空気の0.04%しかない二酸化炭素で、なぜ気温が変わるの?
― 大気の99%を占める窒素と酸素は、熱の光を吸えません
「たった0.04%でしょう」と思ったことはありませんか。ところが実際に数えてみると、その0.04%は、あなたの頭上に厚さ3メートル分もあります。そして残りの99%以上は、地球が出す熱の光をまったく吸えません。薄いのは割合であって、量でも働きでもないのです。
コップ1杯の水に、砂糖をひとつまみ入れます。割合にすれば0.04%ほど。なめても、たぶん甘くは感じません。
では、25メートルプール1杯分の水に、同じ0.04%を入れたらどうでしょう。砂糖は100キログラム以上になります。割合は同じでも、量はまるで違います。
空気の話も、これとまったく同じです。私たちは「0.04%」という割合だけを聞いて、量のほうを一度も数えていません。
理由は、大きく2つです
頭の上にある空気は、1平方メートルあたり約10トンあります。その0.04%でも、二酸化炭素だけを集めれば厚さ3メートル分になります。部屋の天井より高い層です。
窒素と酸素は、地球が宇宙へ捨てようとしている赤外線をほとんど吸いません。分子の形のせいです。毛布の役をできるのは、残った少数派だけです。
この2つは別々の話ではありません。「働き手が少数派しかいない」からこそ、少数派が少し増減しただけで効き目が変わります。順に見ていきます。
頭の上には、二酸化炭素が「厚さ3メートル」ある
私たちは空気の重さを感じませんが、大気は確かに重いものです。地上での気圧は、1平方メートルの上に約10トンの空気が乗っていることを意味します。小型トラック10台分ほどの重さです。
この10トンのうち、二酸化炭素はおよそ6キログラム。ごくわずかに見えます。ところが二酸化炭素は気体ですから、6キログラムでも体積にすればかなりのものです。地表の濃さで敷き詰めると、厚さは約3メートルになります。
図1を見てください。上の帯が空気の組成です。二酸化炭素は右端のごく細い部分にしかありません。しかし下の吹き出しのように、それだけを集めれば、頭上にはっきりとした層ができます。
窒素と酸素は、なぜ熱の光を吸えないのか
地球は昼に太陽から光を受け、夜も昼も赤外線という目に見えない光で熱を宇宙へ捨てています。この赤外線を途中で吸って、また地面へ戻す気体が「温室効果ガス」です。
ここが不思議なところですが、大気の99%を占める窒素と酸素は、この役をほとんど果たせません。理由は分子の形にあります。
窒素も酸素も、同じ原子が2つ、まっすぐ手をつないだ形をしています。左右がそっくりなので、伸び縮みしても電気の偏りが生まれません。光は電気のゆさぶりですから、偏りが変わらない分子は、光と手を組めないのです。
二酸化炭素は原子が3つ並んだ形です。まっすぐのままなら偏りはありませんが、「く」の字に曲がる揺れ方をすると、真ん中と両端で偏りが生まれます。この揺れの速さが赤外線の振動と合うため、二酸化炭素は赤外線をつかまえられます(図2)。
赤外線を吸う量でいえば、水蒸気のほうが二酸化炭素より多いとされています。ただし水蒸気の量は、気温が決まると自然に決まってしまいます。暖まれば増え、冷えれば雨や霜になって減るからです。一方、二酸化炭素は一度増えると長く残ります。だから「つまみ」の役をするのは二酸化炭素のほうだと考えられています。
においの分子には、空気の中にごくわずかあるだけで鼻に届くものがあります。歯を守るフッ化物も、水1リットルに1ミリグラムほどで働くとされています。多数派かどうかと、効き目があるかどうかは、別の話です。
まとめ
0.04%という数字は、たしかに小さいものです。しかしそれは全体に対する割合であって、量ではありません。実際に数えれば、頭上には厚さ3メートル分の二酸化炭素があります。そして大気の大部分を占める窒素と酸素は、その形のせいで赤外線を素通しします。少数派だけが毛布の役をしているのです。
薄いのは割合であって、量ではありません。
大気の99%は熱の光を素通しし、残りの1%足らずが毛布になっています。
海がその二酸化炭素をどれだけ引き受けているかは海は二酸化炭素を吸っている ― では、その先は?で、赤外線が実際に熱を運ぶようすはたき火の記事で扱っています。
- よく晴れて風の弱い夜と、一面に雲が広がった夜を選び、それぞれ翌朝の最低気温を控えます。同じ季節の中で比べてください。
- 気象庁のページでは、過去の気温を1時間ごとに見られます。夜の8時から朝6時までの下がり方を、2つの夜で比べます。
- 晴れた夜のほうが、たいてい大きく下がります。雲や水蒸気が赤外線を止めていたぶんが、そのまま差になって見えます。
同じ日でも、風が強い夜は空気がかき混ぜられて下がり方が鈍ります。風の弱い日どうしで比べるのがこつです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎・化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(分子分光学・大気物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 温室効果:大気が赤外線を吸い、その一部を地面へ戻すことで、地表が宇宙へ直接冷えるより暖かく保たれるはたらき。
- 赤外線:目に見える赤い光より波長の長い光。ものの温度に応じて出るため、熱の光とも呼ばれます。
- 百万分率:100万分のいくつかを表す割合の書き方。二酸化炭素の濃度は、体積で百万分の420ほどとされています。
- 分子振動:分子をつくる原子どうしが、伸び縮みしたり折れ曲がったりする決まった揺れ方。
中学高校式で確かめる:頭上の二酸化炭素は、どれだけの厚さになるか
大気の重さと二酸化炭素の割合が分かれば、厚さは小学校の算数で出せます。単位は、重さがキログラム、長さがメートルです。
| 記号の意味:頭上にある空気の重さ | 1平方メートルあたり 約10000 キログラム |
| 二酸化炭素の割合(重さで見た場合) | 約0.00064(=0.064%)とされる |
| 二酸化炭素の密度(0℃・1気圧) | 1立方メートルあたり 約1.96 キログラム |
| 地表付近の空気の密度 | 1立方メートルあたり 約1.2 キログラム |
| 頭上にある二酸化炭素の重さ(キログラム) | 10000 × 0.00064 = 6.4 |
| それを地表の濃さで敷いたときの厚さ(メートル) | 6.4 ÷ 1.96 ≒ 3.3 |
| 空気ぜんぶを同じやり方で敷いた厚さ(メートル) | 10000 ÷ 1.2 ≒ 8300 |
| この200年ほどで増えたぶんの厚さ(メートル) | 3.3 ÷ 3 ≒ 1.1 |
最後の行は、濃度が百万分の280ほどから百万分の420ほどへ、およそ3分の1増えたぶんに当たります。頭上に厚さ1メートル分が積み増しされた計算です。空気ぜんぶは8300メートル分ですから、全体に対する割合はやはり小さい。それでも、赤外線を吸える気体だけで見れば大きな増加です。
高校高校+吸える分子と、吸えない分子を分けるもの
高校分子が光を吸うには、光の電場と手を組む必要があります。手がかりになるのが電気の偏り、つまり双極子モーメントです。窒素や酸素のように同じ原子が2つ結びついた分子は、伸び縮みしても偏りがゼロのままです。だから赤外線を吸えません。
高校+二酸化炭素はまっすぐな形ですが、揺れ方は何種類かあります。左右対称に伸び縮みする揺れは偏りを生まないため吸いません。一方、片側だけ伸びる揺れと、折れ曲がる揺れは偏りを生み、赤外線を吸います。折れ曲がる揺れが吸う波長は約15マイクロメートルで、地球が出す赤外線の強い部分と重なります。ここが効き目の要です。
大学濃度が倍になっても、効き目は倍にならない
大気を通る赤外線の量は、放射伝達方程式で扱います。吸収の強い波長では、大気はすでに不透明です。そこでは濃度を増やしても、その波長ではもう吸える分が残っていません。効き目が伸びるのは吸収帯のふちの部分で、この構造のため、放射の変化は濃度のおおよそ対数に比例します。濃度が倍になるたびに同じだけ効く、という関係です。二酸化炭素の量が今の倍になったときの気温上昇は、3℃前後と見積もられていますが、幅があります。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雲がどちらに働くか。 雲は太陽光を跳ね返して冷やす一方、赤外線を止めて暖めます。差し引きは雲の高さと種類で変わり、気温上昇の見積もり幅のいちばん大きな原因になっています。
- 海と陸がいつまで吸い続けるか。 出た二酸化炭素のかなりの部分は海と陸の植物が吸っていますが、暖まるほど吸う力が落ちる可能性が指摘されています。
- 細かな空気中の粒の効き目。 ちりや煙の粒は光を跳ね返して冷やす向きに働きますが、その量と雲への影響は、いまも見積もりの難しい部分です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。分子が赤外線を吸うしくみは実験室で確かめられた確かな話ですが、地球全体の反応にはまだ幅があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・身のまわりの物質/大気と天気 | 空気の組成と、割合と量のちがい |
| 高校 | 化学基礎・物質量/物理・波と電磁波 | 重さから体積を出す計算、赤外線の性質 |
| 高校+ | 化学・分子の構造と極性 | 対称な分子が赤外線を吸えない理由 |
| 大学 | 分子分光学・大気物理学 | 吸収帯の飽和と、濃度の対数への依存 |
| 研究 | 気候科学 | 雲のはたらき、海と陸の吸収力の変化 |
| ― | 生活とのつながり | 晴れた夜に冷えこむ理由、割合だけで判断しない見方 |
- 気象庁「二酸化炭素濃度の経年変化」
- アメリカ海洋大気庁 全球監視研究所「Trends in Atmospheric Carbon Dioxide」
- 気候変動に関する政府間パネル 第6次評価報告書 第1作業部会
- 大学初年度向けの大気科学の教科書(放射伝達と吸収帯の章)
- 日本化学会編『化学便覧』(気体の密度、二酸化炭素の赤外吸収帯の波長)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。濃度や気温の最新の値は、気象庁など公的機関の発表をご確認ください。