自然のふしぎ 地球科学 予備知識なしでOK 読了 約6分

地球の中心は太陽の表面くらい熱いのに、
なぜ溶けていないの?

地球のいちばん奥には、直径2400キロメートルほどの鉄のかたまりがあります。温度は5000〜6000℃、太陽の表面とほとんど変わりません。ところがそれは、どろどろではなく固体だと考えられています。カギは温度ではなく、その上にのっている地球まるごとの重さです。

公開:2026.09.12 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

フライパンの上で、バターがみるみる溶けていきます。温度が上がれば固いものは溶ける。私たちはそれを、台所で毎日のように見ています。

では、鉄はどうでしょう。鉄が溶けるのは1538℃くらいです。溶鉱炉の中の、まぶしく光るオレンジ色の液体を思い出す人もいるかもしれません。

地球の中心は、その3倍以上の温度です。それなのに、そこにある鉄は固体のままだと考えられています。なぜでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
中心には、地球まるごとの重さがのっている

中心にかかっている圧力は、約360万気圧とされています。地上の空気の圧力の、360万倍です。

2
強く押されると、鉄は溶けにくくなる

ものが溶けるとは、粒がばらばらに動き出すことです。まわりから強く押さえつけられていると、それがしにくくなります。

この2つを合わせると、「太陽の表面ほど熱いのに固体」という、一見おかしな話がすっきりします。順に見ていきましょう。

地球の中は、四重のたまねぎになっている

地球の半径は約6400キロメートルです。表面から2900キロメートルほどまでが岩石の層で、いちばん外側の薄い皮を地殻、その内側の分厚い部分をマントルと呼びます。

その下は、鉄を主とする金属の世界です。深さ2900キロメートルから5100キロメートルあたりまでは液体で、これを外核と呼びます。さらにその内側、中心までの半径1200キロメートルほどが内核です。図1を見てください。

外側:地殻とマントル 岩石。深さ2900キロまで 中ほど:外核 液体の鉄。約4000〜5000℃ いちばん内側:内核 固体の鉄。約5000〜6000℃ 圧力は約360万気圧 地球の断面(中心までの深さは約6400キロメートル)
図1:地球の断面。外側の灰色が岩石の地殻とマントル、その内側の輪が液体の外核、中心の白いまるが固体の内核です。右にのびる3本の線が、それぞれの層の説明につながっています。

ここで不思議なのは、外側の外核が液体で、もっと熱いはずの内核が固体だということです。ふつうの感覚とは、順番が逆です。

押されると、溶ける温度そのものが上がる

この逆転を説明するのが、圧力です。鉄が1538℃で溶けるというのは、あくまで地上の圧力での話です。溶ける温度は、押す力によって変わります。

固体の中では、原子がきちんと並んで座っています。溶けるとは、その原子が席を立ってばらばらに動き回ることです。動き回るには、少しだけ広い場所が要ります。ところが強く押さえつけられていると、広がる余地がありません。だから、もっと激しく揺さぶらないと席を立てない。つまり溶ける温度が上がります。

実験では、300万気圧をこえる場所での鉄の融点は5500℃をこえると見積もられています。図2は、そのようすを描いたものです。

温度(℃) 圧力(万気圧) 右へ行くほど強く押される 0 2000 4000 6000 0 100 200 300 400 地球の中心の温度 およそ5500℃(点線) 鉄がとける温度(オレンジの実線) この辺りでは点線が実線より上 = 鉄はとっくに液体 右端の白いまるが地球の中心 点線が実線の下 = 固体のまま
図2:横軸が圧力、縦軸が温度です。オレンジの実線が鉄のとける温度で、右へ行くほど上がります。青い横向きの点線が地球の中心の温度で、左側では実線より上(液体)、右端では実線より下(固体)になります。

外核と内核の境目は、まさにこの実線と点線が交わるあたりです。そこより浅い側は溶けていて、深い側は固まっている。温度は内側ほど高いのに、圧力の上がり方がそれを追いこしてしまうのです。

💡 内核は、いまも少しずつ育っています

地球はゆっくり冷えています。冷えるにつれて外核の底の鉄が固まり、内核は年に0.5ミリメートルほど太っていると見積もられています。そのとき出る熱と、軽い成分が浮き上がる動きが、外核の流れを起こします。その流れが地球の磁場を作っていると考えられています。方位磁針が北を指すのも、もとをたどればこの話につながります。

💡 誰も見ていないのに、なぜ分かるの?

地球の中を直接ほったわけではありません。人が掘った最も深い穴でも、12キロメートルほどです。手がかりは地震の波です。地震のたびに世界中の観測点へ届く波の速さと道すじから、中の層の並びが読み取られてきました。

まとめ

地球の中心が固体なのは、冷たいからではありません。むしろ太陽の表面に近いほど熱いのに、それを上回るけた違いの圧力が、鉄に溶ける余地を与えていないからです。溶ける・固まるは温度だけで決まるものではない、ということです。

溶けるかどうかを決めるのは、温度と圧力の勝負。
地球の中心では、圧力が勝っています。

圧力で変わるのは融点だけではありません。沸点も同じように変わります。そのしくみは富士山ではご飯がうまく炊けないのに、圧力鍋だと早く煮えるのはなぜ?で扱っています。地球の中を読み取る地震の波については地震の「カタカタ」は、なぜ「グラグラ」より先に来るの?を、地球の熱が地表に出てくる姿は温泉は、なぜ熱いの?をどうぞ。

🧪 圧力で「変わりぎわ」がずれることを、台所で確かめる
  1. 小さな鍋に水を入れ、ふたをせずに沸かします。湯気が立ちはじめ、ぼこぼこ沸くまでの時間と、そのときの水面のようすを覚えておきます。
  2. 圧力鍋があれば、同じ量の水で同じことをします。ふたを閉めたあと、中の音や蒸気の出方が変わるまでの時間をはかります。
  3. 火を止め、圧力が下がりきってからふたを開けます。押されているあいだは、100℃になっても水が沸き立てなかったことになります。

※圧力鍋は必ず取扱説明書どおりに使い、圧力が完全に下がる前にふたを開けないでください。中身が噴き出してやけどの原因になります。水が液体から気体に変わる「沸く」と、固体から液体に変わる「溶ける」は別の現象ですが、押されると変わりぎわの温度がずれる点は共通しています。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・高圧物性)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:360万気圧とは、どれくらいか

「360万気圧」と言われても実感がわきません。指先くらいの面積、1平方センチメートルあたりに何トンの重さがのっているかに直してみます。

① もとになる数値
地球の中心の圧力約360万気圧とされています
1気圧が1平方センチメートルをおす力およそ1キログラム重
1トン1000キログラム
② 計算してみる
指先1平方センチメートルにのる重さ3600000 × 1 = 3600000
キログラムをトンに直す3600000 ÷ 1000 = 3600
大型トラック(10トン)で数えると3600 ÷ 10 = 360

指先ほどの面積に、10トントラック360台ぶんの重さがのっている計算になります。この押さえつけの中では、鉄の原子は席を立つ余地がありません。

高校高校+状態図という見方

高校物質が固体・液体・気体のどれになるかは、温度と圧力の組み合わせで決まります。それを1枚の地図にしたものが状態図です。図2は、その地図のうち固体と液体の境界線だけを抜き出したものにあたります。

高校+境界線の傾きは、体積の変わり方で決まります。溶けたときに体積が増える物質は、押されると融点が上がります。金属の多くはこちらです。逆に水は、氷が溶けると体積が減るため、押されると融点がわずかに下がります。氷が特別なのであって、鉄のふるまいのほうが多数派です。

大学どうやって360万気圧を実験室で作るのか

ダイヤモンドを2つ向かい合わせ、その先端の小さな面で試料をはさんで押しつぶす装置が使われます。面積を極端に小さくすることで、手のひらサイズの装置でも地球の中心に近い圧力に届きます。ダイヤモンドは光を通すため、押しながら加熱し、その場で放射光を当てて結晶の並びや融けはじめを調べられます。地球の内部の性質の多くは、こうした実験と、地震波から求めた密度や速さの分布とを突き合わせて決められています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値はどれも幅を持った見積もりであり、今後の実験と観測で書き換わる可能性があります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科(大地の変化・状態変化)地球の層の並び、溶ける・固まるの意味
高校地学(地球の内部構造)・物理(圧力)外核が液体、内核が固体である理由
高校+化学(状態図)押されると融点が上がる物質と下がる物質
大学地球物理学・高圧物性ダイヤモンドではさむ実験と地震波の突き合わせ
研究地球深部科学中心の温度、軽い元素、内核の内部構造
生活とのつながり圧力鍋、方位磁針が北を指すこと
参考・出典
  1. Lehmann, I. (1936) 「P'」 Publications du Bureau Central Séismologique International(内核の発見を報告した論文)
  2. Dziewonski, A. M. and Anderson, D. L. (1981) 「Preliminary reference Earth model」 Physics of the Earth and Planetary Interiors(地球内部の密度と地震波速度の標準的なモデル)
  3. Anzellini, S. et al. (2013) 「Melting of Iron at Earth's Inner Core Boundary Based on Fast X-ray Diffraction」 Science(内核の境界にあたる圧力での鉄の融点を測った実験)
  4. 日本地震学会 編『地震・津波と火山の事典』(地球内部構造と地震波観測の解説)
  5. 川勝均 編『地球ダイナミクス』(地球内部の構造と物質についての大学向け解説書)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。地球内部の温度や圧力は直接測れないため、いずれも研究による見積もりであり、幅があります。圧力鍋を使う実験は、必ず製品の取扱説明書に従ってください。