地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、
なぜ溶けていないの?
地球のいちばん奥には、直径2400キロメートルほどの鉄のかたまりがあります。温度は5000〜6000℃、太陽の表面とほとんど変わりません。ところがそれは、どろどろではなく固体だと考えられています。カギは温度ではなく、その上にのっている地球まるごとの重さです。
フライパンの上で、バターがみるみる溶けていきます。温度が上がれば固いものは溶ける。私たちはそれを、台所で毎日のように見ています。
では、鉄はどうでしょう。鉄が溶けるのは1538℃くらいです。溶鉱炉の中の、まぶしく光るオレンジ色の液体を思い出す人もいるかもしれません。
地球の中心は、その3倍以上の温度です。それなのに、そこにある鉄は固体のままだと考えられています。なぜでしょうか。
理由は、大きく2つです
中心にかかっている圧力は、約360万気圧とされています。地上の空気の圧力の、360万倍です。
ものが溶けるとは、粒がばらばらに動き出すことです。まわりから強く押さえつけられていると、それがしにくくなります。
この2つを合わせると、「太陽の表面ほど熱いのに固体」という、一見おかしな話がすっきりします。順に見ていきましょう。
地球の中は、四重のたまねぎになっている
地球の半径は約6400キロメートルです。表面から2900キロメートルほどまでが岩石の層で、いちばん外側の薄い皮を地殻、その内側の分厚い部分をマントルと呼びます。
その下は、鉄を主とする金属の世界です。深さ2900キロメートルから5100キロメートルあたりまでは液体で、これを外核と呼びます。さらにその内側、中心までの半径1200キロメートルほどが内核です。図1を見てください。
ここで不思議なのは、外側の外核が液体で、もっと熱いはずの内核が固体だということです。ふつうの感覚とは、順番が逆です。
押されると、溶ける温度そのものが上がる
この逆転を説明するのが、圧力です。鉄が1538℃で溶けるというのは、あくまで地上の圧力での話です。溶ける温度は、押す力によって変わります。
固体の中では、原子がきちんと並んで座っています。溶けるとは、その原子が席を立ってばらばらに動き回ることです。動き回るには、少しだけ広い場所が要ります。ところが強く押さえつけられていると、広がる余地がありません。だから、もっと激しく揺さぶらないと席を立てない。つまり溶ける温度が上がります。
実験では、300万気圧をこえる場所での鉄の融点は5500℃をこえると見積もられています。図2は、そのようすを描いたものです。
外核と内核の境目は、まさにこの実線と点線が交わるあたりです。そこより浅い側は溶けていて、深い側は固まっている。温度は内側ほど高いのに、圧力の上がり方がそれを追いこしてしまうのです。
地球はゆっくり冷えています。冷えるにつれて外核の底の鉄が固まり、内核は年に0.5ミリメートルほど太っていると見積もられています。そのとき出る熱と、軽い成分が浮き上がる動きが、外核の流れを起こします。その流れが地球の磁場を作っていると考えられています。方位磁針が北を指すのも、もとをたどればこの話につながります。
地球の中を直接ほったわけではありません。人が掘った最も深い穴でも、12キロメートルほどです。手がかりは地震の波です。地震のたびに世界中の観測点へ届く波の速さと道すじから、中の層の並びが読み取られてきました。
まとめ
地球の中心が固体なのは、冷たいからではありません。むしろ太陽の表面に近いほど熱いのに、それを上回るけた違いの圧力が、鉄に溶ける余地を与えていないからです。溶ける・固まるは温度だけで決まるものではない、ということです。
溶けるかどうかを決めるのは、温度と圧力の勝負。
地球の中心では、圧力が勝っています。
圧力で変わるのは融点だけではありません。沸点も同じように変わります。そのしくみは富士山ではご飯がうまく炊けないのに、圧力鍋だと早く煮えるのはなぜ?で扱っています。地球の中を読み取る地震の波については地震の「カタカタ」は、なぜ「グラグラ」より先に来るの?を、地球の熱が地表に出てくる姿は温泉は、なぜ熱いの?をどうぞ。
- 小さな鍋に水を入れ、ふたをせずに沸かします。湯気が立ちはじめ、ぼこぼこ沸くまでの時間と、そのときの水面のようすを覚えておきます。
- 圧力鍋があれば、同じ量の水で同じことをします。ふたを閉めたあと、中の音や蒸気の出方が変わるまでの時間をはかります。
- 火を止め、圧力が下がりきってからふたを開けます。押されているあいだは、100℃になっても水が沸き立てなかったことになります。
※圧力鍋は必ず取扱説明書どおりに使い、圧力が完全に下がる前にふたを開けないでください。中身が噴き出してやけどの原因になります。水が液体から気体に変わる「沸く」と、固体から液体に変わる「溶ける」は別の現象ですが、押されると変わりぎわの温度がずれる点は共通しています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・高圧物性)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 内核:地球のいちばん内側にある、半径1200キロメートルほどの固体の部分です。鉄とニッケルが主だと考えられています。
- 外核:内核を包む液体の層です。ここを流れる金属が、地球の磁場を生んでいるとされています。
- 融点:固体が液体に変わる温度です。押す力が変われば、この温度も変わります。
- 地震波トモグラフィー:世界中で観測した地震の波から、地球の内部の姿を組み立てる方法です。
中学高校式で確かめる:360万気圧とは、どれくらいか
「360万気圧」と言われても実感がわきません。指先くらいの面積、1平方センチメートルあたりに何トンの重さがのっているかに直してみます。
| 地球の中心の圧力 | 約360万気圧とされています |
| 1気圧が1平方センチメートルをおす力 | およそ1キログラム重 |
| 1トン | 1000キログラム |
| 指先1平方センチメートルにのる重さ | 3600000 × 1 = 3600000 |
| キログラムをトンに直す | 3600000 ÷ 1000 = 3600 |
| 大型トラック(10トン)で数えると | 3600 ÷ 10 = 360 |
指先ほどの面積に、10トントラック360台ぶんの重さがのっている計算になります。この押さえつけの中では、鉄の原子は席を立つ余地がありません。
高校高校+状態図という見方
高校物質が固体・液体・気体のどれになるかは、温度と圧力の組み合わせで決まります。それを1枚の地図にしたものが状態図です。図2は、その地図のうち固体と液体の境界線だけを抜き出したものにあたります。
高校+境界線の傾きは、体積の変わり方で決まります。溶けたときに体積が増える物質は、押されると融点が上がります。金属の多くはこちらです。逆に水は、氷が溶けると体積が減るため、押されると融点がわずかに下がります。氷が特別なのであって、鉄のふるまいのほうが多数派です。
大学どうやって360万気圧を実験室で作るのか
ダイヤモンドを2つ向かい合わせ、その先端の小さな面で試料をはさんで押しつぶす装置が使われます。面積を極端に小さくすることで、手のひらサイズの装置でも地球の中心に近い圧力に届きます。ダイヤモンドは光を通すため、押しながら加熱し、その場で放射光を当てて結晶の並びや融けはじめを調べられます。地球の内部の性質の多くは、こうした実験と、地震波から求めた密度や速さの分布とを突き合わせて決められています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 中心の温度の幅が大きい 5000℃なのか6000℃なのかで、研究によって数百℃以上の開きがあります。融点の測り方や、混ざっている軽い元素の見積もりで結果が変わるためです。
- 軽い元素の正体 核は純粋な鉄より軽いことが分かっており、硫黄・ケイ素・酸素・水素などが候補とされています。どれがどれだけ入っているかは決着していません。
- 内核の中の構造 波の伝わり方が方向によって違うこと、さらに内核の中心近くにもう一段別の領域があるらしいことが報告されていますが、成り立ちは議論の最中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値はどれも幅を持った見積もりであり、今後の実験と観測で書き換わる可能性があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(大地の変化・状態変化) | 地球の層の並び、溶ける・固まるの意味 |
| 高校 | 地学(地球の内部構造)・物理(圧力) | 外核が液体、内核が固体である理由 |
| 高校+ | 化学(状態図) | 押されると融点が上がる物質と下がる物質 |
| 大学 | 地球物理学・高圧物性 | ダイヤモンドではさむ実験と地震波の突き合わせ |
| 研究 | 地球深部科学 | 中心の温度、軽い元素、内核の内部構造 |
| ― | 生活とのつながり | 圧力鍋、方位磁針が北を指すこと |
- Lehmann, I. (1936) 「P'」 Publications du Bureau Central Séismologique International(内核の発見を報告した論文)
- Dziewonski, A. M. and Anderson, D. L. (1981) 「Preliminary reference Earth model」 Physics of the Earth and Planetary Interiors(地球内部の密度と地震波速度の標準的なモデル)
- Anzellini, S. et al. (2013) 「Melting of Iron at Earth's Inner Core Boundary Based on Fast X-ray Diffraction」 Science(内核の境界にあたる圧力での鉄の融点を測った実験)
- 日本地震学会 編『地震・津波と火山の事典』(地球内部構造と地震波観測の解説)
- 川勝均 編『地球ダイナミクス』(地球内部の構造と物質についての大学向け解説書)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地球内部の温度や圧力は直接測れないため、いずれも研究による見積もりであり、幅があります。圧力鍋を使う実験は、必ず製品の取扱説明書に従ってください。