、地味な茶色に見えます。
色がついているなら、どちらから見ても同じ色のはずです。なぜ青い羽だけ、見る向きで色が消えてしまうのでしょうか。
青く見える理由は、2つの「形」です
チョウのうろこには、光の波の長さと同じくらいのうすい板が、すき間をあけて何枚も重なっています。それぞれの板で返った光の山と山がそろう色だけが、強く返ってきます。
カワセミなどの青い羽の中には、髪の毛の太さの数百分の一ほどの空気の泡が、ほぼ同じ間隔でびっしり並んでいるとされています。この間隔に合う青い光だけが、強め合って外へ出てきます。
どちらも、色の材料をぬっているのではありません。光という「波」の性質を、形で利用しています。だから形をこわすと、青は消えます。
チョウの青:うすい板で「山と山」をそろえる
太陽の白い光には、赤から紫まで、波の長さがちがう光がまざっています。シャボン玉の膜が虹色に見えるのは、膜の表と裏で返った光が重なり、ある色だけが強め合うからでした。
モルフォチョウのうろこは、これを何枚も重ねた作りになっているとされています。図1を見てください。板と板の間隔がちょうどよいと、どの板で返った青い光も、山と山がそろって外へ出ます。赤い光は、山と谷が打ち消し合って弱まります。
図1のつまみを右へ動かすと、色は青から緑へ変わります。じっさい、モルフォチョウの羽にアルコールをたらすと、すき間がアルコールで満たされて、青が緑っぽく変わることが知られています。かわくと、また青に戻ります。色が「形」で決まっている、何よりの証拠です。
板の重なりで作る色は、見る角度で変わります。ななめから見ると、光が板を通る道のりが変わるからです。ハトの首やタマムシの羽が、角度でちがう色に光るのも、同じなかまのしくみと考えられています。
鳥の青:スポンジの泡で「青だけ」を強める
カワセミ、オオルリ、ルリビタキ。日本の青い鳥の羽は、モルフォチョウとは少しちがう作りをしているとされています。羽の枝の中に、空気の小さな泡がつまったスポンジのような層があり、その泡の間隔がほぼそろっているのです。
泡は規則正しい格子ではないので、角度を変えても色はあまり変わりません。それでも、泡の間隔に合った青い光は強め合い、ほかの色は打ち消し合います。スポンジの下には黒い色素(メラニン)の層があり、よぶんな光を吸いこんで、青を引き立てているとされています。
図2を見てください。左の赤い羽は、色素で色がついているので、すりつぶしても赤い粉のままです。右の青い羽は、すりつぶすとスポンジの形がこわれ、残るのは下の黒っぽい色素だけになります。光に透かすと茶色に見えるのも、返ってくる青ではなく、通りぬけた光を見ているからです。
ほかの生きものは、青をどう作っている?
青い色素をほとんど作れないのは、鳥やチョウだけではありません。動物の世界では、青い色素を持つ例はごく一部のチョウや魚などに限られるとされています。カエルやトカゲの青も、多くは細かい結晶の並びによる色です。
いっぽう植物は、色素で青を作ります。アサガオやアジサイの青は、赤や紫にもなる色素が、液の性質や金属とのくっつき方で青に寄ったものとされています。植物も、まじりけのない青を出すのには苦労しているのです。
青い目の人の虹彩には、茶色の色素(メラニン)が少ないだけで、青い色素は入っていないとされています。虹彩の中の細かいすじが、空と同じように青い光を多く散らすため、青く見えます。鳥とはしくみが少しちがいますが、「青は形や散らばり方から生まれる」という点では同じです。
多くの鳥は、人には見えない紫外線も見えるとされています。羽の泡や板の間隔が少しせまいと、強め合う光は紫外線になります。人には地味に見える羽が、鳥どうしでは目立つ模様になっていることもあると考えられています。
まとめ
青い鳥やチョウの多くは、青い色素を持っていません。羽やうろこの中の、光の波長と同じくらい細かい板や泡が、青い光だけを強め合わせて返しています。だから形をこわすと、青は消えます。色素で青を作る植物とは、まったくちがう道を選んだのです。
青い羽は、色をぬっているのではない。
光の波の「山と山」を、形でそろえている。
膜で色が生まれるしくみはシャボン玉が虹色に見える理由、魚が同じ板の重なりで鏡を作る話はイワシやタチウオが銀色に光る理由、青い光が散らばるしくみは空が青い理由でくわしく紹介しています。植物の色素の話は花の色の記事もどうぞ。
- 駅前や公園のハトの首を、角度を変えながら見てみましょう。緑と紫が入れかわって見えます。色素なら、角度で色は変わりません。
- カケスやオナガなどの青い羽を拾ったら、光にかざして透かしてみましょう。青が消えて茶色っぽく見えたら、それは形の色です。
- シャボン液を針金の輪に張って、膜がうすくなるにつれて色が変わるのを見てみましょう。厚さだけで色が決まるようすが分かります。
落ちている羽は、素手でさわらず手袋やビニール袋を使い、観察後は手を洗いましょう。野鳥をつかまえたり、巣に近づいたりはしないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・生物物理)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 構造色:色素ではなく、光の波長ほどの細かい構造が光を強め合わせたり散らしたりして生まれる色。
- 色素色:特定の色の光を吸収する物質(色素)によって生まれる色。すりつぶしても残る。
- 光の干渉:2つ以上の光の波が重なり、山と山がそろうと強め合い、山と谷が重なると弱め合う現象。
中学高校式で確かめる:チョウのうろこは、何色の光を返すか
板とすき間が交互に重なった構造では、となりの板で返った光どうしの道のりの差が、波長1つ分になる色が強め合います。真上から光が当たる場合で、返ってくる色の波長を計算してみます。
| 記号で書くと | λ = 2 ×( n1 × d1 + n2 × d2 ) |
| 言葉で書くと | 強め合う波長 = 2 ×(板の屈折率 × 板の厚さ + すき間の屈折率 × すき間の厚さ) |
| どこから来る式か | 光が板1組ぶんを往復するときの「光にとっての道のり」が、波長のちょうど整数倍になると、どの板で返った光も山と山がそろう、という干渉の条件(多層膜のブラッグ条件)から来ます。 |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| λ | 強め合って返ってくる光の波長(ナノメートル) |
| n1 | 板(キチン)の屈折率(単位なし) |
| d1 | 板1枚の厚さ(ナノメートル) |
| n2 | すき間を満たすもの(空気など)の屈折率(単位なし) |
| d2 | すき間の厚さ(ナノメートル) |
| キチンの屈折率 | 約1.56 とされる |
| 板の厚さ(仮の値。モルフォチョウで報告される大きさと同程度) | 75 ナノメートル |
| 空気の屈折率 | 1.0 |
| すき間の厚さ(仮の値) | 120 ナノメートル |
| エタノールの屈折率 | 約1.36 とされる |
| 板の「光にとっての厚さ」 | 1.56 × 75 = 117 |
| 空気のすき間の「光にとっての厚さ」 | 1.0 × 120 = 120 |
| 板1組ぶん | 117 + 120 = 237 |
| 強め合う波長(往復なので2倍) | 2 × 237 = 474 |
| すき間をエタノールで満たしたとき | 1.36 × 120 = 163.2 |
| 板1組ぶん(エタノール) | 117 + 163.2 = 280.2 |
| 強め合う波長(エタノール) | 2 × 280.2 = 560.4 |
空気のときは約474ナノメートルで青、エタノールで満たすと約560ナノメートルで黄緑になります。すき間を満たすものを変えただけで、色が青から緑寄りへ動くことが、式からも確かめられます。図1のつまみも、この式で色を計算しています。
高校高校+薄膜の干渉と、なぜ「角度」で色が変わるか
高校高校物理では、うすい膜の表と裏で返った光の干渉を「薄膜干渉」として習います。屈折率の大きい物質の表面で返るときに波の山と谷が入れかわる(位相が半波長ずれる)ことも、条件に入れて考えます。
高校+光がななめに入ると、膜の中を通る道のりの差は、膜の中の進む角度の余弦(コサイン)に比例して短くなります。そのため、ななめから見るほど強め合う波長は短い側(青から紫)へずれます。モルフォチョウやハトの首が角度で色を変えるのはこのためです。
大学鳥の羽の「乱れた並び」と、そろった色
鳥の青い羽の泡のスポンジは、結晶のような規則正しい格子ではありません。それでも、泡と泡の間隔の分布が狭くそろっているため、特定の波長の散乱だけが強め合う「コヒーレント散乱」が起きると説明されています。泡の並びを波の成分に分けると(フーリエ解析)、ある間隔に鋭い山が出ることで、色の波長が予測できます。この見方は、乱れた構造でも色が出る「準秩序構造」「フォトニック結晶」の研究とつながっています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:構造色(ウィキペディア) / 薄膜干渉(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜ動物は青い色素を作らないのか。 青い色素は分子が大きく複雑で、作るのに手間がかかるからではないか、という説がありますが、決着はついていません。
- 泡のスポンジはどうやってできるのか。 羽が育つときに、たんぱく質と水が自然に分かれて泡の模様ができると考えられていますが、間隔がそろう細かいしくみは調べられている最中です。
- 形の色を、まねして使えるか。 色あせしにくい「色素を使わない絵の具」や、表示画面への応用が研究されていますが、生きものほど安く大量に作るのは難しいとされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。板や泡の厚さの数値は、生きものの種類や測り方で幅があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の性質」 | 白い光にはいろいろな色がまざっている |
| 高校 | 物理「波の干渉」「薄膜干渉」 | 山と山がそろう条件、式で確かめる |
| 高校+ | 物理(発展) | 角度で色がずれる理由 |
| 大学 | 光学・生物物理 | コヒーレント散乱、フォトニック結晶 |
| 研究 | 生体フォトニクス | 動物が青い色素を作らない理由、泡のでき方 |
| ― | 生活とのつながり | ハトの首やシャボン玉の色、色あせしない塗料の開発 |
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。板や泡の厚さは仮の値を含み、生きものの種類によって異なります。