お酒を飲むと顔が赤くなる人と、ならない人がいるのは、なぜ?
― 赤くしているのは、お酒そのものではなく「分解の途中でできる物質」です
ビール1杯で顔が真っ赤になる人もいれば、何杯飲んでも顔色が変わらない人もいます。この差は「慣れ」や「気合い」ではありません。体の中でお酒は2段階で分解されます。その2段目を受け持つ酵素の力が、生まれつき人によって違うのです。
年末の集まりで、乾杯のビールを半分ほど飲んだところです。隣の友人は、もう顔も首も真っ赤になっています。
本人は「すぐ赤くなるんだよね」と笑っています。でも、心臓がどきどきして、少し頭も痛いようです。
一方、向かいの人は3杯目なのに顔色ひとつ変わりません。同じお酒を飲んでいるのに、なぜここまで違うのでしょうか。
理由は2つだけ
飲んだアルコールは、肝臓でまず「アセトアルデヒド」という物質に変わります。これが血管を広げ、顔を赤くし、どきどきや頭痛を起こす正体です。
アセトアルデヒドを片づける酵素の働きは、遺伝子で決まります。働きの弱い型を持つ人では、毒が体にたまりやすく、少しの量で赤くなります。
つまり、顔が赤くなるのは「お酒が回った」合図というより、「片づけが追いついていない」合図です。順番に見ていきましょう。
お酒は、体の中で2段階に分けて片づけられる
口から入ったアルコールは、胃と小腸から吸収され、血液に乗って肝臓へ運ばれます。肝臓では、2種類の酵素がリレーのように働きます。
1段目の酵素が、アルコールをアセトアルデヒドに変えます。2段目の酵素が、それを酢酸に変えます。酢酸は、お酢の酸っぱさのもとと同じ物質です。最後は全身で水と二酸化炭素になり、息や尿として出ていきます。
図1を見てください。上の段は2段目の通り道が太い人、下の段は細い人です。1段目の速さは同じでも、2段目が細いと、途中のアセトアルデヒドが渋滞してたまります。たまった分が血液に乗って全身へ回り、顔の細い血管を広げます。これが「赤くなる」の正体です。
「弱いタイプ」は、日本人に多い
2段目の酵素には、働きの強い型と弱い型があります。両親から1つずつ受け継ぐので、組み合わせは3通りです。
両方とも強い型なら、赤くなりにくい人です。片方だけ弱い型なら、少しの量で赤くなる「弱いタイプ」です。両方とも弱い型なら、ほとんど飲めない「飲めないタイプ」になります。
日本人では、弱いタイプが約4割、飲めないタイプが数%いるとされています。ヨーロッパやアフリカの人々にはこの弱い型がほとんど見られず、東アジアに特に多いことが知られています。お酒の席で「顔が赤くなる人」が身近に多いのは、このためです。
飲み続けると、1段目を助ける別の酵素が増え、脳も酔いに慣れるとされています。そのため「強くなった」と感じます。けれど、2段目の酵素の型は生まれつきで変わりません。赤くならなくなっても、アセトアルデヒドが体の中にたまること自体は続いていると考えられています。
お酒は、なぜ翌朝まで残るの?
もうひとつ大事なのが、分解の速さです。肝臓が1時間に分解できるアルコールの量は、体重1キログラムあたり約0.1グラムとされています。体重60キログラムの人なら、1時間に約6グラムです。
ここに大事な性質があります。たくさん飲んでも、肝臓の酵素はもう全力で働いているので、分解の速さはほとんど上がりません。工場の流れ作業と同じで、材料が山積みになっても、1時間に処理できる量は決まっています。
図2のつまみを動かしてみてください。500ミリリットルの缶ビール1本には、約20グラムのアルコールが入っています。夜10時に飲み終えても、3本なら分解しきるのは翌朝の8時ごろです。朝7時の通勤の時点では、まだ体に残っています。
分解の速さには個人差が大きく、女性や高齢の人、体の小さい人ではもっと遅くなりやすいとされています。「寝たから抜けた」とは限りません。眠っているあいだも、肝臓は同じ速さでしか働けないからです。
じゃあ、どうすればいいの?
- 顔が赤くなるのは「片づけが追いつかない」合図赤くなる体質の人は、量を控えめにするのが体を守る近道です。
- お酒をすすめられても、断ってよい体質は努力では変わりません。無理に飲ませること、一気に飲むことは危険です。
- たくさん飲んだ翌朝は、運転しない缶ビール3本で、抜けるまで約10時間かかる計算です。
アセトアルデヒドは、国際的な研究機関によって、人に対してがんを起こす物質に分類されています。赤くなる体質の人が習慣的に多く飲むと、食道のがんのリスクが何倍にも高まると報告されています。また、短時間に大量に飲んで、呼びかけに反応しない・呼吸がおかしい・吐いたものがのどに詰まりそうといった様子があれば、迷わず119番に通報してください。そばを離れず、吐いたものでのどが詰まらないよう体を横向きにして待ちます。
まとめ
お酒は、肝臓の中で「アルコール → アセトアルデヒド → 酢酸」と2段階で分解されます。顔を赤くするのは、途中にできるアセトアルデヒドです。その片づけ役の酵素の強さは生まれつき決まっていて、日本人では約4割が弱いタイプとされています。そして、分解の速さは量を増やしても上がらないため、飲んだ分だけ時間がかかります。
赤い顔は、「酔った」ではなく「片づけが追いつかない」のサイン。
肝臓は、1時間に缶ビール3分の1本ずつしか進めません。
体の中で、強い酸と共に暮らす胃のしくみは「胃は強い酸を出しているのに、なぜ自分は溶けないの?」で、料理に使ったお酒が加熱でどこまで飛ぶかは料理のお酒の記事で解説しています。
- 薬局で売っている消毒用のエタノールを、絆創膏のガーゼ部分に数滴しみこませます。
- 腕の内側のやわらかいところに貼り、7分ほど待ってからはがします。
- はがして10分ほどたったとき、貼った跡が赤くなっていれば、2段目の酵素が弱いタイプの可能性があります。赤くならなければ、強いタイプの可能性が高いとされています。
皮膚にも同じ酵素の働きの差が表れるため、これで見当がつくとされています。ただし簡易な目安で、確定ではありません。肌の弱い人はかゆみが出ることがあるので、無理にしないでください。お酒は20歳になってから飲めますが、この確かめ方そのものはお酒を飲まずにできます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生化学・薬物動態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- アセトアルデヒド:アルコールが分解される途中でできる物質。血管を広げ、顔の赤み・どきどき・頭痛・吐き気を起こします。
- アルデヒド脱水素酵素2型:アセトアルデヒドを酢酸に変える2段目の酵素。働きの弱い型が東アジアに多く見られます。
- フラッシング反応:少量の飲酒で顔や体が赤くなる反応のこと。
中学高校式で確かめる:缶ビール3本は、何時間で抜けるのか
本文の「夜10時に飲み終えて、翌朝8時ごろ」を、式で確かめます。
| 記号で書くと | t = ( V × a × ρ ) ÷ ( k × W ) |
| 言葉で書くと | 分解にかかる時間 = 飲んだアルコールの重さ ÷ 1時間に分解できる重さ |
| どこから来る式か | 肝臓の酵素は少しのお酒でもう満員で働くため、量に関係なく毎時ほぼ一定の重さずつ減っていく(0次反応)。全部の量を、その一定の速さで割れば時間になる |
| 記号 | 意味と単位 |
| V | 飲んだお酒の量:缶ビール1本 500 mL |
| a | アルコール度数:5% = 0.05 |
| ρ | アルコールの密度:1 mL あたり 0.8 g |
| k | 分解の速さ:体重1 kg あたり毎時 約0.1 g とされる |
| W | 体重:60 kg |
| 1本に入っているアルコールの体積(mL) | 500 × 0.05 = 25 |
| その重さ(g) | 25 × 0.8 = 20 |
| 3本ぶんの重さ(g) | 20 × 3 = 60 |
| 1時間に分解できる重さ(g) | 0.1 × 60 = 6 |
| 分解にかかる時間 t(時間) | 60 ÷ 6 = 10 |
| 1本だけなら(時間) | 20 ÷ 6 ≒ 3.3 |
③ 実感に直すと、夜10時に3本飲み終えた人は、10時間後の翌朝8時ごろまでアルコールが残る計算です。1時間に進めるのは 6 ÷ 20 で缶の3分の1本ほど。ここで出した値は平均的な目安で、実際の分解の速さは人によって半分から倍ほどまで違うとされています。
高校高校+教科書の「アルコールの酸化」が、体の中で起きている
高校高校の化学では、エタノールを酸化するとアセトアルデヒドになり、さらに酸化すると酢酸になると習います。式で書くと、エタノール(C₂H₅OH)→ アセトアルデヒド(CH₃CHO)→ 酢酸(CH₃COOH)です。試験管の中では二クロム酸カリウムなどで行う反応を、体は酵素を使って体温のまま進めています。1段目を受け持つのがアルコール脱水素酵素、2段目がアルデヒド脱水素酵素です。
高校+2段目の酵素は、同じ部品が4つ組み合わさってできています。弱い型の部品が1つでも混ざると、その組全体がうまく働かなくなります。そのため、片方の親から弱い型を受け継いだだけでも、働きは強いタイプの十数分の1にまで落ちるとされています。「半分になる」のではない点が、少量で赤くなる理由のひとつです。
大学酵素反応の速さと、血中濃度の減り方
酵素反応の速さは、生化学で習うミカエリス・メンテン式で表されます。材料(基質)の濃度が十分に高いと、速さは最大値に張りついて濃度によらなくなります。これが0次反応で、血中アルコール濃度が時間とともに直線的に下がる理由です。この考えを飲酒量の見積もりに使ったのが、法医学で知られるウィドマーク式です。濃度が十分に下がった最後の段階では、速さが濃度に比例する1次反応に近づきます。2段目の酵素の弱い型は、遺伝子の1か所の置き換わり(一塩基多型)によるもので、一般に ALDH2*2 と呼ばれます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ミカエリス・メンテン式(ウィキペディア) / アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜ東アジアだけに弱い型が広がったのか。 数千年前の東アジアで増えたと推定されていますが、何が有利に働いたのかは分かっていません。感染症への抵抗や、飲みすぎを防ぐ効果などの仮説があります。
- 赤くなるしくみの細かい経路。 アセトアルデヒドが血管を広げる途中で、ヒスタミンなどの物質がどこまで関わっているのかは、まだ議論があります。
- 1段目の酵素の型との組み合わせ。 1段目にも速い型と遅い型があり、2つの型の組み合わせで、酔い方や病気のリスクがどう変わるかが調べられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。体質と健康の関係は、大規模な追跡調査で今も更新され続けています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「消化と吸収」「肝臓のはたらき」 | 肝臓で有害な物質が分解されること |
| 高校 | 化学「アルコールの酸化」、生物「酵素」「遺伝子と形質」 | 2段階の分解と、型の受け継ぎ方 |
| 高校+ | 生物の発展「タンパク質の四次構造」 | 4つ組の酵素で、弱い型が全体を止めること |
| 大学 | 生化学「酵素反応速度論」、薬物動態学、法医学 | ミカエリス・メンテン式と0次反応 |
| 研究 | 集団遺伝学・疫学 | 弱い型が広がった理由、病気のリスク |
| ― | 生活とのつながり | 飲む量の目安、翌朝の運転、お酒の無理強いをしないこと |
- Brooks PJ, Enoch MA, Goldman D, Li TK, Yokoyama A (2009) The Alcohol Flushing Response: An Unrecognized Risk Factor for Esophageal Cancer from Alcohol Consumption. PLoS Medicine 6(3): e1000050
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」「アルコールの代謝と健康」
- IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume 100E: Personal Habits and Indoor Combustions (2012)
- アセトアルデヒド(ウィキペディア)
- 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター「アルコール体質判定(エタノールパッチテスト)」に関する解説
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体質や飲酒について不安がある場合は医師に相談してください。急な体調の変化があれば、ためらわず119番や医療機関の指示に従ってください。